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Vtuberが示した可能性の先に「新しい当たり前」をつくりたいーー『IRIAM』マーケティングストラテジストの仕事

2023.06.28

ローンチから4年が経ち、今や年間約50億円の売上を誇るサービスにまで成長した『IRIAM』。成長角度も熱狂度も他の追従を許さない、唯一無二のキャラクターライブストリーミングサービスです。

そんな『IRIAM』が、いま求めているのがマーケティングストラテジスト。しかも「既存のマーケティング手法を再現性高く実践できるというだけの人ではない」と言います。

一体どんな未来を見据えているのか。

最初期からチームの中心人物であり続ける、真辺 昂(まなべ こう)と細田 航星(ほそだ わたる)に、その真意を聞いてみました。

『IRIAM』成長を後押しする、2万人超えVtuberの浸透

――『IRIAM』の人気、すさまじいものがありますね。

真辺 昂(以下、真辺):ここまで来れたのはひとえに、いつもサービスを楽しんでくれているユーザーのみなさんのおかげです。本当にありがたいですね。

細田 航星(以下、細田):決算で公表しているとおり、売上は直近四半期で約15億円、年間で約50億円の事業に育っています。ダウンロード数も150万を超えたところです。とはいえ、運営としてはこの何倍もの事業ポテンシャルがあると見込んでいるので「まだまだスタート地点だぞ」という気持ちでもあります。

――お二人とも『IRIAM』立ち上げ当初から一緒にお仕事をされていたそうですね。

細田:そうなんです。『IRIAM』はもともと、「ミライアカリ」や「猫宮ひなた」など、黎明期の著名なVtuberを手がけていたベンチャーで立ち上がったサービスでした。

僕は「ミライアカリ」プロジェクトに関わっていたところから『IRIAM』の立ち上げに携わったのですが、その頃のどたばた話だけでも、記事1本分のネタがある気がします(笑)。

真辺:特にリリース前後は色々とハードでしたよね……その話は、また別の機会にぜひお話しさせてください。

――ぜひ。今日はそんなお二人に、『IRIAM』の人気の秘密と今後の展望も伺いたいです。

細田:改めてとなりますが『IRIAM』は、好きなイラストを用意すれば、モデリングが自動で行われるので、Vtuberのようなキャラとして配信ができるライブ配信サービスです。

顔出しをしなくてもいいメリットから「Vtuberをやりたい」と思う人は多いのですが、機材やモデルの用意など、また別の金銭的ハードルの高さがまだまだ残っています。そんな中、手軽にアバターではないキャラ配信を楽しむことができるのが『IRIAM』の魅力ですね。

▲ IRIAMプラットフォーム事業部 副事業部長 細田 航星(ほそだ わたる)
2017年慶應義塾大学環境情報学部卒業。株式会社コロプラで白猫プロジェクトにおけるキャラクター設計やイベント企画を経験後、株式会社duoにてミライアカリプロジェクトや『IRIAM』の立ち上げに携わる。現在IRIAMの副事業部長に加え、グロースマーケティンググループのリーダーを兼任。

そしてそのライバーさんを、リスナーとして近い距離で応援することもできます。

配信のラグが約0.1秒とほとんどないので、ストレスなく日常的におしゃべりができますし、サービス内に用意されているさまざまなイベントでは、コミュニティ全体が一体となって盛り上がる“非日常的な体験”ができます。

真辺:配信やイベントといっても、同接(同時接続数)何千人というような大規模なものではないんです。大きな規模だと、そこにいる人たちは見知らぬ他人で、存在を認知し合うことはどうしても難しい。

でも、『IRIAM』では顔馴染み同士で「ただいま」と言いながら、互いの今日の出来事などの他愛もない話をするような感じなんです。推しを中心に、かけがえのない家族のようなコミュニティができているのが特徴です。

キャラ=世界で最もスパチャされる存在

――リアルなライバーさんがライブ配信をする『Pococha』のようなサービスとはまた違う盛り上がりを見せている感があります。

細田:ライブ配信の盛り上がりに加え、アニメやVtuberなどの二次元カルチャーの盛り上がりの掛け算で伸びているのを感じます。

中でもVtuberは、2016年の「キズナアイ」から始まり、今や「にじさんじプロジェクト」を運営しているANYCOLOR社やホロライブのCOVER社といった企業は、昨年上場して時価総額が1000億円以上と破竹の勢いで伸びています。2022年末には、国内のVtuberの数が約2万人になったことが話題にもなりましたね。

――正直、そこまで浸透しているとは知りませんでした。『IRIAM』の配信者数はどれくらいなのですか?

