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上流からの品質管理で障害が80%も減。DeNAが目指す、当たり前品質を超えた「デライト品質」とは?

2018.10.18

DeNAのモノづくりの中で「インフラ」「セキュリティ」「品質管理」といった領域を担うシステム本部。ゲーム、オートモーティブ、ヘルスケア、スポーツなど、様々な事業を展開し続けるDeNAを根幹から支えているセクションです。

今後のモノづくりにおいては「これらのセクションがより一層ビジネスに踏み込んだ動きを取ることが重要になってくる」と考えるDeNA執行役員システム本部長のnekokakこと、小林 篤(こばやし あつし)。

今回から3回に分けてお送りする『モノづくり対談』では、nekokakと各領域のスペシャリストでもあるシステム本部各部長たちが「各領域からビジネスに踏みこむモノづくり」を語り合います。

第1回目は、品質管理部部長の三村 宏康(みむら ひろやす)と語った「ビジネスに踏み込む品質管理」。どのように障害を80%も減らすプロジェクトを遂行したのか、そしてDeNAが目指す「デライト品質」とは何なのかをお伝えします!

株式会社ディー・エヌ・エー執行役員システム本部本部長

小林 篤(こばやし あつし)@nekokak

法学部法律学科からエンジニアへ転身し、2011年にDeNAに入社。Mobageおよび協業プラットフォームの大規模システム開発、オートモーティブ事業本部の開発責任者を歴任。2018年より執行役員としてDeNAのエンジニアリングの統括を務める。社内では通称で「ネコカクさん」「ネコさん」と呼ばれている。『所信表明』記事はこちら。

株式会社ディー・エヌ・エーシステム本部品質管理部部長

三村 宏康(みむら ひろやす)

1995年マイクロソフトに入社し、2011年までR&Dにてマネージャーを務める。その後2011年より検証会社で役員を務め、2017年DeNAに入社。システム&デザイン本部品質管理部QCグループにてグループリーダーを経て、現在は品質管理部部長。

これからの品質管理は、よりビジネスに踏み込むべき

nekokak

「DeNAのモノづくり」を解き明かしていくこの対談! 第1回目のお相手は三村さんですね。テーマは、私も常々考えてきた「ビジネスに踏み込む品質管理」ということで、よろしくお願いします。

三村

はい、よろしくお願いします。


▲株式会社ディー・エヌ・エー執行役員システム本部本部長 小林 篤(@nekokak)

nekokak

三村さんはDeNAに入社して2年弱ですかね。入社前から「品質管理部にスゴい人が入るらしい」という噂が立っていて。私も三村さんの入社を楽しみにしていたなあと思い出します。

三村

いやいや、そんな……。

nekokak

本当ですよ。最初は「なんでうちに来てくれるんだろう」って不思議でした。三村さんは前職で某大手検証会社の役員をされていましたよね。

その前はマイクロソフトで15年以上検証業務に携わられてきたというキャリア。まだ日本のソフトウェア系の会社には品質保証とか検証とかいった考え方がなかった時代です。

マイクロソフトは外資で、品質保証の考えが根付いていた。日本で三村さんほどソフトウェア系品質保証のキャリアが長い方は、探してもなかなかいないだろうと思います。

三村

たしかに、あまりいないかもしれませんね。

nekokak

私は「品質管理部にもっと踏み込んで来てほしい」と事業部側にいた頃に思っていたんです。三村さんが来てくれたことで実際にそんな体制をつくっていけるなあ、と。

三村

というと、nekokakさんは事業部側にいた頃は品質管理部に不満を持っていたんですか?

nekokak

不満というか、課題感ですかね。「今はそのやり方でもいいけれど、このままでは確実にいけない」と。

品質管理って、どうしても仕事の性質上「言われたことはしっかりと遂行する、以上」となりやすいじゃないですか。今まではそのやり方でも良かったんですが、これからはもうそんな時代じゃないですよね。

開発部門と保守運用部門の業務区分って既に曖昧になってきてますし。両者が協同するDevOps(※1)の流れで。だから品質管理も言われたことをやる、だけじゃ足りなくなってきている。

