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メガベンチャーDeNAが新規事業をさらけ出し、ベンチャー社長が辛口で言いたい放題!斬り込みトーク!前編

2019.12.27

スマホアプリの開発やメディアの立ち上げなど、世の中にあふれる新規事業。

「自分もたくさん新規事業をつくってきた」、「新規事業は何度やっても発見や学びがある」という方も多いのではないでしょうか?

DeNAではそうした方々とより議論を深めてみようと、12月17日(火)、新規事業にまつわるイベント「メガベンチャーDeNAが新規事業をさらけ出し、ベンチャー社長が辛口で言いたい放題!斬り込みトーク!」を開催。

株式会社Voicy CEOの緒方憲太郎さんをお招きし、新規事業の難しさや新規事業に向いている人材、DeNAの新規事業の1つであるヘルスケア事業について本音で語っていただきました。

今回はそのなかから、セッション1とセッション2前半の模様をお届けします。

【セッション1】 「新規事業開発とビジネスデザインのキモとリスクと組織作り」

――最初のセッションのテーマは、「新規事業開発とビジネスデザインのキモとリスクと組織作り」。緒方さんが登壇し、ご自身のキャリアやVoicyを立ち上げるまでの経緯、新規事業の難しさ、ヒントなどを語ってくれました。

■新規事業を生み出せる人は、ごくひと握り

株式会社Voicy CEO 緒方 憲太郎(以下、緒方):緒方です。今日はお招きいただきありがとうございました。


▲緒方 憲太郎(株式会社Voicy CEO)
起業家・ビジネスデザイナー・投資家。公認会計士→地球2周放浪→NYで会計士→ベンチャー支援家→起業→事業売却→起業。経営者のブレインとして数百社のベンチャー支援の後、2015年ゲノム医療事業を創業し2018年売却。現在もベンチャー企業の役員や顧問、大企業の新規事業開発のアドバイザーなども務める。2016年次世代音声市場のリーディングカンパニーの株式会社Voicy創業。社会をワクワクさせるサービスと仕事をみんなで楽しむ会社を作ってます。社員大募集中。

緒方:今日の僕はあえてヒールに徹して、「それじゃあ新規事業は生まれない」、「会社の株を下げるんじゃないの?」といった話をしていきます。偉そうに話すことに違和感がある方もいらっしゃるかと思うので、まずは簡単に自己紹介させてください。

学生時代は物理を専攻し、卒業した年に公認会計士の資格をとりました。理由はもともと事業が好きで、いろんな会社を見てみたいと思ったから。

会計士の資格をとる人の考え方はさまざまですが、僕の場合、いろんな会社の裏側を見られること、社長と裏の話や痛い話もしつつ、企業の将来をリスクヘッジしていけることが会計士としての楽しみでした。

資格を取った後は、2006年に会計士として大手監査法人に入社し、約4年間、さまざまな企業の監査を担当しました。その後はニューヨークでNPOを立ち上げたり、会計士として働いたりしつつ、ベンチャー支援のコンサルティング会社に入社。さらに友人の医者と一緒に立ち上げたゲノム治療のスタートアップを経て、2016年にVoicyを創業した……というのが僕のここまでのキャリアです。

会計士時代も含め、10年以上にわたり300社を超える企業に関わってきましたが、そのなかであらためて確信したのは、「新規事業は甘くない」、「新規事業を生みだせる人は極めて少ない」ということ。

ほとんどの人は、できあがった事業の売上をあげることに専念しているだけに過ぎません。ベンチャーにはビジネスモデルをまったく知らないのに短絡的に投資している経営者も多いですし、新規事業部に在籍して「新規事業やっています」と言っている人も、実務的には事業の広報プランを考えたり、事業のなかの1つの企画を担当しているだけだったりします。