真辺:『IRIAM』の累計配信者数は15万人を超えました(笑)。

いずれにしても、こうした動きは国内のニッチなカルチャーの話ではないことがポイントです。あまり知られていないことですが、YouTubeのスーパーチャットの2021年の上位10人のうちの9人がVtuberなんですよ。昨年2022年も上位20人の11人がそうです。(※1)これ、結構すごくないですか?

――世界で最もスパチャされてる存在が、実はキャラということですよね。

真辺:特に、僕も好きな「がうる・ぐら」というUS拠点で英語で配信されているVtuberは、YouTubeの登録者数が現時点で431万人(※2)と驚異的な人気を誇っていたりもします。Vtuberという日本発のカルチャーは今グローバルを席巻しはじめていて、実際2028年の市場規模が2兆5千億円ほどまで伸びると予想されているんです(※3)。

※1……YouTubeスパチャランキング。世界中のYouTubeチャンネルを集計し、ランキングを公表しているサイト「PLAYBOARD」2021年・2022年を参照(2023年5月20日当社調べ)。
※2……「がうる・ぐら」YouTube登録者数(2023年5月20日当社調べ)。
※3……出典元:株式会社グローバルインフォメーション(Global Vtuber (Virtual YouTuber) Market Research Report 2022 参照)。

 ▲ IRIAMプラットフォーム事業部 事業部長 真辺 昂(まなべ こう)
早稲田大学基幹理工学部数学科中退。しばらくのフリーター期間を経て、編集者としてwebメディアの編集やIPコンテンツのメディアミックス、ゲームベンチャーの立ち上げなどを経験。2018年には、立ち上げメンバーの一人として『IRIAM』に参画し、DeNAのグループ入り後も引き続きプロダクトオーナーを務める。真辺がIRIAMの目指す未来像について語るインタビュー記事はこちら

こうしたキャラ文化は日本で長年培われたものなので、土壌としての強みが我々にはある。二次元文化がグローバルで一層広がりつつあるこの追い風の中、今『IRIAM』は日本発でグローバルに戦える、希少性の高いプラットフォームになっていると思っています。

――でも、一体なぜ生身の人間ではなく、キャラが好まれているのでしょう?

細田:理由はさまざまですが、“表現に集中できる”ことはポイントの一つだと思います。生身の人間が行う表現は、良くも悪くもその人自身の背景や容姿に引っ張られてしまいがちですよね。

たとえば、可愛いらしいセリフを言ったりリアクションをしたりしても、本人がクールな人物だと「その人の”キャラ”じゃない」といった感情が起きたりします。これが、ゼロからつくられたキャラ相手だと、視聴者も一緒にイチから”キャラ”をつくっていける。

抽象化の過程で余計なノイズが減ると、よりピュアな気持ちで推せるんですよね。

真辺:そのノイズの一つに、「同じ人間」という感覚があるのかなと思っています。人って、同じ人間だと思う対象には、それゆえに嫉妬などネガティブな感情を抱いてしまうことがあると思うんです。

たとえば「ナルシスト」とか「ぶりっ子」のような人間らしい個性は、生身の人間よりもキャラの方がなんとなく受け入れやすい感じがしませんか?

――確かに。ぶりっ子キャラです、という設定のVtuberに「ぶりっ子すんな!」というアンチのコメントをわざわざ送るのも、なんか変な感じがしますね(笑)。

真辺:そうなんです。Vtuberはリアルと虚構が混ざりあう、人間から半歩ズレた存在です。だからこそ、それによって弱みにもなりうる尖った個性(キャラ)が、オンリーワンの強みに逆転し得る。

細田:その結果、幅広いシチュエーションでの表現が楽しめるようになっていると思います。僕ら自身、Vtuberが大好きなので、いちファンとしてもそうした実感がありますね。

――誰もがそうした個性を発揮できたら素敵な世界ですよね。『IRIAM』が伸び続けているのも合点がいきます。

真辺:ただ実は、僕らはここまでいわゆるVtuberのような概念とは、距離をとってきたんです。今日もわかりやすさ重視で「Vtuberみたいなもの」というような言い方で表現していますし、今後は積極的にやっていこうとも思っているんですが、それは最近まで極力避けてきたんですよ。

可処分時間は「コンテンツ」から「ナラティブ」へ

――意外ですね。一体どうしてですか?

