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ヘルスケア領域にかけるDeNAの本気。データヘルス×データ利活用のシナジーを生み出すために

2022.12.27

多様な事業を手がけるDeNA。中でも今、より一層力を入れている領域が、ヘルスケア事業です。

健康保険組合や自治体に提供しているヘルスケアエンターテインメントアプリ『kencom』などを手がける「データヘルス」。そして健診やレセプトデータ(※)を解析、医療アクセスの改善などに活かす「データ利活用」。この2本柱を着実にスケールさせるとともに、シナジーも生まれ始めています。

この事業体制とシナジーを形づくった旗振り役に、幡鎌 暁子(はたかま あきこ)の活躍がありました。

ヘルスケア事業の点と点をつなぎ合わせ、大きなうねりを生み出し、2021年には社長賞も受賞した幡鎌に、その裏側と「DeNAだからこそ感じている」と明言する、仕事の醍醐味について聞きました。

※……レセプトデータ。医療機関が患者に対しておこなった医療行為や傷病名などの詳細データを指す。通称「診療報酬明細書」。

ヘルスケア事業を「データヘルス」と「データ利活用」の両輪で加速させる

――幡鎌さんが部長を務めている「DeSCヘルスケア データユーティライゼ―ション部」は、どんな仕事をする部署なのでしょう?

DeNAのヘルスケア事業部が扱うさまざまな医療データを利活用した「データ利活用」事業を管轄するのが、私たちの仕事です。

ただ、私自身はこのデータ利活用事業の立ち上げとともに、ヘルスケアエンターテインメントアプリ『kencom』などを扱うデータヘルス事業とのシナジーの創出をミッションとして、続けています。

――そもそもDeNAのヘルスケア事業は「データヘルス」と「データ利活用」の、大きく2つに分かれている?

そうです。もともとはデータヘルス事業からスタートしています。

ヘルスケア・メディカル事業では、当初から先に述べたDeNAの強みを活かしたサービスを提供してきました。ゲーミフィケーション要素を取り入れ、「運動したくなる」「食事に気をつけたくなる」といった行動変容を促すアプリ『kencom』や現メディカル事業部の遺伝子サービス『MYCODE』がそうです。

 幡鎌 暁子
▲ DeSCヘルスケア データユーティライゼーション部 部長 幡鎌 暁子(はたかま あきこ)
東京理科大学大学院卒業後、MRとして大手製薬会社に就職。医療ビッグデータコンサルティング営業を経験した後2019年5月にDeNA入社。現在兼務でDeSCヘルスケアデータユーティライゼーション部部長、ウェルネスマーケティンググループのマネージャー、DeSCヘルスケア事業開発室室長を担いながらデータホライゾン社との取り組みにも携わる。DeNAヘルスケアのホームページに掲載している幡鎌のインタビューはこちら

とくに『kencom』は、すでに100を超える健康保険組合や自治体などのユーザー向けにカスタマイズして提供しています。いわばB to B to C向けで、エンドユーザーはサービスやアプリを使う一般の方々になります。

――もう一方の「データ利活用」は?

『kencom』ユーザーの方々の属性データとライフログ、その他の健康保険組合が持つ健診データといった医療ビッグデータをDeNAのデータサイエンティストが解析。医療アクセスの改善などに活かすのが、データ利活用事業です。

クライアントは製薬メーカーや大学などの研究機関。こちらは、完全にBtoB向けですね。そもそも私は2019年に入社したのですが、データ利活用事業を立ち上げるため、ジョインしたのです。

――『kencom』経由で取得したデータを創薬などに活かす。反対に解析したデータをエビデンスにして、アプリコンテンツに活かす。そんな両輪を持つことによるシナジーが生まれるわけですね。

そのとおりです。『kencom』ユーザーの属性とともにライフログまで追えますから、サービスの利用(介入)によってどのように行動変容したかというデータが集められます。