※1....デブオプス。ソフトウェア開発手法の1つ。開発(Development)担当者と運用(Operations)担当者が連携・協力する手法。


▲(左)株式会社ディー・エヌ・エーシステム本部品質管理部部長 三村 宏康

三村

ああ、すごくよくわかります。

nekokak

で、更にその流れを加速させているのが、Googleが提唱して、Facebookなどの各社が採用しているSRE(※2)ですよね。運用技術者がこれまでの管理・障害対応などの業務範囲を超えて「よりビジネス貢献の視点を持った動き」を取りはじめていて。

日本でもこうした動きを取る会社は増えてきています。各領域のプロフェッショナルが今までの職務領域を超えて「お互いに踏み込んでいく動き」を取れば、確実にプロダクトの質は向上していくんです。

なので、危機感を感じていたんですよ。DeNAはもともと基盤の図体が大きいからこそ、早く変わらないと取り残されてしまう、と。それで「品質管理側から開発のほうに提案してほしい」といつも思っていたんですね。

※2....サイト・リライアビリティ・エンジニアリング(Site Reliability Engineering)。webサイトやサービスの信頼性向上を目的とした取り組み、価値の向上を進める考え方・方法論。

DeNAの品質管理部は「もったいない」?

三村

この流れで言いますけどね、nekokakさん。実は、私がDeNAに転職してきた理由は「DeNAの品質管理部はもったいない」と感じていたからなんですよ。

nekokak

「もったいない」って、具体的には? 三村さんは前職の検証会社勤務時代にDeNAとお取引があったんですよね。その頃感じたことですか?

三村

そうですね。DeNAは潤沢な品質管理の人員とデータを持っているのに「それを活用しきれていない」なぁって。

検証会社にいたときは、ゲームを中心としたDeNAの品質管理業務を大量に請け負っていたんですけど、DeNAってこうした社外パートナーに加えて、社内の品質管理スタッフも本当に多いですよね。

今だと社外パートナーは400~600名ほど稼働していますし、社内には検証スタッフが約270名ほどいます

DeNAは品質管理にこだわりを持っている点はいいなと思っているんですよ。業界的にもめずらしいSWETという品質向上のためのスペシャリストチームも社内にありますしね。

nekokak

インターネット系の会社だとこんなに多くの検証スタッフを動かしている会社は他にないくらいですよね。

三村

ですね。でも、私は品質管理は「コストを下げ続けて、品質を上げ続ける」という矛盾したことを求められる仕事だと思ってるんですよ。

DeNAには膨大なデータなり知見なりの資産もたまっているからこそ、もっと活用できるし、全体に還元する効率化もできるはず。

そんな意識がある自分がDeNAに入れば、貢献できるんじゃないかと思って入社しました。

nekokak

いいですね! そのあたりのお話、詳しくお願いできますか? 三村さんが入社して、DeNAの品質管理部の何をどう変えて行ったのか。

「当たり前の組織づくり」で障害を80%減らす伴走を実現

三村

簡単にいうと「贅肉をとること」をしました。お金と人手をたくさんかければ、品質を上げることはできます。ですが、品質を保ちつづけるために膨大なコストをかけ続けられるかというと……。

nekokak

採算が見合わないとコストをかけ続けられないですよね。つまり、結局品質を「上げ続ける」ことはできなくなっていく

三村

そうなんです。 だからこそ、膨大に溜まっているデータを活かし、業務を効率化し全体のコストを削減していくことが大事になります。

どうするかというと、データマイニングするんですね。

データを機能単位で時系列に並べて見てみると、障害の頻度の高いところ、そうでもないところ、全く出ないところなど、明らかに数値の差異が見えてくるんです。

「ここは重点的に見続けるべきだ」「ここはもうほぼ見る必要がないのではないか」といった品質管理のさじ加減が見えてくる。ひいてはスピーディーでムダのない検証作業ができるようになります。

nekokak

なるほど! たとえば、データを検証した結果「ここは過去にバグが出たけれど、1度だけです」と事業部にフィードバックできれば「それなら次回そこはチェックしなくていいですね」という認識ができますね。

