スポーツエンターテインメントを軸にまちづくりをする、という一大プロジェクトが現在横浜と川崎を舞台に進行中です。プロジェクトを率いるのは、スマートシティ統括部スマート・ベニュー推進部企画グループ所属の中寺 康太郎(なかでら こうたろう)。
不動産業界からDeNAへ、業界もカルチャーも飛び超えて2020年に転職し、入社後1年でマネージャーに就任。担う領域は前職と同じ都市開発でありながら「今までとは違う視点で取り組んでいる」と語る中寺に、なぜDeNAに入社したのか、そして何を実現しようとしているのか、その真意を聞きました。
スポーツエンタメを核としたまちづくりを推進
――まずは、「スマート・ベニュー」について教えてください。そもそも、その言葉自体、まだ一般的に聞きなれないと思うのですが、具体的にどういったものなのですか?
スマート・ベニューとは、街の中核施設として「周辺のエリアマネジメントを含む、複合的な機能を組み合わせたサステナブルな交流施設」を表す造語です。
これをDeNA流に解釈すると、スタジアムやアリーナを中心に周辺のエリアマネジメントなどさまざまな事業に取り組み、スポーツエンターテインメントを核とした賑わいのある街づくりを実現すること、になります。
――DeNAの「スマート・ベニュー推進部」では現在どんな取り組みを推進しているのでしょうか?
最も注力しているのは、「横浜スタジアム」を中心とした関内エリアにおける街の賑わいづくりです。
具体的には、横浜市庁舎跡地開発において、開発コンソーシアムメンバーの一員として大規模複合開発事業を推進すると共に、その横浜市庁舎跡地開発の中でDeNAが直営する予定の2つの施設「ライブビューイングアリーナ」と「エデュテイメント」の企画業務や、オフシーズンの「横浜スタジアム」を活用したイルミネーションイベント「BALL PARK FANTASIA」の実施、横浜を題材にしたアクセラレータープログラム「YOKOHAMA Sports Town Accelerator」などを行っています。
建物をつくるというハード面と、新しいコンテンツやイベントを企画するというソフト面の双方からアプローチする我々のポジションは、これまでまちづくりを担ってきたデベロッパーやインフラ企業とも異なり、とてもユニークだし大きな可能性を有しています。
また横浜だけに止まらず、川崎では、『川崎ブレイブサンダース』と共にスポーツ、エンタメの拠点をつくるべく、新アリーナの建設構想も含めて進行中ですし、『SC相模原』の拠点である相模原でも同様に事業を企画・推進していきたいと考えています。
――どんなメンバー構成なのですか?
メンバーは全部で9名、まちづくりに関するキャリアを持つメンバーは私を含む3名で、その他は初めてまちづくりに携わるメンバーで構成されています。専門性が必要なのでは?と感じる方も多いと思いますが、チームメンバーそれぞれ全く異なるキャリアを歩んできているので、業界の「当たり前」に囚われないところがチームの強みだと思っています。
業界の慣習や常識に必要以上に縛られない部分はDeNAらしいと思いますし、多面的視点で自由に議論しながらプロジェクトを推進できていると感じています。
――かなりスケールの大きな事業ですが、先行事例が少ない中、手探りで進めるところもあったりするのでしょうか?
そうですね。国内での成功モデルのようなものがほとんど無いため、試行錯誤の日々です(笑)。でも、そこに大きな面白さを感じ、今はひたすら貪欲に行動する日々ですね。正解がない仕事だからこそ、頭でっかちにならず、とにかく走る。メンバーと一緒に走って動いて考えることに重点を置いています。
DeNAのコーポレートミッションに共感
――これまでどのようなキャリアを歩んでこられたのでしょうか?
新卒で鉄道会社に入社し、主に不動産開発企画や公民連携まちづくり事業に携わっていました。ビルの運営や、ホテルファンドの運用、不動産の投資、公民連携事業の企画開発など、まちづくりに関わる「企画・開発・運営運用」といった一連の業務を経験しました。
また、2014年からは会社勤めをしながら大学院の都市工学科に通い、都市計画や公民連携を学びました。この時私が研究テーマに選んだのが「スタジアムアリーナを核としたまちづくり」でした。都市開発で生活の利便性や快適度を高めると同時に、より人々の生活を豊かにする、異なる価値をもたらすものはエンタメではないかと当時から考えていたんです。さまざまなエンタメがある中でも、自分が好きな「スポーツ」と、得意な「まちづくり」を掛け合わせた分野で、社会に貢献していきたいという想いがありました。
――DeNAの掲げる事業の2本柱「エンターテインメントと社会課題」と一致します。
ええ。研究を通じて、スポーツをスタジアムやアリーナの中に留めず文化として街中に広げていくことが、事業としてのスポーツにもまちづくりにもプラスになる、との考えをより深めました。
同じ頃、DeNAのスポーツ事業部の方々とお話しする機会があって。自分の想いや考えと、DeNAの取り組もうとしている事が一致することがわかったんです。自分の経験や研究の成果を活かすことができる場はここだな、と感じました。
――出会いに運命的なものを感じます(笑)。
そうですね(笑)。DeNAの掲げるコーポレートミッション「一人ひとりに 想像を超えるDelightを」にとても共感しましたし、目指す山が一緒だな、と感じたのは入社の後押しになりましたね。あと、自分は川崎生まれの横浜育ちなので、『川崎ブレイブサンダース』や『横浜DeNAベイスターズ』と共に自分の故郷をよりよくできる、という気持ちになれたのも大きかったです。
フラットな環境がイノベーションを生む
――前職とDeNAでの業務に「まちづくり」という共通点はありますが、全く異なる業界への転職ですよね。入社後、驚いたことや感じたなどはありますか?
