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情シスと経理の共創体制が付加価値を生む。領収書電子化プロジェクトに見るフラットな組織文化

2023.11.28

リモートワークと出社のハイブリッドワークが定着、DeNAでは社員がどこからでも働ける環境が根付いています。

その自由度をさらに高めるべく、2022年から取り入れた施策の一つが、領収書の電子化です。経理部門と、情シスにあたるIT戦略部の共創によって実現したプロジェクト。もっとも、両部門の担当者は「極めてスムーズに実装にいたりましたが、“プロジェクト”という感じではなかった」と言います。

キーパーソン5名に実装にいたる経緯を語ってもらいつつ、両者のリレーションの秘密と、コーポレート部門にも宿る“DeNAらしさ”に迫りました。

攻守兼備を実現したくて、DeNAへ

──最初にそれぞれの現在の業務内容と入社の経緯を簡単に教えていただけますか?情シス部門にあたる「IT戦略部」のお三方からお願いします。

▲山本 優三(やまもと ゆうぞう)IT本部IT戦略部コーポレートオペレーショングループ グループマネージャー
2010年DeNAに新卒入社。情報システム部門に配属後、グループウェアなどの社内システム刷新、導入支援を担当。2017年より人事・会計システムまわりの運用保守、業務改善に携わり始め、現在、それらの業務を担う組織のマネージャーを務める。

山本 優三(以下、山本):私は現在、IT戦略部コーポレートオペレーショングループに所属し、経理や経営企画、人事などのコーポレート部門に関連するシステムの運用保守や業務改善を担う部門でマネージャーをしています。

2010年に新卒で入社して以来、これまでずっと情シス部門に所属しています。DeNAを選んだ理由は、手を挙げれば年齢やキャリアを問わず、責任ある大きな案件を担える文化に魅力を感じたからでした。情シスへの配属は自ら希望して、というわけではなかったのですが、大学時代に所属した部活のホームページ制作・運営を通して部員の活動を支援していく中で、「ITスキルをベースにしながら誰かを支える仕事が性に合っているな」と感じていました。今思うと配属時に適性があると見抜かれていたのかもしれません(笑)。

▲塩田 可奈子(しおだ かなこ)IT本部IT戦略部コーポレートオペレーショングループ
IT系コンサル会社、ISO審査機関を経て2013年9月にDeNA入社。現在はIT戦略部で人事・会計システムまわりの業務改善等を担当。最近新たに仔猫の兄妹を迎え入れ、犬1匹、猫3匹に癒される日々。

塩田 可奈子(以下、塩田):私は2013年9月にDeNAに入社しました。最初はヘルプデスクを担当した後、人・組織の連携システムの運用や会計システムまわりの業務改善などを担っています。

新卒ではITコンサルの会社に入り、その後、ISOの審査機関を経てDeNAに入社しました。

──ISOの審査機関とはニッチですね。

塩田:そうですね(笑)。それもあって、異なる業界でキャリアチェンジをしたいと考えました。成長産業で、かつゲーム、スポーツ、ヘルスケアなど幅広な事業に取り組むDeNAでチャレンジしようと思ったのが入社のきっかけです。

▲藤井 大志(ふじい たいし)IT本部IT戦略部コーポレートオペレーショングループ
ITベンダーと人材派遣会社の情シスを経て、2022年7月にDeNA入社。現在は会計・人事システムの保守運用や改善等を担当。

藤井 大志(以下、藤井):私はITベンダーと人材派遣会社の情シスを経て、2022年7月に入社しました。これまでのキャリアでも勤怠管理や給与計算等、バックオフィス系のシステムに携わってきましたが、DeNAには「内製の文化がある」ことに興味を抱き、ジョインしました。

──経理部のお二人は?

▲船原 美奈子(ふなはら みなこ)経営企画本部企画統括部経理部第三グループ
菓子卸業の経理部を経て、2008年4月にDeNA入社。事業部経理担当を経て、現在は経費精算や連結決算及び開示等の横断業務を担当。二人の娘の子育て奮闘中。

船原 美奈子(以下、船原):私はこの中で最も社歴が長くて、2008年4月に入社しました。前職でも経理業務に従事していましたが、DeNAでも経理のスペシャリストとして歩みたいと考え引き続き経理担当に。2回の育児休暇で時短勤務もはさみながら、一貫して経理畑でキャリアを積んでいます。

田中 奨(たなか すすむ)経営企画本部企画統括部経理部第三グループ グループマネージャー
メーカーの財務部を経て、2017年10月にDeNA入社。経費精算担当、子会社の経理担当を経て、現在は連結決算及び開示、DeNAグループ内の横断業務を担当する組織のマネージャーを務める。

田中 奨(以下、田中):私は大手のメーカーで経理部に務めた後、2017年10月に転職してきました。DeNAは経理などのコーポレート部門でも新しい技術に投資しているものと推測し、「意欲的に経理業務の効率化ができそうだ」と考えて、飛び込みました。入社以降、実際にそれが実現できている実感もあります。

──まさに、いま田中さんがおっしゃった経理業務の効率化を実現した直近のプロジェクトが昨年の「領収書電子化プロジェクト」なわけですね。

塩田:そうですね。ただ、どこか「プロジェクト」というほど肩に力の入った感じでもなかったな、というのが率直な感想です。

あらためてキックオフして……と始まった感じではない。我々情シスと田中さんたち経理部との自然なコミュニケーションからごくごく自然に立ち上がって、実装したイメージです。

「試してみないか?」「このサービスは?」が日常会話

──自然なコミュニケーションからプロジェクトが始まったとは?

