昨年、横浜DeNAベイスターズ営業部で活躍をみせた新入社員がいます。
営業戦略・推進グループに配属後、営業職の中に一人混ざって挑んだテレアポレースで優勝。自ら始めた全社規模の1on1では、事業部を超えてこれまでに約180名ものメンバーとつながりました。
また、アプローチ企業のリスト分析・精査を行い、シーズン開幕3連戦「OPENING SERIES 小口協賛」の新規申し込みを過去最高に引き上げ、売上においてもコロナ前の水準まで回復。21年度社長賞・新卒MVPを受賞しました。
スマートさと逞しさ、そして思いやりをのぞかせる石井 茉南(いしい まなん)は、理工学研究科博士課程を修了。学部4年次から6年間にわたって取り組んできた研究から、領域の異なるDeNAに飛び込んだ動機は?──今、石井の目にDeNAはどう映っているのか、率直な声を聞きました。
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個人の取り組み、“全社的1on1”がもたらすもの
──石井さん自らの発案で取り組んでいる1on1、これを始めたきっかけは?
「社内テレフォンショッキング」ですね。新卒入社で横浜DeNAベイスターズ(以下、ベイスターズ)の営業部に配属になりましたが、部署の人を全然覚えられなかったんです。コロナ対策で全員マスクをしているし、ランチなども一緒に行けなかったし……。どんな人がいて、どういう仕事をしていて、何が得意なのかなどは、きちんと話してみないとわからないと思い、昨年7月にスタートしました。
1on1で話した人に、次の人を紹介してもらう形式で進めていて、ベイスターズの木村 洋太(きむら ようた)社長や三原 一晃(みはら かずあき)球団代表、チーム統括本部の萩原 龍大(はぎわら たつひろ)本部長とも、この流れでお話することができました。
──それを全社に広げていったわけですね。
1カ月ぐらいかけて、営業部の約20人全員と1on1をしてそれぞれのことがわかったら、周囲の解像度がより高くなりました。自分の居心地もよくなり、仕事もしやすくなって。それを上長に伝えたら、「他の部署でもやってみたら?」と。
そこから4本のラインをつくり、同時に走らせています。職種、役職、年代は幅広く、本社の各事業部ともつながって、今180人ぐらいに達したところです。
──1on1で印象に残った話はありますか?
仕事の内容に関する話はもちろん毎回勉強になりますが、話し方の方がより強く印象に残りますね。あっという間に予定時間の30分が経っていることがあり、振り返ると相手が話しやすい空気をつくってくれていたり、私のリアクションが大きかったものを深掘りしてくれて、逆に質問をいただいたり。
そういう気遣いを自分も身に付けたいと思っています。仕事で絶対に大事なコミュニケーションの取り方を学ばせてもらっています。
──DeNAはコミュニケーションが取りやすい社風ですか?
そこがプラス面での入社前とのギャップです。最初は個々が独立して仕事を進めているイメージがありましたが、実際はケアを含めて、社員間でのコミュニケーションを大事にしている会社という印象です。
週1で雑談をする時間を設けたり、何か悩んでいそうなメンバーがいれば1on1で話そうかと提案し合ったりなど、コミュニケーションを通じて健全な組織を作ろうという雰囲気があります。「時間を取るから1on1で話そう」と言ってくださった方のカレンダーを見たら、予定でぎっちり埋まっていて(笑)30分だけ空いているこの枠を押さえてしまっていいのかなと思ったことはありますが。
こういう雰囲気があるので「社内テレフォンショッキング」を始めてみようと思えました。
エンタメ×社会課題解決を志し、研究室から異なる世界へ
──学生時代は、研究に打ち込んでいたそうですね。
慶應義塾大学の理工学部 電子工学科で学部4年次から、修士2年、博士3年の計6年間、材料の微細加工が可能な超短パルスレーザーを扱う研究をしていました。生体材料のレーザー加工の研究を行っていたのですが、研究室でそのテーマに着手したのは私が最初でした。
金属イオン溶液を染み込ませたハイドロゲル(※)にレーザーを照射し、還元させてゲルの中に金属の微細構造をつくる一連の実験で、ゲルを作るための材料の配合や薬品選定、レーザーのセットアップを組むところから始めました。コンタクトレンズ内の回路、身体にやさしい心臓ペースメーカーなど、バイオ・医療機器分野への応用が期待される基礎研究です。
※……ハイドロゲル。コンタクトレンズのようなやわらかい高分子材料。
──研究分野とはまったく違う、DeNAに飛び込んだ動機をお聞きしたいです。
当時は研究を続けるつもりでした。博士2年からの約1年は、同じ研究分野で著名な教授のいるハーバード大学で研究を進めていて、そこでの友人が、ボストンキャリアフォーラム(以下、ボスキャリ※)があることを教えてくれました。
研究職の求人があればと思ってホームページを見ると、なぜかDeNAが目に留まり、ちょっと気になって企業サイトのリンクをクリックして、ミッション・ビジョン・バリューを読んだ瞬間、「私、ここかも」と感じたんです。
※……ボストンキャリアフォーラム。毎年11月にボストンで開催される、日本語および英語が話せる人を対象とした就活イベント。
──直感的に?
