DeNAが注力している事業の1つに、ヘルスケア事業があります。「健康寿命の延伸」を実現させるため、インターネットを活用したさまざまなヘルスケアサービスへの取り組みが進む中、欠かせないのがデザイナーの存在。次々と立ち上がる新規プロジェクトのメンバーとして、デザイナーのプレゼンスはさらに高まっています。
「社会課題に貢献するデザインとは?デザインを事業でどう活用するのか?」そんな決して容易ではない課題に取り組むのが、ヘルスケア事業でデザイナーとして活躍するデザイン本部所属の宮本 昌典(みやもと まさのり)です。社会課題解決のために資するデザインとデザイナーの果たす役割について、宮本の話から探ります。
ヘルスケア事業にデザインをどう活用するか
――現在はデザイン本部に所属しながら、子会社のDeSCヘルスケアでも業務にあたっていると聞きました。それぞれどんな役割を担っているのですか?
デザイン本部では、主にヘルスケア領域の事業に配属されているデザイナーのマネジメントを行っています。一方、DeSCヘルスケアではアートディレクターとして、提供しているサービスのUX/UI開発に携わっています。
――ヘルスケア領域といえば、社会的にもとても意義のある領域ですよね。
はい。ヘルスケア領域は社会課題のテーマとしてとても大きなものなので、非常にやりがいを感じます。また、健康に関連するテーマは個人的に難易度がとても高い分野だと思っているので、デザイン視点のアプローチでいろいろなチャレンジを継続して行っているところです。
社内でも新規プロジェクトが次々と立ち上がっているのですが、各ドメイン知識の専門性が高く、キャッチアップから適切なアウトプットへの難しさを感じる日々です。反面、まだまだデザインで貢献できる分野が多いことに大いに好奇心をそそられますね。
――扱うテーマによって難易度も変化すると思いますが、そういった場合、やはり専門知識を持っていないとプロジェクトに加わるのは難しいのでしょうか?
確かに知識は必要ですが、備えていないとプロジェクトに参加できないわけではありません。まずは、ドメインのスペシャリストとの勉強会やヒアリングの場をつくり、プロジェクトの目的や背景をベースに必要な知識をインプットしていきます。
そしてプロジェクトに必要な材料が揃ったら、そのサービスやプロダクトを通じてどう課題にアプローチするか?その根拠は?とチームで議論を重ねながら意識のすり合わせを行います。「やりたいこと」「やらないこと」「やってはいけないこと」を整理していくのですが、専門性が高いこともあって、インプットの期間は他の事業部に比べて多いかもしれませんね。
――プロジェクトを推進する上で、大切にされていることはありますか?
常にユーザー視点で考えることです。能動的で活発なユーザーのストーリーだけではなく、あえて一番悪いストーリーを設定しています。特にヘルスケアでは、「行動に移さない人をどう動かすか」が永遠のテーマですね(笑)。健康活動に対してネガティブな印象を持っている人もいるので、それらをポジティブに転換させるにはどんな動機付けが必要かという仮説を検証します。提供しているサービスによって顧客ニーズや世代など、属性もバラバラなので、検証を繰り返しながら体験設計をしています。
もともと私自身は健康リテラシーが高いわけではなく、専門知識が豊富なわけでもありません。そのため提供するユーザーに近い目線から、機能をどんな体験であればユーザーに届けられるか。また、健康への意識・行動変容を起こしてもらうにはどんなアプローチが効果的か、といった具合に、思考の振れ幅を意識しながら取り組んでいます。
――マネジメントについてはいかがでしょう。メンバーへの業務アサインの際、意識されていることはありますか?
経験値やスキルセットはもちろん考慮しますが、本人が希望すればチャレンジなアサインも行います。普段から1on1などで今後どんなデザイナーになりたいか、キャリアプランも含めて話をしているので、新たなプロジェクトが立ちあがる際は、フラットに話を投げて本人の意思を確認しますね。もちろん、課題を抽出して言語化し、アドバイスをしたりはしますが、課題の設定や目標にどう向かうかはメンバーの自走力に委ねています。
制作会社から事業会社へ
――ヘルスケア領域に特化したデザイン業務は前職からですか?
いえ、DeNAに入社してからです。
――それまではデザイナーとしてどんなお仕事を?
新卒でIT関連の広告制作会社に入社してグラフィックデザインを学び、その後はデジタルエージェンシーで大手のコーポレートサイトやデジタル広告のアートディレクションを行っていました。デザイナーとして約10年のキャリアを歩んだ後、DeNAに入社しました。
――主に広告分野で活動されていたのですね。多くの経験を積み、主要戦力として活躍を期待されていた時期かと思いますが、転職を考えたのはなぜでしょうか?
