「一人ひとりに 想像を超えるDelightを」
2021年4月、DeNAはこの新ミッションを掲げ、新たなる船出を果たしてきました。
特に、ライブストリーミングやゲームなどのエンターテインメント領域とヘルスケアに代表される社会課題領域の両輪での事業拡大を明確に標榜。2021年6月にはCEO、CFO、CBOの3人体制で新たな戦略への舵を切り、また今年4月には現状を踏まえた新人事制度「グループエグゼクティブ制度(GEX)」を導入し、中期経営計画の目標達成に向けての動きを加速しています。
そんな新生DeNAが、いま立つ地点、目指す場所とは?
自治省(現総務省)から、医療機関勤務を経て、2013年にDeNAに入社したユニークな経歴を持つCFOの大井 潤(おおい じゅん)に聞きました。
日本のソリューションでグローバルな課題を解決する
──DeNAは、5月25日に医療ICTベンチャーの株式会社アルム(以下、アルム社)の子会社化に向けた基本契約書を締結(詳しくはこちら)。大井さんは同社の代表取締役を兼任されることになりました。このM&Aに驚かされた方も多かったようです。
アルム社をDeNAグループに迎え入れることは、DeNAの今の経営スタンスを象徴する一件かもしれません。
2021年からの岡村新体制下で、エンターテインメント領域と社会課題領域を両軸に事業を展開する、グローバル市場を見据えた展開をさらに推し進める、と明言してきました。そのためにはオーガニックな“連続的な成長”に加えて、M&A等も積極的に活用した“非連続的な成長”が不可欠です。
たとえば、社会課題領域の代表であるヘルスケア事業では、健康保険組合や自治体等向けに提供しているヘルスケアエンターテインメントアプリ『kencom』のシェアが確実に伸びています。また、2020年のデータホライゾン社(※)、2022年のメディカル・データ・ビジョン社との提携で、健康保険組合など1500万人を超える方々の保険者データベースを構築。日本国内では最大規模になりました。
※……DeNAは、2022年6月29日に株式会社データホライゾンの連結子会社化に向けた資本業務提携契約の締結、株式会社データホライゾン普通株式に対する公開買付けの開始及び第三者割当増資の引受けに関する発表を行いました。詳しくはこちら
──着実に積み上げてきた結果が、まさに“非連続的”な事業成長につながったわけですね。
そうですね。生活者の方々やアカデミア、製薬企業など向けにヘルスケア領域での課題解決を目指す「ヘルスビッグデータ戦略」を実現、加速させていきます。
ただ、ヘルスケアや医療領域の社会課題はそれだけではありません。
医師不足や医師の偏在などにより地域医療の崩壊が懸念されています。新型コロナウイルスの感染拡大で顕在化しましたが、病床の空きはあるけれど、専門医がおらず受け入れができない状況が続きましたよね。
また医師が都市圏に偏在し、地方での医療提供が脆弱になると、過疎地域を増やしてしまいます。場合によっては国家安全保障においても問題が生じるかもしれません。
──アルム社を迎え入れることで、こうした地域医療の課題解決への動きが具体化できると?