そうです。社名は知っていましたが、どんな事業があるのかは全然知りませんでした。
──面談では何を話しましたか?
ボスキャリ当日の面接では、私が参加したグループディスカッションの様子について、「ディスカッションの形や流れについてどう思った?」などの、ごく自然な会話でした。
グループディスカッションでは、意見を出すことももちろん大事ですが、話の論点をずらしたり停滞させたりすることのないよう確実に前進させることも重要だと考えていて。
内容の軸がブレない程度にコミュニケーションしていたこと、またグループディスカッションを行う形や運営そのものに改善案を出したことがよかったのか、その場で内定をいただけてすごく驚きました(笑)。「本当に正直に素直に意見を言っている姿勢がよかった」と言っていただけて。
もともと面接で、企業に気に入られるために自分をつくるのは違うと思っていたので、ありのままの自分がDeNAに受け入れられたことが嬉しかったですし、安心しました。
──それで、DeNAに入社する気持ちが固まったのですか。
そのときは完全にDeNAに心が動いていましたが、後から冷静に考えたら、ボストンに来てまで研究を続けてきたのに、この数時間の心の動きで決めていいのかと。
これまでの人生を書き出してみながら、内定をいただいてから承諾するまでの約半年間はすごく悩みました。明確な理由と自信を持ってDeNAに決めたと、言えるようになるまで、一人で考え抜いて出した結論です。
──入社の決め手になったことは?
会社の姿勢や事業です。「エンタメ×社会課題解決」に魅かれました。私の研究は医療機器に関わるもので、人の役に立ちたいという思いがずっとありました。一方で、幼い頃から音楽、ライブ、舞台など、人が集まって楽しむものが好きで、エンタメやスポーツに触れて育ってきたこともあり、そこに携わりたいという思いも。
医療機器メーカーも検討しましたが、そういった機器を使わなければならない患者の方々が大勢いるということを考えると、いつか心が堪えられなくなってしまうかもしれないという気持ちもありました……。DeNAにはヘルスケア事業部があることを知り、「楽しみながら健康になる」ことを目的とした活動をしていたりで、自分にはこういうアプローチの方が合っているかもと考えました。
スポーツ観戦も含め、エンタメには「楽しかった。明日からも楽しく生きていこう!」と思わせる力があると思っています。自分自身が仕事を通じてハッピーになれて、さらに社会の役に立てる道を選ぶことが自分にとっての幸せかもしれないと。
営業の仕事を知らなければ、戦略は立てられない
──入社1年目はどのような業務をしていましたか。
ベイスターズの営業戦略・推進グループで新たなスポンサー収入の獲得に向けた業務を行っていました。説明会やイベントなどの施策を考えて実施したり、イベント試合の協賛や新規商材 (権益) を考えたり。
パソコンに向かって膨大なデータを扱うExcel作業をする時間もあれば、チケットを何百枚と数えて封筒に入れ、スポンサーに送ったり、ときには冠スポンサーの関わる部分で試合の運営に携わったりなど、何でも挑戦できて楽しかったです。
──オープニングシリーズの小口協賛の新規申し込みを過去最高に引き上げ、売上でもコロナ前の水準まで回復させたとか。営業職の領域でも成績を残したそうですね。
営業がわからないと戦略が立てられないので、営業チームのテレアポのコンテストに参加しました。題して「アポリンピック」。神奈川の企業に年間スポンサーになってもらえるように電話をかける施策です。営業職8人に混ざってアポ成立率を競いました。
成約率10%の目標設定でしたが、最初は断られてばかりで。このままでは全敗だと思い、営業メンバーに成約のコツを聞いたり、聞き耳を立ててトークを盗んだりしました(笑)。たとえば「行ってもいいですか?」ではなくて、「来週はいつ空いていますか?」と切り込んでいたので、自分もこれを実践してみたりして、要領をつかみました。
──逞しいですね。
断られても自分自身が否定されたと思わずに、たまたま営業部の石井が電話をしたら断られたと思うようにしていました。
「プロ野球球団の横浜DeNAベイスターズです」と言うだけで自信が持てたし、断られても「応援しているよ」とか「今シーズン頑張ってね」と言葉をかけてもらえることがあり、初めてお客様の声を直接聞ける経験ができたのでよかったです。
思考プロセスは研究と同じ。ビジネスはよりおもしろい
──改めて、21年度の新卒MVP受賞、おめでとうございます。
ありがとうございます。まさか自分が受賞するとは思っていなかったので本当に驚きました。部長とグループリーダーがすごく喜んでくれたので、私はそれが嬉しかったですね。
今年5月中旬に表彰式があり、その翌日が自分の結婚式だったので、2日連続で周りの方に「おめでとう」と祝福してもらえました。
──事業にもコロナの影響がありましたよね。
大きく影響しました。横浜スタジアムは満員で3万4000人ですが、コロナの感染状況によってチケット販売枚数が変動するし、それこそスタジアムがオリンピック会場だったので、開催されるか、されないかで対応が異なります。
ここで、これは研究と同じだと思いました。
──どういうことでしょう?