集積されたデータにデータサイエンスの力を借りれば、「こういう属性の方には、こうした疾患のリスクがある」「この予防法をこれくらい実施するとリスクが減る」といったことまで見えるようになります。もちろん、アカデミアの先生からのご助言や監修は必要ですが、パーソナライズしたコンテンツ・サービスが可能になります。

一律に「健康にいいので、1日8,000歩以上歩きましょう!」より「こういう属性で、こういう健康状態のあなたは、1日3,000歩から歩いたほうがいいです」と示されたほうが、ぐっと行動変容しやすくなりますよね。

――確かに。そうして「データ利活用」と「データヘルス」の両輪を回し続けることで、日本全体を健康にしていくわけですね。

もっとも……最初からスムーズに連携したわけでなく、簡単にはシナジーを生み出せませんでしたけどね(笑)。

同じ方向を向かせた“ことに向かう”姿勢

――データ利活用とデータヘルス事業部が最初はうまく連携できなかった理由はどこにあったのでしょう?

「それぞれのお客さんが別なこと」に尽きます。健康保険組合や保険会社と向き合うデータヘルス事業側が、データ利活用事業のために「クライアントにデータを使わせてほしい」と積極的に頼む誘引が見えにくかった。

逆にデータ利活用側も、分析するためのデータは欲しいけれど、クライアントである製薬会社やアカデミア(※)へ目が向いていますからね。データヘルス事業側には「データを活用するためにお預かりしてきてほしい」とは伝えても、その先にこんなシナジーが期待できる、とまで提示することが難しかったのです。

※……アカデミア。一般的に基礎研究を行う国の研究機関を指す。

――中長期的には連携したほうが互いにメリットがあることはわかっても、近視眼的になりがちだったと?

実際、私は前職でも医療ビッグデータのコンサルを請け負うベンチャー企業に在籍していたのですが、レセプトのデータを解析する部門と、アプリ・サービスを手掛ける部門の間で、やはり溝があるように感じていました。

具体的な例でいうと、ウォーキングイベントを実施するとしてユーザーの希望する月にそれを行ってしまうと、そもそも季節変動のある歩数がイベントの効果なのか、季節要因によるものなのかわからなくなり、統計結果にバイアスが生まれてしまいます。そのため、DeSCではウォーキングイベントを春と秋に固定して開催しています。そのおかげで『kencom』の歩数増加効果の論文(※)を出すこともできました。

※……「kencom」で得られたヘルスビッグデータをもとに「歩数」と健康診断などで行う検査の結果数値との関連性についての研究・成果に関するプレスリリースはこちら

――前職時代から見えていたハードルを超え、DeNAではどのように両輪を連携させたのでしょうか?

シンプルです。それぞれのクライアントに対して、メリットを「見える化」して提示できるようにしました。

データ利活用の部門には、本当に優秀なデータサイエンティストが集まっていて、分析のクオリティの高さは日本屈指。まずその分析レポートを、データヘルス側のクライアントに沿った形で再編集して見せられないかと、思案しました。

幡鎌 暁子

プロジェクトを立ち上げて、データヘルスのチームとともにクライアントの健保組合や自治体の方々にヒアリング。健保組合なら自社の社員の労働生産性損失の改善や、施策検討につながるデータや見せ方、自治体ならばそこでも、といった具合にカスタマイズした資料を作成したのです。

――それを持って、データ利用のご提案をしに行ってもらったのですね。

データ利活用の仕事としては、分析レポート提供や学会発表、論文化までの伴走で終わってしまいがちです。その課題感の解消の一歩として、健康保険組合向け、自治体向けなどに学会発表や論文化からどのようなことがわかったかをお伝えしたり、どのような課題解決が期待されるかといったフィードバックのレポートを作成し、ご提供していくようにしました。

――具体的にどのように資料を作成したのですか?

