「働き方改革」ーー。この言葉を聞いて、どのようなことを思い浮かべるでしょうか。
DeNAでは人事制度、健康、ITの3つのキーワードを基に「DeNA流働き方改革」を推進しています。
その中でも人事制度の推進を担うのは、執行役員 ヒューマンリソース(以下、HR)本部長の崔 大宇(チェ テウ)。
「真の働き方改革とは、みなが熱中して働ける環境をつくること」と語る、崔。
彼が考える「DeNA流働き方改革」とは? DeNAが大切にする「デライト」に向かうため、どのように働きやすい環境づくりに臨んでいるのか、話を聞きました。
人事、健康、IT――。働き方改革を進める3つのキーワード
ーーDeNAが考える「働き方改革」とはどのようなものでしょうか。
崔 大宇(以下、崔):HR本部はスローガンとして「すべての人に働く幸せを」を掲げていますが、これは言い換えると 「すべての人が熱中して働ける環境をつくること」。これがDeNA流の働き方改革の根本なのではないか 、と考えています。
社員一人ひとりそれぞれの志向があり、職種や雇用形態、ライフステージに合った「働く幸せ」があります。
「働き方改革だから」と旗振りをして、一辺倒に「何時以降は残業禁止だ」「退勤後に業務を行ってはダメ」などと言うのは、DeNAのカルチャーにはマッチしないし、それでは「働く幸せ」にはならないと思うんです。
会社として、社員個々に向き合うことをあきらめず、すべての人が「働く幸せ」を感じられる環境をつくることができれば、結果として仕事にも熱中でき、世の中にも大きな喜び、つまりデライトを届けられる。
ーー社員一人ひとりにとっての「働く幸せ」を実現するために、どのように「働き方改革」を推進しているのでしょうか。
崔:DeNA流の働き方改革には、3つのキーワードがあります。
【DeNA流働き方改革 3つのキーワード】
✔人事制度
✔健康
✔IT
崔:まず、1つ目のキーワードとなるのが「人事制度」。
HR本部は「人の力を最大化させ事業・経営をドライブする」をミッションとし「全ての人に働く幸せを」をスローガンに掲げているのですが、 個人のスキルアップやチーム強化、また社員の仕事に対するやりがいや熱意を高めるための各種制度を企画・実施 しています。
2つ目は「健康」です。
「みんなの健康を当たり前に」をミッションに掲げているCHO室(※1)が、 主に運動、食事、睡眠、メンタルの4側面から社員のパフォーマンスに対し様々なサポート を行っています。
たとえばマッサージルームには5名の常勤施術者がいて、ポータル上から予約をすれば、社員は就業中にマッサージを受けることができます。
睡眠の質を改善するセミナーや、マインドフルネス講座なども、とても好評ですね。
※1……CHO(Chief Health Officer)室は、社員が安心して心身共に最高のパフォーマンスを発揮できる組織を目指し、2016年に設立された社員の健康サポートを行う専門部署。
ーー社員の生産性を様々な側面から支えてくれるのはいいですね。
崔:そして3つ目のキーワードが「IT」です。「ITで事業/経営にデライトをもたらす」ことをミッションに掲げるIT戦略部が、 ITを活用して各業務を支援しています 。
具体的には、slack(※2)を活用した業務効率化やRPA(※3)の導入、内製ツール開発などを行っています。
※2……ビジネスチャットツール。 ※3……ロボティック・プロセス・オートメーション。ロボットによってホワイトカラーの単純な間接業務を自動化するテクノロジー。
ーーITを活用した取り組みでどのような効果があがったのでしょうか?
