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「やりたい仕事はなくてもいい」——食べチョクCEO秋元里奈が語った、天職の見つけかた

2019.10.03

自ら活躍するフィールドを見つけたDeNAのOB・OGを訪ねる本企画。彼らに話を聞くと、DeNA時代に身につけた「DeNA Quality(以下、DQ)」という行動指針が現在に影響を与えていると言います。

「DQ」とは、DeNAの社員全員が身につけるべきスタンスのこと。DeNAの成長を支えてきたポリシーであり、組織カルチャーとなっています。

第1回目は、『食べチョク』を運営する株式会社ビビッドガーデンの代表取締役社長である秋元里奈さん。「やりたいことがないことがコンプレックスだった」と語る彼女は、どのようにしてやりたいことを見つけ、起業に至ったのでしょうか。そして、彼女の成長を後押しした「DQ」の1つ、「発言責任」とは——。

25歳のときに「農業」でビジネスを起業。でも元々はやりたいことがなかった

私がビビッドガーデンを創業したのは、2016年です。その翌年、生産者と消費者、販売店を直接つなぐCtoCプラットフォーム『食べチョク』を提供し始めました。

おかげさまで、サービスリリースから2年で出店生産者は500軒を超え、流通額は前年から約6倍に成長。Forbes JAPANが主催する「世界を変える30歳未満の30人」を表彰するアワード『30 UNDER 30 JAPAN 2019』にも選出いただきました。

仕事に熱中している日々で、今が人生で一番楽しいんです。1人でも多くの農家さんがきちんと報われる業界にしていきたいし、それを追求することが今の最大の関心事。仕事というよりも半分プライベートのような感覚ですね。

ただ、はじめから「農業」でビジネスをしようと考えていたわけでは全くなくて。むしろ、やりたいことが見つからないのがずっとコンプレックスでした。

DeNA創業者の南場さんのように、やりたいことを見つけて打ち込んでいる人に憧れていました。私もいつか本当にやりたいことが見つかったときのために、力をつけたい——そうした思いで、DeNAへの入社を決めたんです。

“発言しないほうが、後ろめたい”。新卒で叩き込まれた「発言責任」という姿勢

以前南場さんが記事のなかで「​その人がぎりぎり頑張っても達成できる確率が50%の仕事を任せることが大事​」と言っていた通り、DeNAは挑戦を後押しする環境でした。その挑戦を下支えしているカルチャーが​「DQ」という行動指針。​特にそのひとつである​ “発言責任” は、1年目から徹底的に叩き込まれましたね。

“発言責任”は、役割にかかわらず、自分の考えを示すこと​なんですけど、現にDeNAでは社歴・役割に関係なく、自分の意見を求められるんです。

自分の意見やアイデアを持たずに会議に出席したり、もしくは持っているのに発言しなかったりするのは良しとされないんですね。なので​私は、どんな場でも絶対に自分の考えを伝えるように心がけていました。発言すると何かしらのインプットをもらえるので、成長できる実感もありました​。

ただ、入社1年目でとあるチームのリーダーになった時には“発言責任”をうまく果たせず苦労しました。若くて経験の浅い私がリーダーになったので、この時はなかなかみんなと意思疎通ができなかったんです。

思ったことは何でもしっかりと伝えることが“発言責任”だと思っていたのですが、メンバーがリーダーに言うのと、​ リーダーからメンバーに言うのでは、立場が違うので受け取りかたが変わります。「発言」は双方の関係性をふまえた伝えかた、伝えるべきタイミングの見極めが必要。結局は人と人ですから、ロジックだけでは語れない、マニュアル化できないものがあることを知りました。

そうして、少しずつ自分の思い・ビジョンを伝え、信頼関係を築き、チームを引っ張っていく経験を積んでいった​んです。

転機は突然にやってきた——「いつか」が現実となった瞬間

「いつか、人生をかけてでもやりたいことに出会えるはずだ」と思って頑張ってきたけれど、本当に出会えるんだろうか、「いつか」なんて一生訪れないんじゃないか——そんな不安が頭をもたげてきたのは、入社2年目を半分超えたあたりからだったと思います。

