「DeNAは、改善に向けた提案が通りやすい環境なんです」
そう話すのは、システム本部品質管理部QC第二グループの柏倉 直樹(かしわぐら なおき)。
彼は品質と開発スピード向上の両立を目指し新規事業創造部門と伴走する傍ら、QA業界(※1)の発展のため『DeNA QA Night』を主催しています。
今回、柏倉と対談形式で語り合うのは、同グループのグループリーダーを務め、オートモーティブのプロジェクトで不具合検出率を半減させた前川 健二(まえかわ けんじ)。
なぜDeNAの品質管理部はビジネスに踏み込めるのか? そして、その方法とは?
※1……Quality Asuurance(品質保証)の略称。
株式会社ディー・エヌ・エー システム本部品質管理部QC第二グループ グループリーダー
前川 健二(まえかわ けんじ)
自動車関連会社での10年以上の品質保証業務を経て品質専門のコンサルタントに転身。2017年、DeNAに中途入社し、システム本部品質管理部QC第二グループにてグループリーダーに就任。従来のDeNAの品質管理の方式を大きく変え、オートモーティブ部門で品質担保と工数削減に貢献した。
株式会社ディー・エヌ・エー システム本部品質管理部QC第二グループ
柏倉 直樹(かしわぐら なおき)
ネットワーク機器、自動車関連機器、第三者機関で品質管理に携わった後、2018年、DeNAに中途入社。現在は、社内新規事業部門で開発する新規サービスの品質向上に携わる傍ら、QA業界の技術向上と交流強化を図るため、DeNA QA Nightというイベントも主催。
品質管理部は「プロジェクトの一員」
前川
柏倉さん、今回の『モノづくり対談』では「DeNAの品質管理部は、提案ベースで仕事ができる」ということを社外の方にも広く伝えたいなと思っているんですよ。
柏倉
なるほど。それはぜひお伝えしたいですね。
実際にDeNAで働いていて大きな特徴だと感じるのは、自分自身でミッションを考え「こういう事がやりたいです」と提案するところから仕事が始まるということですね。
前川
提案ベースの仕事ができるので、よりビジネスにも踏み込んでいくことができますね。
『モノづくり対談』の第1回目『上流からの品質管理で障害が80%も減。DeNAが目指す、当たり前品質を超えた「デライト品質」とは?』は「これからの品質管理は、よりビジネスに踏み込むべき」という話でした。
その続編として「品質管理がビジネスに踏み込むリアルな実例」をお話したい、というのが今回の趣旨ですね。
柏倉
わかりました。
前川
柏倉さんは「品質管理部がビジネスに踏み込む」とはどのようなことだと考えていますか?
柏倉
私なりの解釈ですが、プロダクト自体の品質を向上させることはもちろんサービス全体の品質を向上させることや、プロダクトリスクの低減などにも貢献していくことが一例として挙げられると思います。
前川
いいですね。同感です。
柏倉
そのためにも品質管理部と事業部の間に壁をつくらずに、どんどん事業部側に入り込んでいく必要がありますよね。しかし、ここが難しいところ。
前川さんは事業部側に入り込んでいく際にどんな事に気をつけていますか?
前川
「プロジェクトの一員」という立場で接することですね。ビジネスを考える段階から関わっていくという姿勢でいるということ。
「私たちは仲間なんです」と。
すると、結果として開発後半や市場でのトラブルが起こりにくくなるんです。
事業部と品質管理部のチームワークが生まれることで、早い段階から品質に対する様々な施策を事業部と一緒に打つことができるからですね。
柏倉
私も、事業部と一緒に良いサービスを提供していきたいという気持ちです。
事業部に寄り添った振り返りを実施
前川
柏倉さんは現在、新規事業を立ち上げていくDeNAの社内スタートアップ組織であるC&I(※2)のプロセス改善に取り組んでいますよね?
※2……DeNAの部署名でコマース&インキュベーションの略称。詳しくは『4年間で40の新規事業を生んだDeNA流リーンインキュベーションの秘訣|私の所信表明 千條 吉基』参照。
柏倉
はい。
新規事業を支援する立場としては「スピード感を問われる中で、品質も担保すること」は大変重要です。
そのためには品質管理部がビジネスに踏み込み「どうすれば市場にバリューを届けられるのか」を一緒に検討する事が大切ですね。
前川
具体的にはどんなことを一緒に検討しています?
柏倉
次のリリースで「どんな価値を届けたいのか」や逆に「どこがスコープ外なのか」などを徹底的に共有・検討していますね。
こうすることで、品質ばかりを追い求めすぎて過剰品質になることが避けられ、QCDバランスを考慮してテストに臨む事ができます。
これが結果的に、スピード感を問われる中で品質も担保する事に繋がると思います。
※3……品質(Quality)、コスト(Cost)、納期(Delivery)の頭文字。
前川
そうですね。
品質を担保するためにスピードを落としてしまうと機会損失になってしまいますが、品質が悪いともちろんお客様が離れてしまいます。バランスが難しいですね。
プロセスの改善は、何から取り組みましたか?
