DeNA南場智子が起業家に宣言した全力支援。「人が組織を使う時代です」――IVS2026スピーチより
2026.07.24


英語も話せず、シリコンバレーで最初は"小学生扱い"だった。
それから12年。いまではサンフランシスコの日系起業家から「兄貴」と慕われる連続起業家がいる。小林清剛――通称、Kiyo。その彼が、2026年4月、DeNAに参画した。
「自らが『2年後には絶対にこうなる』と信じる未来に、誰よりも早く取り組む」「0→1の段階では賛否両論でいいんです」。そう語る男がDeNAでつくろうとしているのは、一人が2回、3回と新規事業の打席に立てる場。事業の柱の創出を、構造化するためだ。
この7月、IVS2026の壇上で、DeNA代表取締役兼CEOの南場智子は、Kiyoとの出会いを「私をもう一度、挑戦者のど真ん中へと引き戻してくれた」と語った。連続起業家が、なぜ"大企業の打席"を選んだのか。本人に、単刀直入に聞いた。
返ってきた答えは、意外なほど軽やかだった。
「迷いは、なかったですね」
2026年4月、AIグローバル採用プラットフォーム「Noxx(ノックス)」を運営するKnot, Inc.がDeNAグループに参画した。創業者の小林清剛は、シリコンバレーを拠点に12年活動してきた連続起業家。現在はDeNAのイノベーション事業本部 本部長として、新規事業の0→1を担う。
目次
――キャリアの原点から伺います。なぜ、就職ではなく起業の道を?
大学3年の夏に営業のインターンを経験して、「自分で営業できるなら食べていける」という自信がついたからです。
最初の起業も、大学在学中でした。友人とコーヒーの輸入会社を立ち上げ、通販へ軸足を移して日本最大級の品揃えまで育てたものの、数年やる中で失敗し、借金を背負うことになってしまって……。友人と立ち上げた別の事業で完済しました。
――その後、のちに国内2位となる会社を立ち上げています。失敗の恐怖はなかったですか。
恐怖は全くなかったです。借金は愚直に返して、次へ進む。自分が立ち上げた事業で多くの人に喜んでもらえることが、ただただ嬉しかったんです。
スマートフォンの黎明期だった2009年に、ブラウザやアプリに広告を配信する「モバイルアドネットワーク」を展開しました。設立2年目で国内2位まで成長させ、十数億円規模でKDDIグループへ売却しています。会社を売ることが、まだ「逃げ」だと思われていた時代でしたが、メディアが「日本におけるM&Aの成功事例だ」「こういう事例が増えていくといい」と好意的に取り上げてくれました。
このM&Aを通じて「スタートアップにはM&AというEXITの手段もある」という認知が広まり、国内の事例も増えていきました。自分の起業が多くの人の役に立ったことが、とても嬉しかったんです。それ以降、自分が起業家としてどのように世の中に役に立てるのかが、私の大きな判断軸になっています。
――次の挑戦の地にシリコンバレーを選んだ、その真意というのは。
モバイル広告の分野で、圧倒的な力を持っていたGoogleに勝てなかったことが本当に悔しかったんです。「勝負するならアメリカしかない」と、2013年12月に移住しました。
当時は、カフェでコーヒーもまともに頼めない英語力でした。日本でいくら実績を出していても、英語を話せないと小学生のような扱い。現在アメリカで「Anyplace」を経営している内藤聡さん※と英語が拙い者同士、片方が聞いて片方が話すという二人三脚でミーティングに参加していました。そうやって泥臭く、少しずつ人間関係を築いていったんです。
※内藤聡さん:「Anyplace」を創業。Forbes JAPAN「30 UNDER 30」選出。著書『シリコンバレーによろしく』(大和書房)。DelightXのメンターでもある
――現在では「サンフランシスコの日系起業家のゴッドファーザー」と呼ばれる存在です。コミュニティを主導するに至った経緯を教えてください。
私が渡米した12年前は、ビザの取り方も、資金の集め方も、事業のノウハウも共有されず、みんなが同じ失敗を繰り返していました。一方で、中国やインド系のコミュニティは結束力が非常に強い。自分自身が戦うためにも、仕組みが必要でした。
ベイエリアで挑戦したい人たちを少しずつ支援するうちに人数が増えていき、数年前に「全米日系創業者コミュニティ」として形になりました。現在、全米でアクティブに動いている日系創業者は、私が把握している限り100〜120名程度。そのうち約80名がコミュニティに在籍しています。
――ご自身は、AIを活用したグローバル採用プラットフォーム「Noxx」を運営するKnot, Inc.のCo-Founder & CEOでもあります。どんなサービスですか。
ひと言でいえば、グローバル採用にかかるコストと非効率をAIでなくすサービスで、主に米国の企業に使っていただいています。もともとはWeb3を活用したサービスとしてスタートし、そこからAI領域へ大きくピボットしていまの形になりました。著名なVCやエンジェル投資家からも出資をいただいてきました。
