プロ野球の名シーンがデジタルコレクションに。NFTを活用したスポーツ×ファンの新たな架け橋『PLAYBACK 9』、発進!
ブロックチェーン技術を活用したNFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン=偽造不可な鑑定書・保有証明書付きのデジタルデータ)。「偽造できない」という特性を生かし、アートやゲーム、漫画など幅広い領域で新たな新ビジネスと市場が生まれはじめています。
このNFT業界にDeNAが本格参入し、話題を集めています。
それが『PLAYBACK 9』。横浜DeNAベイスターズの選手たちの名シーンを動画でコレクションできる、いわばNFTトレーディングカードです。
「プロスポーツチームを有すDeNAだからこそ、スポーツとNFTを掛け合わせた素晴らしいファングッズに育てていきたい」と情熱をもって立案したスポーツ事業本部戦略部デジタル推進グループの下島海(したしま・かい)が、企画の経緯と舞台裏、これからの展望について語りました。
映像コンテンツではなく、ファンのためのグッズ
ーー『PLAYBACK 9』とは何か、から教えてください。
下島 海(以下、下島):横浜DeNAベイスターズの主催試合の名シーンを、球団公式のデジタルムービーとして購入できるサービスです。
特徴はNFTを活用していること。ご存知のように、NFTはブロックチェーン技術を使うことで、お客様だけのデジタルデータの保有を証明することができます。
ーーお客様はNFTにより「自分だけのベイスターズの選手のデジタルムービー」を手にできるわけですね。
下島:そうです。同じ選手の同じ動画はありますが、「100部」などの限定数のみ販売、NFTによって個別のシリアルナンバーがついているので、コレクションとしての楽しみが増します。
購入したデジタルムービーは電子書籍のように、自分のデジタルアルバムにコレクションすることができます。購入は弊社が運営している『PLAYBACK 9』のWEBサイトからしていただきます。
ーーどのようなムービーが購入できるんですか?
下島:ホームランやタイムリーヒットなど印象的なシーンを選んでいます。動画はサンプルとして確認でき、試合やシーンの解説、選手のスタッツなども見ることができます。ここから好きな動画を選び、購入いただけます。
動画の長さは前後につけた演出も含めて、30秒程度。単なる動画ではなく、グッズとしてのアイテムっぽさを出したかったので、前後の演出もこだわってデザイナーとつくりました。
ーー価格はどれくらいですか?
下島:現段階ではプレイの内容によって120円~1980円の幅で値付けしています。たとえば『スカパー ! ドラマティック・サヨナラ賞 年間大賞』の受賞対象となるような印象的なサヨナラのシーンは高価格といった具合に、シーンをランク付けし、いわゆるレアリティに応じて判断しています。
ーーレアなシーンほどコレクションしたくなりますね。
下島:販売枚数が限定なので、たとえば「この世の中で100人しか持っていないお宝アイテム」のようなものが生まれる可能性もあります。
プロ野球チップスのレアカードみたいな感じですね。
ーー販売数を決めているということは、再販もないのですか?
下島:そうです。それも購入済みのお客様の皆さまの不満につながりますからね。
購入したシーンはSNSで共有する仕組みもつくっています。シェアされると、「サンプル」という帯付きですが、実際に動画を見せられるし、販売数や保有者のシリアルナンバーも見せられます。
単なるコレクションアイテムだけではなく、ファン同士のつながりが広がる。そんな世界を目指しています。
NFTだからこそ実現できる世界
ーー開発からリリースまでかなり早かったそうですね。
下島:はい、2021年の4月に構想し始めて、7月に開発着手、11月にリリースしました。
ーー約半年! そもそも構想のきっかけは?
下島:NFTに関してはDeNAですでにいくつかの部署が動いていますが、所属するスポーツ事業本部戦略部デジタル推進グループでも早くから「手掛けたい」と考えていました。
後押しになったのは2020年にリリースされたアメリカのNFTトレーディングカード「NBA Top Shot」がバズったことです。
ーーNBAのバスケ選手たちのプレイ動画をコレクションするNFTサービスですね。
下島:はい。NFTの可能性を実感しました。
お客様がNFTにより自分だけの試合中の名シーンを保有することができるようになれば、サインボールやタオルなどを超える、新たなファングッズという形に昇華させられるのではと想像が膨らみました。
ーーNFTならではの価値が生まれるわけですからね。
下島:そうですね。あらためて言うとNFTには大きなメリットがあります。
それは、「デジタルデータの価値を守ることができること」です。デジタルデータはコピーや改ざんができてしまいその価値が損なわれてしまいますが、NFTを用いることによりそのリスクを低減させることができます。これによって、NFTを用いたデジタルデータのお客様間での売買も安全に行うことができるようになる想定でおります。NFTを利用することで、今までのリアルカードを超えた体験を、デジタル上で提供できるようにしていきたいです。
ーー静止画ではなく、動画にこだわっている理由は?