崔:slackによる業務効率化の取り組みの1つ「ワークフロー承認の一元化」では「申請から承認まで1件あたりの平均所要時間」を約5時間から1時間に削減できました。
ーー所要時間が5分の1になったのはすごいですね。
崔:はい。DeNAは、働き方改革やコミュニケーション活性化を目的として日本国内で2番目にslack enterprise grid(※4)を導入しました。社内にslackが浸透したタイミングで「社内でよくある問い合わせに対応してくれるAI bot」を開発したりと、これまでもさまざまな施策を行ってきました。
他には、RPAを活用し健康管理業務工数を削減した取組みもあります。
全従業員を対象に「勤怠情報をタイムリーに入力していない社員」や「長時間労働者」をモニタリングし、対象者に注意喚起しています。
特に勤怠入力リマインド業務は、これまでは人事労務担当者が手作業で行っていたのですが、今はロボットが毎日全社員をチェックしリマインド。 人間が全社員分の勤怠をチェックしてリマインドすると116時間かかる部分を、ロボットが担うことができています 。
※4……会社全体で 相互につながった複数のワークスペース を活用することができるなど、大規模な組織のために設計されたslakの利用プラン。
「なかまの強み」「仕事のやりがい」可視化も
ーーそれでは、HR本部が推進する人事施策について詳しくお聞かせください。
崔:HRでは「仕事への熱意を高め、個人の能力とやりがいを高める」目的で、各種制度立案、取り組みの実施をしています。
たとえば、本人と異動先の事業部長の合意が成立すれば現所属の上長や人事の承認なしに異動できる、 「シェイクハンズ」制度 。
また一定の条件を満たし承認されれば、DeNAで働きながら社外でも自己研鑽や自己実現を目指せる、 「副業」制度 や、他部署の業務を兼任できるいわば社内副業的な、 「クロスジョブ」制度 も導入しています。
「副業制度」は2017年10月から開始したのですが、全従業員の約1割が利用(※5)していて現在でもコンスタントに申請があります。副業制度の利用目的は「スキルアップしたい」「働く喜びをもっと感じたい」といった動機が圧倒的に多いですね。
ーー仕事への熱意を社内外で発揮できる機会を用意しているのですね。
崔:さらに、年2回各メンバーが「記名制」でマネージャーにフィードバックを送る 「360°フィードバック」 という取り組みもあります。これはマネージャーが自分で気づきを得て自己のアセスメントに活かすために実施していますが、なかなか辛辣な意見も来ますよ。
ーーなぜこのように様々な人事施策を実施しているのでしょうか?
崔:このような施策で、 本人の強みを伸ばすことができている と感じているからです。
いま私が1番大切にしているのは「個人の多様性を認める」ということなんです。
たとえば、社員の中には論理的に物事を考えて仕事を進めるのが得意な人もいれば、感性豊かでおもしろい企画を立てることに長けている人もいますよね。
DeNAの今までの良さは残しながらも、お互いの違いを認め合い助け合っていければ、DeNAの力は爆発的に伸び、大きなデライトを届けられると私は信じているんです。
ーー得意なことを伸ばし、苦手なところは補っていくわけですね。
崔:それぞれが強みと弱みをしっかりと理解し、周りとつながり、支え合って力を発揮していく。 私はHR本部長として、そのような環境づくりを目指しています。
人事施策というと、固定化されてなかなか変わらないイメージを持つかもしれません。しかしDeNAでは、柔軟な対応を心がけています。
ーー実際にはどのようにしてそれぞれの「強み弱み」を把握するのでしょうか?
崔:2019年3月にDeNAは20周年を迎えたのですが、これを好機として、 社員のボトムアップで「これからのDeNAを考えていこう!」という『De20プロジェクト』 が立ち上がりました。
「社内のコミュニケーションを円滑にすること」も、より良い働く環境を整える要素だと考えているのですが、『De20プロジェクト』の1つに「なかまの強みの見える化プロジェクト」というのがあるんです。
ーーそのプロジェクトで「強み」の可視化を?