柏倉
まずは、テスト終了後に事業部と品質管理部合同での振り返りミーティングを実施しました。
前川
もともと品質管理部では振り返りミーティングはしていましたよね。それを事業部との合同にした、と。
柏倉
はい。
品質管理部の中での振り返りミーティングで出た「品質管理部でできる改善」はどんどん取り組んでいたんですよ。
ですが、その中で、テスト工程だけではどうしようもない問題が出てくるんですよね。
「もし事業部に一緒に改善に取り組んでもらえたらもっと良くなるのに……」みたいな。
前川
うんうん。ありますよね。
柏倉
そこで品質管理部で実施した振り返り内容を事業部に全て共有しました。自分たちの改善点を含めて隠さずに。すると、ちゃんと気持ちが伝わるんですよね。
「これからは是非一緒に改善を進めましょう!」「一緒に振り返りを実施しましょう!」ということになり、事業部と品質管理部の合同振り返りミーティングがスタートしました。
前川
事業部にも背景や意図が伝わったからこそですね。
事業部と合同になってからは、振り返りミーティングではどのようなことをしています?
柏倉
まず、これまでに蓄積したデータを分析した結果を提示しました。
たとえば「不具合データを分析した結果から上流工程で防げる不具合が何パーセントあります」とか「テスト開始後にテストケースの修正を行った件数が何パーセントあります」とか。 どちらも「上流工程から品質管理部が関わることでこうしたことが軽減できる」ことを訴え、プロセスを改善しました。
前川
上流から品質管理部が入るプロセスにしたんですよね。
柏倉
そうです。今では仕様検討の段階から品質管理部が関わり、お客さま視点で意見を述べています。
前川
これは私がオートモーティブのプロジェクトで、事業部と改善をはじめたときと同じですね。
改善するには、まずは目指す姿と現状との違和感を明確にして、その結果何が起きているのかの認識を合わせる必要があると思います。
柏倉
ええ、本当にそうですよね。ちなみに、認識を合わせる上でのポイントってあります?
前川
プロジェクト課題は「第三者視点だからよく見える」と言うことが結構あります。
単に状況をエスカレーションするのではなく、プロセスや品質状況をしっかり分析し、定量的にも可視化することで、ボトルネックとなっていた箇所を特定して、その解決方法を提示したりしてますね。
定量的に示すことで、受ける側も納得感が出ますし。
柏倉
そうです、そうです。
企画段階から品質管理部が伴走。手戻りを少なく
柏倉
前川さんがオートモーティブ事業部との振り返りミーティングのためにつくった資料はとても丁寧に分析していたものでしたよね。
前川
おお、ありがとうございます。
柏倉
この分析資料を作成したきっかけは何だったんですか?
前川
私がこのプロジェクトに携わるようになったとき、品質管理部はテストフェーズだけ関わるという受け身なやり方をとっており、ビジネスやプロジェクトに踏み込めていなかったのです。
柏倉
なるほど。このプロジェクトに限らず「品質管理部が関わるのはテストフェーズだけ」というのはよく想定される状況ですね。
前川
私はこの状況をなんとか改善したいと思い、これまでのプロジェクトの状況や蓄積してきたデータを徹底的に分析する事にしたんです。
柏倉
前川さん、すごく緻密に分析しているなあと思いました。
前川
ええ。やはり目線合わせのためにも緻密な分析とわかりやすいかたちで共有することは大事です。
不具合分析やプロセス課題、スケジュールの遅延がなぜ起こったかなど様々な視点で分析して、事業部に提案しました。
この時、品質管理部側の課題もしっかりと公表することで「一緒に改善しましょう」という話をしましたよ。
柏倉
ただ改善してほしいポイントを伝えるだけでなく、私たちの課題も伝えることで建設的な話ができますよね。
分析提案した課題の中で、特に重要だと思ったものはどんなことでした?
前川
課題解決のために様々な改善提案をしましたが、その中でも一番必要だと思ったことは、開発初期段階での品質向上というテーマでした。
品質管理部も受け身で待っているだけではなく、企画や仕様構築段階から我々も入らせてほしいということをお願いしたんです。
柏倉
品質管理部として、できあがったものをテストするだけでなく「上流から品質を上げていく」という姿勢は大事ですよね。
前川
初期段階でしっかり検討していたほうが、確実にメリットは大きいですからね。
柏倉
具体的にはどんなことをしました?