コロナ感染状況の対応策会議で、観客動員がフルの場合、半分、1万人、5000人、無観客などのそれぞれのパターンを考えなければなりませんでした。それに加えて、オリンピックが開催される場合とそうでない場合の、それぞれの想定対応を考えながら全てのスケジュールを決めてと、同時並行で準備を進めていました。
実は研究も同じで、一つの実験で結果を見てから次の実験内容を考える、という進め方ではほとんど上手くいきません。実験前から、「もしこのような結果が出たとしたら、次は何をする」と、あらかじめ仮説を立ててから進めるという考え方は一緒です。研究での経験を、仕事ではこういう形で活かせると発見できました。
──研究を捨てたわけではない?
やっていることや思考プロセスはあまり変わっていない、という意識です。
学生のときも薬品を使うとか、レーザーをうつことが好きだったわけではなく、どうしたらうまくいくかや、こういう結果を出したいからこういう実験をしようとか。自分の思い通りの結果になると嬉しかったし、それを分析して論文や学会に出せるところまでやりきることが好きでした。
研究と同じように、今はDeNAで自分の好きなエンタメやスポーツの領域でその過程を経験することができます。実際に、研究よりもむしろ、楽しくできていると感じています。
キャリアプランはあえて持たず、チャンスが来たら打つ
──新卒MVP受賞後は、ビジネス企画部に異動されたそうですね。
希望ではなかったので驚きました。私に異動を告げる営業部長が号泣され、それを見て自分も泣いてしまいました(笑)。ベイスターズの営業部は居心地がよく、異動したくないと思いましたが、慣れた環境を変えることもチャレンジですよね。
──新しい部署でのミッションは?
新規事業をつくることですね。部署といっても、グループメンバーもリーダーもいない、私ひとりだけで推進する、ゼロからスタートの職務です。ベイスターズの各部署が新しいことをやりたくても、今までなかなか着手できずにいたので、専任化することでアウトプットを出すことが求められています。
また、新規事業の立ち上げには、いろいろな部署を巻き込む必要があります。私が始めた「社内テレフォンショッキング」で体現しているように、他部署の方々と積極的にコミュニケーションを取っていくことも期待されていると思います。
──多くのメンバーを知る活動を1年間してきた今、石井さんの目にDeNAはどのように映っていますか。
DeNAは魅力的な組織で、きっとみんなが同じように魅かれてここにいると思います。今後はその想いの交わりやつながりで、さらにDeNA全体の可能性を伸ばせると感じています。各事業部で本当にいろいろなことを行っているので、社内でその掛け合わせがもっとできるはずです。
スポーツとゲーム、ヘルスケアとライブストリーミングなど、それだけで日本初、世界初の何かができるし、もっと新しいものを生み出せるようになっていくと思います。
──そのDeNAでどんな存在でありたいですか。
イノベーションを起こす人でありたいです。
「研究者」というバックグラウンドから来た自分がDeNAで通用するのか不安な中で、少しでも認めてもらえているのなら、研究で培った力をもっと発揮して、新しいものを生み出したいです。研究をしていたときのように、それを世界に出すところまで持っていくことが絶対にできるはず。
それを実現することによって、私のように博士号を持つ人がDeNAにもっと入ってきてほしいし、密かな野望ですが日本で博士課程に進む人がもっと出てきたら嬉しいですね。
──今後の目標は?
今話したような野望はあるものの、キャリアプランはあえて持っていません。目の前のチャンスを掴むとか、今やっていることの達成に、全力を尽くしたいので。5年後の目標を達成するチャンスが来年きて、まだ先のことだからと見逃したら4年間の損。いい球がきたらフルスイングしに行きます。
それに自分の性格上、決めなくても怠けないと思っています。何かをしていないと不安になるので。プランを立てなくても成長に向かっていけると、自分を信じています。
※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。
※本インタビュー・撮影は、政府公表のガイドラインに基づいた新型コロナウイルス感染予防対策ガイドラインに沿って実施しています。
執筆:さとう ともこ 編集:若林 あや 撮影:内田 麻美