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なぜ亀田誠治氏はDeNAと手を組んだ? 音楽×ITでつくるフリーでボーダレスな『日比谷音楽祭』とは

2019.04.25

椎名林檎、平井堅、GLAY、スピッツ、山本彩など。錚々たるアーティストを手がけてきた音楽プロデューサーの亀田 誠治(かめだ せいじ)氏。

彼が今、DeNAと手がけている新しい“モノづくり”があります。

2019年6月1日(土)・2日(日)、東京・日比谷公園全体を使い、入場料無料で開催される『日比谷音楽祭

このミュージックフェスのスマホアプリ開発をDeNAが担当するため、異色のコラボが実現しました。

音楽とITが融合することによって、世代や格差を超え、社会課題を解決できるイノベーションは生まれるのかーー

亀田氏と対談するのはDeNAのCTO、nekokakこと小林 篤(こばやし あつし)。今回は対談前編をお届けします!

「ココでしか使えない」アプリをつくる

――亀田さん、今回『日比谷音楽祭』では、なぜDeNAと取り組むことになったのでしょうか?

音楽プロデューサー・ベーシスト 亀田 誠治(かめだ せいじ)氏
▲ 音楽プロデューサー・ベーシスト 亀田 誠治(かめだ せいじ)氏

亀田 誠治氏(以下、亀田):僕、 ITには幸せの価値観をアップデートできる力がある んじゃないかと思っているんです。

音楽がそれをできないわけではないけど、ITの方が具体的な推進力がある。

『日比谷音楽祭』では、 より多くの人に身近に音楽に触れてもらう仕組みづくりにITの力を借りたい なあと思っていました。

「会場で使えるスマホアプリをつくりたいんだよね」とnendoの佐藤オオキさんに相談したところ、DeNAさんを紹介してもらったという感じですね。

――そういう出会いだったんですね。『日比谷音楽祭』のアプリづくりは、どのように進められたのでしょうか?

小林 篤(以下、nekokak):とにかく亀田さんがまず「あれやりたい」「これやりたい」と言ってくる。

それを受けて僕は実現可能性を探る、といった感じです。初対面のときもすぐブレストになりましたもんね(笑)。

株式会社ディー・エヌ・エー執行役員 CTO 兼 システム本部本部長 小林 篤(こばやし あつし)@nekokak
▲株式会社ディー・エヌ・エー 常務執行役員 CTO 兼 システム本部本部長 小林 篤(こばやし あつし)@nekokak

亀田:僕はすぐ夢をぶっこんじゃいますからね(笑)。

ただコンセプトみたいなものは明解で、音楽祭のときに 「ココでしか使えない」機能を入れたい ということ。

誰でもいつでもシェアできるというIT全盛の時代に、 場所と時間を限定されるライブの価値が高まっている 。アプリもそうした機能を持たせたいな、と。

nekokak:アプリに基本機能として、日比谷野外音楽堂で開催されるメインコンサートのチケット機能やマップなどもついています。加えて音楽の「スタンプラリー」機能などを充実させました。

▲ 日比谷音楽祭のスマホアプリの画面イメージ
▲ 日比谷音楽祭のスマホアプリの画面イメージ

――スマホアプリでできる、音楽のスタンプラリーとは?

亀田:会場を歩き回って 「楽器の音」をスタンプラリーのように獲得できる仕組み をつくってもらったんです!

日比谷公園のあちこちに二次元バーコードを仕込んでおく。それで、位置情報とバーコードの読み取りを用いて参加者は1つずつ集めていく楽しみができるんですね。

nekokak:例えば木陰に近づくとドラムの音を拾えて、小音楽堂まで行くとフルートの音が拾える。さらに図書館に行くとギターが……といった具合。

そして 全てのスタンプポイントをまわるとアンサンブルになって、曲ができあがる仕組み です。

――すごい! 想像するだけでワクワクする仕掛けです。

亀田:そうでしょう(笑)。

しかも、 スタンプポイントで拾える1つ1つの音は僕がプロデュースして、日本屈指のミュージシャンに最高の音を録音 してもらっています。

子どもたちがそれをアプリで拾い集めながら「フルートってこんな音がするんだ!」「ドラムってかっこいいな!」と感じてもらえる。

――音楽との新しい出会いが生まれそうですね。

亀田:僕なんかは、音楽祭でスタンプラリーをした子どもたちが、帰りに親御さんに「楽器買って!」と駄々こねている画まで浮かんでいますよ(笑)。

世代やジャンルを超え、フリーで音楽を楽しんでほしい

――改めて『日比谷音楽祭』立ち上げの経緯はどんなものだったんでしょう?

