事業・サービス

学生起業からDeNAへ、大企業から起業へ。逆向きに歩いた二人の「組み方」の話

大企業とスタートアップの共創、と言うのは簡単です。ただ、片方は年間の予算を数十億、数百億の単位で動かし、もう片方は事業のすべてを一つに賭けている。持っているものも、失うものも違う。この二者はどこで噛み合うのでしょうか。

今回話を聞いた二人は、互いに、相手が通ってきた道を歩いてきた二人です。DeNAのライブコミュニケーションアプリ「Pococha」プロデューサーの水田大輔さんは、学生時代に起業し、自分の会社の事業をDeNAへ譲渡して、自身もDeNAに移りました。推し活AIアプリ「OSHIAI」を運営するOSHIAI株式会社代表取締役の嵐亮太さんは、新卒で大企業に入り、スタートアップに転職したのち、自ら起業しています。

2026年5月、PocochaのライバーのデータとOSHIAIのプラットフォームを連携する取り組みが発表されました。両サービスが見据える「エンタメ×AI」の可能性について語り合った対談前編に続いて、今回は大企業とスタートアップの共創のあり方について聞きました。

「スタートアップやってた頃、しんどかったんですよ」

── お二人とも起業の経験がありますが、もし今新たな動きをするなら、どんなことを考えますか。あくまで仮の話としてお聞きします。

水田 大輔(以下、水田): うまく編集してくださいね(笑) あの……スタートアップやってた頃、しんどかったんですよ。当時はがむしゃらでしたけど、今振り返ると、やっぱりつらかったなって。

大企業はがんじがらめだとか、新しいことやるにも枷があるとか、そういう見方はあると思うんですね。その側面はなくはないと感じますけれど、それって一側面でしかないんです。そういった制約を差し引いても、大企業のバジェットは魅力でしかない。

僕がやっていたスタートアップは、バリュエーションが低かったんですよね。10年以上前ですが、特にtoCサービスはどこも厳しかった。嵐さん、toC事業でスタートアップなんて、よくやりますよね。

水田 大輔(みずた だいすけ)/株式会社ディー・エヌ・エー ライブコミュニティ事業本部Pococha事業部 事業部長/Pococha プロデューサー。学生時代に起業し、株式会社REVENTIVEを創業。SNSサービス『Dear』を2016年にDeNAへ事業譲渡し、自身もDeNAへ。入社の翌月にライブコミュニケーションアプリ『Pococha』を立ち上げた。

嵐 亮太(以下、嵐): 本当にたまにですけど、電車の中とかでふと思うんです。「なんで、今おれはこの枷を持った挑戦をしてるんだろう」って。

水田: めちゃくちゃわかります。当時の僕は「この世にないものをつくろうとしてるのに、なんで評価されないんだ!」って。10年以上前ですが、BtoBのSaaSは「○○テック」とかっていうだけで、すごいバリュエーションがついたりしてるのに。これ、ただのひがみですよ。

嵐: 僕らの場合、調達についてはデライト・ベンチャーズをはじめ、比較的スムーズにいっている方だと思います。でも振り返ると、調達ラウンドの時期は、僕の事業側の動きはけっこう止まってるんですよね。そこはスタートアップやっていて難しいところです。

水田: マジでそうですよね。僕はめっちゃ苦労したみたいに言いましたけど、MIXIとDeNAのスタートアップ投資1号案件だったので、結構うまいことやっていた方です。それでも、結局ファイナンスの動きを始めると、半年ぐらいはプロダクトへの関与は停滞する。

嵐: はい。ほんと苦しいですよね。

水田: スタートアップで毎年100億円調達とかって、少なくとも日本ではありえないじゃないですか。でも、今のPocochaって年間売上は300億円以上あって、それなりに予算もかけられる。

だから、今会社を辞めてスタートアップで自由にやっていいとしても、またあの頃みたいにファイナンスに奔走するのは考えたくない。今より予算が10分の1になったとして、その分、たとえばコンプライアンスが10倍緩くなるわけじゃない。今だって別に10倍の制約や枷を感じていませんし。

