2022年1月からDeNAは、中途入社者向けの濃密なオンボーディングを始動させています。その名も『DOP(DeNA Onboarding Program)』。
多彩なバックグラウンドを持って入社した中途社員を対象に、約4ヶ月間、13回のプログラムを実施。DeNAをいち早く理解し、なじみ、活躍してもらうための入口として提供しています。
『DOP』の立ち上げとともに運営を担う2人、リーダーの鈴木 恵子(すずき けいこ)とサポーターの二場 悠里(ふたば ゆうり)は、「入口にとどまらず、彼らの“帰って来られる場所”になれたら」と言います。
充実したオンボーディングを実施し始めた狙いとは、そしてどのような内容のプログラムなのか、話を聞きました。
“帰って来られる”ゆるやかなつながりを
――まず『DOP(DeNA Onboarding Program)』がどのようなものか教えてください。
鈴木 恵子(以下、 鈴木):中途入社した方々に、即戦力として最大限の力を発揮するための「知恵」と「知識」、「ツール」を提供する場、と考えています。
「オンボーディングプログラム」と言うと教育研修のように感じますが、すでにキャリアをお持ちの方に対して、教えるなんておこがましい。あくまでも「必要なモノを並べておくので、よしなに使ってくださいね」というイメージですね。
――配属後のオンボーディングとは別で『DOP』を行っているのでしょうか?
鈴木 :そうです。業務に関わるレクチャーは事業部で行っていますが、それと並行してHR主体で実施しているのがこの『DOP』です。
『DOP』は、DeNAメンバーとして働くうえで大事なMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)やDeNAカルチャーの理解促進となるようなプログラムの提供、そして、これらの取り組みを通じて業務以外でもコミュニティがつくれる、きっかけづくりを目的としています。
事業部に閉じず、DeNA全体で価値の提供ができる点は、HRが実施するオンボーディングならではと感じています。
――どのくらいの期間、実施されるのでしょう。
二場 悠里(以下、二場):オンラインが中心で期間は約2~4ヶ月、13回程度のプログラムを用意しています。
中途社員は入社のタイミングが五月雨になりますが、入社される方を3ヶ月単位でグルーピング。同期として一緒に参加してもらうスタイルです。人によって期間に若干違いはありますが、特に重要なプログラムは必ず提供できる形で運営しています。
――プログラムの内容は?
鈴木:大きく3つに分かれています。
1つは、いわゆる「オリエンテーション」。各種制度や福利厚生、オフィスの利用法、といったベーシックな説明はもちろん、多様な各事業の内容や組織も紹介。自部門のみならずDeNA全体のことを知っていただく機会を設けています。
2つ目は「セッション」です。特定のテーマについて社内の専門部門からの有識者や、経験に長けた先輩社員などをスピーカーに立てるだけではなく、参加者と相互にセッションできるような場をつくっています。
そして3つ目が参加者による「ワークショップ」です。オンラインでもオフラインでも、活発な議論を交わす機会を設けています。
――濃密ですね。いまこのタイミングで、充実したオンボーディングプログラムをスタートさせた狙いは何なのでしょうか?
二場:2つあって、1つは、MVVを浸透させたかったことです。
DeNAでは事業が本当に多様化し、多くの優れた人材が集まっていることもあり、2021年に新たなMVVを策定、その浸透を進めてきました。とくに、すでにキャリアを持ち、マチュアな中途社員の方々にも素地として、MVVに即したDeNAカルチャーを知っていただきたい狙いがありました。
2つ目は「コミュニティ形成のきっかけづくり」です。
新卒社員と違い、中途社員は同期という考え方があまりなく、横のつながりも希薄になりがち。加えてリモートワークが中心となったことで、周囲との関係構築に課題が出てきていました。
入社間もないとき、また雑談やリアルな接点も減っているリモート下の中、気心の知れた間柄をつくっていくことはすでに多様な経験をもつキャリアを積まれた方でも、なかなか難しい面がある。そういった課題を改善するために、“つながり”が生まれるきっかけとなるような場づくりをしています。
鈴木:当初からプログラムのコンセプトにあったのは、「ホームベース」なんです。
――野球の「ホームベース」ですか?
