ゲーム、スポーツ、ヘルスケア、ライブストリーミングなど、さまざまな事業を展開しているDeNA。事業を横断的にサポート&リードしていくため、現在データエンジニアリングに注力しています。その一環として今年の4月、組織を再編してデータ統括部を新設。データ分析からAI活用までを包括的に見る体制を整えました。
そのデータ統括部の一部門である分析推進部は、事業部門や共通部門の意思決定などをデータ活用によって支えるための部署。兼務を含め、30名のデータエンジニアやデータアナリストが所属しています。
「データを制するものが勝者になる」とまで言われる今日、その最前線で戦う分析推進部の取り組みについて、3名のデータエンジニアに話を聞きました。
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「データから力や価値を引き出す」。それが我々のミッション
――まずは新設されたデータ統括部と分析推進部について、どんな組織なのかを教えてください。
岩尾 一優(以下、岩尾):データ統括部は「データから力や価値を引き出す」をミッションに活動している部門になります。今年4月、組織をプラットフォーム化し、分析からAI適用までデータ活用を包括的に見ることができる体制にする、という狙いの元に組織を再編成し、誕生しました。
その配下にある分析推進部は、兼務を含めデータアナリストやデータエンジニア、AIプロジェクトマネージャー合わせて30人が所属し、それぞれ協力し合いながら事業部門における意思決定を支えたり、データ活用が必要な業務の改革を行ったりなど、全社のデータ活用を支えています。
内嶋 慶(以下、内嶋):私は、所属はヘルスケア事業本部なのですが、データ分析・活用の文脈で分析推進部のメンバーと連携しながら業務に取り組んでいます。
――データ統括部ができる前はどのような体制だったのですか?
岩尾:再編前から分析推進部はあり、データエンジニアやデータアナリストが所属していました。それとは別にデータサイエンティストが所属するAIシステム部もありました。
二つの部は同じシステム本部配下の組織でしたが、少し距離があったんです。さらに、AIシステム部にはプロジェクトマネージャーのようなAI周りの案件を推進できるような役割のスタッフがいませんでした。
そこで分析推進部にAI系のプロジェクトをハンドリングするような仕組みを作り、さらに全体をデータ統括部という形でひとつの組織として再編することで、連携を強めるようにしたのです。
――再編後の状況はいかがですか?
内嶋:人材が潤沢にいるわけではない中で分析業務がかなり増えていて、それを効率的に捌いていくにはプロジェクトマネジメントが重要です。社内にどういう人材がいてどういう案件があるのか。データサイエンティストも得意不得意の領域があるので、それを理解した上で適材適所へ配置しなければならない。バラバラにやるよりも統括してやっていく必要性は感じていたので、最適化した体制になったと思います。
データエンジニアは、データ分析のためのアーキテクチャーを設計
――データエンジニアという職種はここ数年で登場した印象があります。
岩尾:データエンジニアという職種をよく聞くようになったのは2018年くらいからでしょうか。それまではデータ分析エンジニアとか、それっぽい名前で呼ばれていた気がします。
ーー具体的にどんな業務になるのでしょうか?
データ分析系の人材としてデータアナリスト、そして高度な機械学習をするAIモデルをつくるデータサイエンティストという2つの職種があります。我々データエンジニアは、彼らがデータを活用し分析するのをより効率的にするために、データ自体を準備する仕事になります。簡単に言うと、データ分析するためのデータを収集から活用するところまでの全体のアーキテクチャーを設計し、データパイプラインを開発・運用する、という感じです。
――現在、岩尾さんは分析推進部の部門長ですが、ここに至るまでのキャリアについて教えていただけますか?
岩尾:前職はサービス開発のエンジニアリング業務でしたが、サービスをつくる中で発生するさまざまな課題に対処したりするうち、データ分析の重要度が高まってくるのを感じました。そこでエンジニアとしてできることを考えてやっていたら、データエンジニアリングに詳しくなっていったという感じです。
2018年にDeNAに入社してからは、データエンジニア専門組織の立ち上げ、全社のデータプラットフォームの大規模コスト削減、BI(ビジネス・インテリジェンス)プラットフォームLookerの導入推進などを行ってきました。その他、各サービスを支えるデータパイプラインの開発やデータプラットフォームのクラウド移行など、データ活用に関するさまざまな取り組みもしています。
――深瀬さんがDeNAに転職されたのはいつですか?