それと、お金の問題がなかったとしても、スタートアップでいい人を採るのは大変でした。

嵐: スタートアップの知名度や信用度、資金力だと、採用は難しいですね。大企業とは張り合えない。

水田: 事業を大きくして、数百人規模で組織をつくろうと思ったら、やっぱり大企業のほうが採用は強いなって思います。お金と人の問題は大きいので、トータルで考えた時に、新しいことを始めるにしても、DeNAを出て起業するという動機はあまりない。一山当てたいみたいな野心があれば、自分で株式80%持って3年でイグジットとかはいいかもしれないけど。

嵐: 水田さんはスタートアップが先で、DeNAに入ったじゃないですか。僕は大企業からスタートして、スタートアップへ転職後に起業したので、逆の動き。だから、感じ方が違うところもあります。

嵐 亮太(あらし りょうた)/OSHIAI株式会社 代表取締役。2016年新卒で株式会社リクルートマーケティングパートナーズへ入社。2018年にSHOWROOM株式会社に転職し、同社の営業やIPプロデュース業務に携わる。 2020年10月から新規事業であるバーティカルシアターアプリ「smash.」の事業責任者に就任し有名アーティストとのタイアップなど牽引。 2024年より日本発で世界一のエンタメアプリを作るべくOSHIAI株式会社を創業し、ビジネス開発をリードする。

嵐: 今は創業者としてスタートアップやっているので、ファイナンスは確かに大変です。でも、思い切ったトライがやりやすいというのはありますね。前職もスタートアップ勤務でしたが、全く不満はなかったです。超忙しかったのはありますが、その分やりたいことをやらせてもらっていました。大企業にいた時よりもかなり自由に。

大企業は予算の規模も大きいですけど、新規事業だとしてもKPIの大きさや考え方ってしっかり大企業そのままだったりします。市場の変化が大きい中では、スタートアップの方がスピード感や事業のピボットのしやすさがあって、それってすごく魅力だなと感じています。

だからこそ、スタートアップやるならtoCサービスだと思っています。世の中にないものを生み出すぐらいのことをするなら、大企業よりもスタートアップでやった方が絶対にいい。大企業の中でやる新規事業だと、事業のKPIとは別のところで、企業全体のKPIも追わなきゃいけないじゃないですか。

水田: それはありますね。プロダクトでやりたいことが鈍るというか、ブレるというか。

嵐: そういうのがなく、全振りで事業を伸ばすことにコミットできるっていうのは、スタートアップの醍醐味だって思いますね。

水田: 確かに、それはそうですね。

「わけわかんないですけど、熱いっすね」

──大企業とスタートアップの組み方について、コツや難しさはありますか。

水田: 新卒からずっと大企業で働いてる人にとって、スタートアップの生態ってわかりづらいですよね。僕が見てきた範囲だと、スタートアップに対して、ちょっと引いてる、下に見てる、逆にコンプレックスを感じている……とか。あまり絡みたくない相手なんじゃないかなと。

僕は学生の頃からずっとスタートアップをやってきたので、スタートアップってわけのわからないことでも、何かやってくれる可能性がある人たちという印象がある。わけわかんないものを大企業に相談しに行ったら、「わけわかんないですね」って言われてしまう。でも、スタートアップの人と話すと、「わけわかんないですけど、熱いっすね。匂いますね」みたいな。

それって、世の中にないものをつくろうっていうスタートアップの良さだと思います。だから、いま大企業側にいる身としては、面白いこと、新しいことをやるなら、スタートアップと一緒に組みたいって感覚があります。

嵐: それがtoCスタートアップの面白さですよね。

水田: 逆に大企業の新規事業だと、そこが難しいときがあるんですよね。半年ぐらいやって伸びなかった時に、あっさり辞めたりして。折れているのはKPIなのに、心が先に折れてしまう。