――DeNAとの接点は、どのように生まれたのでしょうか。
内藤さんの紹介で南場さんにお会いしたのが最初です。そこから、デライト・ベンチャーズの皆さんとも交流を深めていくようになりました。
――連続起業家として生きてきたKiyoさんにとって、DeNAへの参画は異例の決断といえます。迷いはありませんでしたか。
全く想定していなかった展開だったので自分でも驚いていますが、迷いは一切ありませんでした。南場さんや住吉政一郎さん(グロース事業本部 本部長)とお話をする中で、意思決定も早かったです。
Noxx単体で事業を育てていくのも幸せなことです。しかし、「自分を使って、世の中に提供できる価値を最大化するにはどうしたらいいか」を考えたとき、DeNAグループの皆さんと共にNoxxを成長させ、かつ、新しい事業をつくる方が、はるかに大きなスケールでインパクトを残せると確信しました。
――Kiyoさんの目に、DeNAはどのように映っていましたか。
南場さんからは同じ創業者として、「DeNAをこうしていきたい」という思いを聞いていました。あるとき、どうして常にエネルギッシュでいられるのかを尋ねたことがあって。「自分が好きなことで、人の役に立つことに取り組んでいるから、毎日が楽しい」と返ってきました。その在り方に、深く共感したんです。
DeNAの人とカルチャーも素晴らしいです。みんな仕事が大好きで、「ことに向かっている」姿勢をひしひしと感じます。
また、グローバルで挑戦する起業家に対して、ここまでアグレッシブに支援している日本企業を他に見たことがありません。毎月のように経営陣がシリコンバレーを訪問して投資や提携の話を進めていますし、「DelightX(デライトエックス)」※のようなプログラムを通じて、毎年まとまった人数の起業家をアメリカに送り込んで支援している。
AIオールインの旗振りから始まり※、新規領域への挑戦を思いっきり加速させているモメンタムは、世界中を見渡しても唯一無二だと思います。
※DelightX(デライトエックス):デライト・ベンチャーズが運営する、サンフランシスコ・ベイエリアで起業に挑戦する日本人・日系人向けの現地滞在型AIスタートアップ起業支援プログラム。南場智子とKiyoの会話から発想し、2025年1月に構想がスタート。現地のシリアルアントレプレナーやトップティアVCとのネットワーク、Kiyoをはじめとする日本人起業家メンター陣による伴走、資金調達支援を三本柱とする
※DeNAは2025年2月に「AIオールイン」を掲げ、2026年3月の「DeNA × AI Day 2026」でその成果を公開している。各セッションの内容はこちら
――外から客観的に見ていて、DeNAの課題はどこにあると感じていましたか。
優秀な人材が、本当に多く集まっている会社です。その一方で、いまある事業の柱に続く"次の柱"は、まだ十分な数がありません。
もうひとつ、これはDeNAに限った話ではありませんが、シリコンバレーと日本企業を比べて差を感じるのがベロシティです。ベロシティを分解すると、スピードと回転数の2つになります。回転数とは、トライアンドエラーの数のこと。もちろん失敗を許容する環境も必要ですし、それ以前に「とにかく試すのが早い」かどうか。小さく試して、どんどんスピードを上げていく。この積み重ねでしか、差は埋まりません。
だからこそ、私たちの頑張りどころは、事業の柱を継続的につくるための「仕組み」と「構造」をつくることだと感じました。そして7月から、新規事業の0→1を担うイノベーション事業本部を発足し、本部長を務めています。
――その課題に対して、具体的にどのようなことを仕掛けていきますか。
大きく3つの柱を、進めていきます。
1. 高速なプロダクト開発
課題の検証からプロダクト化までを、高速で回せる環境をつくります。これまでのtoC向けに加えて、toBのAIプロダクト領域にも積極的に取り組んでいく。日本のどのスタートアップよりも早くリスクを取り、素早くつくって、検証して、ダメなら早く閉じる。この「早く閉じられる」ところまで含めて、体制だと思っています。
やっていくことはシンプルで、検証する仮説そのものを小さくして、その分だけ早く走る。短距離走を繰り返すようなイメージです。各チームとは2週間に1回のペースでミーティングを重ね、そこを詰めています。「ハックする」という考え方を大切にしていて、普通に行けば10分かかる道のりを1分で行く方法をチームで考えていくことが、何より効くと思っています。2. 市場と事業選択の強化
これまでアメリカを中心に、スタートアップ40社ほどに出資してきました。ベンチャーキャピタルにも5〜6社。その数を見てきて確信しているのは、新規事業は「どの市場で、どの事業をやるか」で勝率の8〜9割が決まるということです。だからこそ、そこを見極める専門チームを組成しました。
