幅広い事業領域をもつDeNAの根幹には、エンジニアの「モノづくり」に対する熱量と誇り、こだわり続けるクラフトマンシップが脈々と受け継がれています。
2022年は32名の新卒エンジニアが入社、3ヶ月にわたるエンジニア研修を修了しました。DeNAの新卒エンジニア研修は大きな変化を遂げた一方、「基本思想は変わらない」と、2019年から研修オーナーを担う平子 裕喜(ひらこ ゆうき)は言います。
22年新卒エンジニア研修に参加した二人のメンバー、田嶋 秀成(たじま ひでなり)と比嘉 風(ひが はやし)、平子を交えて、3ヶ月にわたる研修修了までのみちのりを振り返ってもらいました。
ハードスキルよりも「考え方」「学ぶ姿勢」を重視
──平子さんは2019年から新卒エンジニア研修を担当されて今年で4回目ですね。当時と今とでは、研修そのものが随分変化したとか。
平子 裕喜(以下、平子):2019年の研修(※)までは半年かけて5つのプログラミング言語の習得やそれを使用した課題制作、座学などのハードスキルを獲得することに重きを置いていました。特に、言語をマスターして扱えるレベルになるにはやはり時間がかかります。
20年新卒からはソフトスキルの習得に比重を置く方向へと、がらりと変えました。
※……2019年の新卒エンジニア研修のフルスイング記事はこちら(前編・後編)
──詳しく教えてください。
平子:まず、研修を終えたあと「エンジニアとしてどのような姿勢を身につけてもらいたいか」というところを定義し、研修プログラムを設計しました。
カリキュラムを終えたあとに、学習することに対してわくわくするようになったり、もっと学びたいと思えるようになったりしてほしいと考え、現在の研修期間は3ヶ月へと短くしました。「チームでどのように共創、協働していくか」「何をどのように学習するのか」といったところにポイントを置いた構成です。
実は、初めて担当した19年新卒エンジニア研修では反省点が多々ありまして(笑)。20年新卒の研修コンセプトを決めるにあたり、19年新卒メンバーの意見がかなり参考になるだろうと考えて、彼らにヘルプ要請を出してみたのです。多くの人が手を上げてくれて、骨子を決めることができました。
研修内容は年々バージョンアップしていますが、基本思想は20年新卒の研修以降、変わっていません。
──ハードスキルに関しては新卒研修で学ばなくてもエンジニアとしての業務に支障はない、という判断をしたのですね。
平子:エンジニアリングの世界は技術トレンドの移り変わりが激しいことはよく知られていますよね。VUCA時代とも言われているとおり、内外の変化によって新しい技術が次々と誕生しています。その変化にどのように対応していくか、というのは常にエンジニアに突きつけられる課題です。
そこで、22年新卒エンジニア研修は「考え方」や「姿勢」といったソフトスキルを身につけてもらう方向に転換しました。常に新しい技術を学びたいと、いつも自発的に思っていてほしい。それが今年の新卒エンジニア研修の大きなテーマでした。
──エンジニア研修を担当する組織体制も変わったとか。以前よりも研修生に対してサポートが厚くなったのでしょうか?
21年卒研修まではヒューマンリソース本部(以下HR本部)が主幹となって新卒エンジニア研修を行なっていましたが、今回の22年新卒からは、主幹部門をCTO室(※)に移行しました。今までもCTO室がサポートに入ることはあったものの、主幹部門が変わったことによって、より一貫してエンジニア職に添う研修内容を設計・実行することができました。
また、以前は2〜3人でエンジニア研修を担当していましたが、現在は私もHR本部とCTO室の仕事を兼任するようになり、人数も増えたので一人ひとりの研修生に対して、よりきめ細かく対応することができるようになりました。
研修生がエンジニアとして誇れるように、またパフォーマンスを最大限に発揮できる環境を用意するために、新卒エンジニアの採用・育成の体制をアップデートし続けています。
※……CTO室。CTO(チーフ・テクノロジー・オフィサー)小林 篤(こばやし あつし)を中心とする、エンジニアが働きやすく、成果を発揮しやすい環境へと整えていくために活動する部署。
みちのりを楽しみ、がむしゃらにやる
──今年の新卒エンジニア研修の流れを教えてください。
平子:まずは2ヶ月でチームビルディングとコンピューターサイエンスについての座学と実践。次にモバイルアプリケーションの開発に関わる基礎知識や技術面、フロントエンドやサーバーサイドについて学びます。最後の1ヶ月で講義と実践をともに、チームでのアジャイル開発に取り組みます。
開発するのは社内で実際に使用するためのプロダクトです。こちらから社内ヒアリングをもとに立てた企画案をいくつか提示したうえで研修生に希望を聞き、それに沿ってグループ分けしました。
全部で6サービスリリースし、社内発表会も行いました。
──お二人は研修を終えたばかりですが、率直にどんな感想を持っていますか?
