今年、10年ぶりに人事評価制度が改定。新人事制度ハンドブックの展開や複数回実施された移行説明会など丁寧な準備を経て、施行された新制度では大きく3つのアップデートがおこなわれました。
多角的に事業展開が進み、多様な業務、人材がそろう社内にあって、本制度が今後どのような役割を果たしていくのか。HR本部の担当者に改定をおこなった背景やコンセプト、込めた思いについて聞きました。
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従来のコンセプトはそのままに、ストレッチな目標を促進
──今年の4月に新たな人事評価制度が導入されましたが、今回のような大幅な改定は10年ぶりと聞きました。これまでの制度はそもそもどういったものだったのでしょうか。
有園 桂(以下、有園):DeNAの人事制度には『人材こそが会社の成長を支える源泉』という考え方が根底にあります。DeNAの歴史は、多様で個性に優れた人材が、Delightを届けるために高い目標に向かって挑戦し成長を続けてきた歴史です。その挑戦心豊かな人材の成長のステップを示し、大きな成果にはダイナミックに報い、また強みの形成を支援して一人ひとりの成長を促進するためにつくられています。
この考え方は今回の改定でも変わることなく、むしろこれまで以上に「正しく大胆に遇する」ことを意図した改定になりました。
島﨑 絵理(以下、島﨑):旧制度は、2013年頃からのもので10年以上運用していたものでした。当然ながら10年も経つと物価や市場にも変動があり、世の中の給与感も変わりますし、新しい職種もどんどん出てきたり、人材の動きにも変動があります。
元々柔軟に対応できるようつくられた制度ではあったものの、実態と合わない部分は出てきていました。これまでは、そういったギャップを運用でカバーしていたのですが、制度自体をアップデートし根本から解決すべきだろうということで、2022年にプロジェクトが立ち上がり、今回の改定となりました。
──制度自体をアップデートするとなると、かなり大がかりなプロジェクトだったのではないですか?
有園:旧制度を導入した2013年は、ゲームを軸にエンタメを中心とした事業領域の拡大への挑戦をしていた頃です。そこから10年経ち、スポーツだけでなくスマートシティ、ライブコミュニケーションへの展開やヘルスケア・メディカルへの事業展開と、会社の事業ポートフォリオにも大きな変化がありました。
それに伴い、社員の多様化も進んでいます。いろいろな事業ポートフォリオに対応していけるように、そして時代の変化に合わせてチューニングをかけたという形です。ただし、DeNAとして「ありたい姿」「目指したい姿」に変更はありません。
──設計思想は変わらず、社内外の変化に合わせてアップデートしたということでしょうか。
有園:「世の中を一歩押し上げようと、夢中で挑戦を続けている会社でありたい」この姿勢はずっと変わっていません。会長の南場、CEOの岡村も人材こそが会社の成長を支える源泉だと常日頃から言っていますし、この考え方をベースに制度設計をおこなっています。
ストレッチな目標に挑戦し高いパフォーマンスを発揮した人は、大きく報われる。それは報酬面はもちろんですし、仕事の報酬は仕事という言葉もあるように、さらなるチャレンジの機会が得られるようなサイクルを回していきたいと考えています。
島﨑:また、今回の改定ではDeNAとして大切にしたい考え方の根幹であるDeNA Qualityを年2回、能力発揮の前提として振り返る機会を評価時のプロセスに改めて加えました。
大切にしたい考え方に変化はありませんが、よりミッション・ビジョンの実現につながるように最適化させたというのが分かりやすいかなと思います。
より魅力的で合理的な指針に!3つのアップデート
──改めて新制度の改定ポイントを教えてください。
有園:新制度では、大きく3つのアップデートをおこないました。
グレード制度の改定にともない、Professionalコース/Managementコースの2コース制にしたことと、上限下限があった等級内での報酬テーブルに柔軟性を持たせたこと。そして、全社の業績達成度合いに応じて一律の係数で支給される全社賞与を導入しました。
─Professional/Managementのコース決定のプロセスは?どのように適用されるのでしょうか?
有園:コースは原則として役職者にはManagementコースが、それ以外の社員にはProfessionalコースが適用されますが、コースは一人ひとりの成長のステップを示すための道標であり、どちらかに限定したキャリアを固定するものではありません。
Managementコースでは組織をつくり上げる力の観点が、Professionalコースでは個人の専門性や強みを活かして成果創出にコミットする力が重視されます。コースの決定は、本人と上長間ですり合わせながら、強みの形成を支援し、成長を促すコースを決定していくことになります。
──そこは、歩むキャリアによって柔軟に適用されるということでしょうか。
有園:はい。役職者でなくても、チーム内で組織をつくりあげる役割を担うキャリアを見通す場合にはManagementコース、逆にチーム事情等から役職者を担っているものの将来キャリアを展望してProfessionalコース、という場合も存在します。期待する成果や役割を明確に示すため、2つのコースに整理していますが、成長段階に応じて異なるコースの軸を組み合わせることも可能です(※1)。
※1……各コースに5つの「能力発揮の軸」がある。詳細は下記「発揮能力評価の項目」の図を参照
島﨑:グレードはProfessionalコースが8段階、Managementコースが4段階に分かれています。いずれのコースも、もたらす成果のインパクトの大きさや自身の及ぼす影響範囲が大きいほどグレードが上位になります。
年齢や経験の有無にとらわれず、発揮能力の期待に応じてダイナミックに仕事を任される。そうした組織を実現するためのグレード制度に設計しています。またグレード内を複数のゾーンに区分し、個人の成長段階を明確にしました。ゾーンはProfessionalコース・Management1グレードは3段階、Management2〜4グレードは5段階とし、DeNAの現在の事業や将来を見据えて、個人への期待をイメージできるよう整理しています。
──今回の改定で、報酬テーブルもアップデートされました。
島﨑:そうですね。グレード毎に、同一グレード内におけるロール(※2)の市場報酬水準の振れ幅を考慮した設定にしました。そのため、グレード間で標準年収レンジが重なる場合もありますが、個人のグレードとロールの市場報酬水準を参考にしながら標準年収を決定します。
※2……個人が担う職務の詳細(PdM/サービス企画/サーバー開発/ゲーム開発/UIデザイナー/マーケetc..)