崔:そうです。
まずは、社員データベース『TALENTBASE』。 自分では強みだと思っていないことでも、開示すると強み、才能、つまりTALENTに生まれ変わります 。
DeNAの全従業員の顔写真と名前、所属部署などの情報が載ったメンバーリストのリニューアルを行ったのですが、これまでのメンバーリストでは「どんな人で、何が得意か」といった情報がわかりにくく、メンバーそれぞれの個性も表現できていなかったんですよね。
新メンバーリスト『TALENTBASE』では「自分はどんなことが強いのか」などの情報を加え、得意なことがわかるようにしています。
従業員は誰でも閲覧できるので『TALENTBASE』を見ることで「この人と組んでみよう」「この人に相談しよう」という新たなつながりも生まれているようです。
ーーメンバーリストを検索するのも楽しくなりそうですね。さまざまな人事施策を打ち出すには分析や仮説が必要かと思いますが、どのようにされているのでしょうか。
崔:従業員が現在の働き方についてどう思っているかを把握するため、月に1度 「仕事のやりがいや能力発揮具合」に関するアンケート を実施しています。
その結果を毎月モニタリングをすることで、働きがいの感じ方がどう推移しているのかを見ています。その結果をよりマネージャーが理解するために 「メンバーのやりがいモニタリングツール」も社内で開発 しました。
感謝の可視化に弱音を吐ける組織へ。挑戦は続く
ーー「やりがい」が可視化されるのはおもしろいですね。
崔:コミュニケーションの円滑化を目的とした施策としては、他に 「感謝の可視化」にも取組んでいます 。
『De20プロジェクト』の中に「社員同士のDelight・感謝を見える化するプロジェクト」というのがあり、β版として一部の部署で試験導入しています。
以前から「来客の際に飲み物を持ってきてくれてありがとう」「細かな対応をしてくれてありがとう」というように、メンバー間で感謝の気持ちを口頭やslackで伝え合う文化はありました。
しかし、感謝の気持ちってどこか照れくさかったり、伝えるタイミングとかも難しかったりしますよね。
もっと手軽に、そしてもっと楽しく感謝を伝え合えるようにしたいなと思い、専用アプリを使って手持ちの「デライトポイント」を感謝したい相手に付与できるような取り組みをはじめたんです。
ーー「感謝」の可視化! 試験導入した部署ではいかがでしたか?
崔:社内コミュニケーション活性化につながる傾向が見られているので、現在他部署への導入も準備・検討中ですね。
ーー強み・弱みを開示でき、感謝も可視化されれば「働く幸せ」は増えそうな気がします。
崔:そう信じています。
私は自身が現場でマネージャーをしていた際の体験から 「メンバーがやりがいをもって仕事をしている時に発揮される力は想像をはるかに超える」 と信じています。
そのやりがいという言葉をもう少し深く考えると、それは「幸せである状態」という考えに行き着きました。幸せとは、英語でいうところの「Happy」というよりは、 「Well-being」という人間としての生き方そのもの に関連するものです。
そういう働き方にたどり着く為に必要なのは、決して営業利益などの数字目標の達成ではなく、大きなビジョンに向かって自己成長していることや、仲間同士が感謝し合い、高め合うこと。時には、弱音を吐露し、支えあったりすること。
そうすることで、「働く幸せ」があふれ、世の中にデライトがにじみでる、と考えています。
ーーなるほど。人間らしさ、に関わる深い話です。
崔:「弱みを見せられる」組織に、という点では、これも『De20プロジェクト』の中で「弱音を吐ける組織風土づくりプロジェクト」があります。
このプロジェクトでは「チーム内の信頼関係を構築し個々人のパフォーマンスを最大化する」というゴールに向け、外部の組織カルチャーコンサルタントの方を招いたり、いろいろと事例を研究したりし、実組織において実践しようとしています。
もちろんプロ意識は大切。しかし、生きていればいろんなことがあります。時には落ちこむし、モチベーションが思うように上がらない時期だってあるはず。 何かに悩み、弱音を吐きたい気持ちになっている人を受け止めて、チームがもっと支えていければ、DeNAはもっと強い会社になる と思うんです。
ーーいまの自分の状態を認められ、なおかつ助けられたらパフォーマンスの向上につながりそうですね。
崔:もともと、DeNAには「デライトにまっすぐに向かうため」に掲げたDeNA Qualityや、個々人がプロフェッショナルとして「誰が言ったかより何を言ったか」を重視する思考の独立性、といったような 「DeNAらしい良い文化」 があります。
崔:DeNA Qualityに表れているような、個のプロフェッショナル性といった良さは当然のことながら、さらにDeNAを 個が支え合い、高め合う「プロフェッショナル集団」 にしていきたい。
周りから自分を認めてもらい助けられることは、先ほども言ったように中長期的な「働く幸せ」に繋がると考えています。
個人の能力を最大限に発揮できるよう、チームとして、さらに組織としてどうするか。人事として、次のステップを目指しています!
※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。
執筆:薗部 雄一 編集:榮田 佳織 撮影:杉本 晴
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