深瀬 充範(以下、深瀬):2020年2月です。キャリアアップしたかったというのもありますが、デジタルマーケティングなどの特定の事業にこだわらずに広い範囲でやっていきたいな、というのが転職のきっかけです。
前職はシステムエンジニアとして主に社内システムの開発に従事していました。その中で、社内に点在するログやデータを収集する基盤を構築し、いわゆるデータアナリストに向けてBIツールなどを駆使してデータを提供・活用してもらう、ということをしていました。いわゆる今のデータエンジニアという括りとしての知見や経験を自然に積んできたという背景があります。
―ーー現在、どんな業務を担当されているのでしょうか?
深瀬:私は共通部門向けの業務効率化やデータ利活用の課題解決を主に担当しており、直近では管理会計などの社内データからTwitterなど各種オープンデータまで幅広く扱っています。現場で「この面倒な作業、効率化するのは無理だよね」って言われているようなことを、実はデータ活用によって効率化できるのではないかという目線で考え、自らの経験およびエンジニアリングを駆使したソリューションを提供しています。
――内嶋さんは今年の2月入社とDeNA歴が一番浅いわけですが、前職は?
内嶋:テクニカルディレクターとしてWebサービスやアプリサービスに関わっていて、主にシステムの安定化をするための負荷試験やスケールアップできるような仕組みづくりをしていました。
――なぜ転職先としてDeNAを選んだでしょうか。
内嶋:元々ヘルスケアや健康に対する興味があり、DeNAは本気で社会課題領域に取り組んでいるのを知り、転職しました。
入社前はヘルスケア事業のアーキテクトを見て欲しいと言われていて、DeNAのヘルスケアはWebサービスもアプリケーションもあるので全体を見るのかなと思っていたんです。入社してみたら、実はそこにメンバーが誰もいなくて、ひとりで設計も開発もしています(笑)。データエンジニアの仕事はDeNAに来てからですね。
現在は主に、利用許諾を得たレセプトデータを匿名加工して、個人に紐づかないようにして、分析しやすいデータをつくる仕事をしています。
事業が多角化しているので、多種多様なデータを扱える
――皆さん他社で業務の経験がありますが、データエンジニアの働き方についてDeNAならでは特徴はどこにあると思いますか?
内嶋:自分でどんどん前に進めていける土壌、風土があると思います。どうすれば使いやすいものになるか、より精度の高いものになるか、自分なりに考えて、もちろん間違えることもありますが、そういうのを上長のフィードバック受けながら前に進むことができる。やる気があって自分から動ける人は大きく伸びていける会社だと思います。
深瀬:わかります。縦割りでトップダウンな組織だと、決められた作業以外の他のことはあまりできない体制だったりしますし。
内嶋:DeNAはその点でものすごくフラットです。でも自由度は高いけど放置されているわけではなく、上長はちゃんと責任持って壁打ちをしてくれます。
深瀬:個人的に「こんなのつくってみましたがどうでしょうか?」といった提供もできます。すると「使ってみたけど、こうしたらどうだろう」と、使用した側もフィードバックをくれるので、いいものをつくり上げることができている実感があります。
あと、DeNAは事業が多角化しているので、いろんなデータを扱えることができるのも魅力かと思います。
岩尾:DeNAの事業を大別するとエンターテインメント事業と社会課題解決領域事業の2軸になります。エンターテインメント事業でもライブストリーミングやゲームがあり、さらにゲームにもいろんなタイトルがあります。社会課題解決領域事業も同様で、扱うデータの種類は実に多種多様です。
しかも事業ごとにデータの特性が全然違います。たとえばゲームの場合、1タイトルで1ペタバイト以上の大規模データを扱うことがあり、どうすれば処理時間が短縮できるだろうとか、海外展開するタイトルではその国の法律をチェックして法に則った組み方をするにはどうすればいいかなど考える必要があります。またヘルスケア事業では病歴などの究極の個人情報も扱うため、セキュリティ対策は万全にする必要があります。
このように事業によって取り扱うデータの性質や求められる要件が違うので、飽きることがありません。いろんな事業に携わることができるのは確かに魅力かな、と思います。
――では、DeNAのデータエンジニアに求められる能力は何でしょう?