塩田:このプロジェクトに限らず、経理部とはSlackなどを通して常にコミュニケーションを重ねていて、「経理業務に関してこうした法改正があるらしい。どんな対応が必要ですか?」とか「新たなSaaSのサービスが出るが、試せますか」とか、お互いにカジュアルに情報交換をし続けているんです。

田中:そのSlackでのやりとりから「そのシステムは効果が高そうだ」「少し動いてみましょうか」と検証が始まる、なんてことが日常茶飯事なんです。

──「領収書電子化」もそうしたSlackのやりとりが起点となって始まったのでしょうか。

船原:そうですね。言うまでもなく、以前の経費精算は、紙の領収書で経費処理をしていました。その後、電子帳簿保存法の改正があってスキャナ保存した電子データでの処理は進みましたが、当時はまだ原本である紙の領収書を保存する必要がありました。

山本:一方で2020年からコロナ禍もあって世間ではリモート勤務が定着しつつあります。

特にDeNAでは積極的に場所に縛られない働き方が推奨され、オンラインとオフラインの両方に対応したハイブリッド型のワークスタイルを定着させ、今も続いています。

田中:そのため、リモート勤務をしている社員は経費の領収書をPDF化して精算はできていました。しかし、紙の領収書そのものは自宅で一時保管して、出社のタイミングで我々、経理部に提出してもらう必要がありました。

──どのようなスキームで領収書は経理に渡っていたのでしょう?

塩田:個人の立替経費は、「Concur Expense(※)」で各自が手入力で申請し、申請データを紙印刷した経費精算レポートに領収書を貼り付けて提出するという流れでした。

※……交通費や交際費などの経費精算、経費管理を行うSaaS

──わざわざ出社する手間があったし、紛失のリスクもありそうですね。

塩田:手入力による転記ミスや領収書の紛失などの課題はもちろんですが、それらのリスクだけではなく、経理提出後にBPO先への転送や領収書の倉庫保管といったコストに対する課題感もありました。

田中:なんとかして、この手間とリスクを無くしたい、という思いはずっとありました。もとより、経費精算業務は、手間をかけて丁寧にしたところで付加価値が上がるわけじゃありませんから。

それこそ2019年頃から、Slack上で「経費精算の手間を減らす方法はないか」と積極的に情報交換はしていました。

船原:2019年の11月頃に、山本さんたち、情シス側から「2020年にこんな法改正と仕組みができますが、コーポレートカードの導入だけ先んじて検討しませんか」と、法改正を見越してSlackで声をかけていただきましたよね。

山本:今回はたまたま僕らからの提案でしたが、普段のやりとりで「いいね!」と動き始めるのは常ですよね。2020年のうちにコーポレートカードの導入(デジタル明細連携の導入)を済ませていたので、その後の法改正を受けての「領収書電子化」は短期間で実現できた。常に先を見据えて動く両部門の動きが奏功した事例のひとつだと思います。

──Slackでの書き込みからシームレスに実装に向かったのですね。

船原:はい。ただコーポレートカードは、思ったよりも利用者が少なかった。コーポレートカードで支払えば、カードの利用明細で経費精算でき、紙の領収書を保存する必要もなくなりました。カード決済なので経費を一時的に立て替える必要もない。けれど、もうカードを増やしたくないと思う社員も多いうえ、カード発行の申請をするのも手間といえば手間。加えて消費税法上、3万円以上の経費だとやはり紙が必要だとか、縛りも多かったのです。

塩田:しかし、2022年に入るとさらに電子帳簿保存法が改正。紙の領収書が必要なくなり、条件を満たした形であれば、領収書の電子データのみで経費精算ができるようになりました。

そこで、すでに利用していた「Concur Expense」に新機能が実装されるという話題をシェアしましたよね。

田中:そうでしたね。「Concur Expense」のモバイルアプリにOCR(光学文字認識)の機能が備わった。

専用のモバイルアプリで領収書を撮影すれば、領収書画像の添付と共に、経費申請に必要な一部の情報がOCRで自動取得されるため、経費精算の手間を大幅に省けます。

藤井:OCRは読取結果が正しいかをユーザーがフィードバックして、AIが学習する仕組みになっているので、使えば使うほど精度があがります。

──企画から実装のスケジュールはどんな感じだったのでしょうか?

藤井:昨年6月に動き始めて、11月には立ち上がっていましたね。

──早いですね。実際は経理部や情シスだけじゃなく、社員全員が触るシステムを変えるのは大変だし、実際に新しいやり方を伝え、教えるのも苦労があったのでは?