亀田:2年前、日比谷公園から「日比谷公園全体を使った音楽祭をプロデュースしてもらえないか」とオファーを頂いたのがきっかけです。

二つ返事で快諾しました。

理由はいくつかあって、まず1つは、僕らミュージシャンにとって「日比谷公園」が特別な場所だったからですね。

――数々の伝説的なライブの舞台となった「日比谷公園大音楽堂」、通称「野音」のことですか?

亀田:そう。

よく言うのですが、武道館は演奏していると音が空から降ってくるような気持ちよさを感じます。

一方、 野音は逆で音が空に飛んでいく 、屋外でしか感じられない快感があるんですよね。

nekokak:ああ。それは気持ちよさそう!

音楽プロデューサー・ベーシスト 亀田 誠治(かめだ せいじ)氏

亀田:最高です(笑)。

まずあのステージの素晴らしさを演者も観客も含めて、次世代にできるだけ継承していきたいと思った。

加えて、音楽祭を通して 「日本の音楽文化をさらに押し広げるきっかけにしたい」 と考えたんです。

――「音楽文化を押し広げる」とは?

亀田:僕はニューヨークが大好きで、毎年のように夏に行くんですね。

その時期、6月から8月の間、ニューヨークの中心部にあるセントラルパークで「サマー・ステージ」という野外コンサートが開かれるんですが、これが素晴らしい!

ほぼ毎日、公園のそこかしこでライブが行われ、駆け出しのバンドやシンガーからエルヴィス・コステロといったビッグネームまでが出演するんです。

nekokak:ビッグネームのライブも無料なんですか?

亀田:ええ、ビッグネームも基本無料。有料の場合もフリーライブを維持するための資金集めだったり。

整理券をもらうためにニューヨーク市民が公園に集まっていて。

朝早くからそれが若いカップルやジョギング中のビジネスパーソン、犬を連れた老夫婦などの老若男女が、サンドイッチや折りたたみチェアを持ち寄って、ピクニックのように楽しんで並んでいるんですね。

身近に音楽を楽しめるニューヨークの懐の深さ、音楽の裾野の広さにいつも感動してますよ。

――日本はまだそこまで至っていないんでしょうか?

亀田:もちろん日本にはフジロックやサマソニなど素晴らしいフェスがありますよね。海外からも日本の音楽フェスは「世界最高水準だ」と絶賛されています。

けれど 「サマー・ステージ」ほどにフリーで、開かれた音楽の場はまだ日本にはありません 

特に今はユーザーの好みが多様化して、世代や好みを超えて音楽を楽しむという機会が生まれにくくなっています。

nekokak:我々の業界でいえば、ゲームが同じ状況ですね。

亀田:特定の音楽ジャンルなどにワクを絞って人を集め、ビジネスをまわすスタイルに偏っていますからね。

音楽の間にできた カベを取りはらい、誰しも自由に気軽に音楽とあらためて出会える場所を『日比谷音楽祭』で創りたかった んです。

日比谷音楽祭MAP
▲日比谷音楽祭の開催日は日比谷公園にいれば、誰でもフリーで音楽を楽しむことができる(https://www.hibiyamusicfes.jp/ より)

――『日比谷音楽祭』は「フリーで誰もが参加できる、ボーダレスな音楽祭」を謳っていますね。

亀田:そうなんです。

日比谷公園全体と隣接する日比谷ミッドタウンまでを含めて入場無料で楽しめる、 これまでにない音楽イベント としました。

石川さゆりさん、布袋寅泰さん、JUJUさんなど友人のアーティストはもちろん、クラシックや吹奏楽、和楽器など、世代とジャンルを超えて、ミュージシャンがプロ・アマ問わず参加してライブやワークショップを行います。

――あらゆる格差を超える、社会課題を解決する、というビジョンも掲げていますね。

亀田:日比谷音楽祭を通して 「格差やハードルをフリーにする」ということが狙いの1つ ですからね。

例えば、今回「ノーバリアゲームズ」という催しを日比谷音楽祭の中で企画しているのですが、パラリンピックの選手に来てもらって、障がいの有無や年齢も問わず参加者みんなでゲームをします。

小さな運動会のような。それをミュージシャンが演奏で応援したり。一緒にみんなでワイワイ楽しもうと。

nekokak:ミュージシャンの方が参加することで「自分もやってみたい!」という方が増えそうですね。

亀田:そうそう!

