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DeNAが本社移転。渋谷と横浜の2拠点体制にした本当の狙いとは?

2021.12.24

2021年8月。DeNAは9年間本社を構えていた渋谷ヒカリエを離れました。新たな拠点は2つ。ヒカリエのすぐ隣にあるWeWork 渋谷スクランブルスクエアと、横浜関内です。

新型コロナウイルスの流行もあってリモートワークが普及。オフィスの意義が問われ始めている今、なぜDeNAは「シェアオフィス」と「横浜の地」を選んだのでしょうか? そこには、DeNAが再定義したあたらしいオフィスのあり方がありました――。

移転プロジェクトを企画・リードした、HR本部人事総務部総務グループの中村真弓(なかむら まゆみ)と、井上悠子(いのうえ ゆうこ)に、移転の顛末と狙いを聞きました。

一人でコードを書くのでなく、チームで協働する場所に

▲ヒューマンリソース本部人事総務部総務グループ 中村 真弓(なかむら まゆみ)
2008年DeNA入社。本社移転、拠点新設などファシリティマネジメント業務を中心に、業務改善や働く環境改善など幅広く担当。2012年の本社移転に次ぐ2度目の移転プロジェクトとなる。家庭では2児のママ。

ーーこのタイミングでオフィスを移転した理由を教えてくだい。

中村 真弓(以下、中村):コロナ禍で、社員の働き方が変わったことです。

これまで渋谷ヒカリエに7フロアを借りていましたが、リモートワークが増え、出社率が10%未満の状態が続いていたんですね。「ヒカリエの広いスペースを圧縮したい」というニーズがまずありました。

ーーDeNAはリモートワークへの移行も早く、在宅支援なども充実させたため「オフィスに行かなくてもいいワークスタイル」を形にされていましたからね。

井上 悠子(以下、井上):ただ一方で、全社アンケートを取ると「ある程度、オフィスでのリアルなコミュニケーションも重要だね」との声も少なくなかったんですね。

たとえばフェイス・トゥ・フェイスで仕事をしていると、ちょっとしたニュアンスが声や表情、場の雰囲気から伝わりやすかったり、場を共有していることで自然と同僚が話している情報が入ってきたりと対面で得られる良さもありますね。

また、チームでアイデアだしやブレストをしたり、細かなインプットをするとき対面の方がコミュニケーションを取りやすい場面もあります。

ーーZoomやSlackは便利ですが、実務以外にムダのない、サバサバしたコミュニケーションに偏りがちになりますからね。

井上:Slackなどのテキストコミュニケーションが増えたことで、会話が可視化されたり、後々ログが追えたりとメリットもありますが、人によってコミュニケーションコストがかかる場面もあります。

社歴の浅い社員、たとえば新卒や中途入社した方や部署異動によりチームに新たにジョインした人のオンボーディングプロセス(会社に馴染んでもらうためのマナーやスキルを身につけるプロセス)についても、オンラインのみのコミュニケーションでは難しいという声もあります。

効率的なオンラインでのコミュニケーションだけだと、雑談などにより人となりを知ったり、新たに関係性を構築することが難しくなっていますね。

やはりオフィスなどでリアルな接点を持つほうが格段にコミュニケーション量も増え、質が高まる面があります。

ーー“チーム感”みたいなものもリアルなコミュニケーションがあったほうが醸成されそうですよね。

中村:もちろん、個人やチームにもよりますが、ラフなコミュニケーションがしづらくなるデメリットを感じる人は多かったのは確かです。

ーーラフなコミュニケーションとは?

中村:たとえば、デザイナーがキャラクターのデザインをしているとき。画を描いていて、「ちょっとこのキャラどうかな」と悩むタイミングって、ままありますよね。

もちろん、ビデオチャットなどでも相談はできますが、向こうが手が空いているか否かわからない状態で「ちょっと相談にのってほしい」と伝えるのは意外とハードルが高い。忙しい手をムリにとめさせてしまうことも考えられます。またそうなると、「ちゃんとした画を見せなくては」とどこかハードルもあがりますよね。