逆に、そのフィードバックがないといつも「全部見てくれ」となってしまう。どんどん仕事が積み上がっていく、と。

三村

ええ、そうなりがちですよね。データをしっかりと見ていく、と言いましたが、実際にはミルフィーユのように何重にも過去データが積み重なりすぎていたので「データを掘り起こして確認するのはとても骨が折れる」状況でした。

そもそも「日々の対応で精一杯」という状況の中、その業務に加えて「過去データをしっかり見ていこう」なんて、とてもできないですよね。

なので、もうこれは号令をかけて組織を変えていかないと、と。

「とにかくムダなことをやめましょう」と声をあげ、まずは組織づくりと仕組みづくりから始めたんです。

nekokak

組織づくり、というのは?

三村

漠然と人が集まっていた部をグループごとにわけました。おおまかにゲームを手がけるグループ1、サービス系のグループ2……といった具合に。そしてそれぞれのグループのビジョンを明確にした。

nekokak

領域ごとにグループを分けると、ビッグデータの検証もしやすいですよね。

三村

そうなんです。各グループで過去の検証データを振り返り、使える先例として整理してもらった。

そのうえでグループごとのウィークポイントとストロングポイントを洗い出して、課題も明確にした。またその課題を克服するためのマイルストーンを提示して、品質管理をしながら着実にコストダウンとレベルアップができる「しくみ」を整えたということですね。

言ってしまえば、組織として「当たり前」のことをあらためて組み込んだだけなんですよ。

nekokak

当たり前であっても、統率する人に品質管理の専門性がないとなかなかそのような動きはとれないです。

業務フローへの理解がないと、改善もどこから手をつけたら良いかわからないですし、メンバーはみな、専門性を持ったスペシャリスト。品質管理分野において自分より専門性がない人から「改善しよう」と言われても腹落ちしない。

スペシャリスト中のスペシャリストで、モチベーションも高い三村さんがトップに入ったというインパクトは大きかったですね。

三村

なら良かったです。まだまだ今から、ですけどね。

nekokak

仕組みと組織形態を整えていったことで、品質管理のメンバーのポテンシャルがフルに活きるようになってきた、と。

実際、明らかにミスの量が減りましたし仕事が早くなったと感じます。事業側、開発側まで踏み込んで提案してくれるメンバーも増えました。

三村

着実に増えていますね。最近ではあるプロダクトの例がまさにそうです。

上流から事業側と併走して仕様書を見直し、仕組みをバージョンアップさせていきました。

結果、全体の障害件数がかつてより80%ほども低下したんですよ。コーディングミスは73%下がったんです。

nekokak

すごい! こういう動きを実現していきたかったんですよ。これからも楽しみです。

変わりゆく顧客の目線を見据える「デライト品質」に挑戦

nekokak

ただね、三村さん。私はもっともっと品質管理部は上に行けると思っているんです。

三村

私もそう思っていますよ。やっとDeNAが持つポテンシャルを存分に発揮できるようになってきた。けれど、まだまだ磨きあげられる。

それで、これからは当たり前品質(※3)を超えたDeNAなりの「デライト品質」を目指していくっていうのはどうでしょうか?

DeNAは「顧客にどんな大きな喜びを届けられるか」をとても大事にしてますよね。この大きな喜び、というのをDeNAでは「デライト」と表現していますが。品質管理においてもデライトをもっと追求できると思うんですよ。

※3....狩野紀昭氏が1980年代に提唱した、製品やサービスの品質を区分する考え方。当たり前品質とは、製品やサービスにおいて充足されて当たり前と感じられるが、不充足であれば不満に感じる品質。品質管理の仕事は当たり前品質を保つこと、と言われる。

nekokak

「デライト品質」いいですね!

三村

品質管理は、これまでずっと当たり前品質を守ってきたけれど、今は当たり前品質と魅力的品質の境目がシームレスになってきていますしね。「顧客にデライトを届けられているか」という視点はより一層、大事になってくると思います。

nekokak

境目がシームレスに……というのは、どういう意味ですか?

