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「起業をオフィシャルなキャリアパスに」デライト・ベンチャーズが目指す未来(後編)

2019.12.26

前編では、デライト・ベンチャーズの今と成り立ちについて聞きました。マネージングパートナーである渡辺大さんの言う「デライト・ベンチャーズは『普通のVC』でも『CVC』でもない」という真意、起業がオフィシャルなキャリアパスとして存在するこれからの時代にマッチする人材について聞きました。

「普通のVC」でも「CVC」でもないという真意

ーー改めて「普通のVC」でも「CVC」でもない、という意味についてお聞かせください。

南場智子

大:デライト・ベンチャーズはDeNAをその成り立ちの母体としているので、CVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)という捉えられ方をします。でもそれはいろんな意味で正確でありません。まず、ほとんどのCVCと違って「戦略投資」は行いません。

「戦略投資」というのは、母体の本業とのシナジーを投資先の企業に期待する投資です。デライト・ベンチャーズは、キャピタルゲインの最大化を追求します。そのために投資の意思決定プロセスやストラクチャーが、DeNAから独立しているように細心の注意を払いました。僕がDeNAを退職して、個人のパートナーとして参加しているのもそのためです。「戦略投資」を行わないだけでなく、むしろDeNAと競合するような事業に対しても投資します。

南場:超スペシフィックに、会社のスタンスとしてやらないことも、2、3あります。でも、それ以外は競合するものももちろんOKです。

大:僕らが投資するときに、スタートアップからすると情報を盗まれてDeNAに真似されるんじゃないかとか、最初は投資してくれても次のタイミングで安く買われるんじゃないかとか、そういう不安は一切取り除きたい。

それを構造上できない仕組みにすることにすごく気を使いました。インセンティブの設計上も、情報のファイアウォールにもその意図が反映されています。CVCではなく、より独立VCとしてストラクチャーを設計しました。

一方で、独立VCと言い切れるかというと、そうではありません。実は独立VCでありながら、DeNAのノウハウや人材・リソースを活用して投資先サポートや新しいビジネスの展開を行う点は非常にCVC的です。そこは南場さんがパートナーとして担保してくれています。つまりデライト・ベンチャーズは、CVCと独立VCの「いいとこ取り」なわけです。

“企業”にいながら“起業”できる環境を

南場智子

大:先ほどお話したように、会社をやめて起業するのは簡単ではない。起業したとして、エンジェル投資家から投資をしてもらってビジネスを立ち上げて、なかなか軌道に乗らなくて本人が「難しいかもしれないな」と思っても、投資を受けた以上、簡単には引き返せません。それも起業のハードルが高い、ということの一部です。

そういうハードルも取り除くために、DeNAに在籍しながらデライト・ベンチャーズに出向して新規事業の検討や起業準備ができる。もし失敗したとしても、DeNAに戻りたければ戻れますよとか。成功確率が一番低いアーリーステージで、背水の陣を敷かなくてもチャレンジできる仕組みを作っています。ただ一旦スピンアウトしたら、その起業家にエクイティの過半数を渡し、スタートアップの経営者として飛び立ってもらいます。

南場:そうそう。実際、DeNAで数年も仕事をしたら、バリバリ事業本部長ができるくらい成長してるんだよね。だから、何百人もそういう人がいるんだけど、そんなたくさん事業本部がないわけで。

ーー今までだと、そこで退職して起業するという道に進む人が多かった気がしますね。

南場:そう、DeNAのことはみんな好きなんだけれども、でもすごい力を付けたら、試したくなると思うんだよね。ちなみに、デライト・ベンチャーズにはOBOGもたくさん顔を出してくれているし、私もOBOGの集まりにはよく顔を出して色々会話してるんですよ。

これまで、社内で事業部長級の力をつけたら外に出て力試しをする人も多かった。それなら起業しようよ、と。DeNAに数年もいたら「ことを成せる力」がめちゃくちゃつきますから。

「そそのかしてでも起業を」それが母体の成長に繋がる

南場智子

大:どこの企業も、なるべく人材を中に囲っておきたいと思うのはあたりまえですね。

ちょっと言葉悪いですけど、僕らはむしろ、DeNAにいる優秀な人たちをそそのかしてでも起業させるために、デライト・ベンチャーズに関わってもらう。上場企業がやることとしては画期的なことだと思います。シリコンバレーでもほとんどないですね(笑)。これこそがデライト・ベンチャーズ、というかDeNAの振り切ったところなんです。

南場:社内で、実力を証明したいとか実績をあげたいという気持ちが、部署や会社のためというだけではなくて、自分の将来の選択肢を彩り豊かにするためにというモチベーションになることで、よりがんばれると思うんです。

それは最終的にDeNAの力にもなると思うので、DeNAがグループとしてこれを証明して、「そそのかしてでも外に出す」このメカニズムが、そのそそのかし母体の可能性も成長もひっぱるっていくということを証明したいんです。

大:ずっとDeNAの人材を起業させることを話していますが、デライト・ベンチャーズは、元DeNAの起業家だけでなく、DeNAと関係のない起業家・スタートアップにも積極的に投資していきます。

ただ、DeNAがデライト・ベンチャーズを通してやっているような人材の開放を、他の企業も真似するようになったら、日本のイノベーションは本当に加速すると思います。そのためには、デライト・ベンチャーズのモデルを成功させないといけない。DeNAやデライト・ベンチャーズ出身のスタートアップがいくつか世の中に出て、他の企業も真似をするようになったら幸せですね!