アルム社は、医療従事者が画像診断や遠隔手術をセキュアな環境で行える医療関係者間コミュニケーションアプリ「Join」という素晴らしいアプリを持っています。
このネットワークに入っていれば、遠方からでも遠隔手術などの医療支援が可能になり、地域医療をDXによる新しい形で支えられます。すでに中核病院をはじめとした約470の医療機関で導入され、救急医療の領域ではデファクトスタンダードにもなっている。
そのアルム社と組むことで、DeNAが培ってきたテクノロジーの知見と、コミュニティマネージメントの手法を活かして、さらに地域医療のDXによる課題解決が進むと確信しています。さらに、「Join」がすでに世界約30ヶ国で採用されていることも大きいですね。
──グローバルな社会課題の解決につながるということですね。
はい。少子高齢化と人口減少がどこよりも進む日本は、地域医療においても先進国ですから。現に今後、同様の課題を抱えていく他国、たとえばアメリカなどはすでに「Join」のようなソリューションに多くの期待を寄せています。
DeNAとしての輪郭を形作る。「Do or Die」に込めた思い
──今年の年頭メッセージで、社員に向けて「FY22はDo or Dieの年」との考えを表明されていました。どんな思いからその言葉を発信されたのでしょうか。
私たちは、2021年5月に3ヶ年の中期経営計画を発表しました。初年度は、順調にいい船出ができました。ゲームは多少ボラティリティはありながらも、一定の利益はしっかりとあげましたし、ライブストリーミング事業は大幅な伸びを見せました。ヘルスケア事業もようやく黒字化を果たし、スポーツ事業もコロナ禍で大変でしたが、回復の兆しを見せています。
ただ、“さらにその先”を見据えたら、やはり国内市場だけではシュリンクするだけです。冒頭で言った「エンターテインメント領域と社会課題領域の両軸での事業展開」「グローバル市場を見据えた展開」を実現して、数字としても社会的な認知としてもDeNAの新しい姿を見せるには、中期経営計画の真中の年である今年度中にしっかりと仕込んでおく必要があります。
我々が有するエンタメと社会課題の2つの事業ドメイン。特に、エンタメ領域はあらゆるテクノロジーが凌ぎを削って切磋琢磨する場所です。そこで培ったテクノロジーやノウハウを積極的に社会課題領域に応用し、具体的なシナジーを創出していく。無論、社会課題だけの企業に収まる気は毛頭なく、このシナジーこそが他の企業と差別化できるポイントであり、DeNAが新しいIT企業の進化を体現できる道だと考えています。
──この1年の仕込みが中期経営計画の目標達成、さらにその先をつくる肝になると。
はい。だから、メンバーには積極的にアクションを起こしてほしいし、緊張感を持ってことに向かってほしいというのが真意で、自分への戒めでもあります。
医療に限らず、いま多くのテック系サービスは海外が席巻しています。私たちはその風向きを変えたい。この医療・ヘルスケア領域ももちろん、ゲームや『Pococha(ポコチャ)』、『IRIAM』などのライブストリーミング事業なども、国内と同時にグローバルにしっかりと挑戦し続け、シェアをとっていく。それが現在、私たちが最も注力していることで、バランスシートを見ながら、どうリソースを配分していくかは、CFOである私の大切な仕事の一つだと認識しています。
──それはCFOの醍醐味でもあるのでしょうか?
どうでしょうか(笑)。ただDeNAの健全な財務基盤をどう活用して事業ポートフォリオを変えていくのか。そのチャレンジができるのは非常に重要でおもしろいポジションにいると感じます。
「一人ひとりに 想像を超えるDelightを」が、岡村CEO以下、私たちがボードメンバーになってからのミッション。それをもじれば、「日本に、世界に、想像を超えるDelightを」届けていくつもりです。
──また今年は「グループエグゼクティブ制度(GEX)」(以下、GEX)の名で新体制に改組しました。狙いは何でしょう?
ポートフォリオを自在に進化、あるいは深化させながら、新しい挑戦を続けていきやすくするための仕組みです。
CEO直轄のもと、子会社やサービスごと、各事業領域ごとに自律的な組織が横並びでフラットに存在し、それぞれにGEXと名付けた事業リーダーを配置しました。
事業をけん引する人とポートフォリオを変える経営を担うリーダーを明確に分けることで、事業部はそれぞれの持ち場に集中でき、同時に高い視座で事業ポートフォリオの進化もできる体制をつくりました。
社会課題を解決し、高いバリューをサステイナブルに出し続ける。そのための形であり、「エンタメ×社会課題」の循環型ビジネスを創造する新体制だと自負しています。
DeNAという「場」の引力に導かれて
──大井さんは自治省(現総務省)から2013年にDeNAに転職されました。どのような経緯だったのでしょうか?
私は大学卒業後自治省に入省、中央では財政のことばかりやっていました。ただ札幌や長野など、地方ではまちづくりや観光など企画部門を手がけ、どちらもやりがいを感じていました。
ただ、その後、退職。妻の実家が開業医で、医療法人化することになり、その手伝いをしていました。そちらの仕事が一段落した頃にお声がけいただいて、DeNAに入社しました。
もっとも最初は、お断りしていたのです。
──断った理由は何だったのでしょう?