本当の意味で新しいものを生み出して、スケールさせて、事業として世の中になじませることができるのは、ごくひと握りの人たちだけなんです。

■ヒントは「いまの時代の不自由」に目を向けること

緒方:新規事業は難しく、生み出せるのはごく一部の人に限られますが、そうしたなかでもヒントはあると思います。その1つは「いまの時代の不自由」に目を向けること。

緒方:たとえばスマホが登場する以前は、電車のなかでチャットをしたり、撮影した動画をその場ですぐに共有したりといったことはほとんど不可能でした。いまと比べると明らかに不自由な時代だったにもかかわらず、当時はスマホそのものがなかったので、誰もその不自由に気づかなかったわけです。

それと同じように、いまの時代の不自由に目を向け、未来にどんな自由があるか考えを巡らすことは、新規事業を生み出すヒントになると思います。

僕の場合、これだと思ったのは、「いまの人間は情報を得るためにディスプレイと向き合う必要がある」という不自由。ニュースにしても、天気予報にしても、グルメ情報にしても、いまの時代、ほとんどの情報はテレビやスマホ、タブレットといった端末のディスプレイを介してしか得られません。

本来世の中の情報は、手でつくって目に入れる情報と、口でつくって耳に入れる情報の2パターンしかないはずなのに、耳に入れる情報を手でしかつくれない時代がずっと続いてきたんです。

緒方:それを変えるきっかけになったのがIoTとSiri。僕が会計士として企業の監査をしていた時にIoTの技術が発達して、場所やデバイスの種類を問わずネットに接続できるようになりました。さらにSiriが出てきて、音声でOSを操作できるようになった。

そこで「これからは音声がITの主戦場になるな」と。そうして立ち上げたのが、Voicyという会社です。

ちなみに、Voicy=ボイスメディアというイメージを抱いている方も多いかもしれませんが、Voicyは音声インフラの会社。実際、Googleフォームで「OK。ニュース流して」と言って配信される音声コンテンツの3割くらいは、僕らがさまざまな企業やメディアと連携して作っています。

1つの技術によっていままでの生活が変わり、事業が何パターンにも膨らむことは少なくありません。うちの場合のそれは音声。創業にあたっては、人間の五感の1つを丸取りしてやろうと考えました。世の中のあらゆる情報・サービスに1つの五感でタッチできるなら、新規事業はいくらでも広がります。

【セッション2】 メガベンチャーDeNAが新規事業をさらけ出し、ベンチャー社長が辛口で言いたい放題!斬り込みトーク!

――ここからはDeNAヘルスケア事業本部のトップを務める瀬川翔が参加。対談形式でDeNAのヘルスケア事業や、スタートアップとメガベンチャーにおける新規事業の違いなどを語ってもらいました。緒方さんの遠慮のない斬り込みに、会場からは時折笑い声があがる場面も。

■共通言語を持つこと

DeNAへルスケア事業本部 本部長 瀬川 翔(以下、瀬川):瀬川です。よろしくお願いします。


▲瀬川 翔(株式会社ディー・エヌ・エー執行役員 ヘルスケア事業本部 本部長)
大阪大学大学院工学研究科修了。2010年に株式会社ディー・エヌ・エー入社。Eコマース分野での新規事業立ち上げ、事業責任者を経て、2015年5月よりDeNAのヘルスケア事業に参画。2017年8月よりヘルスケア事業の子会社である株式会社DeNAライフサイエンスの取締役副社長COOに就任。2018年4月より現職。

瀬川:まず、今日お集まりいただいた方にお聞きしたいんですが、DeNAが野球とゲーム以外にどんな事業をやっているかご存じの方、どれくらいいらっしゃいますか?(会場の反応を見て)少ないですね。野球のイメージが強いのかな……。スマホを使っている人はどんなゲームをやっているんだろう……?

