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プロデューサーや専門家らと共に、UX向上を目指す。“ゲーム✕AI”を推進する「ハブ役」の正体とは?

2019.11.07

「インターネットやAIを活用し、永久ベンチャーとして世の中にデライトを届ける」をビジョンに掲げるDeNAでは、AIをゲームに積極的に導入・活用していくことを目的に、ゲーム事業部の中において「AI推進部」が新設されました。

これまでもDeNAの運営タイトルにはAIが活用されてきたケースがありますが、AI推進部の誕生によって今までと何が異なるのでしょうか? 今回、AI推進部の部長である小東祥、そして所属メンバーの佐藤勝彦と河合安甲子に、部のビジョンや目指す姿などを聞いてみました。

“ゲーム✕AI”を推進する専門部署

ーーまずはAI推進部の取り組みについて教えてください。

小東祥(以下、小東):AI推進部は「AIを活用して構造的強みを構築する」というビジョンを掲げており、AIを活用したゲーム開発を推進するために2019年4月に発足した部署です。

社内では2017年頃からIPタイトルにおけるAI活用をきっかけにし、これまで『逆転オセロニア』で多くの事例を生み出してきました。

ただ、これまでのAIに関する取り組みは、「AIを活用したい」という意思を持ったメンバーが個々でAI本部に所属するリサーチャーなどに相談し、独力でAI活用を模索してきた背景があります。

ただその場合ですと、以下のようなさまざまなデメリットが発生するケースもありました。
・最後までやりきる事自体が非常に難しい
・成果が出るまでに時間が必要になる
・役割分担がうまくできない
・ゲーム開発における優先順位が下がりがち(ボトムアップの取り組みになるため)

そこで今回、ゲーム事業部の中に専門部署を立ち上げることで、ゲームにおけるAI導入のスピードアップや、AIの有効活用によるUX(ユーザー体験)向上を目指していきたいと考えています。

▲小東 祥 | AI推進部 部長 コミュニティマネージャー
2012年新卒でDeNA入社。入社以来一貫してゲーム事業領域でのプラットフォーム/ゲームタイトル分析を担当。 分析部の部長、『逆転オセロニア』や『メギド72』など自社オリジナルゲームの運営部門の部長を経て、2019年4月よりAI推進部の部長に就任。ユーザーインテリジェンス部の部長と兼務。

DeNA社内のスペシャリストを繋ぎ、ハブとなる

ーーAI推進部の役割、部内の体制などはいかががでしょうか?

小東:AI推進部は部署間の「ハブ」になる役割を持っています。

そのため下図のように、社内のAI専門家(Kagglerやリサーチャーなど)と、タイトル開発チームのサポート役として、要件定義や計画立案、導入サポートなどを橋渡ししていくイメージです。

AIに関する情報を集約し、AI機能の企画から実装まで、社内各部署との架け渡しを担っている。

小東:この体制を実現するためには、AI推進部内にさまざまな経験を持ったメンバーが必要となります。単純に機械学習に得意な人だけではうまくハブになることもできませんし、ビジネスだけだと、ソリューションが十分に理解できないなどの懸念が出てきます。

そのような不足点を補完するために職種混合チームを作り、課題解決に向けてチームとして柔軟に推進していくことが大事です。タイトル開発チーム単体ではAI施策の推進がやりきれない時には、チーム外から我々というリソースを補強し、AI施策を迅速に推進できると理想ですね。

他にも、部全体の役割として、ゲームに限らずAI領域にはどのような最新技術があり、どんなユースケースがあるのかなど、幅広く知見を収集する役割も担っています。

最新知見を蓄積し、現状の各開発チームの課題に対する解決策(=技術)が判明してきたら、それを実現するための要件定義や推進をしていくのも我々の役目です。決して受け身にならず、AI推進部が起点となって、各部署と一緒に「ゲーム✕AI」の理想形を追求できればと考えています。

ーーハブになるだけでなく、AIのプロフェッショナル集団でもなければいけないと?

小東:そうですね。社内のAI専門家を適切に巻き込むことが必要なので、彼らが何を得意としているのか、技術がどの分野で役立つのかを見極めるためには、我々もある一定の専門性を持たねばなりません。

ただ、AIの学術的な知見などは専門家に任せつつ、我々は対象となる技術がどのように事業価値を生み出せるのかを考え、実現に向けて推進していくことが大切だと考えています。

ーー各関係者をつなぐには、AI推進部のメンバーもゲームのドメイン知識など、一定の広い知識が必要になりそうですね。

小東:そうですね。取り組む領域によっても変わりますが、例えばQAの効率化ならQAの実作業、デザインのアセットをAIで動かすにはデザイナー、ゲームAIを作るならクライアントサイドの作り方を、それぞれ知らなければなりません。

すべての知識や技術をひとりでカバーするのはとても難しいので、メンバー同士で得意・不得意を補い合い、チームとして機能するようにバランス調整をしていく予定です。

ーー現在、開発中のプロジェクトとも連携はしているのでしょうか?