下島:野球ならすばらしいバッティングやピッチング、サッカーならスーパーゴール、格闘技ならKOシーン……。名選手のすばらしいプレイシーンは多くの人をひきつけ、わすられれないものになります。
ただそのプレイそのものをコレクションするグッズは皆無に等しかった。サインボールやタオルなど、ファンとしては好きな選手のグッズはあるし、ファンは欲しいもの。しかし、どんなに集めても「その選手が実際どのように活躍をしたのか」まではわかりません。
ーー確かに。動画ならば、選手が活躍したシーンを、そのまま残すことができますからね。
下島:そうなんです。新たなファングッズとして、輝いていたその瞬間にスポットライトをあてたアイテムにしたいという強い思いがありました。
ーー二次流通(購入されたシーンの売買)の市場拡大も視野に入れているのでしょうか?
下島:将来的には二次流通できる機能を実装しようと思っています。これによって最大の目的であるファングッズとしての浸透を後押ししたいです。何ができるわけでなくても、ファングッズってコレクションすることに楽しさがあったりするじゃないですか。好きな選手をコンプリートしたいとか、限定品を手に入れたいとか。
ファングッズの成功の姿は、ファンの皆がそれぞれ持っていて、お互いに「それいいね」「あれも欲しいね」と語り合っている。その上で、グッズをお互いにやりとりできる手段が用意されている世界だと思っています。
ーーチームや選手への副次的な効果はあるのものなんでしょうか?
下島:今はまだですが、シーズン開幕以降はPRを担ってもらおうと思っています。このサービスって選手自身もうれしいはずなんですよ。自分の活躍が動画アイテムとなって、ファンが持ってくれることでモチベーションの新たな源泉にもなると思います。それぞれのシーンの売れ行き具合で、ファンがどんなプレイを期待しているのかもわかりますし。
海外では、売上の一部を選手に還元しています。選手自身が積極的にPRして、売上が上がって、選手の懐が潤ってモチベーションも上がり、戦績があがる、というサイクルがうまく回っています。
ーーそうすると、さらに横浜DeNAベイスターズも強くなり、ファン誘因やエンゲージメント強化にもつながりそうですね。
下島:まだ具体的な計画はないのですが、技術的には「現地でのみ配布する動画」を配ることも可能なんですね。なので、横浜スタジアムに足を運ばないともらえない現地限定動画みたいなこともできたらおもしろいなと考えています。球場への動員にもつなげられるかもしれません。このサービスの広め方や使い方には、無限の可能性を感じています。
胆力で乗り越えた多くの壁
ーーDeNAとしても未知の領域への挑戦ということで、苦労も多かったのではないでしょうか。
下島:いや、企画している間も、世の中的にはNFTが盛り上がっていたので、全体的には「どんどんやろうよ」という空気があった。それがスピード開発にもつながりました。
ーーブロックチェーンは自社でつくるのではなくLINEの独自ブロックチェーンを利用しています。その理由は?
下島:ユーザビリティの観点が大きいです。
現状、ブロックチェーンへの理解や浸透は発展途上なので、心理的障壁を少しでも取り除きたかった。さまざまなブロックチェーンがある中で、LINEであれば日本人になじみも深く安心していただけると思いました。
ーー下島さんはこれまでも新規ビジネス開発に携わってきたのですか?
下島:いえ、今までは既存サービスの運用をやっていたので、今回が初めてです。1から起案して立ち上げまで行うという初めての経験は楽しかったし、新しい技術を使ったサービスをこんな短期間で開発するという経験は、しんどいことも多かった分、挑戦し甲斐がありました。
ーー乗り越えられた秘訣はなんでしょうか。
下島:一言でいえば、胆力ですかね(笑)。新しいことへの挑戦って、予想だにしない課題に直面するんだなと。それをどうにか解決して、突き進み、最後までやりきる胆力が必要だなと実感しました。
NFTが切り開く、スポーツとファンの新しい関係
ーー今後はどのような展開を考えていますか?
下島:リリースすることで見えた離脱ポイントの改善を行った上で、2022年シーズン開幕以降にプロモーションを積極的に打ち、NFTに対する認知を高め、多くのファンを囲い込むことで売上をつくっていきたいと思っています。今はまだ、NFTへの感度が高い人たちが購入してくれているのかなと感じているので、純粋なファンによる購入を増やしていきたいです。
それからまだ具体的に話が進んでいるわけではありませんが、ゆくゆくは他球団とも一緒にやっていきたいなと。そしてその先の世界として、サッカーやバスケなど他のスポーツにも拡大していきたいなと目論んでいます。
ーー野球からスタートしてひろがっていくと。
下島:そうですね。野球は国内においてもっともファンの多いスポーツですから。NFTという新たなファングッズを広めていく上でも、ファンが多いスポーツと組むことは意義があります。
ただ、野球チームを持っていない企業だと、最初のハードルが高いと思うんです。その意味では、DeNAの資産として横浜DeNAベイスターズもあるし、デジタルやビジネスの知見も持っているし、自社の強みをフルに生かせているかなと。スポーツ事業部の収益の一つの柱にしていきつつ、NFTという新たなファングッズを広めていきたいです。
※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。
※本インタビュー・撮影は、政府公表のガイドラインに基づいた新型コロナウイルス感染予防対策ガイドラインに沿って実施しています。
聞き手:箱田 高樹 執筆:日下部 沙織 編集:フルスイング編集部 撮影:小堀 将生