スマホアプリの開発やメディアの立ち上げなど、世の中にあふれる新規事業。
「自分もたくさん新規事業をつくってきた」、「新規事業は何度やっても発見や学びがある」という方も多いのではないでしょうか?
DeNAではそうした方々とより議論を深めてみようと、12月17日(火)、新規事業にまつわるイベント「メガベンチャーDeNAが新規事業をさらけ出し、ベンチャー社長が辛口で言いたい放題!斬り込みトーク!」を開催。
株式会社Voicy CEOの緒方憲太郎さんをお招きし、新規事業の難しさや新規事業に向いている人材、DeNAの新規事業の1つであるヘルスケア事業について本音で語っていただきました。
今回はそのなかから、セッション1とセッション2前半の模様をお届けします。
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【セッション1】 「新規事業開発とビジネスデザインのキモとリスクと組織作り」
――最初のセッションのテーマは、「新規事業開発とビジネスデザインのキモとリスクと組織作り」。緒方さんが登壇し、ご自身のキャリアやVoicyを立ち上げるまでの経緯、新規事業の難しさ、ヒントなどを語ってくれました。
■新規事業を生み出せる人は、ごくひと握り
株式会社Voicy CEO 緒方 憲太郎(以下、緒方):緒方です。今日はお招きいただきありがとうございました。
緒方:今日の僕はあえてヒールに徹して、「それじゃあ新規事業は生まれない」、「会社の株を下げるんじゃないの?」といった話をしていきます。偉そうに話すことに違和感がある方もいらっしゃるかと思うので、まずは簡単に自己紹介させてください。
学生時代は物理を専攻し、卒業した年に公認会計士の資格をとりました。理由はもともと事業が好きで、いろんな会社を見てみたいと思ったから。
会計士の資格をとる人の考え方はさまざまですが、僕の場合、いろんな会社の裏側を見られること、社長と裏の話や痛い話もしつつ、企業の将来をリスクヘッジしていけることが会計士としての楽しみでした。
資格を取った後は、2006年に会計士として大手監査法人に入社し、約4年間、さまざまな企業の監査を担当しました。その後はニューヨークでNPOを立ち上げたり、会計士として働いたりしつつ、ベンチャー支援のコンサルティング会社に入社。さらに友人の医者と一緒に立ち上げたゲノム治療のスタートアップを経て、2016年にVoicyを創業した……というのが僕のここまでのキャリアです。
会計士時代も含め、10年以上にわたり300社を超える企業に関わってきましたが、そのなかであらためて確信したのは、「新規事業は甘くない」、「新規事業を生みだせる人は極めて少ない」ということ。
ほとんどの人は、できあがった事業の売上をあげることに専念しているだけに過ぎません。ベンチャーにはビジネスモデルをまったく知らないのに短絡的に投資している経営者も多いですし、新規事業部に在籍して「新規事業やっています」と言っている人も、実務的には事業の広報プランを考えたり、事業のなかの1つの企画を担当しているだけだったりします。
本当の意味で新しいものを生み出して、スケールさせて、事業として世の中になじませることができるのは、ごくひと握りの人たちだけなんです。
■ヒントは「いまの時代の不自由」に目を向けること
緒方:新規事業は難しく、生み出せるのはごく一部の人に限られますが、そうしたなかでもヒントはあると思います。その1つは「いまの時代の不自由」に目を向けること。
緒方:たとえばスマホが登場する以前は、電車のなかでチャットをしたり、撮影した動画をその場ですぐに共有したりといったことはほとんど不可能でした。いまと比べると明らかに不自由な時代だったにもかかわらず、当時はスマホそのものがなかったので、誰もその不自由に気づかなかったわけです。
それと同じように、いまの時代の不自由に目を向け、未来にどんな自由があるか考えを巡らすことは、新規事業を生み出すヒントになると思います。
僕の場合、これだと思ったのは、「いまの人間は情報を得るためにディスプレイと向き合う必要がある」という不自由。ニュースにしても、天気予報にしても、グルメ情報にしても、いまの時代、ほとんどの情報はテレビやスマホ、タブレットといった端末のディスプレイを介してしか得られません。
本来世の中の情報は、手でつくって目に入れる情報と、口でつくって耳に入れる情報の2パターンしかないはずなのに、耳に入れる情報を手でしかつくれない時代がずっと続いてきたんです。
緒方:それを変えるきっかけになったのがIoTとSiri。僕が会計士として企業の監査をしていた時にIoTの技術が発達して、場所やデバイスの種類を問わずネットに接続できるようになりました。さらにSiriが出てきて、音声でOSを操作できるようになった。
そこで「これからは音声がITの主戦場になるな」と。そうして立ち上げたのが、Voicyという会社です。
ちなみに、Voicy=ボイスメディアというイメージを抱いている方も多いかもしれませんが、Voicyは音声インフラの会社。実際、Googleフォームで「OK。ニュース流して」と言って配信される音声コンテンツの3割くらいは、僕らがさまざまな企業やメディアと連携して作っています。
1つの技術によっていままでの生活が変わり、事業が何パターンにも膨らむことは少なくありません。うちの場合のそれは音声。創業にあたっては、人間の五感の1つを丸取りしてやろうと考えました。世の中のあらゆる情報・サービスに1つの五感でタッチできるなら、新規事業はいくらでも広がります。
【セッション2】 メガベンチャーDeNAが新規事業をさらけ出し、ベンチャー社長が辛口で言いたい放題!斬り込みトーク!