小東:はい、詳しくはお話できませんが、すでに動き始めています。DeNAでは今後も新規タイトルの開発を進めていきますので、AI推進部の存在感をさらに発揮していきたいと考えています。

ーー新規タイトル開発の際には、プロデューサー陣とはどのように連携していくのでしょうか?

小東:初期の企画段階からプロデューサーとは密に連携していきます。

プロデューサーは事業責任者であり、AIを含めた施策が実現したときに、それが本当に費用対効果に見合うのか、そして望む価値が競争力につながるのかなど、さまざまな視点で状況を把握していきます。我々はそのようなプロデューサーの一助になるべく、AIを軸にサポートできればと思います。

もちろん新規タイトル・運用中タイトル問わず、「面白いからやってみよう!」というスピード感のある取り組みも存在しますが、AI導入時は費用やリソース、開発期間も大幅に必要になるため、事前にプロデューサーと期待値を含めて入念にすり合わせをしています。

その後、マーケターやディレクター、プランナー、デザイナー、エンジニアなど、開発フェーズに応じて、各職種との連携も進めていきます。特にゲーム内にAI機能を組み込む場合には、プレイヤーへの伝わり方などについて、プロデューサーをはじめとした開発メンバーとも密に連携します。

武器商人のような支援部門に

ーー同じく新設された「ユーザーインテリジェンス部」と目的が似ている部分も多い印象ですね。

小東:そうですね。開発チームに対して、足りない視点を補ったり、蓄積している知見を横展開する、という側面は似ていると思いますね。

AI関連の技術を扱うのがAI推進部で、マーケティングリサーチなどで分析する強みを持つのが、ユーザーインテリジェンス部です。お互い持つ武器が違うだけで、目的とするミッションはほとんど変わらないと思っています。

ーープロデューサー陣にとっては、心強い武器になっていきそうですね。

小東:そうなってくれたら、嬉しいですね。RPGで例えると、僕らは勇者に強い武器を与える「武器職人」のような役割でだと思っています。ドラゴンに勝つにはこの武器がオススメ!みたいな(笑)。

ーーちなみに内製や協業など、開発体制の違いによって動き方はどう変わるんでしょう?

小東:意思決定や推進においては、関連する人間が多ければ多いほど複雑になります。特に協業や複数のパートナー会社様と開発を進める場合は、お互いの担当範囲などもあるので、推進していく難易度は上がると思われます。

ただ、最終的な目的は変わらないはずですので、そこはうまくAI推進部がリードできればと考えています。

ーー知見やユースケースも蓄積していけば、新規IPの獲得もできるかもしれませんね。

小東:我々がAIによって構造的な強みを作り、それが業界における優位性となる。その結果として新規IP獲得に繋がる、という流れは理想ですね。

DeNAという会社自体では「AI」に強みがあると認知いただけている方も多いと思いますが、「ゲーム✕AI」も世間にもっと認知されていけば、他のIPホルダー様もDeNAを魅力あるパートナーとして注目してくれるかもしれません。

そして結果的に我々が目指す「AIを活用して構造的強みを構築する」の実現(パブリッシャー戦略への貢献)にもつながると思っています。

ーー他社でAI推進部のような機能を持つ部門はあるのでしょうか?

佐藤勝彦(以下、佐藤):ゲーム業界の国内企業ではほとんど聞かないですね。

AI研究が活発な会社は数社あると個人的に認識していますが、R&Dとタイトルの内部をつないで有機的に推進する部署というのは、おそらくDeNAがはじめてだと思います。

小東:AIリサーチ部門に関しては各社でも展開していますが、それをきちんと事業に落とし込むには、推進部のような部署が必要だと思います。他社ではちょうど着手しはじめたくらいかもしれませんね。

▲佐藤 勝彦
フロムソフトウェア、CygamesResearch、ドリコムを経て、2019年7月にDeNAに入社。ゲームxAIを軸足に、タイトルの開発運用と技術研究に従事。エンジニア・リサーチャー・企画・ディレクターと職域を広げながら、知見共有や、タイトル・R&D部署間のシナジーの向上に注力。

<講演>
『ShadowverseのゲームデザインにおけるAIの活用事例、 及び、モバイルTCGのための高速柔軟な思考エンジンについて』(CEDEC2016)

十人十色の強み

ーーAI推進部にはどんな経歴・スキルをもったメンバーがいるのでしょうか?