前職では既存のウェブサイトのリニューアル案件が多かったのですが、リリース後の運用に関わらないことで元のデザインから乖離していくのを目にし残念な思いを持っていました。また、クリエイティブ職では珍しくないのですが、成果物の決裁権を持つ人との距離が遠く、意思決定のプロセスが見えないことに対する違和感が年々大きくなっていったんです。
――その違和感がDeNAを志望するきっかけになったのでしょうか。
1つのきっかけになったと思います。それまでは「DeNA=ゲームと野球」というイメージで、自分とは関わりのない会社だと思っていたのですが(笑)、私がDeNAに入社した5年前は複数の新しい事業が立ち上がり始めていた時期で。事業を生み育てていく環境に惹かれました。デザイン組織の強化も打ち出していましたし、自分のスキルとマッチしそうだなと思ったんです。
制作会社から事業会社へ転職する上での不安はありましたが、ちょうど友人がDeNAで働いており、社内の雰囲気をダイレクトに聞けたのも大きかったですね。
常に求められることの数段上を目指す
――入社して5年ほど経ちますが、DeNAのデザイナーに共通して見られる傾向などはありますか?
入社して感じたのは、求められていることの数段上のクオリティやアウトプットを出す人が多いなということでした。DeNAでは、プロジェクトを進めていく際、ビジネス職やエンジニアとの本質的な議論を日常的に行います。
立場に関わらず自分の考えをはっきり伝える文化があるので、最初は戸惑うこともありましたが、会社の行動指針の1つに「発言責任、傾聴責任」とある通り、発言した意見にはしっかり耳を傾けてくれますし、思ったことを誠実に返してくれます。心理的に安全だとここまで議論の内容が鋭くなるのだなと強く印象に残りましたね。また、職域にとどまらず広く意見を求められるので、自ずとアウトプットの質の高さにつながっている実感があります。
――デザイナーの関わる範囲が広い、という話はよく聞きます。
そうですね。デザインだけをしていたい人には合わない環境かもしれません。よいデザインをつくるためにビジネスの上段から関わり、デザインで事業にどう貢献するか。そんな風に考えられる方にはたくさんのチャンスがある面白い会社です。それまでのキャリア関係なしに大きなプロジェクトを任されることもありますし、いつの間にか複数の職域を受け持つようになる人もいます。
――職域をまたいで活躍するデザイナーもいるのですね。
DeNAではデザイン職以外の野心溢れる人と出会えるのもメリットだと感じます。デザイン本部だけを見ても、多種多様なキャリアを持つ方が多いですね。社内独立を支援するデライト・ベンチャーズもあり、自身のキャリアパスを広い視点で描いていきたい人にとってはチャンスの多い環境だと思います。
――過去の経験が今に活きているなと感じることはありますか?
ビジネスの成果につなげるための広告デザインに携わっていましたし、制作に入る前にクライアントに対して行っていたヒアリングの経験などは、今に活きていると感じます。
デザインはさまざまな状況や制限から答えを導くので、事業上の課題や現在の立ち位置、目指したい姿などをヒアリングしながら、想定よりスケールを大きくしたり、コンセプトを検討したりと、会議の中でスピーディーに方針を決定することができています。
――では、仕事をする上で心がけていることは?
ヘルスケア部門はデザイナーが少ない環境ではあるので、デザイナー視点から思っていることをオープンに話すようにしています。どんな懸念が予想されるか、本質的にそれでいいのかなど、職種の違うメンバー同士で着地点を探しながら建設的な議論になるよう心がけていますね。
デザイン視点の新規事業開発にも挑戦したい
――DeNAでの仕事を通して、デザイナーとして成長できたと思うことはありますか?
デザインを俯瞰的に見るようになったことでしょうか。事業全体に関わることで、どのプロジェクトも限られたリソースや予算の中で行われていることを認識することができました。
デザインをどこに注力させれば最大の効果を得られるのか。日々変わる事業状況を見ながらリソースを調整する動きができるようになったことは、大きな変化かもしれません。
――今後のキャリア形成について、考えていることはありますか?
DeNAはゲームと野球の会社、というイメージが先行していると思いますが、社会課題領域のヘルスケアやオートモーティブなどの事業にも注力していることを、デザインの力でもっと広めていきたいですね。
――個人としてはどうでしょう?
在籍して5年になりますが、やりたいことがまだまだあって、それらを一つひとつ着実に前に進めていくことが当面の目標です。また将来的には全く違う分野の新規事業にも挑戦したいですね。実は、入社した年に一度新規事業の起案をやっていまして。今は当時よりもっとチャレンジしやすい環境が整っているので、チャンスを逃さずしっかり掴んでいきたいです。
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※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。
※本インタビュー・撮影は、政府公表のガイドラインに基づいた新型コロナウイルス感染予防対策ガイドラインに沿って実施しています。
執筆:片岡 靖代 編集:川越 ゆき 撮影:石津 大助