でも、スタートアップって、ただでは死なせてもらえない呪いが刻まれているじゃないですか。VCから「うまくいってないなら、受託開発で頑張れよ」みたいなことって普通にある世界。全身全霊でコミットしてくれるのは、その領域に賭けているスタートアップしかない。覚悟が決まっている人たちへの信頼が、僕の中にはあります。今回、OSHIAIと取り組んでいるのも、そういう思いです。

嵐: 逆にスタートアップ側からすると、そう言ってくださる相手としか組めないんだと思います。僕らは人の数も時間も限られている中で、「御社とご一緒に何かやりましょう」ってなったら、僕らの半身はそっちに行くわけですよ。

それくらいの本気度で向き合ってくれるところとしか、うまくできないと思います。

嵐: 幸いなことに、いろんな事業会社さんからお声がけしてもらうんですが、なかなか先に進まないことも多いんです。こちらから知見や情報を伝えて、それでおしまい。いろいろなデモのキャラクターをつくって渡したら、そこで話が終わるとか。

水田: いや、それはふざけんなって話ですよね。AIで簡単につくれると思われてるんだろうな。「どうせAIでちょちょっとつくれるんでしょ」みたいな。

嵐: でも、これって珍しい話じゃないんです。NDAを結んで動き出しても、どういう時間軸で、何をどうしていきたいのかが決まらないまま進むことって、けっこうあります。初回の話し合いから数ヶ月経っても、まだペライチの構想図しかないとか。

そういう意味だと、今回のPocochaとの連携は目指すところが明確でした。これが必要ってなったら、究極的にはOSHIAIのサービス領域じゃないところでも、「これはこうやってできます」みたいな率直な話ができる。

組むこと自体が目的じゃないので、自分たちで価値を証明していかないと、協業先との関係は続かないと思っています。だから、目指す方向性のところから密に議論させてもらえているのは、すごく助かっています。

互いに、相手の知らない世界を持っていた

嵐: 僕らスタートアップの視点からだと、大企業側が考えている部分が見えづらかったりします。そこのところ、今この場にもいらっしゃいますが、Pococha側の担当の蛭田さんは丁寧にコミュニケーションしてくれました。僕らはここに貢献すればいいんだなっていうのが分かるから、本当にやりやすかった。

それと、今回DeNAと一緒に取り組んでいて驚いたのは、事業のスピード感と柔軟さです。壁にぶつかった時には、どうやってやれるようにするかっていう形で動いてくださるので、すごくありがたかったです。

水田: それは蛭田くんだからだよ。

嵐: はい、蛭田さんの目を見ながら言いました(笑) でも、蛭田さんだけじゃなく、法務の方とか他の方と話していても、基本そういうふうに話を進めてくださるので、それはDeNAのカルチャーなのかなって。

それと、蛭田さんはすごく距離が近いというか、フットワークが軽い。打ち合わせ以外でも飲みに行ったりして話していますし、こないだは夏フェスをご案内させてもらいました。

── 蛭田さんはDeNAの新卒ですが、スタートアップ的なカルチャーのPocochaで長い間やってきているからでしょうか。今回のプロジェクトをリードした立場として、どういう思いで進めてきたんですか。

蛭田 龍之介(以下、蛭田): Pocochaは、アイドルやアーティストのような有名な人ではない、一般の人、普通の人たち向けのライブ配信をずっとやってきました。Pocochaはもうすぐ10周年を迎えますが、これからもっと広げていくための1つのアプローチとして、ファンコミュニティが強いアイドルとかの領域にも取り組んでいきたいと思っています。

僕らは、ライバーという新しい仕事を生み出そうという思いが強かったので、「まだ誰でもない人」側の解像度は持っている。でも、アイドルのように、すでにファンがたくさんいる人たちの世界については、全く分からなかったんです。

嵐さんをはじめ、OSHIAIはその領域にすごく知見があり、ネットワークもアセットも持たれています。一方で、OSHIAIはライバーのような新しいクリエイターの領域にもプロダクトを広げていこうとされていました。だから、今回の提携のプロジェクトでは、最初から相互補完的にやっていこうという考えが一致していたので、スムーズに動けたのかなと思います。