真辺:サービス初期の頃に「有名Vtuberみたいになっていくためのプラットフォーム」だと思われて、期待値がズレてしまったことがあったんです。それが起因で、「Vtuberと比較して今の『IRIAM』のライバーさんは全然ダメだね」と、下に見られているような言葉をもらうこともありました。昔のことですが、あれは悔しかったですね。

けれども、ここ数年のコロナ禍で、否応なく社会から孤立してしまったユーザーさんから「『IRIAM』という居場所が救いでした」という話を聞く機会が何度もありました。そんなふうにライバーさんは、“コミュニティ”という、人にとって最も大事なものをつくりあげている立派なクリエイターだと思っています。でも、特にサービスの立ち上がり間もない頃は、そのクリエイションの価値がなかなか伝わらなかったんです。

そして「比較されて誤解されるくらいなら、一旦距離をおこう」と考えたんです。

――当時主流だったVtuberとは、違うところに価値があったと。

細田:はい。そうして4年半、『IRIAM』ならではの価値を丁寧に育ててきました。直近は少しずつ、その価値が理解されていく動きを感じられているんです。

たとえば日本のアイドルカルチャーって、マスメディア訴求の国民的アイドルから、ソーシャルメディアの登場で実際に会いに行けるアイドルへと、コンテンツからコミュニケーションに寄っていく流れがありました。近年、その「推される存在」と「推す存在」の距離がさらに近くなり、直接コミュニケーションをとりながらコミュニティを楽しむ時代が始まりつつあるのを感じます。

近年の技術的なトレンドも、まだどうなるかはわかりませんが、その変化を後押しするムーブメントとして発展していくのかなと。

真辺:我々はこれを「コンテンツからナラティブへ」という時代の動きだと捉えています。

もちろんメディアで流通するコンテンツの価値はこれからも残るはず。でもそれだけではなく、より直接的なコミュニティでの関わり合いの中で育まれていく感情的なナラティブへと、可処分時間や可処分精神における価値の重心が移り変わりつつあるように思うのです。

今後はもっと直接的で、日常的なコミュニティが必要とされると思います。たとえば「青春」って、その内実のほとんどは友達との他愛もない日常のおしゃべりですが、その時間を共に過ごした感覚があるからこそ、末長く人の心を温めてくれる体験になりますよね。

『IRIAM』での体験は、この“青春のような日常”に近いんです。ナラティブの価値の強さは、長い時間をかけて育まれるコミュニティだからこそ、代替不可能な愛着や思い入れが生まれていく点にあります。

細田:この部分は、従来の「薄く広く」から「狭く深く」へと価値の尺度が逆転していて、まだまだ理解されにくいところだと思っています。

でも、実際『IRIAM』には、チャンネル登録者数何万人などではなくても、雑談メインのライバー活動だけで生活を成り立たせているライバーさんが何人もいるんですよ。

――雑談配信で生活している人がいるんですか。それはすごいですね。

真辺:インターネットを舞台に誰もが個として活躍できる、そんな経済圏が「クリエイターエコノミー」などと呼ばれて久しいですが、今はまだ過渡期です。一部のインフルエンサーとそれを眺めている人たち、という構図の世界に留まっているからです。その意味では今は、広告モデルが基盤の中央集権的な世界で、まだまだ分散型のインターネットの真価が発揮されるのはこれからのように思います。

「100人の真のファン」で成り立っている無数のコミュニティに、誰もが直接的に関わりながら参加を楽しめる、これからはそんな真のクリエイターエコノミーの時代がライブを中心に徐々に花開いていくと僕らは考えているんです。

細田:その世界は、“狭く深いコミュニティ”が中心になるため、ロングテールな構造で広がっていく事業ポテンシャルがあると思っています。でも逆に、わかりやすいトップ オブ トップな人は出て来にくいので、その一つ一つの価値は外から見るととてもわかりにくい。

まだ『IRIAM』の価値を体験していない方々に、どうやってこの“伝わりにくい魅力”を知ってもらえるかという壁に直面しています。

「新しい当たり前」をつくり、「当たり前」を文化に

――なるほど。今のフェーズにふさわしいマーケティングストラテジストを求めていると。

細田:誤解を恐れずに言えば、かつての「マッチングアプリ」の辿ってきた道、あれに近いことを実現する必要があると思っています。

『IRIAM』とマッチングアプリは提供しているサービス価値が別物なので、あくまでイメージとしてですが。

――マッチングアプリの辿ってきた道、ですか?