ーーああ、たしかに!しかしオフィスにいれば、横にいる同僚がいま忙しいか余裕があるかわかるから気軽に声をかけやすくなる。

中村:そうなんです。いい意味でラフに先輩や仲間に相談できる。話を戻すと、オンラインで仕事はできるけれど、育成面からみると、「ラフなコミュニケーションがしやすいリアルな環境って、あらためて大事かもね」という声が主にマネジメント層からあがっていたんですよ。

井上:また偶発的な出会いや、雑多なアイデアが混じり合うようなシーンもリアルなオフィスのほうがありえます。

こうしてやはりリアルなオフィスは必要だと決断。そのうえで、各事業部にヒアリングをしたところ、「全社員の30%ほどの座席数で十分」との声もあったので、その規模感が新オフィスのサイズの目安となりました。

ーー裏を返すと、オフィスなんてなくても全然パフォーマンスを出せると考える社員も多いわけですよね。

中村:おっしゃるとおりです。そうしたニーズも織り込んで、これまでの常識にとらわられず、あらためて“リアルなオフィスの意味を再定義“した感じですね。

井上:そうでしたね。私たちも「そもそもオフィスって何?」ということで、「どんな場所であるべきか、どんな場所にしたいか」から話し合って、新オフィスのコンセプトを3つに定めました。

▲ヒューマンリソース本部人事総務部総務グループ 井上 悠子(いのうえ ゆうこ)
新卒で地方銀行に入行し資産運用、融資の営業・事務を経験。2017年にDeNA入社し、社内向けヘルプデスクの立ち上げを行う。1年後からファシリティ担当としてオフィス環境改善や子会社等の移転を経験。趣味はヨガ。イントラの上位資格取得に奮闘中。

ーーそのコンセプトとは?

井上:「DeNAで働く仲間とのつながりができる場」「人と組織の多様性を発揮できる場」「安心して協働できる場」の3つです。

中村:1つ目の「仲間とのつながり…」に関しては、先にお話したとおり、ひとりでデスクワークをしたり、コードを書く分には自宅でもどこでも十二分にパフォーマンスは出せる組織です。

それだけにあえてリアルな場に出向くならば、チームでの何かしらのコミュニケーションやクリエイティビティを発揮できる場である必要がある。そうでなければ意味がないともいえると考えました。

ーー2つめの「多様性を発揮……」は?

井上:多様な人が集まり多様な事業を展開していることがDeNAの特徴のひとつです。それもあってデザイナー、エンジニア、ビジネスサイド、ヘルスケアの専門家など、本当に多様な才能がそろっています。もちろん世代や国籍も。こうした多様性に沿った多様な働き方を許容する幅の広さを形にする必要があると考えました。

中村:さきほどの「出社してほしいけれど、リモートワークでももちろん問題なし」もそう。本当に幅広で柔軟なワークスタイルに対応できる仕事環境こそが、新しいオフィスだろうと。

ーーなるほど。最後の「安心して協働……」は?

井上:直近の新型コロナウィルスへの感染対策もそうですし、防災対策やセキュリティ面などもふくめて、安心、安全な環境を担保したオフィスを、との意味です。

中村:こうした3つのコンセプトを具現化したのが、今回のWeWork 渋谷スクランブルスクエアと、横浜関内の新たな2拠点なんですよ。

WeWork 渋谷スクランブルスクエアに求めた、オフィスの「伸縮性」

ーーヒカリエ1本だった拠点を、渋谷と横浜に分けた理由は?

中村:DeNAは創業当時から渋谷区内を転々としているので、社員の利便性を損なわないよう渋谷駅周辺をメインに考えました。シェアオフィスの活用というのは当初の想定にはなかったのですが、選択肢を広げたことで理想の形でのオフィス構築がみえてきたので比較検討を繰り返した結果、渋谷駅直結のWeWork 渋谷スクランブルスクエアを選びました。

ーー一方の横浜は横浜DeNAベイスターズの拠点だから、でしょうか。

井上:そうですね。もともと横浜DeNAベイスターズのオフィスは横浜の関内にありました。また横浜は「DeNAのこれから」を強く伝える場所でもあります。

スポーツに加え横浜スタジアムを中心とした横浜スポーツタウン構想というまちづくりの取り組みを進めています。また川崎ブレイブサンダースやSC相模原といった神奈川県にあるプロスポーツを中心とした地域づくりも進めており、地域の方にDeNAという会社のファンにもなっていただければと、考えています。

その意味で、関わりの深い横浜、神奈川といった地域に根ざした企業になる。そのひとつの姿勢として、本社機能を横浜にも移して2拠点体制をとったのです。

ーーそれぞれのオフィスの特徴を教えてもらえますか? まずはWeWork 渋谷スクランブルスクエア、どうしてシェアオフィススタイルのWeWorkを選んだのでしょうか?