田嶋 秀成(以下、田嶋):研修で目指すゴールは示されているのですが、どうやってそのゴールにたどり着くかという過程が決められていないところがおもしろいな、と感じていました。どういう道を通るかの選択権はこちらにあるんです。
道が決められていると、つい受け身になってしまいがちですよね。そういったレールのようなものがほとんど敷かれていなくて(笑)。
比嘉 風(以下、比嘉):特に最後に取り組んだアジャイル開発研修の自由度がとにかく高く感じました。チームを組んで実際にプロダクト制作をしましたが、提示されたのは本当に企画の素案とテーマだけで。あとは自分たちで議論を行った上で開発を進めていくっていう作業は本当に楽しかったし、大きな学びにもなりました。
──どのようなプロダクトを制作したのですか?
比嘉:僕のチームでは「rinc(リンク)」というプロダクトを開発しました。オンラインでの会議や登壇を盛り上げるサービスです。コロナ禍で対面でのやり取りがしづらくなり、話す側も聞く側も相手の反応や場の空気を感じづらい、孤独感を感じてしまいやすいことは欠点ですよね。
それを解決するために、SlackとWeb会議ツールを連動させ、話者(登壇者)の画面にコメントや顔文字を投稿することができるようにしました。例えば自分が発したギャグがウケたのか、スベったのか、などが画面上の反応ですぐにわかる仕組みです。
田嶋:僕らが開発したのは、「MIRUCA(ミルカ)」という、社内向け動画共有と視聴管理のサービスです。録画したオンライン会議や共有された勉強会、イベントの動画などをSlackのメッセージで受け取ったものの、そのメッセージ自体が埋もれてしまい、探すのに手間取ってしまうことがあります。
その状況を解消するため、新しい動画が自動でinboxに貯まる仕組みをつくり、動画の一覧をいつでもひと目で確認できるようにしました。
──開発過程で苦労した点は?
比嘉:アイデア出しとUIの制作で苦労しました。どういう場面で使ってもらいたいのか、ということを考えるのが難しかったですね。でも発表会では、実際に使用してくれた観客から、かなりの数の好意的なコメントをいただけて、うれしかったです。
田嶋:自分達も体験設計に時間を取られました。限られた期間の中で、こちらが想定した体験をいかに訴求できるようにするのかを、最後の最後まで議論しました。その甲斐があって、出来上がったプロダクトで表現したいことがうまく出せたし、より使いやすいものに仕上がったと思っています。
平子:1ヶ月の最初の1週間はデザインスプリントという手法を使って、顧客がどういう課題を持っているのか、どういうサービスを作るとそれが解決できるのか、というプロダクトのフレームワークづくりをします。その後の3週間で各々役割分担してスクラム開発を体験してもらいました。
短い期間でよくここまで仕上げたと思います。正直、すごい(笑)。
──開発をスピーディに進めるために工夫したことは?
田嶋:とにかくがむしゃらにやりました。でも残業はほとんどしていません。短い開発期間の中でも体験設計をきっちりやってから開発に取り組んだことが大きかったように思っています。あれもこれも詰め込もうではなく、これを表現するために必要最低限の機能はこれとこれ、という感じで絞り込めたのがよかったのかな、と。
比嘉:僕たちのグループはリードエンジニアがある程度のひな形を作るところから開発をスタートし、そこにメンバーが各々分担した機能を追加していく、という進め方をしました。ゼロから開発するよりもやりやすかったと思います。それが工夫したことかな。あとは僕らも、やはりがむしゃらにやるだけ(笑)。
仲間との学びに苦手克服のヒントがある?