佐藤:私は今年7月に入社したばかりですが、何らかの専門性を持った方がすごく多い印象があります。河合さんもそうですが、横断組織として、タイトルや各部署の目線に寄り添ってシナジーを高められるよう、豊富な職歴を持ったメンバーが集まっていると感じています。

ーー河合さんは、部発足時のメンバーだと事前に聞いていますが。

河合安甲子(以下、河合):そうですね。私はもともと社内の開発基盤部に所属していたのですが、個人的にAIに興味があって、AIに関するセミナーに足を運んだりなど、独学で勉強していました。

当時の上長に「AI研究者がゲーム開発チームと直接連携するのは大変なので、その橋渡しをできる人が必要かもしれません」と話したタイミングで、AI推進部を立ち上げることを聞かされました。

▲河合 安甲子
コンシューマ向けゲーム開発/ゲームエンジン開発に携わり、2017年にDeNAに入社。ゲーム基盤部に配属された後、AI推進部に異動。

小東:あの時はかなりタイムリーでしたね(笑)。

ーー河合さんはすでに、このような機能を持つ部署は必要だと感じていたのですか?

河合:はい。当時は関係者ではなかったため、遠目でしか見ていなかったのですが、現場の大変さは感じていました。(設立について)急いで小東さんに話を聞きに行きましたよ。

小東:河合さんがAI推進部の一番最初のメンバーなんです。

河合:小東さんと2人からのスタートでしたね。今はメンバーは増えていますが(笑)。

小東:河合さんは、ゲーム開発におけるスキルや知識などを持っていることが強みなんです。ゲーム開発にAIを組み込んでいくことが、AI推進部のコアな目的ですので、ゲーム開発のことを理解していることは重要ですからね。

さらに、今まで自分が経験したことがない領域にも、積極的にキャッチアップしてくれますし、開発チームのエンジニアと連携して、着実に実装へと進めてくれるので本当に助かっています。

ーーちなみに佐藤さんは2019年7月に入社されましたが、どのような経緯でAI推進部にジョインしたのでしょうか?

佐藤:私はもともとコンシューマゲームの開発会社で、ゲームエンジンの開発や技術研究、タイトルのAI実装などを手がけるエンジニアからキャリアをスタートしました。その後も、研究部署とタイトル開発の双方をまたいだ「ゲームAIのリサーチャー」として活動する中で、いろいろな課題を目の当たりにしてきたんです。

ーーいろいろな課題とは?

佐藤:冒頭で小東さんが話していたような、立場や目線の食い違いによるトラブルや、場合によってはプロジェクトが途中で消えてしまうなどの課題を見てきました。そこで「横断的な目線でゲームとAIに触れる人材がいれば、プロジェクトは進みやすくなるのでは?」と感じていました。

それからは、企画やディレクターとしてゲーム業界で職域を広げながら、橋渡しになれるような役割を模索していたときに、小東さんからDeNAでAIの横断推進に注力することを聞いて、「これは乗るっきゃない!」と共感して入社を決めました。

小東:佐藤さんのスゴいところは、経験に裏付けされた「引き出しの多さ」です。さらに引き出したものをうまくデリバリーする気遣いも細かいですね。

彼はエンジニアからキャリアスタートして企画やAI推進、PM的な動きもしてきました。業務を多角的に見てきているからこそ、AIの活用方法や、AI導入時にトラブルが発生しやすい箇所などを嗅ぎ分ける能力も持っていると感じたので、私が熱烈に口説いて入社してもらいました。

それに一般的に分析者って、比較的堅苦しかったり、データばかり見ていて話しかけづらいイメージがあると思うのですが、佐藤さんは物腰柔らかで、しっかり物事を前に進めるコミュニケーションができる人ですね。


AI推進部の人員体制。多彩な知見を持つメンバーで構成されている。(社内資料より抜粋)

ーーそのような経緯があったんですね。ちなみに佐藤さん、河合さんは入社前にDeNAという会社を外から見てどんな印象でしたか?

佐藤:最近ではゲーム業界を含めて、「CEDEC2019」の公開セッションを見てもわかるように、AIに関して実際のデリバリーを意識した取り組みが、各社で増え続けています。

その中でもDeNAは特にモバイルの領域において0→1の先行事例をいち早く発表しています。課題解決の苦労を経験した上で、1→100にスケーリングするためにはどうしたら良いかという目線での取り組みを推進されていて、良い意味で異色な会社だと感じました。

河合:私も丁寧にゲーム運営している部分は、外部から見ても感じていましたね。

佐藤:分析に真摯に向かい合っている姿勢もすごく感じていました。

分析の本質は、数字とにらめっこすることにあるわけではなく、サービスに関わる方々やプレイヤーにとって価値ある時間をより高めていくにはどうすればいいか、割と生々しい部分に真剣に向き合う必要があると思っています。

