学生起業からDeNAへ、大企業から起業へ。逆向きに歩いた二人の「組み方」の話
2026.10.23


「いま、シリコンバレーで何が流行っていますか?」
2013年に渡米して以来、シリコンバレーで起業と投資を続けてきたKiyoさんは、この質問を年に数百回受けるといいます。答えはいつも同じ。「たくさんあります。どの領域の話ですか?」。アメリカでは、どの市場でも新しい技術とトレンドが次々と生まれているからです。
では、数ある領域の中から、どこを選べばいいのか。「いま、ゼロから事業を作るなら」をテーマに開かれたトークセッションで、Kiyoさんは自身の判断の型を示しながら、その問いに答えました。会場に集まったのは、起業家やスタートアップの創業者、VC、新規事業の担当者の方々です。本記事では、その内容を「事業領域の選び方」として再構成してお届けします。
※本記事は、2026年10月5日にDeNAが開催した「DeNA FOUNDERS LOUNGE vol.1」のトークセッションの内容を、編集部が再構成したものです。
【登壇者】
Kiyo(小林 清剛)さん:イノベーション事業本部 本部長
2009年にモバイル広告ネットワークのノボットを創業し、2011年にKDDIグループへ売却。2013年から米国へ拠点を移し、シリコンバレーで12年以上にわたり起業・投資に取り組む。AIグローバル採用プラットフォーム「Noxx」を運営するKnot, Inc. を創業し、2026年4月にDeNAグループへ参画。現在はDeNAの新規事業の0→1を担う。
住吉 政一郎さん:グロース事業本部 本部長/株式会社DeNA AI Link 代表取締役
2012年DeNA入社。ゲームのサーバーエンジニア、プロデューサーを経て、コミュニティマネジメント組織を立ち上げ。PocochaやIRIAMなどのライブコミュニティ事業を率いた後、AIイノベーション事業本部 本部長を経て現職。生まれた事業を見極めて育てるPick/Growth、出資先の事業支援を担う。
目次
セッションの冒頭、Kiyoさんはこう切り出しました。
Kiyo(小林 清剛)(以下、Kiyo):「事業がうまくいくかどうかは、7〜8割が市場と事業の選定で決まると思っています。創業者やチームの力でももちろん変わります。でも、土台になるのは、どの市場で何をやるかです」
投資の現場に立つ住吉さんも、この見方に同意します。
住吉 政一郎(以下、住吉):「チームが優秀かどうかは、もちろん大事です。ただ、ふたを開けてみると、うまくいったかどうかは市場の流れでかなり決まっている。そんな実感があります」
ユニコーンを目指すのか。売上数億円規模の事業をつくりたいのか。IPOを目指すのか。目的が違えば、選ぶべき市場もまったく変わります。大企業の新規事業なら、既存事業との連携や「この分野には手を出せない」といった制約も関わってきます。
Kiyo:「起業家なら答えは自分の中に、大企業なら会社の戦略の中にあります。Whyこそが、市場と事業を選ぶときの一番大きな枠になる。ところが、ここを決めないまま市場を選んでいる人が意外と多いんです」
領域によって難しさに差があることも、自覚しておく必要があります。例えば教育は、お金を払う人や払える金額が限られやすく、事業として成り立たせる難しさがある領域の一つです。
Kiyo:「挑むのがダメなわけではありません。ただ、難しい領域を選ぶのだという覚悟を持って選ぶことが大事です」
Kiyoさんが最初に挙げたのは、トレンドの捉え方です。
Kiyo:「僕はトレンドを『予測できる未来』だと考えています。例えば、技術の変化、人口の変化、規制の変化です」
例えば、技術ならAI、自動運転、ゲノム編集。人口なら日本の高齢化やインバウンド。規制なら、医療分野のオンライン診療など。こうした変化をまず書き出し、これまでの推移とこれからの見通しを時間軸で並べてみる。今はAIを使えば、一覧づくりもファクトチェックも手軽にできます。
時間軸で見るのは、トレンドでは「タイミング」が決定的に重要だからです。Kiyoさん自身、過去に手がけたWeb3・ブロックチェーンの事業は「少し早すぎた」と振り返ります。
わかりやすい例が、無人トラックです。ある企業は現在35台を実際に走らせる一方、他のある企業では2030年までに3万台という構想を発表しています。
Kiyo:「これを知るだけで、頭の中にタイムラインが引けますよね。いつか来るものが、いつ来るのか。そこを読むのが大事なんです」
住吉さんはこう補足します。
住吉:「トレンドという追い風を受けているかどうか。そこを考えないと、どれだけ頑張っても、そもそも土壌が整っていないということが起きてしまいます」
同じトレンドでも、いまどの段階にあるかによって、勝てるプロダクトは変わります。
例えば、AIは、生成AIからAIエージェントへと進み、さらにフィジカルAIが注目を集めています。自動運転にもレベルがあります。シリコンバレーのアクセラレーター「Y Combinator」で発表されるスタートアップの中身も、2〜3年前と今とではまったく違うといいます。
Kiyo:「AIの段階によって、プロダクトそのものが変わっているんです。だから、2年前に同じことをやっていた会社が、技術が古かったために今始めた会社に負けることもある」
最近増えているのが、業界の業務をまるごとAIで担う「無人の代理店」のようなスタートアップです。少し前までは「業務の一部を自動化する」発想でしたが、AIの性能が上がったことで「最初から全部をAIでやる」発想に変わってきています。
では、トレンドの段階はどうすれば見極められるのか。住吉さんの問いに、Kiyoさんは明快に答えました。
住吉:「実際に手を動かして検証しないと、わからない部分もあるのではないでしょうか」
Kiyo:「自分がユーザーとして試すか、ユーザーや顧客に話を聞くか、自分たちでプロダクトを作ってみるなどなど。表面的な情報だけではわからないと思います」