岩尾:我々はBigQueryを中心としたアーキテクチャーを採用しています。ですので、その辺りに詳しい人を募集しています。ただ、技術スキルは大切ですけれど、同等かそれ以上に事業やサービスへの理解がとても大切で、そこは採用でも重視しています。データ利用者への理解が、いい設計や取り組みにつながると考えています。
深瀬:目的に対する事業貢献への貪欲さとか意欲、ユーザーの皆さんに対するホスピタリティが大事かなとは思います。「デライト(Delight)を提供する」ができるかどうかですよね。
岩尾:あと、今強化しているのはデータマネジメントという知識体系に関わるところです。データを安全に効率的に届け続けるためのセキュリティや品質など、いろんな分野があります。
たとえば、「朝8時までにこのデータを届けなければならない」となった時、適時性や欠損してないかなどいろいろなチェックポイントがあり、それぞれモニタリングして安定したデータを届ける必要があります。それをデータマネジメントというのですが、そこに経験のある人材がいるとうれしいですね。
内嶋:「クオリティチェックをするためのツールをつくる」など、事前に欠損に気づくことができるようにならなければいけません。まだ手動でやっている部分も多く、自動化、効率化していくというのがこの先の課題です。
「データ活用の可能性は無限にある」。そのために我々がいる
――最後にDeNAのデータ活用において、今後はどのような展開を考えていますか?
岩尾:会社全体としては、ライブストリーミング事業やM&Aに力を入れていこうとしています。
前者のライブストリーミング事業に関してはここ1年の伸びがすごいので、それに伴いデータ活用をどんどん強化していく必要があります。これまでのゲームや他の事業で培ったデータ処理のノウハウをフルに活かして、事業の伸びに貢献していきたいですね。
後者のM&Aですが、ここに力を入れることによって、今後は他社のデータを扱うことが想定されます。協業先や事業によって何をやるべきなのかをクイックに見定め、都度データ環境を立ち上げていくという作業が頻繁に発生する可能性があります。機動力ある展開が求められるので、ビジネス環境への理解を強化していくべきだと思っています。
内嶋:ヘルスケア領域に限った話になってしまいますが、現状、カルテなどのいわゆるオープンデータの精度はあまりいいものではありません。まずそのクオリティをどう上げていくか、そしてどう多くのデータを効率よく集めるのか、そこが課題です。
この先、逼迫が予想される医療費を下げるため、健康寿命を伸ばそうとする取り組みの中で、製薬会社や大学教授と食生活や薬なども含めてどうしていけばいいのか、データを使って解決していこうとしている最中です。
深瀬:マーケティング系の部門で顕著なのですが、ツイッターなどSNSで投稿されたオープンデータの活用に課題を抱いているところは多く、そのためSNS系データのプラットフォームを整えて全社的に使えるものを作ろうとチームを立ち上げました。
DeNAとして今後データを使っていくためのデファクトスタンダードをしっかりと立て、将来のBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)、業務改革や再設計、再構築に活用できるような、アウトプットを出せるものを目指していきたいと考えています。
内嶋:「データ活用の可能性は無限にある」という世の中の風潮ができて、データエンジニアの需要がすごく上がってきています。我々が取り組もうとしていることはとても壮大で、データの会社を目指す上でまだまだ課題はありますが、DeNAはすごくスピーディーに進めることができるのではないかと思っています。
※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。
※本インタビュー・撮影は、政府公表のガイドラインに基づいた新型コロナウイルス感染予防対策ガイドラインに沿って実施しています。
執筆:片岡 靖代 編集:フルスイング編集部 撮影:小堀 将生