自分で考え、自らの意見を持っていれば、どんな仕事も夢中になってやり切ることはできる。あらゆる業界に興味を抱くし、目標に沿っていつでも必死になれる。

でも、自分の内側から情熱が湧きあがる対象にはいつまでたっても出会えなくて……。

このまま楽しさに身を任せていてもいいのだろうか。どうしたら「本当に自分がやりたいこと」に出会えるのだろう。少しでもヒントを得たいと、私は社外のイベントに足を運ぶようになりました。

ある日、社外の人に自己紹介をした時のことです。「実家が農家だ」と話すと、珍しいからか、すごく興味を持ってもらえたんです。それがきっかけで、農地でイベントを開催する話になり、下見として実家の農地見学へ行きました。

幼い頃から、実家にある広くてきれいな畑は私の自慢でした。連れてきた友達みんなに喜んでもらえる場所。ですが、久しぶりに訪れたその場所は自分の記憶とは結びつかないほど荒れていて。かなりのショックでしたね。結局、農地イベントの企画は頓挫してしまいました。

それからというもの、誰に言われたわけでもないのですが、自ら農家に足を運び現状を聞き回るようになりました。そこで、日本の農業が直面する問題を知って、より愕然としたんです。

もう、どうにかしたい、という思いですよ。​気づけば、平日はDeNAの仕事をこなしながら、週末は農家に足を運ぶように。そんな生活がしばらく続くなかで、​誰かに与えられたものではなく、自分の中から湧き出てくる情熱を初めて感じていました。

起業の決め手になったのは、知人2人の言葉です。1人は先に起業していた友人で、「やらない理由は時間が経つたびに増えるから、今起業しないならおそらく一生やらないだろうね」​という正直な一言をくれました。

そしてもう1人は、当時DeNAで一緒に働いていた先輩。「めっちゃいいじゃん!​ やりたいことやった方がいいよ!」​と背中を押してくれたんです。私が退職をすると迷惑をかけるはずなのに、予想外なバックアップにとても勇気付けられたことを覚えています。

そんな知人や先輩の発言もあって、私はようやく人生をかけてでもやりたいことに出会えたんです。​きっと覚悟を決められたのは、「全力を出しても成功する確率が50%の仕事」にいくつも挑戦してきたからだし、常に自分の想い・ビジョンを、周囲に伝えることが当たり前の環境にいたから。​ そのおかげで自信がついたからこそ、天職にめぐり会えたのだと思います。

「やりたい仕事」の見つけかた。多くの場で自ら発言を

「現在やりたい仕事」と「人生をかけてでもやりたい仕事(=天職)」は、また別であるように思います。ただ、後者を見つけるためには、今目の前にあるやりたい仕事に向き合い、 自分の意思を持ってがんばることがすごく大切。

どんな仕事であれど、必死に向き合っていくなかで、いろんな学びは得られていきます。すると、​感じかたや考えの幅が広がっていくので、やりたい仕事に気づきやすくなると思うんです。その時に必要な力が身についている可能性も高くなる​はず。

そうはわかっていても目の前の仕事に熱中できないときには、​「将来進みたい道と今の仕事の関係性」​ について、まずは考えてみてほしい。自分がどういう道を歩みたいのか、ふわっとでいいから言語化してみる。そして、その道に繋がっていると腹落ちすれば、そこまで迷わないで進めるようになるはずです。

それでも迷うならば、​ その「迷い・悩み」は、進みたい道を阻止するほど影響のあるものなのかを見極めること​ 。私もDeNAで、もし仮に成長が見込めない状況が続いていたら、もっと早期に退職していたと思います。

そしてやはり、​多くの場に行き自ら考え、発言すること。

今の私にとっては、『食べチョク』を成長させることが、まさにライフワーク。農業には課題がたくさんあって、貢献できる幅が大きいんです。趣味の旅行に行くよりも、今は自分の事業をやっている方が楽しいですね。

正確に言えば、楽しいというよりも“幸せ”の方が近いかもしれません。誰かに貢献できているという幸せ。​ 少しでも時間を割いて、1人でも多くの農家さんの売上を改善して、報われる世界をつくることが、幸せなんです。

“生産者のこだわりが、正当に評価される世界をつくる”。DeNAで学んだ“発言責任”の姿勢でどんどん自分から発言をし、周囲を巻き込み、必ず叶えていきたいと思います。

※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。

執筆:萩原愛梨 編集:水玉綾  撮影:小澤彩聖

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