驚いたのは、若くても責任あるポジションで活躍している人が多いことですね。前職は年功序列の部分もあったので、自分と同じ世代のメンバーが大きな裁量を持って活躍している姿を見て嬉しくなったし、刺激にもなりました。
あと、ポテンヒットを拾いに行く、バレーボールのレシーバーみたいな人が多いのがとても好きです。ポテンヒットって、そもそも誰が受けるべきかもそのボールの中身すらもよくわからないものが多いから、一般的には避けられがちだと思うのですが、DeNAにはそれを積極的に拾いにいく人が多い。そういう人材が多いことはとても貴重ですし、フラットな企業カルチャーも事業を推進していく上でとても大切だと感じています。
――入社当時、意識的に行っていたことなどはありますか?
最初は、DeNAのやり方や考え方を吸収することを意識しました。また、まちづくりや不動産開発の中の「当たり前」や「固定観念」をチームメンバーに押し付けないようにしています。メンバーの歩んできたキャリアはさまざまですし、多様なメンバーが集まっているからこそ斬新な視点でプロジェクトをより豊かなものにできると考えています。
企画に関するブレストをすると、不動産業界では出てこないような発想がよく飛び出してくるんです。そこに別のアイデアが掛け合わさったりして、本当にワクワクするような新しいものが生まれる感覚があります。ハッとさせられることも少なくないですね。
――とはいえ、都市開発の現場では不動産に関わる高度な知識や視点を要求されることは多いですよね。
そうですね。前職では行政と仕事をすることが多かったのですが、今もその機会は非常に多く、行政の考え方や事業推進のプロセスを知っていることは非常に役に立っています。また、複雑なステークホルダーと長い時間をかけて開業を目指すような事業も多かったため、腰を据えて事業に取り組む粘り強さのようなものは今の業務でも活きていますね。
――スペシャリストとして経験を積んできたからこそ今感じる課題はありますか?
DeNAは事業領域が広い分、他事業部のことがわからなかったり情報が入らなかったり、時には部分最適な考え方になってしまっているケースに時々遭遇します。「スマート・ベニュー推進部」の取り組みはオールDeNAでの連携が必須なので、我々が横串機能となって全体最適視点で業務を進めていきたいと考えています。
「スポーツ×まちづくり」のトップランナーを目指して
――入社して2年が経ちますが、前職とは異なる環境に身を置いたことで、ご自身に何か変化はありますか?
これまでの「当たり前」を当たり前だと思わないようにする思考が身についた分、自分自身にも新しい取り組みができる可能性が広がったと思います。固定観念に縛られない発想やアイデアに日々触れる中で、「もしかしたらこんなこともやれるかも」と、これまでとは別の切り口で事業を考えることができるようになりました。
――現在何か考えていることがあるのでしょうか?
進行している事業と重なる部分もありますが、いろんなスポーツを楽しめる場づくりや仕組みづくりをしたいと考えています。公共のスポーツ施設を利用するには事前の登録や予約が必要ですし、予約も抽選制だったりします。そもそも野球なんかは人数が集まらないとできませんし、道具も全部自分たちで揃えなければならない。手ぶらで現地に行って、手軽にスポーツを楽しめる仕組みや場所について、海外の企業の取り組みなども含めてアイデアを練っているところです。
――スポーツやエンタメを通じたまちづくりへの想いが伝わってきます。では最後に、今後の目標をお聞かせください。
「スポーツ×まちづくり」のトップランナーになることが当面の目標です。今担当しているプロジェクトを必ず成功させ、日本のスポーツビジネスをスケールさせる足掛かりとしたい。この取り組みは、より多くの人に感動や興奮、人生の彩りを提供することができる、エポックメイキングなプロジェクトになると確信しています。
スポーツがその街の文化的なインフラとなるモデルケースの実現に向けて、メンバーと一緒に前に進んでいきたいと思います。
※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。
※本インタビュー・撮影は、政府公表のガイドラインに基づいた新型コロナウイルス感染予防対策ガイドラインに沿って実施しています。
執筆:片岡 靖代 編集:川越 ゆき 撮影:石津 大助