中村:「伸縮性」が決め手でした。

繰り返しになりますが、多様な事業を持つことはDeNAの特徴のひとつ。それは今後さらに多様性を増して、新たな事業やメンバーが増えることも、減ることもあり得るということです。

そう考えると、柔軟性を持って部屋数や席数を増やせるWeWorkは最適だと考えたのです。

井上:あとWeWorkは、日本国内をはじめ、世界の各都市のWeWorkを使えるオプションサービスがあることも大きかったです。DeNAはいま、ゲームはもちろん、「Pococha」などグローバルに事業を拡大させはじめているサービスが増えています。WeWork 渋谷スクランブルスクエアを契約することで、海外でのワークスペース、協働スペースが活用できるのは大きなメリット。後押しになりましたね。

ーー40階のワンフロアすべて。加えて37階、39階、41階の一部を借りられました。ファシリティなどに特徴は?

井上:席数は移転前の四分の一程度に縮小して、基本はフリーアドレスとし、コーポレート部門や営業部門など一部はグループアドレス席としています。

中村:そのフリーアドレスの中でも「Nest(ネスト)」という特別な区画を設けました。

ーー「ネスト」とは?

中村:Nestとは英語で「巣」という意味。始動したプロジェクトのメンバーがネストに集い成長をして、いつしか巣を離れ世に飛び出すことをイメージして名付けられたエリアです。

ネストにはメンバー同士が集い、事業や人材を生み出せるようにオフラインでのコミュニケーションがしやすいレイアウトになっています。

ーーコンセプト「仲間とのつながりができる場である」の具現化ですね。

中村:そうなんです。とくに「つながり」のニーズが高かったゲーム事業本部と「Pococha」のチームがいま「ネスト」を使っています。両グループとも、リアルイベントや放送イベントなどを多く手がける。ワイガヤでイベントの企画を練ったり、イベント運用で不可欠なコミュニケーションスキルを磨くことにもつなげる意味でもリアルなオフィスで、しかも集まりやすい場が不可欠でした。

そこでプロジェクトごとに「ネスト」を活用。日々、グループの誰かが集まって、喧々諤々のディスカッションをしています。

ーーラウンジにも力を入れたとか。

井上:そうですね。もともとWeWork 渋谷スクランブルスクエアにはラウンジがあって、大きなソファやいくつかのテーブルがあります。そこでコーヒーやその他ドリンクが無料で飲めるようになっていてドリンク片手に仕事をしたり、リフレッシュしたり、夜はクラフトビールも飲めます。

WeWork 渋谷スクランブルスクエア内のDeNAラウンジ

井上:DeNA専有フロアの入り口付近の、誰しも一度は通る導線上にDeNAラウンジを配置しました。ここで自然に「以前から知り合い」「気になっているプロジェクトの人」「偶然出会った別部署の人」などとコミュニケーションするきっかけが生まれます。そこから仕事のヒントや、新たな事業の芽吹きがあればすてきだなと考えました。

某部署のマネジャーは出社するとわざとこのラウンジで仕事して、部下などが「自然と声かけしやすいように」していますね(笑)。

中村:生ビールが飲めるのも、やはりいいですよね。今は外で飲むのは誘いづらい。だからといって同僚と仕事を離れて少しフランクに話したいときもあります。そんなときに、社内のラウンジでおいしいビールが飲めるのはありがたいし、好評です。ちなみに渋谷では横浜DeNAベイスターズでつくっているクラフトビールも楽しめるので、ゲストの方にもぜひ試していただきたいですね。

井上:また、渋谷にも横浜にもラウンジに135インチの大型のディスプレイを設置しています。スポーツやゲーム、ライブストリーミングなどDeNAの各事業を紹介するムービーを映していて、自社サービスの理解であったりカルチャーを発信する場として、今後さらに活かしていけたらと思っています。

「あそびごころ」に込めた意味

横浜オフィスのキャンプエリア

ーー横浜オフィスの特徴は?

