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メガベンチャーDeNAが新規事業をさらけ出し、ベンチャー社長が辛口で言いたい放題!斬り込みトーク!後編

2019.12.27

DeNAでは新規事業にまつわる議論を深めるために、12月17日(火)、「メガベンチャーDeNAが新規事業をさらけ出し、ベンチャー社長が辛口で言いたい放題!斬り込みトーク!」を開催。前回はそのなかから、セッション1とセッション2前半のレポートをお届けしました。

今回はそれに引き続き、セッション2後半とセッション3の質問コーナーの模様をご紹介していきます。

【セッション2】 メガベンチャーDeNAが新規事業をさらけ出し、ベンチャー社長が辛口で言いたい放題!斬り込みトーク!

■成果が出るまでのスパンとコスト

――セッション2後半のテーマは「新規事業の成果が出るまでのスパンとコスト」。コストを引き受けつつ事業としてストックを積み上げていくことの大切さや、スタートアップ、メガベンチャーにおける課題について、緒方さん、瀬川さんそれぞれの立場から語ってもらいました。

緒方:先ほどの話にも出ましたが、やっぱりヘルスケア事業が特徴的なのは、成果が出るまでのスパンが非常に長いことだと思います。

実際、DeNAのヘルスケア事業に入ってきて、「やってみたけど成果があがらないから」と離れていく人はいますか?

瀬川:少なからずいますよね。たとえばスタートアップの動画サービスとか、半年、1年くらいで数字が伸ばせる領域から若い人が入ってくると、「自分の20代のキャリアにはコミットしない」と感じることがあるようです。インターネット領域の新規事業は、昔とだいぶ時間軸が変わってきている気がします。

たとえば、僕がDeNAに入った2010年はガラケーからスマホへの移行期。当時の新規事業は3ヶ月くらいでつくって半年後には何らかの結果が出る、少なくとも課題が解決できそうか無理そうかについては、半年後にはわかる感じでした。

いまの新規事業はその数倍の時間が必要という前提で計画を立てたりします。そうしないと事業として成功するしないの手前で何も起こらないというか。

緒方:そうですね。それにはいくつか理由が考えられるんですけど、やはりほとんどの事業が簡単に真似できるようになったのが大きいと思います。プロダクトもUXも簡単に真似できるようになって、「〇〇と〇〇の掛け合わせ」とか、「クラウドソーシングの〇〇版」といったものが出尽くしました。

そうして差別化が難しくなり、ITサービスとしてもパッと洗い出せるものがほとんどなくなった結果、時間がかかるようになったんですね。

いまのような時代の新規事業では、すぐに数字が上がるフローの部分と、積み重ねていくことで事業の強みとなるストックの部分をどう振り分けるか、そのバランスが大事。もちろん簡単ではありません。

たとえば、目先の数字にとらわれずにストックをためていけるのがメガベンチャーの本来の強みなんですが、社内で承認をとるためには数字のフローの割合を大きくしなければいけない。一方でスタートアップは常に資金調達する必要があるから、ストックだけを貯めていくわけにもいかないわけです。

さらに、もう1つ加えると、事業の時間軸が変わったことで人事評価も難しくなったと思います。

数字をつくった人が評価されやすい反面、将来的に花が咲くストックについては評価されにくかったり。そういった意味で多くの企業が取り入れている1年単位の評価は、いまの新規事業のスピードにはマッチしないんじゃないかなと。そのあたり瀬川さんはどう思いますか?

瀬川:まず、ヘルスケアは一気に数字が吹き上げられる事業ではないので、たとえば来年医療費が上がるといったことに対しても、前々からストックを貯めておく必要があります。「それをやることに意義がある、やり切りましょう」というメッセージを社内に浸透させるには、やはりエネルギーは一定必要でした。

一方評価に関しては、ものづくりが上手な人ほど短期間の成果を求めるので、熱量の上げ方が難しいですね。さらに先ほどの話にもありましたが、メガベンチャーは1つの失敗によって会社がダメになったりすることがありません。そのあたりの覚悟の違いというのもあるかと思います。

DeNAの場合、新規事業は既存事業との相対感で見られるので、3年、5年といったスパンで事業を一定規模にしようとすると、最初から30人、50人といった規模のリソースが必要になるんです。当然すぐ採用できるわけはないので、いろんなところから集めます。そうすると覚悟がある人・ない人が混在する状況になるんですね。

