2018/05/10

【テンプレ公開】リサーチの成否は“企画設計”で決まる。7つのステップで学ぶ調査企画書の作り方

サービスを運営するなかで、改善点を探したり効果測定をするためにお客さまへのアンケートやインタビューを行うことがあります。しかし、調査は手探りで実施されるケースも多く、思い通りの結果を得られなかったり、サービス改善につながらずに終わってしまうことも……。

 

では、どんな方法を用いれば調査は成功するのでしょうか。その手法を、マーケティングリサーチャーの業務に“フルスイング”する片瀬大(かたせ おおき)が前編・後編の2回に分けて解説していきます。

 

今回は、彼が所属するアナリティクス・リサーチ部のメンバーが調査前に作成するという調査企画書(※)にフォーカス。その書き方を解説しながら、お客さま調査に必要な「企画設計」のノウハウを提供していきます。

 

※……記事内に、企画設計に活用できる「調査企画書」のダウンロードリンクを設置しています。ぜひファイルをダウンロードしていただき、調査にご活用ください。

 

【後編】お客さまの本音を引き出す設問設計13の鉄則。リサーチとは全て意思決定のためにある

 

「手法」から考えてはいけない

マーケティングリサーチにはさまざまな手法があるため、「今回はどの調査をしようか」と手法から考えてしまうことが多いです。しかし、重要なのはその手前。「なぜ調査を行うのか?」という目的を認識することです。

 

目的から逆算したうえで調査を実施しなければ、サービスを改善するためにそもそもどんな情報が必要なのかがわかりません。せっかく調査をしても、価値が薄い情報しか取れなくなってしまう可能性すらあります。

 

だからこそ、目的を意識することが、成功するマーケティングリサーチの第一歩になります。

 

デライトドライブ本部アナリティクス・リサーチ部 片瀬大
マーケティングリサーチの企画・分析およびマーケティング戦略のコンサルティング業務に6年従事後、渡英し修士号(MBA)を取得。帰国後、スマホゲームの開発・運営会社でデータアナリストとしてスマホゲームの分析を担当。2015年DeNAに入社。スマホゲームのマーケティングリサーチ、EC事業のデータ分析を経て現職。

 

そのため必要なのは「調査企画書」を作ることです。作成を通して、調査の目的から選択すべき手法、調査後にデータを何に活用するのかといった、調査の企画設計を行います。最初にこの作業を行うことで、潜在的なお客さまニーズの発見や、本質的なサービス改善に結びつくのです。

 

7つのステップで学ぶ調査企画書の作り方

ここからは調査企画書の作り方について解説します。これは、7つのステップに沿って調査に必要な情報を記載し、実施の助けとするものです。

 

調査企画書のテンプレートはこちらからダウンロードできます。

 

調査において、考えるべきことは決まっています。目的や手法、結果データの使い方など、必要な項目と内容を整理して順に考えていくことが重要です。この手順を踏むことで、調査の全体像が明確になり、「どんな方針で実施すべきか」「実施にあたり何が不足しているのか」などが把握しやすくなります。

 

STEP1:タイトルは目的が一目でわかるように

ここで言うタイトルとは、調査の内容が簡単にわかるサマリーのこと。アンケートの回答者に見せるタイトルとは別物です。タイトルをつける際には「何を目的とした調査なのか」が一目でわかるように気をつけましょう。そうすることで、調査をしている自分たちがいつでも目的に立ち返れるようにします。

 

記入例

×「○○の利用者を対象とした調査」

「○○のターゲット規模把握調査」「○○のCM訴求軸選定調査」「○○のヘビーユーザーのUX把握調査」

 

STEP2:マーケティングの目的と課題を整理し、方向性を定める

次に「マーケティング目的」「マーケティング課題」「課題に対する仮説」について解説します。

 

1)マーケティング目的

「マーケティング目的」では、アンケートの結果をどのような目的で活用するのかを定義します。この項目には、プロジェクト担当者にできるだけ具体的にヒアリングし、リサーチャーが理解した内容を記載しましょう。最終的に、記載内容に相違ないかを両者で確認し合います。

 

このフェーズを省略し、目的を定義せずにアンケートをしてはいけません。「アンケートを何に使うのか」の方向性が定まらなくなってしまうからです。

 

目的の例
・DAUを〇〇万ユーザーまで増やす
・7日後RRを◯%まで改善する
・NUUをCPI○○円以内の予算で増やす
・ARPPUを〇〇円まで増やす
・TVCMを実施し、NUUを〇〇万ユーザーまで増やす

 

2)マーケティング課題

目的を達成するうえで、プロジェクト担当者が抱えている課題を定義します。複数あるならば、優先順位を考えながら記載しましょう。この課題は、目的と連動していることが重要です。

 

課題設定において、やってしまいがちな失敗がいくつかあるので解説します。

 