鈴木:そうです。転職者の場合、新卒と違って同期意識が芽生えにくい。部署や事業を通して社内のコミュニティにはもちろん参加しますが、それ以外のつながりをつくりづらい面があると思うのです。リモートワークが増えるとなおさら。
『DOP』を通して、別のコミュニティができたら、何かちょっとした相談をし合えたり、支え合えたりができるような、ゆるやかなつながりが生まれます。
いつでも帰って来られる「ホームベース」のような存在になれたらいいなと、考えました。
たとえ非効率でも、パッケージ化しない
――3つあるプログラムごとの内容を、具体的に教えてもらえますか?
鈴木:まずオリエンテーションですが、入社のタイミングで「Welcome Box」をご自宅へお送りしています。ボックスに入っているDeNAグッズには「DeNAへようこそ」という想いと、「DeNAに愛着をもってほしい」という想いがそれぞれ込められています。
二場:そして、入社して早いタイミングで開催されるのが「Happy Welcome Day」という『DOP』の序章です。DeNAは月2回の入社タイミングがあるので、その入社日ごとに全員集まっていただき、歓迎会を実施。同日入社同士でつながるきっかけの場となっています。
そして『DOP』の取り組み自体の説明や、DeNAのMVV「DeNA Promise(DP)」と「DeNA Quality(DQ)」にフォーカスして、策定の背景から大切にしている考え方などをお伝えしています。
このほか「DeNA Cheat Sheet」と名付けた、社内規定やルールをTips集のようにまとめているドキュメントの展開や、同期グループのSlackチャンネル運営など、カルチャー理解とコミュニティ形成の双方で入り口を提供しています。
――2つ目の「セッション」はどのようなことを?
鈴木:セッションのテーマは本当に多彩ですが、たとえば、CEO 岡村とのセッションがあります。 あらためて岡村の口からDeNAのカルチャーやMVVなどが語られると同時に、本当に自由にメンバーと和気あいあいとした会話をしてもらっています。
二場:入社早々にCEOとコミュニケーションが取れる機会ということで、いい意味でギャップを感じる方も多いようです。
普段から岡村と我々DeNAメンバーはオフィスですれ違ったり、話したりできる距離感なので、こういったDeNAの“風通しのよさ”のような部分も感じていただけるのかなと。
――単に集まって一方的に話を聞くのではなく、双方向のコミュニケーションを意識しているのですか?
鈴木:そうなるように設計しています。たとえば岡村のセッションでは、1人ずつ自己紹介の時間も設けています。岡村の人柄故もありますが、岡村はその部署ごとの特長や働いているメンバーのことなどをフランクに話しかけます。
副次的に、それを聞いている他の参加者も他事業の理解が深まる。とても意義ある場になっています。
二場:ほかには、コンプライアンスに関するセッションも定番です。コンプライアンス・リスク管理室の室長の協力も得て、自社・他社の事例や、組織設立の背景などについても触れて、きちんとお話します。
そのうえで、参加した皆さんの事業ではどのようなところがリスクになる可能性があるのか、そのために気を付けるべきポイントは何か、などをお伝えしています。
ここでもZoomのアンケート機能なども活用しながら、参加者の興味に合わせた内容にしていますね。
――3つめの「ワークショップ」は?
鈴木:ワークショップは、とくに『DOP』の狙いの2つ目である、コミュニティ形成のきっかけづくりに重きを置いたプログラムにしています。ひとつのテーマに絞り、グルーピングして議論などを進めていきます。
そこで何か、その後もコミュニケーションのきっかけになるようなテーマを実施しています。
――たとえば、どんなテーマを?