細田:マッチングアプリって、昔は「出会い系」と一括りに呼ばれ、いかがわしいイメージが根強くあったと思うんです。でも、次第に「マッチングアプリ」という通称に変わり、恋人や友達をつくるためのスマートな出会いのツールへとリブランディングされていきました。10年ほどかけて、若者を中心にマッチングアプリを通じて出会うことは今や「新しい当たり前」になったと思います。

『IRIAM』の価値を伝えるためには、この「新しい当たり前」ごとつくっていくしかないと僕らは考えているんです。それはとてつもなく地味なみちのりですが、一度オセロがひっくり返りさえすれば、文字通り「当たり前」の文化にすることができるのが魅力です。

――マッチングアプリが市民権を得て「当たり前」のサービスになっていった。『IRIAM』もまさにそこに挑むタイミングなわけですね。

真辺:みんなもう忘れているかもしれませんが、「インフルエンサー」「YouTuber」が登場したときも、なんとなくいかがわしいイメージがあり、世間は冷ややかな反応だったんです。「SNS運用しているだけでお金を稼ぐなんてけしからん」というような声もあった。

けれど今やYouTuberは小学生の憧れの職業にまでなっている。それらの職業が「新しい当たり前」として認識されていったからです。

――つまり『IRIAM』のライバーさんたちが、新たな時代のコミュニティクリエイターとして世の中に認知してもらえるようにしたい、と?

真辺:そのとおりです。以前『IRIAM』のイベントの賞品として高級チョコレートをプレゼントする企画があって、そのチョコが自宅に届いたときの話をライバーさんが教えてくれたんです。

というのも、その高級チョコをみた親御さんから「いつも怪しげなことをしていると思っていたけれど、このブランドのチョコがもらえるなんて、あなたすごいことをしていたのね」と言われたそうで、急に家での地位が上がったらしいんです。

――なるほど(笑)。そのチョコのブランドパワーを感じますね。

真辺:そうした取り組みをもっと進めていくべきだと思った一方で、まだまだそうやって間接的にしか『IRIAM』のライバーであることを認めてもらえない状況なのだと感じる話でした。

だからこそ、我々がもっとうまく『IRIAM』らしい価値を世間にPRをしていくことによって、ライバーであることが誇りであり、憧れであり、ステータスになるような状態をつくりあげていく必要があるんです。

コミュニティとの共創モデルを構築できるか

――『IRIAM』で「新しい当たり前」をつくろうとするときに、既存のマーケッターとはまた違うスキルやモチベーションが必要そうですね。

真辺:ライブ配信は従来のマーケティングとお金の流れが逆なんです。

通常は運営側が多額のお金を払って街頭広告を打ち出し、そのうちの何割がサービスに残るかを計算する、「ファネル」と呼ばれる考え方をすることがあります。一方、『IRIAM』のイベントで入賞した人が街頭広告に露出するというモデルは、コミュニティが熱量をもって押し上げるかたちで、広告に出てサービスごと拡まっていく。

広告起点でユーザーさんを獲得するだけではなく、コミュニティ起点で広告が生み出され、結果的に獲得につながっていくようなモデルであることが重要です。

――逆の発想なんですね。

真辺:以前、K-POPアイドルのファンダム(※)がライブに際して自主的にビルボードを応援広告でジャックしたことが話題になっていましたが、ああいったコミュニティの熱量を支援するマーケティングを行うのが、それこそ当たり前になりつつあります。

それをこの新しい事業ドメインに、どのように持ち込んでいけるかを考えていかなければいけません。

細田:今『IRIAM』が取り組んでいる施策の一例に、広告をコミュニティにつくってもらう、というものがあります。配信の中で盛り上がったシーンをユーザーの方々にキャプチャしてもらい、それを動画広告の素材に使わせてもらっている。こういう共創を、もっと推し進めていきたいですね。

※……ファンダム(fandom)。熱狂的なファン集団のコミュニティ。そこから生まれる文化や世界、そのようなファンの状態を指す造語。

――広告もUGC(ユーザー生成コンテンツ)になっていて、そこに参加すること自体がサービス体験の一部になっていると。今後『IRIAM』が高級チョコブランドと同じ響きを放つときが楽しみです。

細田:ありがとうございます。でも、気持ちとしてはそれ以上を目指していきたいですね! コミュニティの熱量を活かすような新しいことをどんどん試していって、「自分が新しい時代のマーケティングの教科書をつくってやるぞ」くらいの意気込みを持った仲間との出会いを待っています。

真辺:僕らの言葉よりも、毎日コミュニティと真摯に向き合い続けているライバーさんたちの生の言葉に触れてほしいので、この記事をみて少しでも『IRIAM』に興味を持ってくださった方がいたら、ライバーさんのインタビュー集「イルミナリー」を読んでみてください。

そして何か感じるものがあったら、ぜひマーケティングストラテジストの仕事に応募してください。待っています!

IRIAM採用情報

※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。

執筆:箱田 高樹 編集:若林 あや 撮影:内田 麻美

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