最初からリソースや資金を集められる反面、苦しい局面になると離れていく人もいるというのは、スタートアップと比べると弱みなのかもしれません。

緒方:なるほど。逆に僕の立場からすると大企業、メガベンチャーはやっぱりうらやましかったりします。

スタートアップで新規事業をやろうとすると、まず人集め・お金集めから始めなければいけません。事業を説明して、採用して、教育して、資金を準備して……その間、事業に集中できるのは1/3くらいです。そうしたなかで1人辞めれば大騒ぎになるし、リソースが足りずにやりたいことができないというケースが本当に頻繁に起きる。

つまり、スタートアップの新規事業ってほとんど人事なんです。採用や教育の隙間に事業を何とか埋め込むという形になる。だから本当に新規事業がやりたい人、新規事業だけをやっていきたい人には、大企業をおすすめします(笑)。

【セッション3】 質問コーナー

――ここからイベントは質疑応答へ。今回は、来場のみなさんに質問を記入いただき、貼り出す形に。「KPIを求める人は新規事業にはいらない」、「メガベンチャーが新規事業で失敗できるのは、他にドル箱があるから」などなど、タブーは一切なし!たくさんの質問が寄せられ、大盛況となりました。

Q:「新規事業の人材アサインは何を頼りにしていますか?」

緒方:いろいろありますね。「新規事業の人材アサインは何を頼りにしていますか?」……なるほど。瀬川さんは何を基準にしています?

瀬川:過去にその人が何をやっていたか、何を決めたかですね。新規事業に関わったことがあるという人は多いんですけど、そのなかで意思決定をしたかどうかという点を重視します。

緒方:僕の場合は「想像力」。新規事業をやる人=結婚式の二次会の幹事を頼まれる人だと思っています。基本的に信頼されているという点に加えて、サプライズを用意してあげようとしている人、「何か少しでもオリジナリティのある喜びを提供したい」と考えられる人ですね。

反対に指示書に書いてあることしかできない人、「ここまでやったら片付けて帰りたい」というタイプは新規事業には必要ありません。「自分はテキパキ仕事ができるから新規事業にも向いている」と思っている人は結構多いんですが、処理能力と何かをつくり上げる能力はまったく別物です。

Q:「新規事業のKPIは何にすべきでしょうか?」

緒方:これは、難しいというか……(笑)。先ほどの話を聞いてもらえればわかると思うんですけど、KPIを達成したら終わりたいという人は新規事業に向いていません。

たとえば「感動するカレーをつくる」という事業を始める時、「KPIは何ですか?」と聞いてくる人がいたら、「うん、君は事業より売る方に向いている人だから、そっちに行こうか」と。そんな感じ(笑)。

瀬川:始める時点でKPIが想定できる事業は、そもそも新規事業ではないかなと。……質問の傾向として、やっぱり「仕組みは?」とか「秘訣は?」といったものが多いんですかね。

緒方:その気持ちはわかります。要は再現性を高めたいということ。でも、再現性があるということは後発組にもできるということだから、本当の意味での新規事業ではないんです。唯一再現性があるとすれば「あきらめずにやる」とか(笑)。そういう再現性ならあるかもしれません。

瀬川:ちなみに僕の場合、事業をやめるときのことを考えながらやると、結構気づきがありますね。明日「やめろ」と言われたらどうするか、すごい脅威が降ってきたらどうするか。そう考えながらやると、自分の心が鍛えられる、覚悟が磨かれる気がします。

緒方:それはいいやり方。僕もいろんな企業の社長のブレーンをしている時はやっていました。「いまユーザーが怒って刺しにくるとしたら、なぜ刺しにくると思いますか?」とか。「このサービスは何が原因でダメになると思いますか?」とか。

メルカリを例にあげると、たとえば動物の死骸の出品画像が大量に表示されたら、メルカリはかなり苦しい状況になるはずです。だから画像診断の技術を絶対に入れているはずなんです。でも、ワーストケースを想定できない人はそれに気づかない。逆にワーストケースのシミュレーションができる人は、そこからポジティブケースに転化できます。

Q:「離職する社員のフォローアップのやり方を教えてください」

緒方:……これ、新規事業に関係ない気がする(笑)。「残るメンバーのモチベーションを考えて、辞めるメンバーにどう接するか?」と。

瀬川:こういうときは、残った人が成長しますよね。優秀なメンバーが抜けるのは痛いんですけど、残るメンバーはそれを成長機会に変えられる。DeNAでも、あえて優秀な人材を引っこ抜く社内人事をしたりします。

緒方:ちなみに瀬川さんが考える新規事業における優秀な人というのは、どんな人?