前川
いろいろな施策を行いましたよ!
その中でも、代表的なものを挙げると「事業部で考えた仕様や運用方法を必ず品質管理部がチェックする」というプロセスを導入しました。
柏倉
それは効果が上がりそうですね。どのような点のチェックを?
前川
色々な観点でチェックをしたのですが、例を挙げると仕様検討不足や仕様漏れ、サービス実現性などチェックしました。
また、DeNA品質管理部がビジョンとして掲げる「お客さまの期待を超える『デライト品質』を達成する」の視点でも早めにフィードバックすることができました。
結果、企画や仕様検討段階で品質管理部から約450件のフィードバックをすることができました。もし、これが漏れてテスト工程まで欠陥として残っていたらと思うとぞっとします……!
柏倉
450件も! 上流工程でフィードバックできたのは大きいですね。他に取り組み例はありますか?
前川
他には、品質状況を可視化することを意識しました。具体的には「品質分析レポート」を作成して毎週発行したんです。
テストの結果だけではなく、スケジュール状況、課題やリスク状況、不具合傾向をみて「開発のどの工程が弱いか」などを、定量的、定性的に出して報告したんですよ。
柏倉
これは、事業部側からしても何が課題かわかりやすいですね。
前川
ええ。随時、事業部側で是正策を考えてくれるようになりましたね。その結果、不具合検出率が前年度比でほぼ半減したんですよ。
忘れてはいけないのが、新しい取り組みは相手側の協力あってこそだということ。
これは先述した振り返りをしっかりすることで、事業部に納得してもらい「一緒に改善しよう!」という意識に改革ができた結果と思います。
柏倉
たった1年で不具合検出率をほぼ半減させるのは、実際にはすごいことですよね。
前川
加えて、リリース予定日の2か月前に開発が完了したので、開発者は別のプロジェクトを担当することができるようになりました。
品質の向上とリリースサイクルの短縮に成功し、改善の手応えを感じましたね。
原動力は「たくさんの人に喜んでもらいたい」気持ち
前川
最後に「DeNAの品質管理部で働く楽しさ」についてもお伝えしたいですね。柏倉さんは、どんなところがおもしろいと思いますか?
柏倉
DeNAだからこそといえば「いろんなサービスに関わることができる点」が面白いと感じています。
ゲーム、オートモーティブ、ヘルスケア、スポーツなど様々な領域に事業展開していますよね。
あと、私は事業部にも喜んでもらいたいと思っているので、彼らのために何ができるかを考えるのが楽しいですね。
たくさんの人に喜んでもらいたいという気持ちで仕事をしています。
前川
柏倉さんはいつも、本当に仕事が楽しそうに見えますよ。
柏倉
やりがいあふれる仕事ですからね。
前川
柏倉さんは、QA業界の技術向上と交流の強化のための活動もしてますよね。
柏倉
そうなんです。
昨年11月に『DeNA QA Night』という勉強会を主催しまして。そこでは、社内外のQAに携わるメンバーを集めて改善事例や働きなどに関する意見交換を行い、大きな反響がありました。
前川
参加者100名予定のところ、あまりに申し込みが多かったので結果的に180名に増席して開催しましたよね。
社外の参加者の方も熱量高く参加してくださり、満足度も高くて。
柏倉
ええ。こうした「QAの知見や事例を共有する場」が求められているし、まだまだ足りていないという証拠だと思います。私には、QA業界の発展に貢献したい気持ちがあります。
DeNA QA Nightは、半年に1度くらいの頻度で、定期的に開催していきますよ。
それから、今後私がやりたいことで言うと、カスタマーサービスともっと連携してリリース後のお客さま満足度向上にさらに力を入れ、さらにお客様にデライトを届けたいとも思ってもいますね。
前川さんはどうですか?
前川
そうですね。
やはり私は、ビジネスの企画段階から品質管理部のメンバーと事業部が一緒に品質と向き合える環境をもっと強めていきたいですね。
あと、私はQAのスペシャリティを追求していきたい気持ちがあります。現在でもDeNAのQAのレベルは高いですが、AIや自動運転技術など技術がどんどん進歩してきています。
今後もより優れた品質をお客さまに届けるため、スペシャリティを発揮できる仲間も欲しいと思っています。
柏倉
私たちと一緒にお客さまにデライトを届けたい、という人に来て欲しいなあ。
前川
ビジネスのことを考えてプロジェクトに入っていき課題を改善するなど、自発的に行動できる人にはぴったりの仕事だと思います。
それに、DeNAの多種多様なサービスに関わるのは楽しいものです。「デライト品質」を一緒に高めていきたい方、お待ちしています!
※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。
執筆: 薗部 雄一 編集:榮田 佳織 撮影:杉本 晴