「会社ベースからプロジェクトベースへと仕事のスタイルが変わる」とお伝えした1回目。目指すべきは、プロジェクトに呼ばれる人材になること、言い換えると「コト」を成せる人材だといいます。
「コト」を成せる人材とはどのような人材なのでしょうか?
「シンプルに、目標に合意したらやりきると信頼できる人材です。プロジェクトベースに仕事が変わる過渡期においては、早く『コト』を成せる人材になることが大切。そのためには起承転結、目標単位で千本ノックをさせてくれる会社、やり方をいちいち指示されるのではなく、自分で試行錯誤できる環境に身をおくことが重要です。」と語る、DeNA代表取締役会長南場 智子。
そんな彼女が、現場で活躍している社員に声をかけ、キャリアについてインタビューする「キャリアの本質」。
第2回は、ヘルスケア事業にフルコミットする、DeSCヘルスケア プラットフォーム企画部 西村 真陽(にしむら まさや)。社内兼務、いわばプロジェクトベースで働くことをいち早く経験し、多角的にヘルスケアへアプローチ。3年目に渾身の新規事業立ち上げに携わった彼が、経験した“起承転結”とは?
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「誰が言ったかじゃない、何を言ったかだ」その姿勢が好きでDeNAへ
南場:西村とはヘルスケア事業で関わってきて何かと印象深かったです。最初、入社1年目の日報で彼女と同棲解消のプロセスを詳細に書いていたね。家電をどうわけるかという“ドラフト会議”、悲しくて切迫感があって、会社の日報にアホかと思ったけど、面白くて読んじゃった。
西村:それ今言います? 執行役員から怒られましたもん「男なんだから家電は全部あげろ」と(笑)。
南場:怒るとこそこか。会社に入る前はどんなことをしていましたか?
西村:大学のときはイベント企画をしたり、外資系の飲料メーカーで学生向けプロモーション企画を立てたりしていました。そこで自分が責任者のイベントがあり、色々な状況を深く考え企画したんですが、理不尽な理由で急遽変更になり、結局、参加者の方々に迷惑をかけてしまったことがあります。
それが悔しくて悔しくて。「もう一生こういう思いはしたくない。」と誓い、その日に会社を辞めたんです。自分の立場の限界や参加者より会社都合という企業の姿勢に疑問を抱きながら、就活を始めました。そうしたら「コトに向かう」と言いまくっている会社があったんですよ。
「誰が言ったかじゃない、何を言ったかだ」と。これやないか!
南場:なるほど。いい会社に入ったね(笑)。入社してどんな仕事をしましたか?
西村:最初の2年くらいは、アプリのプランナーと、社員の健康サポートを行う専門部署「CHO室」を兼務で担当していました。両方ともヘルスケア領域です。
南場:「クロスジョブ(※)」ですね。なんでヘルスケアに興味が出たの?
※他部署の仕事を兼務できる制度。
西村:高校時代、部活の厳しい練習の後にジャンクなものをよく食べていたんです。ふと、こんなもの食べていたらパフォーマンスが悪くなるんじゃないかと思い、食生活を変えてみました。その結果、体の動きが良くなるなど成果を感じられて、健康管理に目覚めたことがひとつ。
あとは、フィリピンへ語学留学していた大学時代。1日12時間勉強するようなスパルタな環境で、みんなヘトヘトになっていた中、僕はピンピンしていました。台湾から来ていたヘンリーが「なんでそんなに元気なんだ?」と聞いてきたので、僕の生活習慣を教えたら、彼の体調も英語の習得度も上がって「こんな面白いことはない!」と思ったからです。
南場:ヘンリーのおかげだね。
西村:いやいや。大人はだいたい不健康だしヘルスケアは世の中のニーズもある。それで「ヘルスケアの仕事がしたい」でも「DeNAにも入りたい」とも思っていたときに、ちょうどDeNAがヘルスケアに参入したので、まさに運命だなと。
南場:CHO室ではどんなことをやってきたんだっけ?
西村:社内の喫煙室のリニューアルと腰痛撲滅プロジェクトを任されました。腰痛はプログラム参加者の多くが改善したし、喫煙室の匂いもれ問題も解消したの、南場さん気づいてますか?
南場:知ってる。評判いいよね。 どちらも劇的に変わったからね。
あと西村といえば、ドコモ・ヘルスケアとうちが共同開発した、歩くことでdポイントがもらえるアプリ『歩いておトク』だね。これはめっちゃいいアプリ。そこではどんなことをしていたの?
西村:プランナーとして機能の改修をしたり、分析をしたり、アプリの中で世界中を歩いてまわっているようなバーチャルツアーの企画を立てたり、少ない人数で運用を回しているのでとにかく色々やりました。お客さまの半分以上は月20日以上使ってくださる、リピート率の高いアプリになりました。
南場:大成功だよね。リリースから3年、300万DLを突破した今も高い継続率を誇ってる。利用継続率は世界トップクラスだよね。1年目から順調じゃない。
右から左に受け流すだけ…1年目の失敗から、2年目にアプリランキング1位獲得!
西村:いやいや、失敗もしました。神奈川県とのタイアップ企画では県や県の事業パートナーさん、ドコモ・ヘルスケアさん、DeNAグループと関与する人が多く、みなさんの主張が少しずつ違う中、焦ってしまって、来た素材を次の担当者にただ渡すだけになってしまい、めちゃくちゃなことに……。
南場:ただのメッセンジャーね。あるあるだ。結局どうなった?