課題設定の失敗例

・課題を要素分解できていない

「売上が低い」という状況を課題として設定しても、具体性がないため解決できません。この場合、「売上が低い」ことを構成している要因の要素分解が必要です。

 

・課題を特定できていない

「売上が低い。課題はKPIすべて」では、何を解決すべきかが漠然としています。課題を要素分解したうえで、解決すべき要素を明確にしましょう。

 

・課題に優先順位がついていない

複数ある課題のなかには、改善してもマーケティング目的達成への影響力が弱いものがあるはずです。どの課題を先に対応すべきか、優先順位をつけましょう。

 

・調査では解決できない課題が記載されている

調査には限界があるため、時には課題解決に役立たないケースもあります。それが判明した時点で、調査以外の方法も視野に入れましょう。例えば、現状のログ分析で仮説を立てる、短期的なPDCAを回してみる、などです。ときには経験や勘が課題解決につながることもあるかもしれません。

 

3)課題に対する仮説

解決すべき課題を明確にしたら、その課題が「なぜ」生じているのか仮説を立てます。この仮説は、アンケート設計において「誰に」「何を」「どのように」聴くべきかを判断したり、結果を分析する際の軸になります。

 

例えば、ゲームの継続率が悪ければ「ヘビーユーザーの〇〇という体験が良くないのでは?」という仮説を立てます。そうすることで、アンケートの対象者をヘビーユーザーにすべきだと判断できるため、「誰に」聴くべきかの答えを出すことができるのです。

 

仮説を立てずに調査をすると、課題解決に役立たない結果になったり、あらゆる情報を広く浅く取得しようとして設問数が不必要に多くなります。

 

仮説が立てられない場合は、2次データ(官公庁の調査データや研究機関のレポート)を参照したり、サービスや商品をたくさん使ってみたり、定性インタビューを実施するなどして、仮説の構築を試みることをおすすめします。

 

STEP3:調査の目的を明確にする

「調査目的」とは、、マーケティング課題を解決するために、この調査で「何を明らかにするのか?」「何を結論付けたいのか?」を具体的に記載します。

 

記載例

本調査は新規ユーザーの獲得を目的としたCM施策において、その効果を最大化させる訴求軸を選定する際の参考となる情報を取得することを目的とする。

具体的には以下の点を明らかにし、訴求軸選定の参考にする。

1)ターゲットに最も刺さる訴求軸は何か?

  → 興味度、利用意向、今遊んでいるゲームとの比較など

2)どの点が興味を喚起したのか?

  → キャラクター? 世界観? ゲームシステム?

3)ターゲットのうち、訴求軸に対し興味を持った人はどんな人か?

  → 属性、スマホゲーム利用実態など

 

この内容はアンケート結果をまとめるときの「結論」と対応します。上記の例では、以下のようなまとめになるイメージです。

 

まとめの例

1)ターゲットに対し、Aの訴求軸が最も興味を喚起した

 興味度:訴求軸A=90%、B=70%、C=30%

 利用意向:訴求軸Aの場合、「ダウンロードして遊んでみたい」と答えた方は○○%にのぼった

2)興味喚起した要素「○○」への関心が最も高く、次いで「△△」が高い

3)ターゲットのうち、興味を持った人の90%は30代男性で、協力プレイを求めている人の割合が多い

 

ここで注意すべきは、「マーケティングのため」「戦略のため」のように凡庸とした目的を設定しないこと。1つの調査では1つの“具体的な”目的を設定することが鉄則です。

 

 

STEP4:調査後、どのようなアクションに繋げるのかを考える

調査をして結論を出すのは、すべて「次のアクションにつなげるため」です。そのことを調査企画設計の段階からしっかりと意識しておくことが大切です。

 

例えば、ものづくりに関する調査であれば、プロダクトやサービス改善の具体的な内容。宣伝に関する調査であれば、訴求メッセージや媒体、投下タイミング、ときにはその組み合わせが、ここで考えるべきアクションに該当します。

 

1つ留意すべきは、調査後のアクションを調査前に考えるために、対象としている課題を解決する仮説が必要だということです。つまり、調査に対する仮説があるからこそ、調査後のアクション案が出ます。仮説とは、「サービス改修の優先順位はAだよね」とか「このサービスのCMは、〇〇が訴求軸だよね」などです。

 

多くの場合、この仮説を立てずに答えそのものを調査で得ようとすることで失敗しているともいえます。調査をサービス改善に活かすためにも、しっかりと仮説を導き出し、その後にどんなアクションをするのか、というところまで考えてみてください。

 

STEP5:調査の“核”となる調査設計

課題や目的を洗い出した後は、どのような方法で調査するかを検討していきます。

 

1)調査手法

調査手法には大きく定量調査(アンケート)と定性調査(インタビュー)の2つがあり、それぞれ強み・弱みがあります。

 

