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なぜDeNAがヘルスケア事業をやり続けるのか。想い新たに強める、未来へのビジョン

2022.12.21

DeNAにヘルスケア事業が立ち上がった2014年から9年。代表的なサービスであるヘルスケアエンターテインメントアプリ『kencom』はリリースから8年を迎えました。

9年をともに駆け抜けてきた瀬川 翔(せがわ しょう)。現在事業本部長として、ヘルスケア事業と組織を率いています。

そのヘルスケア事業に、この数年で大きな動きがありました。大型の業務提携契約、協業、相次ぐM&A。DeNA内には新たにメディカル事業本部が、2022年10月に創設されました。

事業本部長の瀬川はDeSCヘルスケアのトップと兼任で、新たにグループに迎えた2社、株式会社データホライゾンの代表取締役、日本テクトシステムズ株式会社の取締役に就任。新体制となって挑戦し続ける瀬川にとっても、キャリアの転機かもしれません。

DeNAのヘルスケア事業はどこへ向かうのか。対峙する社会課題を解決する道筋と、事業にかける熱量の源を、「ヘルスケアはライフワーク」と言う瀬川に聞きました。

変わらぬミッション、変わる組織

――改めてヘルスケア事業のミッションをお聞かせください。

「なぜDeNAがヘルスケア領域に取り組むのか」が、その答えになると思います。DeNAのエンターテインメントやスポーツで培ってきたノウハウを健康・医療の課題に対しても活用することで、社会課題の解決の貢献していくことを目指しています。具体的には、“生活者の健康寿命を延伸、幸せに生きる時間を延ばす”をミッションに、エンターテインメント・デジタルを活用したサービスで行動変容、健康増進をサポートすることをに取り組んでいます。

――変わらないミッションがある一方で、9年での変化もあるのではないでしょうか。

ヘルスケアサービスで、生活者の方を行動変容するところから始まり、より広い産業分野での社会課題に貢献しようとする中で、先ほどの問いの「なぜDeNAがやるのか」の裏返しで、単独では難しいことの境界線をすごく感じるようになりました。

そこで、ここ数年は、2つのアプローチに注力しています。1つは企業や自治体、研究機関などさまざまなパートナーの方々と協業すること。もう1つはDeNAとまったく違うアセットを持つ企業にM&Aという形でグループに入ってもらい、連合体として課題解決をしていくことです。

 瀬川 翔
▲ヘルスケア事業本部本部長 瀬川 翔(せがわ しょう)
2010年DeNAに入社。Eコマース分野で新規事業立ち上げ、事業責任者を経て2015年よりヘルスケア事業に参画。2022年10月より現職に就任。データホライゾン代表取締役、DeSCヘルスケア代表取締役社長、日本テクトシステムズ取締役も担う。

――直近の大型M&AやDeNAにメディカル事業本部が新設されるなど、新たなステージの幕開けを感じさせる動きがありました。

ヘルスケア領域の課題解決に取り組む際、ステークホルダーには大きく、生活者、保険者(健康保険事業の運営主体)、医療者、そして製薬企業・保険会社などをはじめとするヘルスケア産業の方々がいます。

従来から生活者・保険者の方向けのサービスを行っていましたが、その中でもより高齢者・自治体に注力していくために、自治体向けサービスでシェアトップの株式会社データホライゾン(以下、データホライゾン社)にグループに入っていただきました。また、医療者の方の課題解決にも挑戦していきたい、という想いから医療ICTベンチャー・株式会社アルムにもグループに入っていただいたのが最近の動きです。

10月から生活者と保険者さんと一緒に取り組むものをヘルスケア事業。医療者と取り組んでいくものをメディカル事業とセグメントした新体制になりました。もちろんお互いに協業もしていきます。

――メディカル事業本部と協業から生まれるシナジーは?

