2018/03/23

100人に1人の熱狂を作れーーチャレンジの先にある新規サービス作りのリアル|連載・最強の三振

発明の父、エジソンは電球を生み出すまで1万回失敗したといいます。しかし、彼はそのことを失敗とは言いませんでした。曰く、「うまくいかない方法を1万通り発見しただけである」と。どんな経験であっても、受け取り方次第では学びになることを示す言葉です。

 

永久ベンチャーを掲げているDeNAでは多くのチャレンジがありますが、すべてが成功するとは限りません。しかし、うまくいかなかったプロジェクトの、世に出ることのない苦労と工夫の過程にこそ、作り手のノウハウや情熱は秘められているもの。そのエッセンスを学ぶことで、ものづくりのスキルは向上します。

 

この連載では“フルスイング”した結果の“三振”にフォーカス。そこから何を学び、次にどう活かしているのかをお届けします。第1回は、コマース&インキュベーション事業本部 サービスインキュベーション事業部 企画推進部でプロデューサーを務める別府泰典(べっぷ やすのり)が得た知見。彼の言葉には、泥臭いほどの「情熱」の大切さが詰まっていました。

 

<別府泰典が辿った道筋>

 

【三振】もっとブラッシュアップできたはずなのに、待ち切れずマーケティングを実施してしまった

――最初にDeNAで新規事業を立ち上げたのは「パズ億」だと聞きました。これはどんなコンセプトで開発されたのでしょうか?

 

別府:パズ億は2013年の8月くらいに開発がスタートしているのですが、当時はちょうど、ゲームアプリの主流がブラウザベースのものからスマートフォンのネイティブアプリに変わっていく黎明期でした。IT企業各社がスマホ最適化したゲームを徐々にリリースし始めていて、カジュアルゲームの波が来ていたんです。

 

コマース&インキュベーション事業本部 サービスインキュベーション事業部 企画推進部 別府泰典
2012年にエンジニアとして新卒入社。ゲーム事業部でエンジニア兼企画としてキャリアをスタートし、2年目以降はプロデューサーとしてパズルゲーム「パズ億」など新規ゲームの立ち上げと運用を行う。その後事業責任者として複数の新規サービスを立ち上げ、2017年3月にライブ配信フリマアプリ「Laffy」をリリース。

 

そのタイミングで、当時世界的に流行していたパズルゲームの持つ要素(ステージ進捗や回復課金)を取り入れ、かつ「お金をなぞって消す」というわかりやすいコンセプトと新しい操作性を持った、直感的に遊べるゲームとして開発をスタートしました。実はこのゲームの原型は新卒研修で作ったもので、面白そうだったので正式リリースすることになったんです。

 

最終的には、TVCMなどのマーケティング施策が功を奏して約500万ダウンロードとなり、2014年のGoogle Playベストゲーム30を受賞できました。

 

 

――一見すると悪い結果ではないように感じますが、なぜ「三振」だと考えるのですか?

 

別府:マーケティング実施のタイミングが、少し早かったからです。もちろんリリース時点でもお客さまに楽しんでいただける充分なクオリティはありましたが、もっと時間をかければサービスの完成度をさらに高められる可能性は高かった。でも、収益化のタイミングを早める意図から、そうした方針を取ったんです。

 

サービスの完成度というのは、言い換えればサービスの「深み」です。パズ億でいうと、1日数時間プレイするお客さまが数ヶ月間プレイしても飽きない構造だったり、まだプレイ歴が浅いお客さまでもまた明日も続けたくなるようなワクワクする演出やインセンティブ設計などを指します。

 

結果として、その後に急いで改善を進めたことで満足のいく深みを作ることができましたが、本格的なマーケティングはこの後にやるべきだったのではないかと考えています。

 

――その後、複数の新規事業を立ち上げて“フルスイング”してきたと聞きました。

 

別府:ゲーム作りも楽しかったのですが、大学時代から様々なサービスや製品を作っていたこともあり、よりインターネットらしいサービスを作りたくなり、希望して現部署に異動させてもらいました。

