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成功確率10%でも「フルスイング」できるか。シリコンバレー起業家が語る、挑戦と失敗の流儀

「能力の差ではない。ルールの違いだ」

お金も、コネも、語学力もない状態で単身渡米し、幾度の事業失敗と再起を経て、世界的な投資家から資金調達を果たすまでに至った2人の起業家がいます。Anyplace CEOの内藤聡さんと、Retreat Technologies CEOの山田俊輔さんです。

第一線で活躍している2人が明かしたのは、順風満帆な成功美談ではなく、泥臭い挑戦の果てに見出した「世界でフルスイングするための思考法」でした。なぜ、彼らは過酷な環境下でも大きなリスクを取り続けられるのか。

浮かび上がってきたのは、個人の能力差ではなく「どのルールで戦っているか」の違いでした。自分はどこで、どのルールのもとで打席に立つのか。そして、次なる飛躍のための「発射台」をどう創るのか。

その熱い議論が繰り広げられたのが、DeNA社員向けに開催されたセミナー「DeNA Launchpad Lunch」です。ファシリテーターを務めたのは、2人と親交の深い小林清剛(以下、Kiyo)さん※。代表取締役社長兼 CEO 南場智子もサプライズ登壇した本セミナーのハイライトと、2人への追加インタビューから、世界で戦うための思考と挑戦のリアルに迫ります。

※小林 清剛(Kiyo):DeNA イノベーション事業本部 本部長 / Noxx CEO。ノボット創業・売却を経て渡米し、シリコンバレーで連続起業家・投資家として活動。2026年4月にDeNAグループへ参画。
 Kiyoさんの渡米経緯や起業ストーリーはこちら(フルスイング過去記事)

なぜシリコンバレーだったのか

内藤 聡さん    Anyplace CEO Anyplace CEO。著書に『シリコンバレーによろしく』がある。大学卒業後に単身渡米し、シリコンバレーで起業。最初の事業の失敗を経験した後、リモートワーカー向け住宅プラットフォーム「Anyplace」を創業。Jason Calacanis氏、YouTube共同創業者Steve Chen氏らから出資を受け、事業を全米へ拡大。2018年にはForbes JAPAN 30 UNDER 30に選出された。現在もシリコンバレーを拠点に、日本人起業家として世界市場へ挑戦を続けている。

学生時代、映画『ソーシャル・ネットワーク』を観て大きな衝撃を受けたという内藤さん。「同世代の学生たちが世界にインパクトを与えているシリコンバレーに行きたい」と一念発起して渡米しました。ちょうどその頃、前職の会社を売却したKiyoさんが現地に滞在していたことも、大きな後押しになったと振り返ります。

山田 俊輔さん Retreat Technologies CEO。2020年にRemotehourを創業。WebRTC領域のプロダクトを開発し、同年にPioneerやLAUNCHといったシリコンバレーのアクセラレーターを卒業し、Jason Calacanis氏らから出資を受ける。現在は事業をピボットし、リモートチーム向けのオフサイト事業を米国メインで展開している。顧客層はシリーズAのスタートアップからNYSE(ニューヨーク証券取引所)上場企業まで幅広い。

一方、山田さんは新卒で入社したソフトバンクを1年で退職し、「テックの中心地」を求めて渡米。内藤さんが運営するシェアハウス「テックハウス」に入居し、起業家として活動する内藤さんの姿勢が「挑戦の第一歩」を後押ししたといいます。当時流行していたAirbnbやUberを実際に利用し、「知らない人の家に泊まる」「知らない人の車に乗る」といった、日常を一変させるサービスにも強い衝撃を受けました。

日米のスタートアップ環境の違い――「ルール」が生む差

日米のスタートアップ環境の違いについて、内藤さんが強調したのは、起業家の「能力の差」ではなく「ルールの違い」でした。ここで言うルールとは、「何を狙いにいくか」という価値観のこと。