ヘルスケアとメディカルが協業し、同じ基盤を持って事業を推進していくことで、利活用できるデータが蓄積されます。そのシナジーから製薬企業などにお役に立てることが増えてくると考えています。

DeNAが今後もヘルスケアやメディカルの事業をしていく中で、自治体は欠かせない存在です。5年前のヘルスケア事業は、アプリなども含めて若い方向けのアプローチをしていました。しかし、今後は高齢者の方々にも行動変容をしていただける取組みにできなければ、真の意味での社会課題解決にはなりません。それは日本の人口における高齢者の割合がものすごく増えているからです。

また日本の制度では、企業を退職した65歳以上の方は国民健康保険に入ることになるので、保険事業の観点でも地域や自治体を巻き込むことが重要。国が標榜する地域医療構想を実現するためには、自治体を巻き込んで地域と医療者を結び付けることが必要です。

自治体を巻き込み、高齢者にアプローチ

――高齢者に対してDeNAはどのようにサービスを提供していくのでしょうか。

事業開始当初は高齢者の方にデジタルサービスを使っていただくのは難しいと考えていましたが、色々なことをチャレンジする中で少しずつ手応えを掴んでいます。

瀬川 翔

たとえば、DeSCヘルスケアが提供するヘルスケアエンターテインメントアプリ『kencom』は60代・70代の方にもたくさんご利用いただいています。最初の登録の仕方が難しいというご意見など、まだまだ課題も多いですが、一度使い始めていただくと多くの方が数年後も継続いただいています。若年層だけではなく、高齢者の方にもデジタルの力で行動変容をサポートできている点は、ユニークだと思っています。

――『kencom』以外で、高齢者と自治体という軸ではどんなサービスがありますか。

昨年、新たにDeNAグループに入ってもらった日本テクトシステムズ株式会社は、認知機能に関するサービス『ONSEI』を提供していて、利用の過半数が高齢者の方々です。

最近ではNTTコミュニケーション株式会社へAPIを提供し、電話で20秒質問に答えるだけで認知機能の状態を判定できるサービスを提供しました。すると、1週間で30万件もの電話があり、さまざまなメディアでも取り上げていただきました。『ONSEI』は、もともと自治体にも導入されてきており、たとえばシルバー人材センターで高齢者の方向けに仕事を紹介する際、このサービスを活用いただくトライアルも始まっています。

実際、このトライアルで認知機能チェックをいただいた方の1割に認知機能の変化が見られて、理由をお聞きすると、前日寝不足だったという声などが聞かれました。「認知症」かどうかの手前で、日々の生活等で脳の健康度合いにも変化があり、それを手軽にセルフチェックできる意義を改めて感じています。

――高齢者向けサービスの重要性が浮き彫りになっていますね。

グループに入っていただいたデータホライゾン社では、糖尿病を患っている方に透析が必要な段階に入らないようにする事業をしています。

透析は1人当たりの医療費が年間約1,000万円かかり、通院などで生活者のQOL(※)が著しく低下します。同社が広島県呉市でこのソリューションを10年提供したことで、透析が必要な段階に至る患者さんの数が約1/3まで減ったという結果が出ています。

医療費や保険に目を向けると、企業の健康保険組合の加入者の多くは30代・40代で大きな病気はあまり発生しませんが、高齢者が多く加入する国民健康保険から支払われる医療費は企業健保の3倍以上。解決する問題の大きさが圧倒的に違います。

私がヘルスケア事業をやり続けて思うのは、高齢先進国の日本にはソリューションの幅があり、検証や成功事例が作りやすいということです。世界に先駆けて我々が成功事例をつくりグローバルに活用することで、高齢先進国をポジティブな意味合いとして先陣を切って課題解決できるようになりたいですね。

※……QOL(Quality Of Life)。生活の質を指し、WHOでは「自分自身が生きている文化や価値観。目標・期待・基準・懸念に関連した自身の人生に対する個人の認識」としている。

ダイバーシティが強い、IT×ヘルスケア

――組織についても聞かせてください。ヘルスケア事業部はどのようなメンバーで構成されているのですか?

半分はDeNAのエンジニアやサービス担当者などのIT企業イメージ通りのメンバー。もう半分は元々製薬会社、自治体などの立場からヘルスケア産業に関わってきたメンバーです。

採用を強化していることと、M&Aによる、まったく異なるカルチャーの方々もいるので、ものすごく多様性がありますね。組織が停滞することなく循環していて、課題もたくさんありますが、私自身新しい気づきを日々もらっています。

――瀬川さん自身の働き方も変わったのではないでしょうか。

DeNA社内にいることは少なくなり、社外や今までDeNAに長くかかわっていない方々と働く時間のほうが長くなりました。そういう意味で、以前とは大きく変わっていますね。組織が少しずつ強くなり、いろんなメンバーと役割分担できるようになったからこそ、そういう転換ができていると感謝しています。