 

サービスインキュベーション部はDeNAにおけるY Combinator(※)のような場所であり、情熱ある人間であれば社内でヒト・モノ・カネを集めて、自分で事業を立ち上げることができる場所です。ここで様々なサービスを立ち上げました。

 

結果的には自分の力不足で立ち上げたサービスをクローズすることになり、ご利用いただいたお客さまに対しても本当に申し訳なく思っています。この学びをさまざまな作り手の方々にお伝えすることで、少しでも世のためになればと思います。

 

※Y Combinator…シリコンバレーにあるベンチャーキャピタル兼スタートアップ養成スクール。DropboxやAirbnbなどが主な支援先。

 

【三振】意思決定がブレないレベルまでサービスのビジョンを明確にできていなかった

ーーたくさんの事業にチャレンジしたんですね。その過程で得た学びを、いくつかピックアップして紹介してもらえますか?

 

別府:次にリリースしたのは、人数限定で閲覧できる動画シェアアプリbabygoatです。2014年末当時は、Snapchatのストーリー機能がアメリカで流行りつつあり、それに近いUXを日本にも持ちこめないだろうかと考えていました。

 

その視点でアメリカの市場動向を分析していると、消える写真・動画を「1対1」に送るUXよりも、「1対多」に送るUXの方が利用者により深く刺さっているように見えたんです。そこで、人数限定で消える写真・動画を閲覧できるサービスを作ることを決めました。

 

 

――このサービスにおける「三振」はどんな点ですか?

 

別府:「意思決定がブレないレベルまでサービスのビジョンを明確に定義できていなかった」ことです。もちろん頭の中でイメージはありましたし言語化もしていたのですが、仲間が強烈に共感するレベルでそのサービスが何を変えて世の中にどう良い影響を与えるかを、自分のなかで定めきれていませんでした。

 

新規サービスって多くの場合、最初は利用者が少ないですしグロースにも時間がかかるため、苦しい時期を必ず経験します。その時期に明確なビジョンがないと、チームメンバーが目指す方向性が定まらなくなってしまうんです。

 

結果として、短期間でクローズし悔しい想いをしましたし、利用していただいていたお客さまにはもっと価値を提供できたはずなのに、と反省する部分が多くあります。

 

【三振】リリースのタイミングが“あと一歩”遅かった

別府:babygoatの後は、顔認識スタンプのカメラトークアプリmarble meをリリースしました。このアプリがリリースされる半年くらい前に、Snapchatが顔認識スタンプの機能をリリースし、 韓国で顔認識スタンプを韓国文化に合わせたSNOWがリリースされて人気になっていたんです。

 

 

自分はずっとSnapchatの「消える写真・動画」というUXの素晴らしさに惹かれていたのですが、世界を見渡しても、本家以外でそのUXが多くの方々に受け入れられているサービスはほぼなかったと思います。

 

そこで当時、顔認識スタンプという入り口であれば、メッセンジャー市場でLINEがスタンプを武器にしたように、各国の文化適合が競争優位性となるため、海外勢に負けることなく日本で「消える写真・動画」市場を取れるのではと考えました。

 

最終的にはサービスをクローズする決断をしましたが、このコンセプト自体は間違っていなかったと今も思います。

 

――このサービスの「三振」を挙げるならば、どういった点でしょうか?

 

別府:適切なタイミングでアプリをリリースできなかったことです。僕たちがmarble meの開発をはじめた2016年1月頃は、まだ日本でSNOWは全く知られていませんでした。しかし、リリース1ヶ月前の4月頃からSNOWがよりマーケティングを強化し、その後数ヶ月連続でAppStoreの無料ランキング1位を独占する程の大人気となってしまいました。

 

こうしたコミュニケーションサービスはネットワーク効果が発揮され1位以外が生き残るのは困難です。もしかしたらリリースがあと1〜2ヶ月早ければ、状況は変わっていたかもしれませんが、それは言い訳ですね。

 