シリコンバレーは、一部の企業が桁違いの成果を生み出す「パワーロー(べき乗法則)の世界」。VCは、100社に投資したうち1社が大成功すれば、残りの99社が失敗しても成り立つという考え方のもと、起業家に大きな挑戦を促します。一方、日本には社会全体で手堅いリターンを追求する文化が比較的根付いており、起業家が思い切ってフルスイングしにくい側面があります。SpaceXの創業時、イーロン・マスク自身も成功確率を10%以下と見積もっていたというエピソードを挙げ、「大きな成果を狙うなら、大きなリスクを取る必要がある」と語りました。

山田さんが着目したのは、アメリカの多様な人口構成と、市民が新しいサービスをまず受け入れ、社会の中で育てていくカルチャーです。UberやAirbnbも、当初から既存の法制度に収まっていたわけではなく、ロビー活動などを通じて法制度を動かし、社会に根づいていったと解説しました。

逆境の中でも挑み続ける理由 

ディスカッションの中盤、Kiyoさんが二人に投げかけたのは、「なぜ、過酷な状況でも挑戦を続けられるのか」という問いでした。

内藤さんは、渡米直後の2年間を「闇の時期」と表現。その苦しい時期を乗り越える支えになったのが、Kiyoさんから「なぜ起業するのか」「なぜアメリカにいるのか」と繰り返し問われた経験でした。志(大義)を持つことの重要さに気づいたと言います。

さらに、内村鑑三氏の著書『後世への最大遺物』の教えや、毎年開催している「志の会」で、自身の志を見つめ直していることにも触れました。

一方、山田さんが挑戦を続ける上で大きな支えになっているのは、同じように挑戦を止めない仲間の存在です。周囲にそうした仲間がいることで、失敗しても再び前を向けると話しました。

また、「リスク」を目先の損得だけで捉えるのではなく、将来の大きな飛躍につながるステップとして考えることの大切さも語られました。

海外に挑む人が業界全体を強くする

「なぜアメリカなのか」「なぜ挑戦し続けるのか」という話題から、スポーツ界の歴史へと広がります。山田さんが、日本サッカーが強くなった背景の一つとして、海外でプレーする選手が圧倒的に増えたことを挙げると、Kiyoさんも野球やバスケットボールの歩みを例に語りました。

かつて野茂英雄選手や田臥勇太選手といった先駆者が拓いた海外への道は、今やイチロー選手、大谷翔平選手、八村塁選手へと受け継がれています。先駆者に続いて海外へ挑む選手が増えたことで、個人だけでなく、日本の競技全体のレベルが引き上げられてきました。

「海外に挑む選手が増え、業界全体のレベルが底上げされた。スタートアップだけが日本にとどまる理由はない。30年後には、スタートアップ界の大谷翔平選手が生まれてもおかしくないはず」

世界を目指す起業家が特別な存在ではなくなり、次の挑戦者がその背中を追う。そんな流れが、日本のスタートアップを強くしていくのではないかという期待が語られました。

大企業に「この相手とは戦いたくない」と思わせる泥臭さと実行力

セッション後半には南場がサプライズで登場。日米の企業における「ベロシティ(回転数とスピード)」の違いをテーマに、熱い議論が交わされました。

話題は、Stitch Fix創業者カトリーナ・レイクさんの「競争優位性などない。あるのは実行力(エクセキューション)だけだ」という名言や、山田さんが海外の急成長企業で目にした"泥臭い"顧客開拓の話へ。さらに南場からは、DeNAの創業期の話も。ネットオークション「ビッダーズ」を進めるために奔走し、自宅にタイヤやガードレールが届いたという当時のがむしゃらさを物語るエピソードが飛び出しました。

「競合に『この相手とは戦いたくない』と思わせる泥臭さと実行力こそ、事業成長の真の要」。登壇者全員が深く頷き、思いを新たにする瞬間となりました。

会場内の質疑応答ハイライト

終盤の質疑応答では、現地参加の社員から熱い質問が殺到しました。

Q:現地でのビジネスコネクションはどう作ればいいですか? 

内藤さん:アメリカは「コールドアウトリーチ(面識のない相手への直接連絡)」に夢がある国です。明確なテーマと熱量を持ってメールすれば、凄い実績を持つファウンダーや投資家でも会ってくれることがある。「会いに行く」ことをテーマにして、恐れずに直接アプローチすることをおすすめします。

山田さん:事前の準備がすべてです。アポを取って、何かしら相手への「ギブ」を用意する工夫は必要ですが、LinkedInなどでターゲットはいくらでも探せます。

Q:これまでにもらった中で、事業的に効いたアドバイスは何ですか?

