「どの船に乗るか」より「選んだ道を正解にする」。スタートアップを経て再びDeNAへ、アップデートした自分で挑む新たな舞台
2026.06.23


コーチが子どもと向き合う時間を増やし、スポーツの裾野を広げていく。DeNAのスポーツスクール会員管理システム「スクサポ」(以下、スクサポ)は、5,000人規模の自社スクール運営で直面した、膨大な事務作業というリアルな現場の課題から生まれました。
全国150以上の事業者と対話を重ねる中でチームが直面したのは、寄せられる要望に応えようとするがゆえの「機能肥大化」の壁。それを乗り越える転換点となったのは、すべての声を聞くのではなく、あえて「やらないこと」を定義するという発想でした。
今回は、営業兼スクール事業責任者の大椿、プロジェクトマネージャーのdosukoiこと日髙、プロダクトオーナーの花田の3名にインタビュー。ビジネス側と開発側が一枚岩となって挑む、プロダクト開発の裏側を紐解きます。
目次
──まずはスクサポがどういった経緯で生まれたのか。その原点と背景から教えてください。
大椿 智明(以下、大椿):スクサポが生まれた最大の動機は、現場で常態化していた「アナログで重い事務負担」という切実な課題を解決したい、という当事者としての強い思いでした。
現在、DeNA SPORTS GROUPでは野球・バスケットボール・サッカーの3競技でプロチームを運営しながら、それぞれの傘下で子ども向けのスクール事業も手がけています。合わせて5,000〜6,000人のスクール会員の皆様にご利用いただいているのですが、実はその会員管理業務が当時の事務局にとってかなり負荷の高い状況でした。実際に他のチームやスクールを調べてみても、どこも同じような事務作業やアナログな管理プロセスに悩まされていたんです。
そこで、DeNAがこれまで培ってきたアプリ開発の技術や知見を活かせないか、という発想からこのプロジェクトはスタートしました。「ビジネスとして魅力的だから」という外発的な動機だけではなく、自分たちの現場にある切実な課題を解決し、お客様の体験をより良くしたい。そうした内発的な思いがすべての出発点でした。
──社内課題の解決からスタートし、徐々に外部へと広げていったのですね。正式リリースに至るまで、どのような道のりを歩んできたのでしょうか。
花田 凜(以下、花田):自社スクールでの徹底的な現場検証を通じ、愚直にプロダクトを磨き続けてきた試行錯誤の道のりでした。特に大きかったのは、私たちがスクールを運営する当事者であり、自社グループ内にスクールがあったことです。まずは自社グループのスクールでご意見をいただける土台があったこと。これがプロダクトの大きな強みになりました。
大椿:まさにその通りで、発案から3年間の道のりの中でも特に直近の1年間は、同じグループ内のSC相模原の協力のもと、現場で実際に使っていただきながらプロダクトを磨き込んできました。当時はまだ未熟な部分も多く現場にご迷惑をおかけしたこともありましたが、真摯なフィードバックをいただけたからこそ、今年4月、自信を持って提供できるクオリティまで引き上げることができました。
外部への展開は、そこからの挑戦でした。B.LEAGUEをはじめとする各クラブとの取り組みも、実はこの検証と並行して営業チームが準備を重ねてきた成果です。開発側が磨き上げてきたプロダクトと、営業側が積み上げてきた現場との信頼関係。この2つのピースが合流し、大きな動きへとつながっていきました。
※…B.LEAGUEとの具体的な取り組みや背景については、こちらの記事も併せてご覧ください。
──社内や提携クラブでの実証を経て、外部の事業者へヒアリングを重ねられたわけですね。
大椿:はい。B.LEAGUEの約50クラブをはじめ、Jリーグやラグビーなど他競技も含めて、これまで150以上のスクール事業者の方々と対話を重ねてきました。
花田:スクサポがスクールのすべてのお悩みを現段階で直接解決できるわけではありませんが、事業者の全体構造や裏側にある業務課題を網羅的に理解できたことは大きな財産です。事業者目線を深く獲得できたことが、使い勝手のよい汎用プラットフォームをつくるための強固な支えとなりました。