――どのようなモチベーションで、ご自身のキャリアを歩んできましたか。

入社時のECからヘルスケア事業への異動は、完全に転職した感じでした。2018年から事業全体の責任者をさせていただき、DeNAの中で事業をつくることや達成に向けてひた走る、おもしろさと緊張感がありました。

大きく変わったのはこの3年。M&Aを通じて、新しいメンバーたちと一緒に何かを成し遂げる経験をさせていただいたことです。これまでも協業経験はたくさんありますが、一緒に会社を経営することは違うんだなと実感させられました。協業は同じ目標に向かって走れる一方、計画・会計も違い、お互いに踏み入れない部分もあります。そういう意味では「お付き合い」としてのよさもあれば、限界もあります。M&Aはすべてが一緒で、言うなれば“結婚”なのかもしれません(笑)。

データホライゾン社の場合は、協業から始まり、出向し、最後はDeNAグループに入っていただきました。同じ目標を追うし、数字・会計も一緒です。お互いに同じヘルスケアの課題解決を目指す企業という意味で根っこの想いは同じ一方、それぞれの会社で文化や風土はまったく異なります。経営スタイルや会社の存在意義も含めて、DeNAとは違うカルチャーに経営の立場で触れさせていただきながら、一緒に何かを成し遂げていこうとするおもしろさを実感しています。

当たり前ですがDeNA一社でできることの限界を実感して、いろいろな方々としっかり手を組むことで、よりよく幅広い課題解決をしていく自分自身を今はおもしろがっています。

瀬川 翔

――相手に寄り添いながらも、DeNAのスタンスとして大事にしていることは?

一緒にやりたいことがあってグループに入っていただいたので、お互いにリスクも取りますし、目的の達成に全力を出してもらうことですね。M&Aを結実させるところから携わっていますが、それで満足するのではなく、一緒になってからが勝負。それを、今、すごく感じています。

事業の結果のデータ利活用でなければ、やる意味がない

――ヘルスケア事業の代表的なサービス『kencom』が、今日に至るまでにどんな困難があり、それを乗り越えて、どう発展したのか教えていただけますか。

『kencom』を1回使えば継続してもらえる仕掛けは、ゲームを含めたノウハウでできていますが、ヘルスケアアプリの難しいところは、意識が高くない大多数の方々にどうやって使ってもらうかが最初に苦労したところです。

今は自治体でどうやって使ってもらうかに腐心しています。これは英語習得と同じで、すごくいい英会話教室やアプリがあると言われても刺さらない人が多いけれど、職場でTOEICの高得点を取らないと昇進できないという圧力がかかると皆やりますよね。健康もそれと似ていて、主目的を他のことに置き換えてもいいから、「アプリを使う」という行動変容のきっかけづくりさえすれば、その先の継続は私たちの得意分野です。

『kencom』も最初の目的は、町ぐるみ・職場ぐるみのコミュニケーション活性のためにオンライン上で行う歩くイベントを、アプリを使ってやってもらうことでした。最新では30万人近くものユーザーが参加しているので、おそらく日本最大級の歩くイベントをやっていると思います。他社でもゲーミフィケーションを取り入れたヘルスケアアプリをつくっていますが、机上の理論でやっても外れることが多く、すぐに尻すぼみになります。

私たちはビジョンでやっているので、どれだけ時間がかかってもやり切るスタンスが、今もありますね。

――この姿勢はこの先も続き活かされていくことと思いますが、新たな事業のビジョンは?

アプリケーションによるヘルスケアサービスで解決できるところは、私たちにできる範囲がクリアになってきました。それを超えるためには、事業の深さと広さの両方が必要です。

たとえば、いくらヘルスケアアプリで健康増進をサポートしても、病気になる人はどこかにいるので、また違う形でサポートしなければなりません。広さと深さを追求しながらもっと大きな社会課題の解決をしたいと思っています。自分たちでできることはこの先10年でもやり続ける覚悟はあるし、その限界も知りました。この先は他社と手を携えて大きな課題解決をやっていくフェーズにようやくたどり着けた、ということかもしれません。

