DeNAの「人」と「働き方」の " 今 "を届ける。

「斜に構えるのは子どもがすることだ」——“辞表提出後”に訪れたターニングポイント|ミラティブCEO赤川

2019.11.26

自分にはもっと別の才能があるはず、夢中になれることは他にあるはず——そんな思いを抱いたことがあるビジネスパーソンは多いのではないでしょうか。

自ら活躍するフィールドを見つけたDeNAのOB・OGを訪ねる本企画。第3回目は、DeNAにて最年少執行役員を務めた後、株式会社ミラティブを創業した赤川隼一さんです。もともとバンドで食べていく夢を抱きながら働いていた赤川さん。「本気で仕事をすることはダサい」と心のどこかで思っていたと語ります。

しかし、とあるターニングポイントを経たことで、最年少役員抜擢に至る大きな変化を遂げました。その話を伺うと、DeNA時代に身につけた「DeNA Quality(以下、DQ)」という行動指針と、働くうえでの大事なスタンスが見えてきました。

※『DeNAのDNA』1・2回目記事はこちら

『「やりたい仕事はなくてもいい」——食べチョクCEO秋元里奈が語った、天職の見つけかた』 『「結果を出せないヤツは愛されない」——ハートドリブンの原点になった思い込み | アカツキCEO塩田』

“バンドで生きていこう”と思っていた僕の現在

スマートフォンでゲーム配信をするサービス『Mirrativ(ミラティブ)』は、DeNA内の事業として始まりました。その後、全世界で使われるサービスにすべく、成長速度を考慮して2018年3月に完全独立。今、僕らは株式会社ミラティブの事業として『Mirrativ(ミラティブ)』を展開しています。登録アカウント数は約1,000万、配信者数は160万人を超えています。

株式会社ミラティブのミッションは「わかりあう願いをつなごう」。このミッションの背景にあるのは、14歳の頃に初めて繋がったインターネットでの原体験です。当時の僕は、THE BLUE HEARTSのようなロックバンドに憧れる音楽オタクでした。ネット上で同じ趣味の年上の人たちと音楽の話で交流することで、人生がかなり豊かになったし、救われたんです。

人はそれぞれ自分の好きなものがあり、心のどこかで誰かとその気持ちを共有したい・わかりあいたいと思っているもの。その“わかりあう願い”がつながった瞬間の高揚感が僕は好きなんですね。『Mirrativ(ミラティブ)』を通して、「わかる! それ、すごくいいよね」という幸せな瞬間を増やしていきたいし、この世界にわかりあう瞬間の総量が増えることは、価値のあることだと信じています。

ただ、もともとの僕はバンドで生きていこうと本気で思っていたので、起業するなんて一切考えてはいませんでした。そんな僕が今経営をして世界に挑んでいるのは、間違いなく仕事との向き合い方を教わったDeNAでの経験があったからですね。

一晩泣いて辞表を提出。“斜に構えていた子ども”から脱却した瞬間

大学4年生の頃に考えていた進路は、バンドを続けるか、音楽関係の仕事に就くかの二択でした。周りが就活をはじめたから、という消極的な理由で、まずは雑誌『rockin'on』の音楽ライターに応募。しかし、ロックへの想いが熱すぎたのか、小さい文字で書き殴った書類だけで審査落ちしてしまいました。

その後、焦って就職情報サイトを漁るなかで、会社説明会というものの存在を知り、たまたま初めて行った説明会がDeNAです。月収ではなく年俸記載だったので、単純に「他の企業よりも給料が高い」ように見えたんですよ(笑)。

説明会では、エネルギッシュな女性(※)が出てきて「社会人1年目に大事なのは成長の角度だ!」と熱弁していました。そのテンションの高さを前に、“なんだかおもしろそうな会社だな”と。今でも覚えているのは、入社面接で現社長の守安さんと喧嘩をしたこと。守安さんが手がけている既存事業について、僕がケチをつけて、守安さんもまったく大人げなく全力反論してきたので20分くらいケンカみたいな激論をしたんですよ。