瀬川:突き上げてくる人ですね。僕が言ったことに対して素直に「はい」と言わない人の方が、結果的に事業にとってはプラスになるかなと。

あくまで健全な意味でですが、うまくいくチームというのは喧嘩ができるチームだと思います。逆にチームが5人、10人といった段階で、みんなが「これ、いけるよね」みたいな雰囲気になってしまっている事業はダメなことが多いですね。

Q:「失敗を極端に恐れる組織です。どうやったらチャレンジ精神を持てる組織になりますか?」

緒方:これについては身もフタもない話になってしまうんですが、内側から変えるのはほぼ無理です。失敗を恐れる組織というのは、企業文化も含めて長い時間をかけてできあがったものなので、1人が動いても変わりません。

瀬川:先ほど「DeNAは失敗を恐れない」という話をしましたが、DeNAも今から失敗を恐れる組織に変えていくのは難しいと思います。そういう会社としての根幹は変わらないかと。

緒方:でも、失敗を恐れない組織というのは、結局のところ失敗を吸収できるだけのドル箱を抱えている組織ですよね(笑)。ドル箱がないのにリスクの高いチャレンジをするというのは難しい。それが多角事業のいいところかな。

瀬川:うーん(笑) DeNAの場合は逆ですかね。

DeNAはマッキンゼー出身の南場が華々しく立ち上げて、オークションのECサイトをつくったんですが、出遅れたりしてことごとく上手くいかなかった。最初から大失敗だったわけですが、その失敗の先に何かを見つけたり、別のところから芽が出てきたりして今の組織になったのかなと。

緒方:なるほど。トップが失敗の価値を知っているというのは大きいですね。成功体験だけで上がってきた人がトップだったら、失敗の価値を知らないから推奨もできない。

Q:「新規事業の知見がない人が事業の真ん中に立った場合、誰と対話するべきか?」

瀬川:僕の場合はユーザーであるお客様です。やっぱり、「この人のために何かをやる」というのがないと事業は成り立たないと思います。

緒方:同感です。最初から事業を生もうとしないことが大事なのかもしれません。事業ありきではなく、まず人が喜ぶことを積み上げる。そのなかにお金になるものがあるかもしれないと考える。

そのうえで1つ具体的なアドバイスがあるとすれば、メンターを持つこと。

自分に知見がないのなら、知見を持っている人を身近なところにおいて、アドバイスを受けたりダメ出しされたりしながらやっていく。うまく回っているベンチャーの社長の多くは、お金を払って実際にそうしてます。

多くの人が積み上げてきた成功・失敗の歴史から学ばない手はありません。それを資産とせず、ゼロから繰り返そうとしている時点で「それは失敗するよね」と。叡智を結集させるのは大切です。

まとめ

今回のセッションでとりわけ印象的だったのは、「やるべきことが決まっている事業は新規事業ではない」ということ。緒方さん、瀬川ともに口を揃え、「KPIを求める人は新規事業に必要ない」、「KPIを想定できる時点で新規事業ではない」と語っていました。

ありきたりな指標に逃げることなく模索を続け、次の時代の価値や自由をデザインしていく。スタートアップやメガベンチャーといった環境の違いこそあれ、求められる姿勢は変わりません。本当の意味での新規事業はそうやって生み出されていくのだと思います。

今後もこうしたイベント開催などを通じて、新規事業に携わる方にヒントやノウハウを提供していきます。

株式会社Voicy

緒方憲太郎氏

起業家・ビジネスデザイナー・投資家。公認会計士→地球2周放浪→NYで会計士→ベンチャー支援家→起業→事業売却→起業。経営者のブレインとして数百社のベンチャー支援の後、2015年ゲノム医療事業を創業し2018年売却。現在もベンチャー企業の役員や顧問、大企業の新規事業開発のアドバイザーなども務める。2016年次世代音声市場のリーディングカンパニーの株式会社Voicy創業。社会をワクワクさせるサービスと仕事をみんなで楽しむ会社を作ってます。社員大募集中。

株式会社ディー・エヌ・エー執行役員 ヘルスケア事業本部 本部長

瀬川 翔

大阪大学大学院工学研究科修了。2010年に株式会社ディー・エヌ・エー入社。Eコマース分野での新規事業立ち上げ、事業責任者を経て、2015年5月よりDeNAのヘルスケア事業に参画。2017年8月よりヘルスケア事業の子会社である株式会社DeNAライフサイエンスの取締役副社長COOに就任。2018年4月より現職。

※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。

執筆:斉藤 良 編集:八島 朱里 撮影:杉本 晴

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