緒方:スマホを使っている人=ゲームをやる人だと思い込んでいるのは、DeNA病じゃないかと(笑)。

瀬川:そうかもしれませんね(笑)。ちなみに野球でいうと、DeNAがベイスターズを買収したのは8年前。僕もスタジアムに行ったんですが、当時は万年Bクラスでお客さんも少なく、正直事業になるというイメージは抱けませんでした。

緒方:それが新規事業の1つになったと。

瀬川:そうですね。やっぱりそれはDeNAが掲げるデライトの1つだと思うので、スタジアムに行ったことがない方はぜひ行ってほしいです。

緒方:デライトはDeNAのバリューの1つ。実際に社内でもよく使われる言葉ですか?

瀬川:使います。企画に対して議論している時に「デライトは何なの?」とか。あるいは既存・新規を問わず事業計画を出す時は、その事業の何がデライトなのかを最初に書いたりします。

緒方:デライトは直訳すると「喜び」。何も知らない人が聞くと「何それ?」という感じがするかもしれないけど、それくらい強い共通言語を持つというのはやっぱり大事かなと。事業を立ち上げる時も、共通言語をきちんと設定しておかないとうまくいきません。

■ヘルスケア事業ならではの難しさ

緒方:瀬川さんが統括するヘルスケア事業本部は、具体的にどういったことをやっているんですか?

瀬川:一般向け遺伝子検査サービスの「MYCODE」、「楽しみながら、健康に。」をテーマにした「kencom」「歩いておトク」などですね。

人に「健康に気をつかっていますか?」と聞くと、「気をつかっている」、「ジムにも通っている」という人が2割くらい。一方でまったく気をつかわず「明日死んでもいいからラーメン食べます」という人が1割くらい。残りの6~7割、気をつかったほうがいいとは思っているけど実際できていない層がDeNAヘルスケアのターゲットです。

英語の勉強と似ていて、この層は良いことだとわかっていてもなかなか動かない人たちなので、まずは「楽しい」から入れるもの、楽しんでいるうちに健康になれるサービスを、ゲームなどの要素を絡めて提供しています。

緒方:これまで何個くらいサービスをつくって、そのうち何個くらいが生き残っていますか?

瀬川:半分くらいは残っていますね。止める際は自分たちで切るケースが多いです。いわゆる選択と集中。事業も人も無限に増やすことはできないので、うまく回っているサービスにリソースを再集中させていくという形になります。

あとは、お客さんのニーズや課題。「何が必要か」、「何が求められているか」という仮説が外れているとわかったサービスも閉じます。

緒方:僕自身、ゲノム治療のスタートアップを立ち上げたことがあるし、いろんな企業の監査をしてきたのでわかるんですが、ヘルスケア事業はたくさんの人を幸せにできる一方、めちゃくちゃ大変。

華やかに数字が伸びる事業ではないので、そういう楽しさを知っている人はもどかしさを感じて離れていってしまうし、同じ分野の原体験がある人、たとえばドクターや看護師出身の人が入ってくると、ビジネスを知らない分、気持ちだけが先走って事業はどんどんダメになっていきます。

僕が考えるヘルスケア事業で活躍する人、事業を伸ばしていける人のタイプは2つ。1つは外資の証券会社なんかでお金のことばかり考えてきて、「そろそろ本当に人を幸せにしたい」というタイプ。もう1つが長年ゲームの開発などをしてきて、「そろそろ人の役に立つことがしたい」というタイプです。

瀬川:そうですね。実際にうちに面接に来るエンジニアさんを見ても、ひと通り事業に携わって、自分の子どもも大きくなったのでそろそろ……という人が多いです。平均年齢もDeNA全体のなかでは高い方だと思います。

緒方:ヘルスケアは花が咲くまで時間がかかるので、それを我慢できる年齢になっていないと難しいのかも。20代のキャリアとして「次はこれ」、「その次はこれ」とやっていきたい人にはあまり向いていないかなと。

瀬川:会社としてもそうかもしれません。もしDeNAが10年前にこの事業を始めていたら、続けられている確率はいまより低いと思います。自分も含めて会社全体でいろんな経験をしてきたからこそ、我慢ができるようになったし、逆に我慢できる事業じゃないとやる意味がないと考えるようになりました。

■スタートアップの新規事業と、メガベンチャーにおける新規事業

緒方:瀬川さんはヘルスケア以外にも新規事業に携わったことはあるんですか?