※1……DeNA 現代表取締役会長 南場智子

「さすがに落ちたかな……」と思っていたら、まさかの合格(笑)。喧嘩を売った僕を採用してくれるなんて、やっぱりおもしろい会社だなと思いましたね。それに、守安さんは今までに出会ったことがないほど頭がキレる人だったので、正直「世の中にはこんなに賢い人がいるんだ」と知的好奇心が刺激されました。

DeNAはまだ180人ほどのスタートアップ企業。当時の僕は、スタートアップという言葉さえも知りませんでしたが、「おもしろい人たちと一緒に働けるなら退屈はしないだろう」と思い、入社を決めたんです。

入社後はまず、広告営業をしていました。すると、運よくリリースされたばかりの「モバゲータウン」のゲームクライアントを担当し、かなりの勢いで売ることができ、トップ営業マンに。翌月にはマネージャーへと昇進していました。22歳だった1年目に、単体で上場できるほど大きな売上規模の責任者になるわけです。結果さえ出せれば年齢や経験は関係ない、そんな環境でした。

ただ、胸の中では飽きもせず「3年経ったら会社を辞めてバンドをやろう」と思っていたんですよ。そんな野望を抱きながら、ちょっと斜に構えて仕事をしていました。マネージャーと言えど「自分が一番売ってるんすよ」という態度で、相手への配慮や謙虚さは一切ナシ。「なんで売れないんですか?意味がわからないです」と、ロジックで人を詰めて、その結果チームの雰囲気は悪くなり、最初の頃はメンバーの結果も出ずに本当に最悪でした。

でも上司から「チームが未達だったらお前個人がいくら売ってきてもお前の評価はしない」と言われ、方向性を切り替えることに。チーム全員が達成することを目標に逆算し、資料の共有方法やスクリプトの組み方など全てを変えていきました。最終的にチームの雰囲気はものすごく良くなり全員で目標達成をしたものの、当時はまだどこか仕事をなめていたというか、プロ意識に欠けた未熟なスタンスだったと思います。

2年目には、池田さん(※2)率いるマーケティングコミュニケーション室に異動することに。メンバー3人でTV-CMなどを担当する少数チームです。異動初日、池田さんに「将来何をしたいの?」と聞かれた僕は正直に答えました。「僕、バンドをやりたいんです」と(笑)。

※2……横浜DeNAベイスターズ初代代表取締役社長 池田 純

すると「はあ? じゃあさ、明日からやればいいじゃん」と本気で怒られたんですよ。その夜、池田さんの言葉が脳内から離れず、一晩中涙して。正論すぎるし、悔しかったんでしょうね。“いい作品を作っていれば、そのうち音楽で有名になれるだろう……”と思い、中途半端にしか取り組まず、全力を出し切ってこなかったから。

翌朝には、思いきって辞表を提出。結局、池田さんに説得されて最終的には取りやめたんですが、その出来事は斜に構えていた“自分の人生との向き合い方”が変わる転機になりました。もっと本気でやっていれば、音楽で成功していたんじゃないか——そんな後悔を二度と味わなくていいように、仕事をやると決めたなら、全てを仕事に投資して全力で生きようと決めたのです。

「こと」に向かうと、実力以上の仕事が回ってくる

その後の日々は熱かったですよ。僕は“徹底的にDeNA色に染まり、カルチャーを体現する存在になってやろう”と思いながら仕事に向かっていました。どうせやるなら、とことん突き詰めたほうが楽しいから。特にDeNAの行動指針「DQ」のひとつ、“「こと」に向かう”というカルチャーは今でも染みついています。