――ここからはDeNAヘルスケア事業本部のトップを務める瀬川翔が参加。対談形式でDeNAのヘルスケア事業や、スタートアップとメガベンチャーにおける新規事業の違いなどを語ってもらいました。緒方さんの遠慮のない斬り込みに、会場からは時折笑い声があがる場面も。
■共通言語を持つこと
DeNAへルスケア事業本部 本部長 瀬川 翔(以下、瀬川):瀬川です。よろしくお願いします。
瀬川:まず、今日お集まりいただいた方にお聞きしたいんですが、DeNAが野球とゲーム以外にどんな事業をやっているかご存じの方、どれくらいいらっしゃいますか?(会場の反応を見て)少ないですね。野球のイメージが強いのかな……。スマホを使っている人はどんなゲームをやっているんだろう……?
緒方:スマホを使っている人=ゲームをやる人だと思い込んでいるのは、DeNA病じゃないかと(笑)。
瀬川:そうかもしれませんね(笑)。ちなみに野球でいうと、DeNAがベイスターズを買収したのは8年前。僕もスタジアムに行ったんですが、当時は万年Bクラスでお客さんも少なく、正直事業になるというイメージは抱けませんでした。
緒方:それが新規事業の1つになったと。
瀬川:そうですね。やっぱりそれはDeNAが掲げるデライトの1つだと思うので、スタジアムに行ったことがない方はぜひ行ってほしいです。
緒方:デライトはDeNAのバリューの1つ。実際に社内でもよく使われる言葉ですか?
瀬川:使います。企画に対して議論している時に「デライトは何なの?」とか。あるいは既存・新規を問わず事業計画を出す時は、その事業の何がデライトなのかを最初に書いたりします。
緒方:デライトは直訳すると「喜び」。何も知らない人が聞くと「何それ?」という感じがするかもしれないけど、それくらい強い共通言語を持つというのはやっぱり大事かなと。事業を立ち上げる時も、共通言語をきちんと設定しておかないとうまくいきません。
■ヘルスケア事業ならではの難しさ
緒方:瀬川さんが統括するヘルスケア事業本部は、具体的にどういったことをやっているんですか?
瀬川:一般向け遺伝子検査サービスの「MYCODE」、「楽しみながら、健康に。」をテーマにした「kencom」「歩いておトク」などですね。
人に「健康に気をつかっていますか?」と聞くと、「気をつかっている」、「ジムにも通っている」という人が2割くらい。一方でまったく気をつかわず「明日死んでもいいからラーメン食べます」という人が1割くらい。残りの6~7割、気をつかったほうがいいとは思っているけど実際できていない層がDeNAヘルスケアのターゲットです。
英語の勉強と似ていて、この層は良いことだとわかっていてもなかなか動かない人たちなので、まずは「楽しい」から入れるもの、楽しんでいるうちに健康になれるサービスを、ゲームなどの要素を絡めて提供しています。
緒方:これまで何個くらいサービスをつくって、そのうち何個くらいが生き残っていますか?