判断の材料も自前で集めにいきます。日米中のスタートアップの資金調達動向や最先端プロダクトの情報を網羅的に要約して社内へ還元する、「展望台」のような機能を新設しました。情報や知見などを自部門だけで抱え込むのではなく、全社に効かせる仕組みにしていきます。
3. 外部の力を引き込む
これらの取り組みをDeNAの内部だけで完結させるつもりはありません。外部の専門人材や起業家、スタートアップの創業・成長を経験した人たちに、積極的に関わってもらう環境を強化していきます。0→1の事業創出ではデライト・ベンチャーズとも連携を深めますし、優秀な起業家やスタートアップが自然と集まってくる"磁場"そのものを、共通基盤としてつくっていきます。
――参画から4ヶ月。すでに形になっているものはありますか。
いまは日本を中心に、コンシューマー向けを軸として5〜10本ほどのプロダクトを並行して開発しています。今後はtoBも、アメリカ発のものも増やしていきます。まだ表に出せない検証中のものも含めて、多くのプロダクトがもう動き始めています。私たちが年間数十件の新規事業を立ち上げ、トラクション(事業が伸び始めている手応え)が出たものは住吉さんが率いるグロース事業本部に引き継ぎ、さらに大きな規模へと育ててもらう。この強固なバトンパス体制で、いまの事業の柱に続く、その先の基幹事業をつくっていくことが目標です。
――挑戦の「打席」には誰が立つべきだとお考えですか。アイデアを持つ者の特権でしょうか。
アイデアがなくても、大丈夫です。私たちが世界中から集めた事業アイデアをもとに、「これが日本にハマるか、一緒に検証しないか」という提案リストも用意していきます。
失敗を責めることはありません。むしろ歓迎します。挑戦すること自体が最高に尊いからです。成功するまで泥臭く伴走し、一人が2回、3回と新規事業の打席に立てる環境を提供しますし、世界で勝負したいという人も大歓迎です。
急成長するスタートアップには、新プロダクトのリリースをチーム全員で全力で称賛し、盛り上げる「熱狂的なカルチャー」があります。DeNAでも、新しいプロダクトが生まれたら部署の垣根を越えて全社で応援するカルチャーを強化していきたいです。
――幾多の事業を経て、いま「起業」をどのように定義されていますか。
昔は、起業は何かを達成するための「手段」だと思っていました。しかし今は、「生き方そのもの」だと感じています。
どんな人にとっても、人生のゴールは幸せに生きることだと思います。私の場合、事業を起こすこと自体が大好きなので、「自分の好きなことが世の中の役に立つこと」がそのまま幸せに直結している。だから、起業は生き方なんです。
――次世代の挑戦者に向けて、事業アイデアの見つけ方のヒントをいただけますか。
いろんなアプローチがありますが、私の場合は「現在のトレンドの2〜3年先を見据える」ことを意識しています。ライバルから抜きん出るためには、時間軸を先取りして市場リスクを取りに行くことが一つの勝ち方だと考えています。
自分が「2年後には絶対にこうなる」と信じる未来に、誰よりも早く取り組む。当然、VCやエンジェル投資家に話すと、反応は真っ二つに分かれます。0→1の段階では賛否両論でいいんです。自分が描いた未来に共感し、賛同してくれた起業家やエンジェル投資家を巻き込みながら、事業を形にしていけばいいのですから。
――最後に、スタートアップ界隈の挑戦者たちへメッセージをお願いします。
日本のどのスタートアップよりも、新規事業に取り組むどの会社よりも、DeNAを圧倒的に事業をつくる場所にしたいと思っています。最先端スタートアップの事例とインサイトを圧倒的な量で集めますし、知見の豊富なメンバーも社内にいます。将来自分でスタートアップをやりたい、プロダクトをつくりたいという人にとっても、ここは間違いなく力がつく場所になります。
新規事業をどんどんつくっていくので、「一緒に関わって!」といいたいですね。
連続起業家が、なぜ大企業なのか。答えは、彼が事業を選ぶときの基準にあった。「自分を使って、世の中に提供できる価値を最大化するにはどうしたらいいか」。自分ひとりが打席に立ち続けるより、誰もが何度でも打席に立てる場所をつくるほうが、世の中に返せる価値は大きい。事業の柱の創出を構造化するのは、そのためだ。
南場はIVSで宣言した。「組織が人を使う時代はとっくに終わっていて、人が組織を使う時代です」。その言葉への、一人の連続起業家からの最初の返事が、この参画なのだと思う。
「迷いは、なかったですね」。その一言の先で、何度失敗しても、また立てる打席が、いま組み上がっていく。
※南場が語った「事業を生み、育て続けるための構造化」という宿題については、IVS2026のスピーチ全文をご覧ください。
※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。
執筆・編集:難波 静香 撮影:小堀 将生
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