大椿:スクールの運営者さんにとって、私たちは単なる「システムを売るベンダー」ではありません。私自身、ベイスターズのスクール責任者として現場に立っているからこそ、現場の課題には当事者としての理解を心がけています。現場の共通課題を共に解決するパートナーとして、他のスクールで得た成功事例を共有するなど、業界全体に寄り添う存在であり続けたいと思っています。
──興行などの「観戦体験」にとどまらず、スクールなどの「スポーツの裾野を広げる」領域へ注力する理由は何でしょうか。
大椿:スポーツ産業全体の持続的な成長において、幼少期のスポーツ体験は非常に大きな意味を持つと考えているからです。チーム内でも何度も議論を重ねているテーマです。
幼少期にスポーツに親しんだ子どもたちは、将来「選手」として成長するだけでなく、「熱狂的なファン」や「運営・スポンサーなど業界を支える側」として、形を変えてスポーツに関わり続けてくれるはずです。つまり、子どもたちのスポーツ体験を豊かにすることは、中長期的に日本のスポーツ業界全体の規模や価値を広げていくことにつながるのではないでしょうか。
DeNAとして3つのプロチームを運営する中で感じるのは、この循環の土台となる草の根の体験が不可欠であるということです。だからこそ、興行に止まらず、スポーツの「裾野」そのものを支える取り組みに注力しています。
──単なる業務効率化ではなく、子どもの体験価値を高めるためのソリューションなのですね。
大椿:はい。私たちが目指すのは、スクサポを通じたスポーツ体験の「質」と「量」の最大化です。
まず「質」の面では、事務作業の負担を減らすことでコーチが子どもに向き合う時間を増やし、指導やコミュニケーションの密度を高めること。教わる機会が増えることで、子どもたちが「楽しい!もっと続けたい!」と思える大切な原体験を生み出したい。そして「量」の面では、事務運営のハードルを下げることでスクール開校や拠点拡大の機会を増やすこと。この両輪を回すことで、より多くの地域や子どもたちにスポーツ体験を届けていきたいと考えています。
花田:そして、私たちがこれほど「現場の体験価値」にこだわるのは、自分たち自身がスクール運営の現場を持つ当事者だからでもあります。
たとえば大椿さんは、横浜DeNAベイスターズのスクール事業の責任者も兼任しており、システムの話以前にスクール運営の悩みや喜びを自分の経験として知っています。単なる「外から来たシステムベンダー」ではなく、現場の文脈を共有できる「仲間」としてお客様に信頼いただけるよう努めています。
──当事者意識を持つ一方で、実際の開発現場では当初、ビジネス側と開発側で職域や言語の違いによる壁はなかったのでしょうか。
日髙 尚輝(以下、dosukoi):当初はまさに「手探り」そのもので、要件定義が迷走する時期もありました。特に昨年4月頃は、お客様から寄せられる要望をすべて受け入れようとして機能が肥大化し、スクサポが大切にしていたはずの「シンプルさ」が失われかけていたんです。
花田:加えて、当時は開発工程が細かく分断され、情報が伝言ゲームのように流れる中で要件の取捨選択ができず、最終的には「結局、何をつくるんだっけ?」と現場が混乱し、手戻りが生じる悪循環が常態化していました。
──その壁を、どうやって乗り越えたのでしょうか。
花田:転換点となったのは、今年3月の体制改革です。各工程の担当を極限まで絞り込み、情報の伝言ゲームを根本から排除しました。
すべてのお客様の要望を実装すれば、画面は複雑化し、結果として誰にとっても使いにくいものになってしまいます。エンドユーザーである保護者やコーチなどの体験を守るために、我々の思想と異なる要求は「あえて選ばない、やらない」という判断をするようになったんです。
dosukoi:そこでビジネスサイドとエンジニアサイドが改めて深く連携し、客観的なスコアリング指標を導入しました。具体的にはReach(到達範囲)、Impact(影響度)、Confidence(確度)、Effort(開発コスト)の4項目で客観的にスコアを算出し、高いものから開発していくルールです。特に重視しているのが「Impact」、つまりお客様に届いたときにどれだけポジティブな効果があるか、という視点です。これによって誰かの主観で開発が振り回されることはなくなり、チーム全員が納得感を持って「普遍的な機能開発」に向き合えるようになりました。