内藤さん:Kiyoさんからの「コントロールできるものに集中しろ」という言葉です。結果や他人の行動はコントロールできません。我々にできるのは「最善を尽くすこと」だけ。最善を尽くして結果が出なかったら、諦めの境地に行ける。常に「人事を尽くして天命を待つ」状態にいられるよう、自問し続けています。

山田さん:私のメンターからの「なんでそれやらないの?」というシンプルな問いです。自分が面倒くさがっている部分や、全力を尽くしていない部分を的確に突かれました。また、「孫正義さんならどう考えるか」と自問することや、尊敬する経営者を憑依させてアウト・オブ・ボックスで考える癖をつけることも、自分の限界を外すのに役立っています。

Q:日本とシリコンバレーで、生まれる事業のスケールに差が出るのはなぜですか?

内藤さん:能力ではなく、環境と価値観の違いだと思っています。明文化されているわけではないんですけど、僕は「ルール」と呼んでいます。

野球で例えるなら、アメリカは「9割空振りでもいいから、1割の特大ホームランを狙う」という価値観のもとでプレーしている。一方の日本は、どちらかというと「みんなでヒットを打とうぜ」という価値観に近い。ホームランを狙うかヒットを打つかの違いなので、能力に差はありません。

日本でホームランを狙うのもいいんです。ただ、日本で「フルスイングします!成功確率は10%です!」と言うと、投資してもらいにくい。だから目線が下がる。それが日本の価値観に最適化されていくということだと思います。

山田さん:一方で、現地で挑戦する上では「日本人であること」自体が一つの手札になります。現地の日本人コミュニティから応援してもらえたり、アメリカ人のファウンダーには回ってこないような縁が巡ってきたりします。僕自身、渡米したからこそ、よい戦い方ができているのではないかと感じています。

これから一歩を踏み出そうとしている日本のビジネスパーソン

ーー最後に、これから一歩を踏み出そうとしている日本のビジネスパーソンへメッセージをお願いします。

山田さん:日本のパスポートは世界的に見ても非常に強力です。国籍だけで半年待たされる国もある中で、日本人は行きたい場所で挑戦しやすい立場にあります。その恵まれた環境が当たり前に思えるかもしれませんが、一歩外からの視点を持つことでその武器に気づけるはずです。「世界に挑戦できる最高の発射台」の上に立っていることに気づき、ワクワクしながら一歩を踏み出してほしいですね。

内藤さん:先人たちが築いてくれた内需があったから、僕たちは外に向かわなくてもよかった。でも長い目で見ると、国内だけで商売を続けるほうがリスクになる場面も出てくると思っています。スポーツ選手が海外への道を切り拓いたように、恵まれた環境とリソースを活かして世界へ羽ばたき、グローバルで特大のホームランを打つ。そんなロールモデルが日本から次々と生まれることを期待しています。

※就労には別途ビザが必要です

登壇したAnyplace CEOの内藤さんとRetreat Technologies CEOの山田さんは、南場が主宰する「DelightX(デライトエックス)」でメンターを務めるなど、DeNAのカルチャーや挑戦の背景を深く知る立場にあります。

そんな彼らだからこそ語れる、シリコンバレーのリアルと「ルール」の捉え方。この日の熱を帯びたセッションは、決してひとつの企業に閉じた話ではありません。挑戦の意思を持つすべての人にとって、日本から世界へ羽ばたくための「発射台」となるはずです。

※DelightX(デライトエックス):デライト・ベンチャーズが運営する、サンフランシスコ・ベイエリアで起業に挑戦する日本人・日系人向けの現地滞在型AIスタートアップ起業支援プログラム。南場とKiyoの会話から発想し、2025年1月に構想がスタート。現地のシリアルアントレプレナーやトップティアVCとのネットワーク、Kiyoをはじめとする日本人起業家メンター陣による伴走、資金調達支援を三本柱とする

※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。

執筆・編集:フルスイング編集部 画像編集:多田香織

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