当時のDeNAはゲーム会社としての全盛期だったので、声をかけていただいたタイミングでは「貢献できることは何もない」と感じたんです。ただ、これからはゲームだけではなく、教育や健康などの分野にも事業拡大していくという話を聞き、色々チャレンジできそうな場所かもしれないと思い、入社を決めました。
──入社当初は、どのような役割を担われていたのですか?
ちょうどヘルスケア領域にDeNAが新たな事業の柱を立てるタイミングで、初めは渉外担当として入社したはずが、早々にヘルスケア事業に参画することになりました。
──大井さんのこれまでの経験がすべて活かせる場に立ったと。
私自身、その医療法人での勤務や、官僚として社会保障に取り組んでいた経緯から、社会保障の課題や医療領域に多くの課題があり、官民問わず解決に向けたアクションが必要だと感じていました。予防医療が進めば、医療提供体制の許容量は上がりますし、やってみる価値はあると強く感じ、ジョインしました。それが個人向け遺伝子検査サービスの『MYCODE』ですね。
──その後は、一貫してヘルスケア事業に従事してこられた。
はい。株式会社DeNAライフサイエンス、DeSCヘルスケア株式会社、株式会社ウェルコンパスなどの設立に携わりました。色々厳しい時期もありましたが、なんとか黒字化するに至っています。計画通りには行かないことも多々ありましたが、だからこそおもしろいですね。
──入社当時、色々チャレンジできそうだと感じた思いを、実行されているんですね。
DeNAは年次や経験を問わず打席に立たせてくれる会社です。もちろん打席に立つ努力をする必要はありますが、打席に立ちたいとモチベーションを持ち、自分が実現したいことと、会社が実現したいことが、お互いにWin-Winになるようなチャレンジであれば、それを寛容に受け入れてくれる土壌のある会社です。
成果にこだわって、多くの打席に立つ
──仕事をするうえで大切にしていることは何ですか?
フェアであることです。
たとえばM&Aに携わっていても、フェアネスを念頭に交渉しています。どちらか一方だけに有利になるような押し込みは嫌だし、結果として物事はうまく進まない。
個人でも企業でも、そもそも単独でできることはしれています。ビジネスパートナーをリスペクトして、誰かと一緒に取り組んでいくことで成長が加速する。お互いが価値を認め合うからこそ相乗効果が生まれるものですからね。瞬間的な利益を掠め取っても、その反動が必ず来ると思います。だから瞬間的よりも積分的な利益。持続的に利益を取ることで、利益の総和を最大化したい思いが強いです。
──新たに掲げたバリューの中にある「共存共栄の精神」や「持続可能な企業活動の推進」にもつながりますね。
そうですね。あとDeNAの強さの根源で、私が個人的にも好きな面に「夢中になって仕事する」こともあります。
最近、少し危惧しているのは、DeNAの社内に「夢中感」を感じにくくなった気がしています。メンバーが夢中になれていないのだとしたら私たち経営側がそこにしっかりと向き合っていかないといけないですね。
──そうでしょうか?DeNAのさまざまな部署の方にこうしてインタビューする機会がありますが、圧倒されるほどの熱量を感じることも多いです(笑)。
それは何よりもうれしい言葉ですね。それこそGEXが事業本部内の夢中感をマネージしてくれているんだなと、DeNAがきちんとワークしているんだなと喜ばしい限りです。
──では最後に、今後に向けて一言お願いします。
繰り返しになりますが、一人でできることは限られています。社員全員で夢中になってことに向かっていきたい。だから、既存事業はすべて安定させ、ポートフォリオをきちんと転換し、社会へバリューを届けていくことを約束したい。
そして「DeNAって会社のイメージ変わったね」と世間から言われるように、DeNAに集う一人ひとりが能力を結集し、積み上げて、新しいIT企業へ進化させていきたいです。
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※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。
※本インタビュー・撮影は、政府公表のガイドラインに基づいた新型コロナウイルス感染予防対策ガイドラインに沿って実施しています。
聞き手:箱田 高樹 執筆:日下部 沙織 編集:川越 ゆき 撮影:内田 麻美