もう一つの手がかりが「お金の流れ」です。AIのモデル開発企業に巨額の資金が集まると、その学習を支えるデータの会社にもお金が流れ込み、大きく成長する。同じ構造は、フィジカルAIでも生まれるはずだと見ています。
Kiyo:「伸びている市場には、必ずVCが大きなお金を入れます。そのお金が人材以外の何に使われているのか。それを見るのは大事な視点です」
Kiyoさんが「好きなテーマ」として紹介したのが、トレンドの螺旋です。
Googleが初めてスマートグラスを発表してから、10年以上が経ちました。そして今、大手各社から再び高性能な製品が出てきています。トレンドは数年から10年ほどの周期で、用途や形を変えながら戻ってくるのです。
Kiyo:「だいたい、前の波に乗ったスタートアップが資金切れで消えたころに次の波が来るんです。みんないなくなってしまうけれど、そこに残り続けることが大事。そうすれば次の波に乗れます」
クリプトも同じです。何度かのサイクルを繰り返したあと、今はステーブルコインが既存の企業の中に入り込み始めています。結局、その分野に長くいた人が強くなりました。
注目すべきは、スマートグラスでしかできない体験です。カメラも音声も位置情報などを活用して、スマートグラスなら、ユーザーが何も操作しなくても、自動的に情報を取れる。iPhoneの初期、ジャイロのような「iPhoneならでは」の機能を生かしたアプリが一気に伸びました。同じことがスマートグラスでも起きるかもしれません。
ヘッドマウントディスプレイも、Kiyoさんが「また必ず盛り上がる分野」だと見ている領域です。
例えば、野球や格闘技、F1の最前列の席。高額なうえ、お金を出しても簡単には買えません。その視点で観戦できるなら、お金を払う人は世界中にいるはずです。
住吉さんも、この分野の波を待つ一人です。発売直後に購入し、カメラと組み合わせてさまざまに試したものの、「まだ無理だ」と感じて手放した経験があります。それでも今、次の波を心待ちにしています。
住吉:「重さはどのくらいか、バッテリーはどのくらい持つか、動画を撮ると熱くなる。そんな生々しい試行錯誤は、今しか体験できません。5年後には、みんな完成品を当たり前に使っているはずです。だからこそ、触りながら『そろそろ来そうだ』という感覚を持つことが大事だと思っています」
広告、マッチング、EC。ガラケー、スマホ、AIと、新しい技術が登場するたびに、形を変えて何度も現れるテーマがあります。
Kiyo:「こうしたテーマを頭の中にいくつか置いておく。そのうえで新しい技術やスタートアップを見ていくと、アイデアが思いつきやすくなります」
住吉さんは、AIならではの特徴として、こうした変化が複数の領域で同時に起きている点を挙げました。コンテンツの生成、その届け方、プラットフォームの開発コストの低下。これらが重なり合い、さまざまなプレイヤーが生まれているのです。
ここまでの4つの視点を踏まえて、Kiyoさんはこう勧めます。
Kiyo:「自分なりの領域選定のパターンを持っておくといいと思います」
事業のリスクは、大きく3つに分けられます。本当にプロダクトをつくれるかという「技術リスク」、市場が本当に来るかという「市場リスク」、どう売るかという「GTM(Go To Market)リスク」です。どの事業も、このうちどれかを大きく取る必要があります。
中でもKiyoさんが重視するのが、市場リスクの取り方です。
Kiyo:「その市場が来るかどうか、半分の人は賛成して、半分の人は反対する。それくらいのものに張るとちょうどいいと思っています。そうすると、それを信じる人が集まってくるし、信じる投資家が出資してくれる」
何年先まで張るのかという「時間軸」も欠かせません。1年しか頑張れない人もいれば、10年頑張れる人もいます。さらに、ユーザーやお客さんについての仮説だけでなく、市場やトレンドそのものについても複数のシナリオを用意する。そして「このシナリオになったら撤退する」ことを、チームや投資家とあらかじめ共有しておくべきだといいます。
では、スタートアップならではの強みはどこにあるのか。挙げられたのは、スタートアップだからこそ取れるリスクがあること、意思決定が速いこと、最新のツールや手段をすぐに使えることの3つです。加えて、ユーザーが増えるほど価値が増す市場では、先に取った方が強くなります。
話は日本とアメリカの違いにも及びました。Kiyoさんの見立てでは、多くの領域で、日米の間には市場の成熟に時間差があります。そのため、企業向けの事業は、アメリカで先行するものを日本にそのまま持ち込んでも、すぐには受け入れられないことがある。一方、消費者向けのサービスなら、日本から世界へという道もありうるといいます。
Kiyo:「日本は大企業との接点を持ちやすく、営業もしやすい。大企業向けに大きな事業をつくるのは、アメリカより日本の方が難しくないと思います」
後半の質疑応答では、学生起業の最初の一歩、大企業とスタートアップそれぞれの戦い方、AIに置き換わりやすい仕事とそうでない仕事など、参加者の問いをもとに、さらに踏み込んだ意見交換が行われました。
DeNAは今後も、起業家や新規事業の担当者が集まる「DeNA FOUNDERS LOUNGE」を継続的に開催していきます。次回は11月17日、中国やグローバル市場でのものづくりをテーマに開催します。詳細はこちら。
DeNAが進める、挑戦する人を後押しする取り組み「DeNA Startup Loop」についての詳細はこちら。
本イベントの動画はこちらでご覧いただけます。
※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。
編集:フルスイング編集部
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