たとえば、データ利活用事業部で「片頭痛の研究」を請け負ったことがありました。

片頭痛に悩まれている人は多いのですが、調査すると、頭痛の症状があると回答されているにもかかわらず、実際に病院に通っている方は1割程度しかいないことがわかったのです。また、若い年代ほどその傾向が強いこともわかりました。もしかしたら、病院で予防や治療ができることを知らずに、市販の薬を飲んで我慢している方がいるのかもしれません。

健康保険組合向けならば、健康経営の文脈で「片頭痛などに悩む社員がいたら、むしろ休暇を積極的に取得してもらい、医療機関へ行ってもらったほうが労働生産性が上がるかもしれません」と提案できる資料を用意する、といった具合です。

もし、“予防や治療できることを知って受診する”という行動変容につながる方がいれば、それが医療アクセスの改善の一つだと思います。

――それなら「データ提供をしたい、自分たちにもメリットがある」とわかりやすく伝わりますね。

実際に「それならば……」とデータ提供に前向きな団体が、少しずつ、着実に増えていきました。

同時に学会発表の論文で、我々が手掛けたデータをご活用いただいたエビデンスの発表も増えました。学会発表については現在42報以上、学術論文も10報ほど出始めています。投稿準備中のご連絡も多数いただいています。

実績が出てくると、さらにデータも提供していただきやすくなるし、協力していただける機会も増えてくる。2年ほどかかって、ようやくいいスパイラルが生まれ始めています。

――とはいえ、良い資料をつくって渡したとしても、実際にそれを持って動く現場のスタッフを動かすのは大変ではなかったのですか?

いえ。そこに関してはDeNAの凄みを感じました。

狙いを話し、資料をつくり、「データヘルスとデータ利活用は両輪を回すとこんなメリットがあるので」と想いや我々のミッションとして伝えると、誰しも聴く耳をすぐに持ってくれて「ヘルスケアでそういうことがやりたかった!」とすぐさま共感してくれたんです。

「一人ひとりに想像を超えるDelightを」というDeNAのミッション。そして、共有している“ことに向かう”価値観が本当に浸透しているんだなと、感動しましたね。

データホライゾン社とのアライアンス実現に向けて

――今年TOBで子会社化した、株式会社データホライゾンとの提携はヘルスケア事業を躍進させる、極めて大きな機だったと思います。幡鎌さんがアライアンスを担当した一人だったそうですね。

株式会社データホライゾン(以下、データホライゾン社)は日本全国の自治体が持つレセプトデータを標準化し、独自の特許技術である医療費グルーピングを用いた医療費分析や透析導入を抑制する重症化予防の保健指導を得意とする企業です。

同社の特徴はやはり全国の自治体とつながることで、高齢者層のデータをお預かりしていること。ぜひ共創を果たしたいと考えました。

というのも、2019年当時まで『kencom』は健康保険組合を中心に採用されていましたが、それだけでは高齢者、とくに75歳以上の後期高齢者層の医療ビッグデータにはまったくアクセスできなかったので。

――高齢者のデータがとれない、とはどういうことですか?

健康保険組合の加入条件は75歳未満までです。75歳を超えると後期高齢者医療制度の被保険者となるからです。ようするに、当時我々がリーチできていた健康保険組合のデータは、75歳を超えると、まったく見えなくなった。ところが、製薬会社や研究所からは「高齢者の治療実態を知りたい」といったニーズがあります。高齢になるほど病気のリスクは高まりますからね。

これまでは、75歳以上の方の実態は医療機関や薬局のデータから把握されてきました。しかし、患者様の施設移動により追跡できなくなる課題も共存していました。そのため、保険者データにより急性期と日常診療を一体的に把握することで、全世代の実態を把握することが期待されています。

――なるほど。自治体のレセプトデータを多く扱うデータホライゾン社ならば、データ利活用で最もニーズが高い高齢者の方々の医療ビッグデータにリーチできるわけですね。

ひいては医療や健康にまつわる社会課題の解決に大きく近づけることになります。未充足の健康課題や、プライマリーバランス(※)の問題も含めて。またデータヘルス事業部としても、全国の自治体に『kencom』を導入していただきたい想いもありました。レセプトだけでは、生活者の困り事の本質まではわからないですから、『kencom』を通じてより多くの声を届けていただきたいんです。