中村:関内駅から徒歩5分のところにあるビルの5階6階の2フロアが横浜オフィス。こちらは先にあげたコンセプトを具現化した場にしました。シェアオフィスのWeWork 渋谷スクランブルスクエアと違い、改装の自由度が高いですからね。

井上:こちら独自のデザインキーワードは「Playful(プレイフル)」なんですよ。

ーー日本語でいう「遊び心」ですね。

井上:はい。このオフィスにくることがわくわくする、楽しくなる場所ではなくて「このオフィスからわくわくする楽しいことを生み出していく場所」にしたいと考えました。

横浜オフィスのワークショップゾーン

中村:だから広くスペースをとったのはワークショップゾーンです。チームで集い、協働して、遊びごころをくすぐる何かを創造するためのスペースです。

5階フロアのもっとも目立つ場所にあって、六角形の特注のデスクを用意。いくつかをつなぎあわせて自由度が高い形にデスクをつくることができるようにしました。

ーーカラフルなホワイトボードもたくさんありますね。

井上:はい。グループでのディスカッションを前提としているからです。また可変式のデュアルディスプレイもプレゼンをしやすくしてあります。

横浜オフィスの小上がりスペース

ーーもっとも「プレイフル」感を感じさせるのは、そのワークショップゾーンの横にある芝生がしかれたキャンプ場のようなスペースと、靴を脱いであがる小上がりのようなスペースです。

中村:キャンプエリアはアウトドア用品を並べて、まるでキャンプ場で話しているような開放的な雰囲気にしています。気分を変えた着想につながり、オープンな会話につながればと。

井上:ちなみにここには、南場智子(DeNA創業者)が寄贈してくれたトランポリンもあります(笑)。

中村:小上がりも土足厳禁で、大きな座席のような部屋で仕事できるようになっています。こちらも気分を変えたディスカッションができるし、ここでデスクワークをしている人も多いですね。将来的には、ボードゲームなどもおいて社員の遊び場としても機能させたいです。

ーーもちろんデスクワーク用のスペースもあり、フリーアドレスで自由に使える。また6階は配信用のスタジオがあるとともに、広く抜けの良いラウンジスペースがありますね。

中村:デスクワーク用のスペースにもこだわっていて、可動式のデスクや個人ワークに集中できるエリアなどあります。また、ラウンジはリラックスして息抜きもできるし、ラフなスタイルでの商談やミーティングもできることを意識してつくりました。出入り口付近は、渋谷同様に大きなテーブルとフリーでドリンク類が飲めるような設備も設置。カジュアルな会話や偶発的なコミュニケーションが生まれやすいようにもしてあります。

井上:実はラウンジの奥には大型ディスプレイで遊べるゲーム機やボードゲームを設置する予定です。一人でプレイして楽しむ……のではなく、誰かとワイワイ楽しんで、周りも一緒にもりあがられる場になればと。

横浜DeNAベイスターズの試合も一人でテレビで見るよりも、皆でワイワイと楽しむと盛り上がりが違う。それを体感してほしいのと、新たな会話や出会いのきっかけにもしてほしいです。

ーー一貫してコミュニケーションや出会いを誘発するためのしくみが用意されているわけですね。

中村:そうですね。ただ、渋谷も横浜も私たちが用意したのはハコであり場所でしかない。ここを使う多様な社員のみなさんが出会って、語り、何かを生む。そうしてよりよく使っていくことではじめて本当の「楽しさ」や「居心地のよさ」が生まれると思っています。

井上:だからオフィスは会社がつくるものではなくて、当たり前ですが、使う社員の方々、みんなでこれからつくっていくものともいえますよね。

中村:そうそう。だから、まだまだこれから渋谷も横浜もオフィスの形は変わっていくだろうし、カルチャーも育っていく。自分が働く場所なので、今いるチームのメンバー、またこれからチームになっていく方々をふくめて、「一緒にもっといいオフィスをつくっていきましょう!」というのが私たちの狙いで、願いなんですよ。

※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。
※本インタビュー・撮影は、政府公表のガイドラインに基づいた新型コロナウイルス感染予防対策ガイドラインに沿って実施しています。

執筆:箱田 高樹 編集:フルスイング編集部 撮影:小堀 将生、石津 大助

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