これは、“本質的な価値を提供することに集中する”という意味なのですが、喧嘩まがいの議論が飛び交う会議でも、「チームの意思決定」をして会議室を出たら、誰も文句や愚痴を言わずに清々しく決まったことの目標達成に全力で向かうんです。そんなDeNAらしさが美しいと思うし、今でも大好きなカルチャーのひとつ。そうして背伸びをすればするほど、自分の実力以上のアグレッシブな仕事が回ってきました。

特に、2010年に責任者として行った『Yahoo!モバゲー』 を実現するための、ヤフー株式会社様との交渉。無事合意が完了した日のことは、今でもフラッシュバックするくらい覚えています。守安さんと南場さんに報告したら、「赤川ほんとにお疲れ!ありがとうね!」とがっちり握手をされて……その握手の時のやりきった感というか、高揚感は忘れられないですね。

『Yahoo!モバゲー』をリリースした日は、チームのみんなで23時59分に集まって更新ボタンを連打し、24時00分になった瞬間に、自分たちが作った『Yahoo!モバゲー』のバナーがYahoo! Japanのトップページに出てきて、歓喜の声をあげました。その瞬間の気持ちよさが忘れられなくて、今もプロダクトを作っている気がします。

こうした経験は“全力でことに向かった”からこそ得られたものです。そしてここで感じた高揚感は、今のミラティブのミッション「わかりあう願いをつなごう」にも繋がっていますね。

気づけば当たり前のように次の社長を目指していましたし、自分ができることを120パーセントやろうという思考に勝手に入っていて、それらが評価されたんだと思います。最年少執行役員に抜擢してもらい、DeNAの経営や新サービスの立ち上げなど、新卒入社としても20代のキャリアとしても本当に得難い経験をさせてもらいました。

いつだか南場さんは「斜に構えるのは、子どもがすることだ」と言っていましたが、本当にその言葉の通りだと思います。一度きりの人生なのだから、本気で向きあって生きるのは全くダサいことじゃないし、その方が幸せなんですよ。

世界で勝てるサービスで、いつかは“頂上決戦”を

多くのビジネスパーソンは、毎日最低8時間、週5日間を仕事に費やしています。人生に換算すると、3分の1に近い時間。そんなに大きな投資をしているのに「つまらない」とか「実は好きじゃない」とか「集中できない」状態はあまりにもったいないなと僕は思うんです。

だって、自分の人生の時間ですから、どうせなら本気で楽しんで生きたいですよね。今悩んでいる人は、まずは目の前のことに全力で取り組んでみてほしいと思います。斜に構えるのをやめて、達成できるかできないかギリギリの高い目標を設定し、そこに向かってがむしゃらに頑張ってみる。もしくは、誰かが本気でやりたいと思っていることを、全力で助けてみる。当たり前のことを徹底的にやるんです。

すると、新しい景色が見えるはず。僕は「30歳までに100万円の貯金はするなよ」と教わったりしていました(笑)。若いうちは貯金なんか考えずにとりあえず全部自分に投資しろ、という意味です。若いうちの自己投資は、自分の糧になって全部帰ってきますから。

今ミラティブが目指しているのは、世界中で使われるサービスにすること。ビジネスの構想が頭に浮かんだときから今日に至るまで、「これは数億人が使うサービスになる」と確信しています。DeNA出勤の最終日に、「起業するからには、DeNAよりも大きい会社にするつもりです」と守安さんに話しました。DeNAは南場さんが長年「Beyond Google(Googleを超える)」と言ってるので、そうなるとGoogleよりも大きい会社にしなきゃですね。

今はDeNAの背中を見ながら走っていますが、いつかは同じ目線で勝負をしたい。お互い切磋琢磨しあって再会する頂上決戦を夢に見ています。……と、結構なことを話しましたが、ビッグマウス野郎にならないよう、これからも「こと」に向かわないとですね!(笑) お互いがんばりましょう。

※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。

執筆:柏木まなみ 編集:水玉綾  撮影:伊藤圭

open menu