二場:直近のテーマの中では「コミュニケーションタイプ」を診断する、ワークショップでしょうか。
いくつかのコミュニケーションタイプに分類し、自分がどれに該当するかを診断してもらいました。自分のタイプ特性を知ることで、他者とのコミュニケーションの参考にしてもらおうという狙いがあります。
鈴木:もっとも、診断して終わりだと何も盛り上がらないんですね(笑)。そこで、診断後に、それぞれの結果を受け止めたうえで、ひとりずつ発言し合ってもらいました。
「いやいや。自分はこのタイプでこんな風に見られがちだけど、こういう意図が裏にあるんですよ」とか「強そうに見られがちなタイプですが、実は弱い一面がありまして……」とか。
――ぐっとその人のパーソナリティが生々しく伝わりそうですね。
鈴木:そうなんです。お互いに理解を深め合うような流れにしました。そうすることで自分を客観的に見つめられるし、自分とは異なるタイプの理解も深まりますよね。
二場:実は、このワークショップの内容は、参加者の方からのフィードバックを受けて、改良したんですよ。
――最初は違う内容だったのですか?
鈴木:当初は診断テストをしてもらって、それぞれのパーソナリティがわかって、それで終わり、でした。
しかし、参加者の方からアンケートをとると「新卒入社向けの内容では?」と満足度の低いご意見をいただいてしまって。
二場:そのおかげで改善できました(笑)。診断結果を踏まえたうえで、それぞれに発言してもらう部分を追加したのです。結果として、内容をアップデートすることで同じプログラムでもとても高評価をいただけました。
鈴木:人知れずリベンジを果たせましたね。ただ、こうした参加者からの貴重なご意見はアンケートを通じて意識的に多くとっていて、プログラムのブラッシュアップに活かしています。
予定していたプログラムを途中で変えるのは日常茶飯事です。
――走りながら、臨機応変に磨き上げているわけですね。運営するのは大変だと思いますが。
鈴木:実はもともとは、効率的かつ合理的に運営できるように、定型化して進めていこうとの方針がありました。しかし、実施して実感しましたが、オンボーディングのプログラムこそ、簡単に定型化できないなと。
「中途社員」と、一括りにして『DOP』を提供していますが、すでにキャリアを積まれている方々で、バックボーンも経験も本当にカラフルです。異なる業界、職種のメンバーが同じグループにいるわけで。
求められるレベル感も違う中、全員同時に刺さるコンテンツを提供するのは簡単にいえば難しい。
二場:それならばいっそ、こちらからの押し付けにならないよう参加者の声を吸い上げる努力をしています。プログラムがスタートした初期から、どんどんアンケートを実施しているのはそのためです。
鈴木:参加者アンケートをコンテンツごとに実施し、私たちが設定した目的が達成されたかどうかを確認して振り返っています。先に紹介した「Cheat Sheet」も、参加者の皆さんからの要望を受けて進化させたものです。
二場:先にお話したとおり、DeNAはリモートワークが中心なので、オフィスで自然と顔を合わせたり、DeNAカルチャーを肌で感じたり、雑談から人となりを感じたりという、ノンバーバルなコミュニケーションがない環境です。
そのような状況下で、居場所をつくり、カルチャーを理解してバリューを発揮し、より良い自己表現や自己実現をしていただくために、『DOP』は大事な入り口です。
機械を相手にしているわけではなく、感情も価値観も一人ひとり異なるわけで、その場は“生モノ”です。きちんと丁寧に向き合うべき部分は、工数をかけてでもパッケージ化せずにやるべきだと思っていますし、常にアップデートし続けたいと思います。
鈴木:社内向けのプログラムですが、ずっとブラッシュアップを続けてユーザーの方々に長く愛されるサービスをつくり続けるのは、DeNAらしさ、かもしれませんね。
貴重なオフラインの場で、ゲームをする理由
――『DOP』はオンライン中心ではあるものの、一部オフラインもあるそうですね。
鈴木:オフ会ももちろん意識的に実施しています。DeNAは「TALENT BASE」と称して、メンバー全員のプロフィールポートレートを撮影する機会がありまして。先日その写真撮影会の日に「せっかく出社しているなら息抜きにゲームでもしません?」と声をかけて、あるゲームを実施しました。