『逆転オセロニア』や『メギド72』の立ち上がり時から改善を重ねて、どんどん愛されるサービスに変わっていった過程を、外から見ていても非常に感銘を受けましたし、ちゃんとした分析に強みを持った会社だからこそ、再現性やスケーリングが実現できているのかな、と感じていました。

ーープロジェクトに寄り添うことで、提案をし合ったり、他の部署と横断して施策を考えることもできますよね。

佐藤:部署・職種を問わず皆さん本当に多くの知見を持っているので、仲立ちを通じて、色んなアイディアに触れられるのは非常に刺激的ですね。

相談にも真摯にも乗っていただけますし、「このようなユースケースで技術を使えないか?」「この部分を改善できるともっと開発が楽になる、 サービスの改善・開拓に繋がるのでは?」といった提案も数多くいただけます。

佐藤:それにDeNAの特徴的なところは、ゴールベースで話をする、コトに向かうような目線があります。目線が揃っているので部署の壁も感じませんし、相談もしやすいですね。

実際にサーベイするときに分析部のメンバーと一緒に取り組めたり、アイデアが上がってから検討が始まるまでもタイムラグが本当に少ないです。小東さんに相談すると「すぐ検討しちゃってください!」って快諾してくれます(笑)。

河合:NOと言われたことはほとんどないです!とても動きやすいですね。

小東:褒められると、ちょっと照れますね……(笑)。

個のチカラを活かした推進力

ーー少し話は逸れますが、佐藤さんと河合さんのお互いの印象などを教えてください。

小東:おっ、それは聞いたことないかも……(笑)。

河合:私はもともと開発基盤部に所属していました。前職もゲームエンジンを手がける部署でしたので、AIについては正直まだまだ勉強中の身です。

AIに関しての一般的なセオリーについては、この部署で佐藤さんに教えてもらうことが多いですし、目指すべきプロセスが明確に可視化された気がします。

もちろんみんな実現したいことは描けるんですが、AI導入のメリットや意図、手順を開発側に伝えたり、地道に布教していくことを教えてくれたのも佐藤さんです。自分の作業も含めて、進む方向がすごくクリアになった感じです。

佐藤:ありがとうございます……(照)。河合さんは、エンジニアとして並外れた実力を持っているのは当然なんですが、それ以上に話しやすく、いろんな人をコミュニケーションで結ぶ「足」がめちゃくちゃ速いと感じています。巻き込みたい人に対して、次の日にはランチの予定が組まれているのは驚きです(笑)。

また、人柄が柔らかく、相手の目線に寄り添って話をするので、ミーティングでも全体の雰囲気が和やかになりやすいんです。しかもエンジニアとして課題感の理解も早く、タイトルの経験も多いので、河合さんがいるととにかく話が早くなります。

河合:そんな風に言っていただけるなんて……ありがとうございます。もっと頑張ります……!

“ゲーム✕AI”とQAのさらなる可能性

ーーそれでは最後に、AI推進部の今後の取り組みなどについて教えてください。

小東:『逆転オセロニア』のように直接ゲーム内のAIがプレイヤーに触れられて、UX(ユーザー体験)を向上させていくような機能を作っていくのが、ゲーム開発において一番コアな部分です。AI推進部としても、このような事例を数多く生み出していけるように注力していきたいですね。

もうひとつはQA(品質保証)です。

世の中のAI活用はコストカット目的の側面が強く、QAはそれを担うイメージが強いですが、開発メンバーが膨大な時間を費やしているバグチェックや修正などをAIが肩代わりできれば、空いた工数をゲームの面白さを考える時間に当てられると思っています。

それが実現すれば、UX(ユーザー体験)もよりリッチになっていく可能性があるので、QAに関しても今後は注力していきたいですね。

課題点については、まだメンバーが少ないので、同じように動けるメンバーが増えてくれると嬉しいですね。その中でもデリバリーを担う、クライアントエンジニアが増えてくれると助かります。

特にエンジニアリングの部分は、ゲームタイトルごとの開発環境や使用ツールなどを把握して推進するのはとても大変ですし、施策を増やす上でボトルネックになる部分だと感じています。

ーー9月に開催された「Unite Tokyo 2019」にてシステム本部のSWET(Software Engineer in Test)グループとも連携するセッションが公開されていましたが?

小東:そうなんです。あの施策はAI推進部が旗振りをしており、QAの領域に注力していく中で、SWETのような専門家やタイトルの開発メンバーを巻き込んで進んでいったひとつの事例になります。今後はあのような取り組みをどんどん増やしていこうと思っています。

ーーありがとうございました。

※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。
※ゲーム事業部で運営されていたオウンドメディア『GeNOM』で掲載した内容を転載しています。

インタビュー・執筆:細谷亮介 編集:佐藤剛史 撮影:齋藤暁経

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