藤井:事前案内はしていたものの、一定数、モバイルアプリの存在に気付かず、領収書画像の添付に苦労しているとの問い合わせはありました。ただ、それ以外は特に大きな問題はなかったように思います。

塩田:マニュアルは事前にしっかりと用意して、共有させてもらいましたしね。また、疑問点などの質問は「Find out」という社内の問い合わせフォームを通して誰でも投稿できるようになっていて、当日15時までに届いた問い合わせは、その日の18時までに1次回答する仕組みになっています。

そして一定数同じような質問が積み重なった場合は、ナレッジのFAQとして社内wikiにアップする運用としています。

──なるほど。仕組みを用意して、運用部分もスムーズに無駄なくすすめているわけですね。でも、やっぱり社員全員に慣れ親しんだやり方を変えて「新しいシステムを使わせる」のは容易じゃない気がします。そもそもコーポレート部門と情シス部門がしっかり連携しているのも珍しいでしょうし。

山本:どうでしょう(笑)。普段から双方向でコミュニケーションを取れる場があり、健全な関係性が保てているのが大きいのではないでしょうか。定常業務とプロジェクトを並行して推進していくために、お互いが常にいろいろな情報にアンテナを張り共有する。僕らにしてみたら「なぜうまく連携できないのかな?」と思うほど、自然ではあります。

その意味で、両部門の連携も、社員がシステム変更に協力的なのも、もっとベースの部分に理由があるのかもしれません。

情シス、経理部に根付く「こと」に向かう姿勢

──情シス×経理部の共創がスムーズに連携できているベースとは?

塩田:いくつかあると思うのですが、1つは社内の共有価値観であるDeNA Qualityのひとつ『「こと」に向かう』や『全力コミット』が根付いているのは大きいんじゃないでしょうか?

山本:そう思いますね。もちろん誰しも慣れ親しんだシステムややり方を変えることに抵抗が全く無いはずはありません。ただ、「経費精算の効率化のために業務システムを刷新します」と伝えたときに、まずきちんと聞く耳を持ってくれる。

船原:みんな冷静に受け止めたうえで「最初は戸惑うけれど、効率化が図れるなら賛成だ」「全体最適を考えたら、やるべきだね」と極めて協力的です。

──なるほど。だからこそ情シスと経理部の皆さんも、存分に「こと」に向かえると。

山本:そう思います。もうひとつ、これは我々情シスの話になりますが「Make Creative」というビジョンも影響していると考えています。

社員が新しい価値をつくり出すクリエイティブな活動に集中できる環境を提供するのが我々の役割。その「こと」に向かう姿勢は揺るぎなく根付いています。

──クリエイティブな活動に集中できる環境を提供するとは、具体的にどんなことをでしょう?

山本:「定型業務はシステムやロボットを活用して効率化」「仕事をする上で必要なデバイス、システムを安全に簡単に使える」「ハンコや紙のようなアナログを廃止してデジタル化された世界を実現」といったようなことです。また「外(社会を取り巻く環境の変化や技術トレンド)」と「内(DeNAのビジネス・業務理解や現場課題の把握など)」の視点をバランスよく取り入れ続けることも大事だと考えています。

田中:私たち経理部もそのビジョンには共感できますね。最初に話したように経費精算のような業務そのものは価値を生みません。けれど、その業務を効率化することは、価値を生み出すための時間と体力を創出することつながりますから。

あと個人的には、DeNAに常に新しい人材が入ってきて流動的なことも、業務のブラッシュアップがしやすい理由かなと感じています。

──どういうことでしょう?

田中:顔ぶれがずっと変わらないと仕事のやり方も固定化しがちになりますが、意欲のある人材がジョインすることで「もっとこうしたほうがいい」「変えられるのでは」と新たな提案も出やすいし、柔軟に受け入れやすい面はあると思うんです。

塩田:確かに、変わり続けることが当然だという意識はありますよね。新しい挑戦がしやすい環境なのは間違いないと思います。

──こうしたベースがあるからこそ、情シスも経理もいろんな挑戦を続けられる。そして社員の働きやすさも磨かれ続けていくわけですね。

塩田:そうですね。またSlackのやりとりから自然にプロジェクトが生まれたり、新しい変革がどんどん立ち上がっていくと思います。

山本:IT技術は日々進化しており、うまく使いこなすことで会社にとって大きな価値を生むことが出来るはずです。テクノロジーの適用やアップデートは往々にして既存業務やルールの変更を伴い、現場での一時的な負荷を避けることは難しいですが、「非効率な業務をしない・させない」の根底意識は共通しています。

目指すベクトルは同じ。手段の取捨選択はあれど、後ろ向きな議論になることはなく、前向きな改善が躊躇せず実現できる。情シスも経理も、今いる場所でジレンマを抱えている方にこそ、魅力ある場所だと思います。

※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。

執筆:箱田 高樹 編集:川越 ゆき 撮影:内田 麻美

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