これまで貧困や災害、あるいは格差問題などの社会課題の解決にミュージシャンができる手段は「メッセージソングをつくり、寄付を集める」といった活動が主でした。

けれど、 もっと踏み込んでできることがあるんじゃないかな という思いがあったんですね。それを日比谷音楽祭という場で形にしたい。

株式会社ディー・エヌ・エー執行役員 CTO 兼 システム本部本部長 小林 篤(こばやし あつし)@nekokak

nekokak:我々 DeNAも「ITで社会の課題を解決すること」がミッションの1つ にあるんですね。

ITは何かと何かをつなげて新しい価値を生み出す力がある。現に私たちがオートモーティブやAI創薬事業に踏み出しているのも、そうした想いからです。

亀田:僕はね、 音楽には「なだらかにいろんなものをつなげる」力がある と感じています。

イノベーションはそうした違うものの組み合わせで生まれるものじゃないですか。音楽って、リズムでもハーモニーでも、少しずれると気持ちわるいでしょ?

――そうですね。合わせてほしくなりますね。

亀田: 音楽の本質って「調和」 にあるってことなんですよ。

音楽そのものにインクルージョンする力がある。僕はその力を信じています。日比谷音楽祭は音楽の力で、よりよい未来をつくっていく1つのきっかけにしたいですね。

直接会わないと想いは伝わらない

――『日比谷音楽祭』の実現にあたっては、亀田さんが直接交渉されたそうですね。

亀田:企業の協賛を募る部分は、ほぼ僕が直接交渉しました。

行政からの助成金、企業からの協賛金、そしてクラウドファンディングの3本立てで運営資金を集めているんです。

――亀田さんが直接交渉のテーブルにつく……というのがすごいですよね。

亀田:もともと 僕のモノづくりのスタイルは現場主義 なんですよ。

――ミュージシャンのプロデュースでは作曲や録音の前のミーティングなど「プリプロダクション」にこそ時間をかけるそうですね。

亀田:そう。

僕は常に5組くらいのプロデュースを手がけていて、今日もこの対談のあと、3組のレコーディングがあるんですが(笑)。

――今日この後、3組もレコーディングが……!?

亀田:はい(笑)。

最初の打ち合わせこそ濃密にするし、現場には必ず僕が直接行くようにしているんです。不思議なもので、現場に立ち会ってはじめて僕の音になるんですよね。

nekokak:ものすごく共感します。

僕らも渋谷のIT企業で協働して日本のモノづくりの底上げをめざす『BIT VALLEY』プロジェクトを始めたんです。

多彩なプレイヤーが集うこういう企画は誰かに渡して「あとはよろしく」ではうまく巻き込めない。

亀田:わかる~(笑)。

亀田誠治×nekokak対談

nekokak:そもそも 「今まで誰もやっていないことをやる」という新しい取り組みだから、理解されづらいし信用もしづらい のかなと。

――『日比谷音楽祭』にしろ『BIT VALLEY』にしろ、先例やデータがない試み。なおさら「どれだけ本気で熱量をもっているか」を直接会って伝えることは大切なのかもしれないですね。

亀田: 熱量を持っている人が直接伝えることは本当に大事 ですよ。

全ての企業や団体の皆さんに、僕が直接「この音楽祭で目指すこと」「多様性の話」「音楽を取り巻く現状」「セントラルパークの光景」などを含めてお話ししたら、段々と賛同していただく方が増えていきました。

nekokak:僕もプロジェクトを進めるときには、必ず直接会って「こういうビジョンでこんな未来を思い描いている」と話しています。そうすると 共感される確率がとても高まる 気がしますね。

<後編>はこちら。

【話者プロフィール】

音楽プロデューサー・ベーシスト

亀田 誠治(かめだ せいじ)

数多くのアーティストプロデュース、アレンジを手がける。2004年に椎名林檎らと東京事変を結成、2012年解散。2007年第49回、2015年第57回の日本レコード大賞では編曲賞を受賞。近年は自身が校長となり、J-POPの魅力をその構造とともに解説する音楽教養番組『亀田音楽専門学校(NHK Eテレ)』シリーズも大きな反響。2019年元旦に放送されたEテレ特番『Eうた ココロの大冒険』では音楽監督を担当。

株式会社ディー・エヌ・エー 常務執行役員 兼 CTO システム本部 本部長

小林 篤(こばやし あつし)@nekokak

法学部法律学科からエンジニアへ転身し、2011年にDeNAに入社。Mobageおよび協業プラットフォームの大規模システム開発、オートモーティブ事業本部の開発責任者を歴任。2018年より執行役員としてDeNAのエンジニアリングの統括を務め、2019年より常務執行役員 CTOとしてより経営レベルでの意思決定に関わることと、技術・モノづくりの強化を担う。

※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。

執筆: 箱田 高樹  編集:榮田 佳織・栗原 ひろみ 撮影:小堀 将生

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