嵐: アイドルやアーティスト側の領域の知見とかバックボーンは僕らの強みですが、ライブ配信やソーシャルなコミュニティの領域では、Pocochaは圧倒的な知見とシェアを持っています。それに、ライブ配信は毎日行われているので、プロダクト同士が機能連携することで公認AIの本人性を高めていくには、理想的な協業先になると思っていました。

だから、話し合いの進め方としては、お互いがフラットに意見を出し合うことができました。「僕らはこれを提供できます」「うちはこれが得意です」みたいな感じで、共創していく議論がベースでしたね。

水田: PocochaとOSHIAIは、ライバーとアイドルという近い領域でもあるし、双方の得意を生かした知見の交換が可能ですよね。

蛭田: そうですね。僕らの目的はPocochaのユーザーを広げることで、そのためにはどんなことができるのかという仮説検証をとにかく早くトライしていきたかった。以前にもスタートアップと連携する機会があって、「同じようなスピードでないと一緒に走れない」ということは感じていました。クリエイターエコノミーという同じ領域というだけでなく、スタートアップのスピード感という意味でも、OSHIAIはぴったりな組み先だと思っています。

蛭田 龍之介(ひるた りゅうのすけ)/株式会社ディー・エヌ・エー ライブコミュニティ事業本部Pococha事業部ビジネスプロデュース部 部長。2018年にDeNAに新卒入社。アプリ「マンガボックス」のPdMを担当した後、2020年からPococha事業部へ異動。今回のOSHIAIとの連携プロジェクトの責任者。

お金以外に、何を期待するか

──スタートアップからすると、出資先や協業先に期待したいものって何でしょうか。

嵐: やっぱり、知見の交換、目的の共有、スピード感の一致とかは大事ですね。今回のPocochaとの共創の形はかなり理想的で、OSHIAIにとってもプロダクトを伸ばしていく上で重要な機会ですし、この連携で取り組めたことが強い武器にもなる。単発のコンテンツをつくるような企画じゃなくて、システムレベルの連携なので、「公認AIにどうやって本人性を持たせるか」という僕らのプロダクトの命題に直結したプロジェクトです。

もし、加えて願いを言えるなら一つあって。DeNAの出資先のカウシェさんの場合、DeNAから何人もメンバーが入っていますよね。そういった人材の交流もできたら嬉しいな、ありがたいなって思っています。

水田: カウシェさんへの出向もそうですけど、社内の新規事業部署に異動するメンバーって、もともとPocochaにいたメンバーが多いんですよ。なにしろ、Pococha事業部のビジネスとエンジニアのツートップも新規事業部署に移っていますから。人材輩出事業と言えば聞こえがいいですけど、ちょっと複雑な気持ちです(笑)

嵐: そしたら、Pococha出身メンバーがOSHIAIにもやってくるなんてことも期待したいですね。

水田: それなら全然ウェルカムです。これからも一緒にやっていきましょう!


大企業とスタートアップは、持っているものが最初から違います。片方には予算と採用力があり、片方には事業のすべてを一つに賭けられる身軽さがある。だから、何を出して何を任せるかを決めることが、そのまま組み方になります。三人が繰り返し話していたのは、そこを最初に揃えられるかどうかでした。

スタートアップからDeNAに移った水田さんと、大企業からスタートアップを立ち上げた嵐さん。真逆の歩みを進んだ二人がつくったPocochaとOSHIAIが、いま手を組んでいる。その横では、Pocochaにいたメンバーが新規事業や出資先へ移っていく。DeNAが「Delight創造エコシステム」と呼んでいるのは、事業を生み、育てる循環を、自社の中だけで閉じないこと。そして、事業をつくる意志を持った人たちの自由な行き来のことなのかもしれません。

※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。

執筆・編集:村田 喜直 撮影:内田 麻美

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