前者はインターネット定量調査やゲーム内アンケート、後者は個別インタビューやグループインタビューなど、さらに詳細な手法に分けられます。調査目的・予算などに応じて、最適な手法を設計しましょう。

 

アンケートは多くの人を対象に実施できます。そのため、大量のデータが集まりますし、結果が定量的に表れますが、逆に削げ落ちてしまう情報もあるのです。例えば、本当はお客さまがいろいろな思いを抱えていたとしても、「満足している」という一言に集約されてしまう危険性もあります。

 

一方、インタビューではお客さまの生の声を聴くことができますが、集められる情報の量はアンケートに劣ってしまいます。さらに数値化できない定性情報であることも特徴です。これらの特徴を踏まえ、適切な手法を選択しましょう。

 

2)対象者条件

商品・サービス開発などと同様、調査においてもターゲット設定は重要。ここでは、どのような人を調査するのかを決めていきます。

 

基本的には調査目的に合致する人を対象にするのですが、この際に留意すべきことがあります。調査目的が訴求軸評価や満足度調査などの場合、比較対象を決めることです。そうすることで調査結果の良し悪しを判断・評価しやすくなります。

 

例えば、自社のゲームAに80%の人が満足しているとします。この結果だけを見れば、満足度が「高い」と判断してしまうかもしれません。ですが、もしも競合他社のゲームBに95%の人が満足しているならば、むしろゲームAの満足度は「低い」と判断すべきですよね。

 

3)サンプルサイズ

定量調査では、どれくらいのサンプルがあれば本調査に十分なのかを考えます。スクリーニングをする場合には、本調査の必要数から逆算しましょう。

 

定性調査では、個別インタビューの場合は1属性あたり3人。グループインタビューの場合は1属性あたり4~6人が標準的です。

 

また、これら以外にも調査時期や調査会社、費用なども念頭に置いたうえで調査設計を進めていきましょう。

 

外部業者に調査を委託する場合には、サンプルサイズ(対象人数)が調査費用に大きく影響します。そのため、分析に必要なサンプルサイズと予算との兼ね合いは考慮が必要です。また、ネット調査の場合はサンプリング誤差も考慮しておくことが重要になります。

 

STEP6:目的を質問項目に落とし込んでいく

調査目的を分解し、対象者が回答できるような質問項目に落とし込みます。お客さまに対して何をどのように聴くのかをリストアップしていきましょう。この時点では、対象者が答えるような設問文である必要はありません。箇条書きの聴取項目リストを作成します。

 

質問項目の順番は、いくつか注意すべき点があります。

 

1)いきなり難しい質問をしない

「行動や経験」から質問を始め、次に「意識や態度」についての質問をすると、回答者が答えやすくなります。

 

例えば、スマホゲームで遊ぶ頻度や遊んでいるゲームの種類は、「行動の事実」なので答えやすいですよね。その後、遊んでいるゲームの評価や選ぶ際のポイントである「意識や態度」についての質問へ進むと、回答者にとって答えやすくなり、回答の負担が減ります。

 

2)重要な質問は前半に入れる

回答が進むにつれて、回答者の離脱率は高くなります。そのため、重要な質問はなるべく前半で行いましょう。質問内容が難しくなる場合は、簡単な質問の間に挟むなど、回答者の負担を減らす工夫をしましょう。

 

3)「性別」や「年齢」などの属性は最後に入れる

回答が容易である属性情報を最後に入れることで、アンケート離脱を防ぐことができます。

 

STEP7:分析軸を決める

性別や年齢などの属性、スマホゲームプレイ頻度などの行動軸、満足度別などの意識軸など、分析する軸を決めておくことで、調査目的のブレなどを防ぐことができます。

 

調査はすべて意思決定のため

最後に、マーケティングリサーチにおいて大切にしてほしいことをお話しします。

 

それは、調査とはすべて意思決定のためにやるんだということ。だからこそ、目的を見失わないことが重要なんです。なぜ集客したいのか、プロダクトをどう改善したいのか、プロジェクトをどう進めていきたいのか。

 

それを考えたうえで、アンケートやインタビューにおいて意思決定に役立たない質問を極力排除し、重要な要素だけを抽出するのが大事になってきます。

 

でもマーケティングリサーチって、正解(答え)がないんですよね。だからこそ面白い。生き物を相手にするからこそ、楽しさと大変さがあります。

 

例えば、「サービスに満足しています」と言っていたお客様が、突然やめてしまうことだってある。そんなとき、私は「なぜリサーチでこのお客様の不満をちゃんと吸い上げられなかったんだろう」と考えますし、より精度を上げられるように質問の仕方1つにしても試行錯誤します。

 

実は、調査って「人を知る」ことなんです。これからも、もっと人のことを知りたい。私はそう思いながら仕事をしています。

 

 

DeNAでは一緒に働く仲間を募集しています

DeNA キャリア採用

 

執筆:中薗昴 編集:下島夏蓮 撮影:鈴木智哉