また、賞与の部分のアップデートでは、これまでは全社と所属部門の業績を総合した部門バジェットの枠組みの中で配分する仕組みだったのですが、
1)全社業績の影響度がわかりにくく、自分の成果が賞与に跳ね返っている手応えをつかみにくい
2)部門バジェットを超えた柔軟な対応ができない
という事象がありました。
そこで今回の改定で、賞与の内訳を全社業績を反映する「全社賞与」と部門があげた成果に個人貢献が寄与した度合いを測る「成果貢献賞与」に分解し、構造をわかりやすくしました。成果貢献賞与は、大きな成果をあげたチームや個人は全社業績に関わらず大きく報われやすくなり、ここに好調な全社賞与が加わることでさらに大きく報われます。
一人ひとりの成長を支え、成果に応じて遇する仕組み
──一人ひとりが成功確率50%程度のチャレンジングな目標に挑むストレッチな目標を促進する意図もあると聞きました。
有園:これまでもDeNAはチャレンジングな目標に対し、できない理由を探すのではなく、知恵をしぼってどうにかやるんだと乗り越えて、飛躍的な成長を遂げてきた歴史があります。
その良さを失わないために、今回改めて、ストレッチ目標にチャレンジしよう、という表現を目標設定でも明示しています。
今までもストレッチ目標にチャレンジしてきた方は多いと思いますし、それをしっかり言語化して目標設定につなげてほしい、そしてそのチャレンジングな目標を上回る成果には、より大きく報いるべきという考え方です。
島﨑:会長の南場が以前より「人は仕事で育つ」と話す際に、その人ができるかどうか五分五分くらいの仕事をチャレンジさせて、挑戦した結果大きな成果を生み出す経験こそが成長につながる(無理な場合は周りが助ける)と言っていますが、今回の目標設定のアップデートもそのイメージです。
──今回の改定で、報酬はどう変わっていくのでしょうか。
有園:「成果に応じて遇する」がDeNAのコンセプトだと考えています。
一律の昇給は、成果観点でみるとフェアではないと思うんです。一方で今回、社員の成果と発揮能力の成長に加え、人材市場の報酬水準がどう動いているのかも参考にしながらフェア・バリューを決めていく。DeNAでも市場水準を参考にしている旨を明記しました。
島崎:思いっきり仕事に打ち込んで仕事で成果を出した結果、それが処遇にはね返ってくる形が一番理想ですよね。そうすると、仕事の面白さに集中できることにもつながると思いますし、そういう会社でありたいなと考えています。
DeNAらしく、会社と共に制度も成長させていく
──今回のアップデートについて、社員の反応はいかがですか?
有園:改定前の移行説明会に非常に多くの方に参加いただけたことが制度変更への関心の高さを表していると思います。Professionalコース/Managementコースの2コース制になったことへの好意的な見解、グレード定義がわかりやすくなったという声も多くいただいています。
島崎:これまでもマンスリーアンケート『Flow』(※3)や社内専用のジョブボード『OpenQuest』(※4)などを通じてキャリア開発支援をおこなってきましたが、全社員に自律的なキャリア開発の考え方を持ってほしいと考えています。
個人のキャリアは十人十色だと思うので、それぞれの強みを活かしながらキャリア開発してもらいたい。とはいえ、キャリアを考えるにあたってどんな職種においてもマネジメントをするか否かの分岐点は必ず訪れると思うので、いろいろな可能性を視野に入れてキャリア開発していただきたいなと思います。
──従来のコンセプト(=DeNAらしさ)はそのままに、会社の変化に合わせたアップデートだということがわかりました。最後に、この新しい制度と共に今後何を目指していきたいですか?
有園:評価制度はその性質上、改定で全社員が直ちに金銭的な恩恵を受けるというものではありませんが、目指しているのは、社員の皆がその一年を振り返る際に「本当にきつかったけどやってよかったよね」といった喜びと達成感をチームで分かち合い、報酬面でも報われる状態を当たり前にすることです。
島崎:成果を出すみちのりには辛さも喜びもあるもの。評価制度は挑戦を続ける社員のみなさんに寄り添い後押しするような存在でありたいと思います。それぞれの人が為すべきことにしっかり向き合って、期待を超えるDelightに挑戦していってほしいです。
※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。
編集:川越 ゆき 撮影:小堀 将生
撮影場所:WeWork 渋谷スクランブルスクエア 共用エリア/会議室