西村:リリース延期も視野に入れざるを得なかったんですが、様々な助けがあり成功できたんです。「また来年もやろう」というお誘いまでいただけました。
南場:よかった。その後は?
西村:あるプラットフォーム上で新規展開するアプリのプロジェクトリーダーを2年目で担当しました。これは上手くいって200本くらいあるアプリの中でランキング1位を取れたんです。1年目大きな失敗しても、2年目でより大きな仕事を任せてもらえたのはありがたかったです。
南場:このときも兼務だったんだよね?
西村:はい。当時CHO室では、外部のパートナーさんと共同でタンパク質がきちんと取れるサラダを作っていました。サラダの企画をして、その後アプリのミーティングをやるっていうような毎日で、頭を切り替えながら過ごしていたんですが「人を健康にする」という意味では「歩いておトク」もCHO室もシナジーのある兼務だったと思います。
南場:その後は?
西村:担当アプリもいい感じに進んでいたんですが、そういう状況の人にはよりチャレンジングな仕事が降ってきます。次のヒットアプリをつくるために準備を始めました。
「笑い✕健康」の可能性にかけた新規事業。自分の笑顔を撮影しまくった日々
西村:大阪出身でお笑いが好きだった僕は、「笑う」って健康にいいなと常々思っていたので「笑い✕健康」で何かできないかと考え、笑った瞬間を判定したりその回数を計ったりする実験を1人でしていました。
パソコンのインカメラを起動させ、自分の顔を写しながらお笑い番組を流して観て、笑ったら自分の顔をスクリーンショットで撮る、といった具合です。自分の笑っている顔ってあんまりみたことないじゃないですか? 案外、いいもんですよ、自分の笑顔。
南場:きもいー(笑)。
西村:どんなサービスにするかは固まってなかったけど、「笑いをキャプチャする」というコア機能は決めたので、これについて社内Slackに書き込みました。そうしたら、かなり優秀なエンジニアさんからリプライがきたんです。
急に「アリな気がしてきた」と。正直、ちょっと面食らったものの、次の日会社に行ったらびっくりですよ。
南場:なに?
西村:アプリが既にできていたんです! 自分のイメージ通り、というかそれを遥かに超えたものでした。エンジニアさんが「こういうことでしょ?」って出してきてくれて「かっけぇー」って興奮しました。
南場:素晴らしい。
西村:まだ正式なプロジェクトではない中、自主的に企画を詰めていたら、 3年目の半ばに新規事業プロジェクトとして本格的に検討することになったんです。そこでプロジェクトリーダーになり、そのエンジニアさんも僕のところに所属を移してくれて、いざスタートとなりました。
南場:現場の熱量からそうやって自主的に立ち上がる新規事業は成功確率高いよね。その後、どんな風に進めましたか?
西村:サービスイメージはどんどん広がるものの、DeNAが事業として立ち上げるには、笑いが実際どれくらい健康にいいのか、自分の主観を超えて科学的な根拠が必要でした。そこで、専門家の先生を探して奔走。
本をかたっぱしから読むなどリサーチを続けると、1人のキーマンが浮かび上がってきました。「笑い✕健康」の第一人者である先生です。その先生に熱い想いをダメ元でメールをすると、お返事をいただき、東北のとある大学まで訪問することになり、事業コンセプトを説明しました。
そうしたら、先生が『歩いておトク』を利用してくださっていたんですよ。しかも毎日使うくらいのヘビーユーザーで、「自分が愛用しているアプリを作った人たちが、今度は笑いで新しいサービスを考えている。こんな素晴らしいことはない」と言ってくださって、共同研究の話が盛り上がりました!
南場:すごいじゃん。でも、ちょっと待って、今ないよね、そのアプリ。どうしたの?
西村:失敗したんですよ。というか、世の中に出せませんでした、残念ながら。
南場:どうした?
西村:収益モデルができなかったんです。
売上を継続的に上げる方法を多方面からとことん検討したけれど、ここが突破できず事業としては成立しないと判断せざるを得なく、プロジェクトはストップ、チームは解散に。
南場:解散はきつい。大学の先生はどうしたの?
西村:誠心誠意お詫びすることしかできませんでした。何もとがめられず、「もう1回チャレンジする日を楽しみにしています」と寛大におっしゃってくださり、余計に申し訳なく、辛かったです。
頓挫した事業。過程で受けた“恩”を糧に再起を狙う
南場:辛いけどあたたかくしていただきありがたい。またがんばる気にもなれるね。
西村:はい。悔しい思いでいっぱいでしたが、またがんばろうと思えました。
南場:人が喜ぶことを企画すること自体はそれほど難しいことではない。けれども、それを収益が出るメカニズムにしなければその喜びは継続できない。社会にとっていいことを実現し継続し、そして拡大するために、収益モデルの構築は必須だし、そこが難しいポイントだよね。
それにしても、「笑い✕健康」というのはいいね。いつかやりたいね。
西村:僕もあきらめていないです。
「笑い✕健康」を考え抜いた西村だからこその、笑いの絶えない対談でした。失敗しても全部やる。その過程にいろんな学びがあることを身をもって教えてくれた西村に、まだ実績のない若手のときに、どうやって人を巻き込むのか聞いてみました。
「情熱を伝え続けるしかない」との潔い答えが。プロジェクトベースになるだろう未来、待ちの姿勢だけでなくやりたいことへ情熱を注げる、それこそが一番の原動力になることでしょう。
※この記事はイベント「キャリアの本質」を再構成したものです。
※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。
編集:菊池有希子 撮影:杉本 晴