瀬川:はい。以前はEC部門にいました。当時5つくらいやっていたECの新規事業のうち、いま残っているのは1つくらいかな。自分がつくった1つは残っています。

緒方:だから、事業本部長になれた(笑)。

瀬川:いやいやいや(笑)。

緒方:DeNAでは成功したら評価されるんですか?あるいは失敗しても引っ張り上げられたりする?

瀬川:後者ですね。失敗してもそこから学びとるものがあれば良し、というスタンスです。新規事業が形にならない場合、もちろん成果としては未達評価ですが、個人がその経験を通じて成長していれば、発揮能力としては評価されて年俸が上がったりする人もいます。「失敗したからもうやらせない」ということはありません。

ただ、ネクストステージでチャレンジできる反面、メガベンチャーなので失敗しても会社はダメにならないわけです。そのあたりはこの後斬り込まれるかもですが(笑)、個人的には課題ですね。

緒方:スタートアップは本当に一撃必殺でダメになりますからね。トップのユーザーを怒らせたり、最初の価格設定を間違えたり、それだけでサービスはもちろん、会社そのものがダメになる。

ちなみにスタートアップの新規事業だと、突拍子もないことを言ってくる人、たとえば「おいしいカレーをつくる」という事業を始めるにあたって、「ルー抜きでいきましょう! とりあえず出してみましょう」みたいなことを言い出す人が必ず現れてくるんですけど(笑)、そういう人がいたら、瀬川さんはどうします?

瀬川:DeNAだとそういう提案は通らないことが多いですかね(笑)。社外の方からも、「DeNAはロジカルな人が多い」と言われることがあるんですが、実際、「市場規模を示して」とか「海外の事例を持ってきて」とか、あるいは「ルーなしカレーのマーケットがある国を並べてみて」と言われて、上がってきても否決されますね。

緒方:そこで否決する人は、「ロジカルに通るもの=世の中で成り立つもの」という前提に立っていると思うんですけど、それに対して「じゃあ、あなたたちがつくってみて」という議論にはならないですか?

瀬川:そうなることもあります。たとえばモバゲー。当時の事業責任者だった守安(※)はロジカルなタイプですけど(笑)、当時周囲から「このサービスどこまで伸びるのか?」という質問には「わからない」と答えていたみたいですよ。

※……守安功、現 DeNA 代表取締役社長兼CEO

ロジカルな見通しがなくても成功する事業はあるし、やっている当事者ですらわからないこともあるので、その前提でどう「よりどころ」を持つかはいつも考えてますね。

緒方:なるほど。ちなみに僕は自分とは違う価値観で動いている場所にあえて行くようにしています。

たとえばコミケ。好きな人は多いだろうけど、僕には商品の価格設定が理解できないし、正直理解できない部分もあるし、自分の価値観からは外れています。でも、あえてそこへ行く。

事業を自分の価値観だけで埋めてしまうと、設定できるペルソナも限られてしまうし、価値観が変わらない限り、打てるターゲットがどんどん減っていくんですよね。

もちろんさっきのルーなしカレーは極端な例なんですが、新規事業をやるにあたって、自分と違う価値観を取り入れるのは大事なこと。それができない人が大企業の新規事業のトップにいると、その事業は辛くなると思います。

――引き続き後編では、セッション2後半「新規事業の成果が出るまでのスパンとコスト」についてと、セッション3の全員参加の質問コーナーの模様をお届けします。

※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。

執筆:斉藤 良 編集:八島 朱里 撮影:杉本 晴

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