──研修を終えて成長したな、と思うことがあれば教えてください。
田嶋:自分はモバイルアプリ開発経験はあるけれど、サーバサイドやクライアントサイド開発の知識がほとんどありませんでした。その点でまずは技術的に成長できたかなと。
あとは、これまで自分1人で勉強して技術をキャッチアップして、といった状況だったのが、まさに仲間と一緒にやることによって、より高い学習効果を得られるのを強く実感しました。これがソフトスキルですよね。
比嘉:僕もほぼ独学でここまできたのですが、研修でデザインスプリントやアジャイル開発を経験して、エンジニアとしての意識が180度変わりました。これまでプロダクトについては「使えればいいだろう」という自己中心的な考えでいたことに気づけて、使用する側の視点を認識することができるようになったのは、大きく成長できた点だと思います。
また、今まで避けてきたフロントエンドについてもチャレンジする機会をいただけました。研修ではエンジニアだけではなくデザイナーと関わることも多く、実際に何を考えて、どうやってデザインをしているのかを知ることができて。
苦手意識を持っていたデザインに関して、この研修で少し克服できたように感じます。
──2人のお話を聞いて、平子さんの感想はいかがでしょうか。
平子:実現方法については多くの反省点がありますが、課題定義と設計は正しかったと感じています。こちらが意図していたことをしっかり汲みとってくれていたのがわかって、素直にうれしいですね。
考え方や姿勢といったソフトスキルの獲得がエンジニア研修の目的である旨を最初の方で話しましたが、なぜならDeNAが提供するサービス領域がどんどん拡大しているからです。エンターテイメント領域と社会課題領域の2本柱を軸に、事業によって全く違う技術を求められたり、向き合うべき課題が変化したり、という状況に置かれることが少なくありません。
新しい業務に向き合うときは、それまでの経験から生まれるシナジーも期待されます。そういった事態に臨機応変に対応していくには、新しい技術を自ら学ぼうという姿勢を持ち続けることが必要です。何かに特化したスキルだけを学ぶのではそこから変化しにくくなる。変化しやすい状態をどう作っていくのかがポイントになると考えています。
個人の強みを伸ばす上でも、苦手意識を持っている部分を学んだことが強みに還元される構造があると思っていて。ただ自分独りでそれに向き合おうとすると辛いですよね(笑)。それをチームで向き合うことで、一種のおもしろさにつながったり、できる人とできない人の差はどこにあるのか、などのヒントが見つかったりすることで、学びたくなるきっかけになるかなと。
──「不確実性への対応」が求められる、と。
平子:そういう意味では、22年新卒組はこちらが発言したことの意味を自分に落とし込んでその裏側を推測するとか、考える姿勢をすでに持っている研修生が多いな、という印象を持ちました。研修の枠を超えて、社内のエンジニアのための勉強会にも積極的に参加しているようです。
社内にどんな勉強会があるのかを紹介する会があり、そういう場でもアクティブに発言したり発案していたりするのをよく見かけます。偶発的に「一緒にやろうぜ、勉強しようぜ」と、多くのメンバーとつながるという空気がしっかり醸成されていることを感じられますね。
みんなでミッションに向かう“目線合わせ”
──いよいよエンジニアとしての業務が始まりますね。配属先はどのように決定しているのですか?
平子:「その人が一番成長する環境に配属する」というポリシーの元に決めています。以前は配属のための基盤はほとんどない状態でしたが、3年で整えました。各事業部にジョブディスクリプションを全て言語化してもらい、本人の希望も勘案しつつ、こういう人に合うだろう、こういった成長を遂げられるな、と判断をしています。
──今後も研修仲間とのつながりに期待できそうですね。
田嶋:これまでのように密なコミュニケーションは取れなくなりますが、チームなどの複数人で学ぶことについての認識が変わりました。僕のように独学でやってきた人間は「1人の方が効果的なんだけど……」と考える傾向にあると思って。繰り返し問いを投げられる研修では、みんなで意見を出し合いながら深掘りして考える癖がつきました。
配属先でこれから業務が始まりますが、グループでの開発経験は確実に今後に活きてくると思います。これからも同期とのつながりは大切にして、互いに刺激し合える関係を続けていきたいです。
比嘉:同期には開発への深い知識や高い技術を持つ人が多く、研修を通してなぜそれをするのかの意味や、背景を理解することの大切さなど、本当にたくさんのことを学べました。
──では、最後に平子さんから2人に向けてエールをお願いします。
平子:DeNAのミッションは「一人ひとりに 想像を超えるDelightを」です。お客さまにサービスを通じてDelightを届けるため、チームで考えて練って、という作業にこれからずっと向き合い続けることになります。
課題を定義したり、実現するための最善のHowを追い求めたり……。それこそが抽象的なメタスキルです。経験しながら徐々に構築していくものですが、個人的には今回の研修で、そこにきっちりとブーストをかけられているといいな、と思っています。
最初のうちは細かな技術や目先の小さなところにこだわりを持ちがちです。でも我々が向き合う先はあくまで顧客。どんなふうにその人たちを喜ばせるのかというところに“目線合わせ”をする、これも今回の研修の目的です。
答えのあるところに向かうのではなく、どうやってその答えをチーム一丸となって創っていくか。その「みちのり」を自身としてもチームとしても楽しい学びと思える、そんな姿勢を持つエンジニアになってくれるとうれしいです!
※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。
※本インタビュー・撮影は、政府公表のガイドラインに基づいた新型コロナウイルス感染予防対策ガイドラインに沿って実施しています。
執筆:片岡 靖代 編集:若林 あや 撮影:内田 麻美