――では、デライト・ベンチャーズがどんな未来を思い描いているのか教えてください。

南場智子

大:就職する、というのと同じくらい起業することが普通に捉えられる世の中になればいいと思います。例えばフランスも、つい10年前までは日本と同じくらい保守的で終身雇用が一般的、大企業への就職が典型的なエリートコースでした。それが過去5年で急激に変わり、今ではなんと大学生の7割が起業したいと考えています。

Per capitaのベンチャー投資は日本の倍。昔のイメージとは違い、フランス人の20代の8割が英語を話します。シリコンバレーにいるフランス人の起業家も急激に増えました。ドイツや韓国もスタートアップのエコシステムは日本の先を進んでいます。日本も、日本なりのやり方で、スタートアップ先進国として世界で活躍する企業が生まれる環境になれば嬉しいです。

南場:「DeNAを開く」と「言う」だけではなくて、本当に開かなきゃいけないなと思っています。もっともっとDeNAとデライト・ベンチャーズの関わりを強めたい。

DeNAの社員からすると、人材を取られてしまうという思いになることもあるかもしれませんが、こういう挑戦を面白がれるようにしていきたいですし、世の中の新しいスタートアップとの接点を最大化することで、市場や技術のトレンドや今求められる人材像などを肌で感じ、DeNAに貢献できることも多いと思います。なので、DeNAとデライト・ベンチャーズがお互いに助け合える存在になりたいです。

起業したくても、たくさん仕事を抱え手を上げにくい社内人たちを磁石のようにたぐり寄せ、起業に向けて動き出すといったところをまずは重点的にがんばりたいと考えています。

それから、たくさんお話をいただいている純投資案件についても。投資基準がわりと厳しいので全員に投資というわけにはいかないけれど、コンタクトしてきてくれた人には何かしら貢献したい、少しでも役に立ちたいという気持ちに溢れた存在になりたいです。

目指すのはギャラクシー的発展、つまりデライトに向かう企業群です。スタートアップやそれが成功した企業たちと手を組んで、ゆるやかなつながりの中で、協力しながら、世の中に提供するデライトを最大化したいですね。

「起業」がキャリアパスになる今、求める人材とは

南場智子

――そういったお話を聞かせていただいた上で、DeNAにこれから望まれる人材とはどのような人たちなのでしょうか。

南場:DeNAは、力をつけたいっていう人にはベストな環境だと思います。仕事を気持ちよくむちゃぶりされて(笑)、ことに向かったチームがあって、その中で裁量を持って任せられて。そこで、周りのレベル高い人たちからのサポートを得たりしながら、なんとか成果を出そうともがく環境。

だから、まず力をつけて選択肢を広げて、将来勝負してみたいという人にどんどん来て欲しいですね。

大:DeNAに入る目的として「数年後に起業したい!」という人もどんどん入ってもらっていいと思うんですよ。オフィシャルなキャリアパスとして起業があると考えてもらえればと。

さっきデライト・ベンチャーズはスタートアップに「戦略投資」をしない、と言いましたが、DeNAにとってデライト・ベンチャーズへの投資は「戦略投資」です。デライト・ベンチャーズがあることで、将来起業したい優秀な人材をDeNAに受け入れやすくなりますし、一旦独立した起業家は、失敗しても成功してもDeNAに戻ってきやすくなる。優秀人材の還流が生まれます。これはDeNAにとっては戦略上とても重要です。

南場:DeNAは、足りないところに着目するのではなく、多様性を認め個性を肯定し、それぞれの個性を思う存分発揮していくという考え方で会社を運営していきます。だから「個性の豊かな人、どんどん入ってきて!」って感じです。

ーー今年の新卒採用のテーマは『「面白がり」、求む。』だったと思うんですけど、そういった意味の面白がりみたいなところでしょうか?

南場:そう!難題にぶつかったとき、乗り越えるエネルギーっていろいろあると思うんです。めちゃめちゃ難題なんだけど、心の底で「ちょっと面白いな、この状況」と思える人、恐らくそういう人はさまざまな荒波の中で、最終的に一番強いんじゃないかと思っています。

事業も常に既成の常識に抗っていますし、新しいことにどんどん挑戦することは「DeNAの絶対譲れないDNA」なんですよ。そういったことを面白がれる人はDeNAで成長できると思います。「面白がり」って言葉、いいよね。

南場智子

大:実は、デライト・ベンチャーズって起業したい人のためだけのものではないんです。DeNAの社員になって力をつけ、デライト・ベンチャーズに出向して新規事業をしたり起業家を生み出したりするもよし。一方で、起業家になることに興味があるわけじゃないけど、新しいビジネスの立ち上げとか開発だけをひたすらやりたいという人もマッチすると思います。

南場:そうそう。0→1でどんどん新規事業立ちあげることを楽しみたいっていう人も、スタートアップに入りたい、スタートアップで大活躍したいっていう人にもいいですよ。

大:それも起業する人と同じくらい価値がある。すごく重要なキャリアだから。そこも我々デライト・ベンチャーズでも全力でサポートします!

ーーありがとうございました。

※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。

執筆・編集:菊池 有希子  撮影:石津 大助

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