実はちょうど自治体向けの提供を始めた頃で、現在メディカル事業本部の田中 俊郎 副本部長と私がオフィスの席で隣同士でした。各自治体を一つずつあたっていく難しさを感じていたときに、私がデータホライゾン社の話をしていたら「データヘルスにも利活用にも共創できたら大きいね」と話がはずんで、提携に動き始めた経緯があります。

※……プライマリーバランス(Primary Balance)。社会保障や公共事業をはじめとする、さまざまな行政サービスを提供するための政策的経費を税収などで賄えているのかどうかを示す指標。

――そして2020年4月に業務提携。2020年8月からデータ利活用サービスをローンチさせました。

僭越ながら、今度はデータホライゾン社の営業の方々に、「自治体の方々からデータ解析を通してエビデンス創出のための活用をさせていただきたい」とお願いをさせていただきました。

北は北海道から、南は広島まで。「なぜデータが必要なのか」「データがあると何ができるのか」「自治体にどんなメリットをお戻しできるのか」といった営業担当者の皆様のお声に応える形で、データホライゾン社の4拠点を周り、30分×全12回に渡り「データ利活用によってできること」についてお話しました。

回数を重ねるごとに現場のみなさんも「そういうことだったら」と共鳴いただけたのはうれしかったですね。

DeNAの本気を知らしめた“データ母数800万人越え”

――想像以上に泥臭いというか、コミュニケーションを大切にされたんですね。その結果として、それまで数十万人だった分析データの母数が、翌21年には800万人分に上ったと。

状況ががらりと変わりました。

それまでアカデミアの先生方や製薬メーカーの方々からは、「取り組みはすばらしい。けれど、対象疾患のn数が足りないんだよね」と言われ続けていたんですね。一般的な生活習慣病のデータでも、母集団として500万人くらいのデータがないとと分析できないと言われていますから。

しかし、ここで800万人を超えたときは、先生方や製薬メーカーの方々がざわついて、「頑張りましたね」と、見る目が変わったのを感じました。DeNAとしても本気でヘルスケア事業に取り組もうとしていることが伝わった瞬間でした。

事実、引き合いが増え、また社内のヘルスケア事業における解像度が高まったタイミングもあって、他社とのアライアンスの相談もうんと増え、またこちらからもご相談しやすくなりました。

――まさに潮目が変わった。先導した幡鎌さんは2021年末には社長賞も受賞されたそうですね。

光栄でした。同時に「まだ道半ばで、始まったばかりなのにいいのかな?」との気持ちもありました。事業をサポートしていただける流れをつくっていただいたので、もちろんよかったのですが、本当にまだこれからだと感じていますからね。

DeNAのヘルスケア事業としても、私のライフワークとしても。

知らないことで損をする人を一人でも減らしたい

幡鎌 暁子

――もともと幡鎌さんは、子供の頃にお祖母さまを癌で亡くされた経験から、医療系の道を目指して、今にいたると聞きました。

最初は創薬の研究者を志したのですが、大学院を卒業してから製薬会社のMRに。その後、先に述べた医療ビッグデータのコンサル企業に転職した後、DeNAにたどり着きました。

一貫しているのは、より多くの一般の生活者の方々にヘルスケア領域で貢献したい、ということ。そして医療情報などで「知らないことで損をする人を一人でも減らしたい」ってことなんです。

DeNAのアセットがあれば、まだまだいろいろなことがスピーディに形にできる。とにかく突き進んでいきたいですね。

※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。
※本インタビュー・撮影は、政府公表のガイドラインに基づいた新型コロナウイルス感染予防対策ガイドラインに沿って実施しています。

執筆:箱田 高樹 編集:若林 あや 撮影:小堀 将生

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