それから、これは三振というより学びなんですが、お客さまから寄せられる言葉ももちろん大切ですが、それ以上にそのサービスにおけるお客さまの行動そのものに全てが現れるのだと痛感しました。

 

実はmarble meのリリース後、インストールしたけれど利用するのをやめたお客さまに匿名アンケートを取ったのですが、その回答と実際のデータが乖離していることが多かったんです。なぜかというと、匿名とは言っても、運営の顔が浮かんでしまいあえて良い面を探そうと気を遣っていただいたからだと思います。

 

――使っている方の行動を信じるのが大事なのですね。

 

別府:作り手が向き合うべきは、熱中して使ってくれる方の行動だと思います。サービスの価値に強く共感して高頻度で使っていただいているお客さまの行動にこそ強いニーズが隠れています。

 

要するに、仮にそのサービスが100人に1人しか使われないとしても、その1人が「このサービスは最高だ」と言ってくれればいい。なぜなら、1人がすごくサービスを愛してくれて、利用時間や投稿数といった能動的な数値が日ごとに向上しているのならば、それは深みのあるサービス構造ができている証拠だからです。

 

だからこそ、使っていただいた方の行動や利用状況をきちんと分析し、改善に繋げるべきだと学びました。

 

――次に開発したLaffyが「ライブ配信できるフリマアプリ」というコンセプトになったのはなぜですか?

 

 

別府:これは自分自身の体験がベースとなっています。

 

僕は本がすごく好きなので、フリマアプリなどで売る際には、その本への想いなどを説明欄にたくさん書きます。でも買ってくださる方って、売り手がどんな想いを持っているかって正直それほど関心がないんですよね。だから同じ本であれば、たくさん説明が書かれている800円の商品より、説明があまり書かれていない700円の商品が売れていきます。当然、安い方がいいですから。

 

でも例えば、自分が友だちにこの想いを説明して売りこんだら、絶対800円で買ってもらえるだろうと思ったんです。けれど、既存のフリマアプリではそれが実現できませんでした。そういう意味で、この体験(UX)を満たせるアプリはまだ世の中に存在しないと思ったんです。

 

それに、社内でも既にSHOWROOMやMirrativなどライブ配信サービスが立ち上がっており、「編集が必要な動画よりもライブ配信の方が楽」というお客さまの声を耳にしていました。だからこそ2年前でも2年後でもなく、今こそやるべきサービスだと思いました。

 

また、このサービスの本質的な価値はコミュニティであり、お客様が顔を出して配信をする事を考えると、匿名前提の既存のフリマアプリとは別のコミュニティが求められると思い、競合サービスとの競争も問題にならないと考えました。

 

 

――Laffyを開発するうえで大切にしたことは?

 

別府:チーム内で常に言っていたのは、「自分たちが作っているのはライブ配信で物を売る場所“ではない”」「ライブコマースなんて言葉はどうでもいい」といったことでした。そうではなく、「商品売買を通じて承認欲求が満たされる場所」というビジョンを大切にしていましたね。

 

それを実現するため、例えば「○○さんが△△の商品を確認中」とか「購入手続き中」といった状態を可視化し、買い手の方々が興味を持っていることが配信者にもわかる仕組みを設けていました。そうすることで、物を売ったり買ったりする際に、お互いに感謝し合え、温かいやり取りが生まれるんです。

 

――逆にそのビジョンだからこそ「あえてやらなかったこと」はありますか?

 

別府:プレスリリースや積極的なマスメディアへの露出を、当初はあえてやりませんでした。これは、リリース初期は人数よりも質を大事にしたから。つまり、ターゲットとするお客さまのみにサービスを使って欲しかったためです。

 

より多くの人に使ってもらうのは、サービスがもう少し完成してからで良いという思想ですね。サービスのビジョンの大切さは、babygoatの開発経験から学んだ部分が大きいです。

 

【三振】リリースが早過ぎた or 市場がない

――Laffyにおける「三振」は、何だったと思いますか?