三村

当たり前品質と魅力的品質の基準は変わりうる、ということですかね。

たとえば、スマートフォンで言うと「電話番号ボタンを押せば電話をかけられる」というのは「当たり前」ですよね?

nekokak

ええ。スマートフォンはもともと電話ですし「当たり前」でしょうね。

三村

ですよね。通話機能はスマートフォンの「当たり前品質」。でも、同じスマートフォンでも「音声入力」機能だとどうでしょう?

これは人によって変わる可能性がある。「音声入力があるなんて魅力的!」と思う人がいるかと思えば「音声入力なんて今や当たり前でしょ」と思っている人もいるでしょう。

もっと言えば「音声入力なんてむしろいらない」という人も当然いる。それから、音声入力が標準機能として世の中に認知されてくれば「音声入力は当たり前」と感じる人は増えますね。つまり、求められる品質というのは顧客や時代によって変わるんです。

「当たり前品質の領域がどんどん広がっていく」とも言える。ということは、品質管理部門においても、しっかりと顧客が求める品質感を捉えてニーズを汲み取っていかないといけないんです。

顧客の目線やニーズを汲んで、検証のスキルを日々磨き上げていくことが「デライト品質」を実現していくことになるんじゃないかなあと。

nekokak

なるほど。顧客の目線を捉えていくのは難しいことだと思うんですけど、どうしたらいいんでしょうね?

三村

まずは品質管理メンバーのマインドセットでしょうか。意識というかプライドをもっともっと高めていってもらいたい。

nekokak

確かに。だいぶ消えてきたとは思いますが、IT系の業界だと品質管理部などを裏方の仕事、サポートの仕事、と自ら決めているようなところもありましたからね。

でも品質管理部って製造業だと社長直轄だったりする大事な部署ですよね。

三村

そうです。製造業のみならず海外ではインターネット・ソフトウェア系の会社も品質管理部門は社長直轄です。

品質管理は、安心安全を決める「モノづくりの要」ともいえますからね。それはITやソフトウェアであっても製造業と本来一緒だと思っています。

だからこそ事業部側と横並びで、一緒になっていいプロダクトをつくる。顧客に一緒にデライトを届けている。そんな強い自負をもって日々の仕事にあたることがまず大事かなと思います。

nekokak

いいですね!

三村

それから「顧客の方々の目線をしっかり知る」という意味でも、私はカスタマーサービス部門、CSともっと連携するのがおもしろいと思っているんです。

品質管理の仕事って「出荷前」で終わりがちですが、実際は顧客の方々に使っていただいてからのほうがむしろ品質面ではケアしていくべきことも多いし、ノウハウを積み上げられるはず。

だから「出荷後品質管理」みたいなスタイルをつくれたら、それこそデライト品質に届きやすくなるのかなと。

nekokak

わかりますね。 エンドユーザーの方々と品質管理部がつながれば、もっと品質は磨き上げられますよね。

三村

実現させたいですね! それから、品質管理の業界全体を盛り上げながら、底上げしていきたいとも思っているんですよ。まだまだやりたいことがある。

そういう意味でも、やはりもっともっとすばらしい仲間にジョインしてもらい、一緒になって業界を盛り上げていただきたい、ということに尽きますかね。

nekokak

本当に。三村さんはDeNAの品質管理部にフィットするのはどんな方だと思いますか?

三村

これまで培ってきたスペシャリティがある方ならばソフトウェア系でもハードウェア系でも大歓迎です。ゲーム分野の方でもゲーム以外の分野でも問いません。開発出身者も、もちろん!

今日、この対談で語ったような「事業側に踏み込んでいくマインド」がある方なら、最高にチャレンジングな環境がここにはあると思います。

nekokak

私もぜひ、そんな方に来てほしいと思いますね。共に「デライト品質」を追求していきたい方、お待ちしています!

執筆:箱田 高樹 編集:榮田 佳織 撮影:小堀 将生

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