──「やらないこと」を明確にしたことで、開発の進め方に変化はありましたか。
dosukoi:圧倒的にスピードが上がりました。最近の鉄板は、AIを活用した「捨てる前提のプロトタイプ」を即興でつくり、すぐにお客様にお見せしてフィードバックをいただくことです。ビジネスサイドが要望を持ち帰ってから画面を提示するまで、わずか4〜5日。今期からは商談の場にエンジニア自身も同席し、現場のリアルな温度感を直接聞いて、その場で次のアクションを即決しています。「アジャイル開発」と言えば聞こえは良いですが、実際は泥臭く、徹底して課題をヒアリングし続ける毎日です。
大椿:私たち営業も大きく変わりました。かつては要望をそのままエンジニアに伝えてしまい、「その要望の裏にある、お客様が本当に成し遂げたい意図は何ですか?」と鋭く問われることもありました。そこで一度立ち止まり、再度現場へヒアリングに向かう。チーム内でそうした建設的なぶつかり合いを経たことで、今では「機能で解決する」のではなく「真の目的を理解した上で使い方を提案する」というソリューション営業のサイクルが確立されています。
花田:最近お客様からいただく「スクサポは無駄がなくてシンプルでいいね」という言葉こそ、私たちが一番嬉しい言葉です。AIの進化で実装スピードは飛躍的に上がりましたが、だからこそ「何をやらないか」という判断の重みは増しています。現場の熱量とエンジニアの論理が深く入り込み、共に納得して「やるべきこと」を定義し尽くす。この一枚岩の体制こそが、スクサポを強くしている理由です。
──個別のカスタマイズ要望にすべて応えるのではなく、汎用的なソリューションとして提案していく難しさはありませんか。
dosukoi:スクサポはSaaSとして展開していますから、個別カスタマイズのアドオン開発は原則行わない方針です。「自社の運用に合わせて機能を追加してほしい」という声は当然多くいただきます。しかし、個別最適化を安易に許容すれば、特定のお客様のフローに縛られ、プロダクト本来の良さが損なわれかねません。私たちが届けたいのは、業界全体の業務を底上げする「標準」です。コーチが子どもと向き合う本来の役割に集中できるよう、業務負荷を極限まで下げること。それがスクサポを通して実現したい第一歩です。
大椿:システムを個別化しないからこそ、全員が同じ基盤でナレッジを共有できるようになります。単なるシステムベンダーではなく、「あるスクールで生まれた成功事例や運用の工夫を、業界全体へ還元していく存在」でありたい。共通のSaaSを軸に、スクール事業者同士の「知の循環」を生み出していくことが、私たちの目指す姿です。
──5年後、10年後の未来に向けて、どのような展望を描いていますか。
花田:会員管理の効率化にとどまらず、その先にある「集客」や「競技人口の拡大」に挑戦していきます。プライバシーを適切に保護した上でスクール同士が知見を共有するナレッジシェアの仕組みや、AIを活用して指導品質を底上げするような支援など、価値提供の範囲を広げていきたいです。
すでにB.LEAGUEのクラブと合同で行ったナレッジシェア会など、横のつながりづくりも始まっています。子どもたちのコーチングにおけるメソッドやファンを増やす方法など、各クラブが持つ多様な知見をつなぎ、私たちからも還元していく。そんな「知の循環」を生むプラットフォームとして、スクサポはこれからも現場と共に進化し続けていきます。
──これからの挑戦も楽しみにしています。本日はありがとうございました。
※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。
執筆・編集:フルスイング編集部 撮影:小堀 将生
撮影場所:WeWork 渋谷スクランブルスクエア会議室
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