――社会では医療ビッグデータの利活用が求められていますが、それはまた別のお話ですか。

もちろんつながっています。データ利活用は各社でも参入・事業拡大され、魅力的な市場だと思われていますが、私たちは“生活者にソリューションを届ける。保険者と一緒にそれを届ける”というビジョンがある。活動をやり続けることで“結果として”エビデンスやデータが蓄積していきます。それを間接的により幅広く、多様な方々に活用していただくことで、私たちだけではできない課題解決を一緒にできると思っています。

直接的には保険者と一緒に、生活者にヘルスケアのサービスやソリューションを提供していくこと。その結果であるエビデンスやデータを、間接的に製薬企業や研究開発機関とともに、社会課題を解決していくこと、文字通り「サービスとデータの両輪」で取り組むことが私たちの存在意義です。

子どもたちの未来のために今、課題解決を

――瀬川さんにとって「ヘルスケア事業」とは?

瀬川 翔

10年近くやっていると、もうライフワークですね。もともと関心が高かったわけではなく、当時南場さんから「『MYCODE』をよろしく」と言われて「こんなサービスがあるんだ」と思ったくらいでした。ヘルスケア業界のこともゼロからでしたが、やり始めてみるとその必要性と一人でも誰かの行動変容・健康増進に関われる意義やおもしろさに取り憑かれていきました。

私の祖父が認知症になったのがちょうど10年前で、当時93歳から103歳で大往生するまで母たちが介護をしていました。当社でも掲げる「健康寿命の延伸」とは、現状約10年ある健康寿命と寿命の差を短くすることです。10年をゼロにするのは難しいかもしれないけれど、その差が半年でも、1年でも短くなると一人ひとりの人生がより充実したものにできる、と自身の家族を通じてもより感じました。

課題解決のテーマが大きいからこそ、マクロの視点とミクロ(個人)の視点、どちらも大事だと思います。

――この10年で、社会やマーケットにも変化があったのではないでしょうか。

日本の人口構成が変わってきているし、医療費が10年間で10兆円ほど増えています。先ほどライフワークと言いましたが、自分ごと化せざるを得ない課題と向き合いながら、よりよい社会にしたいというモチベーションがありますね。

今後10年で起こることもほぼ予測されています。出生率はこれくらいで高齢者の割合はこれくらい、医療費はこうなりますと。10年前には「メタバース」という言葉が今ほど普及していなかったように、ゲームやITは10年後の市場予測をすることが難しい。それに比べ、ヘルスケアは人口動態や医療費の増加ペースなどほぼ予測が可能なところが多いですよね。

ヘルスケア関連の市場は今後も「安定して拡大」していくと言われています。逆に言えば、それは「このままでは間違いなく課題が大きくなっていく」ことでもある。これから医療費が増大し続け、負担が増加していく可能性もあると。次の世代の子どもたちに“残したいと思える未来”をつくりたいと、自分に子どもが生まれてすごく感じるようになりました。

――それが熱量の源ですね。

今の日本では風邪を引いても家計が傾く心配はないし、病気をしたら家の近くで診てもらえる病院がありますが、それは自分たちの親や祖父の世代が整えてくれたことも大きい。その分、娘たちから将来「課題があるとわかっていたのに、どうして何もしてくれなかったの?」と言われたくないなと。ある意味では娘たちからの圧力です(笑)。「お父さんっていい仕事してるね!」と言ってもらえるよう頑張りたいです。

――ビジョンの実現に向けて、どんな人と一緒に働きたいですか。

“やり続ける人”ですね。

課題は明確ですが、それを解決する方法は先行事例が少なく、自分たちが見つけなければいけないことが多いです。過程では失敗も多いですが、やり続けた結果、着実に進んでいるという手応えもあります。そういう意味で、“未来に対しても必ずやり切り、失敗も楽しめる人”ですね。今健康や医療に興味がなくても、必ずどこかで自分ごと化できるタイミングがあるし、困っている生活者に触れれば一発でスイッチが入ります。

データホライゾン社の創業者、内海社長は「私はこの領域で失敗したことがない。なぜなら成功するまでやり続けているから」とおっしゃっています。パートナーや新たにグループに入っていただく企業も含めて、そんな想いの人材・事業の掛け算ができればもっと楽しいし、それを実現していきたい。そんな想いで今、これまでで最高にわくわくしています。

※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。
※本インタビュー・撮影は、政府公表のガイドラインに基づいた新型コロナウイルス感染予防対策ガイドラインに沿って実施しています。

 執筆:さとう ともこ 編集:若林 あや 撮影:内田 麻美

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