 

別府:市場動向的にリリースが早過ぎたかもしれないという点です。ライブ配信自体はどんどん盛り上がっていますが、ライブ配信でモノを売れる方が想定よりも非常に少なかった。もう少しライブ配信のハードルが低くならないと、一般の方々のモノの売買は難しいと感じました。

 

非常に熱量高く利用されていた方もいらっしゃいました。なので、Laffyというサービスに対して強い価値を感じてくださった方もいらしたことは間違いないと思います。

 

ただ、事業継続ができるレベルの成長角度には至らず、想像以上に長い期間がかかる、あるいは市場がない可能性があると考え、撤退の判断をすることになりました。

 

【ホームランへの軌跡】何より大切なのは、情熱

――プロデューサーとしての経験を総括して、ものづくりで大切にしていることを一言に集約すると何ですか?

 

別府:先ほどのビジョンを持つ話にも通じてきますけど、“情熱”だと思っています。それが無いと何も行動できないですし、誰も同じ船に乗ってくれません。そして、作り手の熱量って絶対にお客さまに伝わってしまうんです。さらに言えば、作り手の情熱よりもお客さまの情熱が上回ると、運営がうまくいかなくなるんですよね。だから、より大きな情熱で応えていきたいと考えています。

 

今後、どんなものを作るにしても、「そのサービスが持つビジョンは、本当に自分が人生をかけて達成したいと思えることだろうか」という軸はぶらさないようにしたいです。そうでなければ、情熱を持って開発を続けられないと思うので。

 

――たとえ三振したとしても、別府さんが情熱を持ってものづくりに“フルスイング”し続けられるのは、どうしてですか?

 

別府:自分が大学時代に決心した「これから一生、プロダクトを作って生きていこう」という想いが強く影響しています。僕は20歳くらいのときに、「もしも自分がどんな人にでもなれるとしたら、いったい何になりたいだろう」と思索した時期があったんです。

 

けれど、仮にどんな人になれたとしても、きっと僕は誰かのことを羨ましがるだろう、と思いました。例えば、アメリカの大統領になれたとしても歌手のビヨンセが羨ましくなるだろうし、AKB48の選抜メンバーになれたとしても事業家の孫正義さんを羨ましく思うだろうと。だから、「とにかく自分の選ぶ道を徹底的に信じ抜こう。自分の芝生が一番青いと思い込もう」という結論を出したんですね。

 

そうなったとき、僕は「ものづくりをしてそれを世の中の人たちに届ける」というのが一番偉大な仕事に思えました。人類の歴史を振り返ってみると、誰かが何かを作ったことによって、少しずつ人類が前進してきたわけじゃないですか。しかも、そのプロダクトは自分が死んだ後も残って、誰かの役に立ってくれる。それって、素晴らしいことだと思うんです。

 

だから、ものづくりに注力すると決めました。みんなの役に立つような、自分がいなくなっても残るような、すごいプロダクトを作ると。

 

――とはいえ、プロジェクトがうまくいかないとき、挫けそうになることはありませんか?

 

別府:それはないですね。ちょっと大きな話になりますけど、あのスティーブ・ジョブズですら、iPhoneを生み出すまでに30年かかっています。その間に、表には出ていないけれど、きっと数えきれないほどの三振をしてきたはずです。

 

ならば、僕みたいに普通の人間はもっともっと試行錯誤の数を増やさないといけない。だから、1個や2個三振したところで、挫けている場合ではないと思っています。

 

幸いなことに、それだけのチャレンジをさせてもらえる環境が、DeNAにはあります。そんなありがたい環境にいるからこそ、絶対に結果を出していきたいと僕は思っています。

 

 

まとめ

三振

①もっとブラッシュアップできたはずなのに、待ち切れずマーケティングを実施してしまった

②意思決定がブレないレベルまでサービスのビジョンを明確にできていなかった

③リリースのタイミングが“あと一歩”遅かった

④リリースが早過ぎた or 市場がない

 

ホームランへの軌跡

何より大切なのは、情熱

 

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執筆:中薗昴 編集:野田竜平 撮影:鈴木智哉