――おお、ゲームをしてもらうのですか。
鈴木:リアルでは初めましての人ばかりで会話もぎこちない。だからこそゲームを。これが効果絶大で。ネタバレしてしまうので詳しくお伝え出来ないですが、毎回すごく盛り上がります。終わって部屋を出てくるころには、見違えるほど打ち解けて仲良くなっていますね。
二場:実はこれもアンケート結果を反映させたプログラムです。「雑談がしたい」「ランチがしたい」といったコミュニケーションに関する要望を参加者の方からいただくことが多かったのです。
――なるほど。だからといって、急に「雑談をどうぞ」と言われても、なかなか話しづらいですしね。
鈴木:ゲームを通して強く印象に残るような共通の体験をすることで自然と仲間になる。そのようなきっかけづくりになっています。単なる遊びに見えるかもしれませんが、実は「コミュニケーションデザイン」をした結果です。単純にめちゃくちゃ盛り上がりますけどね(笑)。
ほかには、DeNA事業の柱の一つである横浜DeNAベイスターズや川崎ブレイブサンダースの試合観戦も実施しました。試合の展開が進むにつれ、参加メンバー同士の会話も増え、終わるころには仲が深まった印象があります。タイミング次第なところもありますが、来年度も実施できればいいなと思っています。
会社とサードプレイスの間の場所を目指す
――今後、この『DOP』をどのような場にしていきたいですか?
鈴木:豊かな生活を送るには、ファーストプレイスと呼ばれる家庭、セカンドプレイスと呼ばれる仕事だけではなく、それら2つとは異なるサードプレイスが必要だと言われています。『DOP』はこのサードプレイスとセカンドプレイスの間くらいの位置づけとして役割を担えたら最高だなと思っています。
みなさん自走できる方ばかりではありますが、ちょっと弱音を吐きたくなったとき、愚痴を言いたくなったときに“帰って来られる場所”として用意しておく。帰って来るか、来ないかは各自の自由ですが、そのような場所があるということを心の隅に置いていただければうれしいですね。
――オンライン中心だからこそ、そのような場の必要性も高まるし、用意しておくことが大事だと。
鈴木:その一方で、「場所があればいい」というものでもないと思っています。「何かあったら相談してくださいね」と言われても、実際は相談しないことがほとんどでは?その人に相談したい、と思ってもらえているかどうか次第だと考えていて。
もし、中途半端な気持ちや慣れ合いで運営をしていたら、参加者にすぐに見透かされてしまいます。だからこそ、相談してもらえるような信頼関係を築けるよう、1回1回のコンテンツに本気で向き合っています。
その甲斐あってか、参加者からいただくアンケートは率直な意見が多く、毎回ありがたく感じています。最後に『DOP』全体を振り返るアンケートの中には、「DeNAのカルチャーや組織のことが知れて有意義だった」という声以外にも、「中途入社でいつでも頼れる人がいることが心強かった」「この取り組みでつながりができて、精神的に救われた」といった声をいただきました。
――お二人の『DOP』との向き合い方が、DeNAのMVVにある「ことに向かう」を体現していますね。
二場:MVVに関しても、いくら言葉で説明をしても、MVVがすっと腑に落ちて、実践できるかといえば違うと思うんです。MVVは社員一人ひとり、あるいは事業のスタンスや会社のカルチャーに触れる中で、個々が自然と感じて染み込んでいくものだと思っています。
鈴木:人生の転機となり得る転職で、「DeNA」という新たな船を選び、飛び込んでいただいた。私たちは彼らのサポート役を担っています。一つひとつのプログラムからDeNAらしさを感じていただけるよう、これからも『DOP』に本気で向かい続けていきたいですね。
※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。
※本インタビュー・撮影は、政府公表のガイドラインに基づいた新型コロナウイルス感染予防対策ガイドラインに沿って実施しています。
聞き手:箱田 高樹 執筆:日下部 沙織 編集:若林 あや 撮影:小堀 将生