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多良木町のIT人材の育成に協力。子どもたちの未来にDeNAができること

2021.09.21

DeNAは、将来のIT人材の育成に向けて、熊本県多良木町と「IT人材育成事業に関する協定」(※)を2021年8月5日に結びました。

この調印に先立って、DeNAと多良木町は、今年2月に2日間にわたってプログラミングワークショップを開催。DeNAの小学校向けプログラミング学習アプリ「プログラミングゼミ」を用いて子どもたちとゲームを制作したり、Scratchやmicro:bitなどの教材を用いたAIやIoT、ブロックチェーンなど最先端の技術分野に触れたり、10年後の未来を想像しながら「自分たちで未来を創る」イベントとなりました。

その実績を踏まえ、今後も継続的にITの人材育成に対しさらに協力し合いながら推進しようと今回の締結に至りました。

この企画に尽力した多良木町側の担当者、一般財団法人たらぎまちづくり推進機構の栃原 誠(とちはら まこと)さんと、DeNA側の担当者であるゲーム事業本部コンテンツ企画部 プロデューサー 田中 翔太(たなか しょうた)に話を聞きました。

(※)……https://dena.com/jp/press/4768

熊本県多良木町の現状と課題

▲一般財団法人たらぎまちづくり推進機構 業務執行理事COO 栃原 誠(とちはら まこと)
1995年多良木町役場入庁。下水道、健康保険、総務、税務とさまざまな業務を経験。2018年より企画観光課に地方創生推進係が新設され、同時に同係長として配属。地方創生推進交付金事業を中心に活動しながら、積極的に都市部の企業へアプローチを行い、さまざまな企業連携を実現してきた。 また、多良木町ファンを創出するために定額で全国住み放題の多拠点移住サービスと事業連携し、自ら家守となり多良木町とさまざまな人材を繋げ、交流・関係人口の最大化を推進している。多良木町出身、多良木町在住。

ーーまず、多良木町について教えていただけますか?

栃原 誠氏(以下、栃原氏):多良木町は、町の面積の約8割が山や原野です。人口が今年の8月1日現在で9,129人で、多くの市町村と同じく人口減少が止まらない状態が続いています。農業や林業といった一次産業が盛んな地域なのですが、担い手不足が深刻で、とても難しい局面を迎えているところです。熊本県の南部に位置し、熊本空港より鹿児島空港の方がアクセスがよく、鹿児島空港から約1時間15分で多良木町に着きます。

ーー景勝地など、観光的なアピールポイントをお聞かせください。

栃原氏:上の写真が、多良木町に流れる球磨川の風景になります。普段はこのように穏やかな河川なんですが、昨年7月豪雨災害が起きた当時は多良木町でも氾濫しそうな勢いでした。

栃原氏:こちらの写真は、「妙見野自然の森展望公園」という展望公園です。人の向こう側に白いものが見えますが、これ雲海なんですよ。

ーー雄大ですね。

栃原氏:11月から2月ぐらいまでのタイミングで人吉球磨を覆いつくす雲海が現れます。実はこのスポット、多良木町の街中から車で10分ちょっとで気軽に行ける展望公園で、ここでちょっと仕事したりとかと雲海ヨガをやったりとか、皆さんが気軽に利用されています。

田中 翔太(以下、田中):多良木町を検索してみると、観光協会のFacebookや他にも観光系の記事などおもしろいものが拝見でき、発信にも力を入れられてるのかなって感じます。

ーー田中さんは多良木町に行かれたことは?

田中:実はですね、まだないんです。

ワークショップや IT人材育成も含めてなんですが、DeNAと多良木町の皆さんで話をし始めたのが新型コロナウイルスの流行のちょうど最中で、多良木町を訪れたことがないというのが実情なんです。

▲株式会社ディー・エヌ・エー ゲーム事業本部コンテンツ企画部 プロデューサー 田中 翔太(たなか しょうた)
アルバイトとして「怪盗ロワイヤル」の分析・運営に参加後、2012年DeNA入社。人気漫画原作のソーシャルゲーム運営およびオリジナルゲームの開発、プロデュースを担当。2018年より先端技術×デジタルエンターテイメント領域の新規事業開発とアニメ企画出資に従事。2021年より中央大学国際情報学部 兼任講師として専門科目「情報サービスとゲーミフィケーション」を担当。

ーーすべてオンラインで行われたんですね。

田中:でも実はそこが逆にすごい可能性を生むことになったんです。後ほど説明します。

ワークショップの内容と子どもたちの反応

ーー今年の2月に行われた「プログラミングワークショップ」について教えていただけますか?

栃原氏:このワークショップは、多良木町の子どもたちに、プログラミングやAIなどのIT技術を実際に動かして体験する機会を提供しようと始まりました。多良木町にはIT企業がありませんので、実際の社会でIT技術がどのように使われているかなどを子どもたちに考えてもらい、自身のキャリア形成に役立つ機会をつくっていきたいという狙いです。

田中:DeNAは、“将来を担う子どもたちに IT の力をつけながら思考し行動し、自ら将来を拓く力を持って欲しい”という思いで2014年からプログラミング教育をしています。多良木町の子どもたちにITの力と可能性に触れてもらう機会をつくることと職業観の醸成を目的とし、栃原さんとともに「プログラミングワークショップ」を開催しました。

ーーそもそも多良木町とDeNAの出会いは?

田中:多良木町からご連絡をいただいたのがきっかけです。プログラミング教育を担当するチームを中心に何ができるかという話を検討してる中で、私は普段ゲームとかアニメをつくる仕事をしているんですが、たまたまこのお話を聞きまして。この多良木町という地域の子どもたちに対してIT企業の仕事を知ってもらい「こういう仕事もあるんだよ」ってお話させていただく機会があるのであればすごくおもしろいと思いまして、ボランティア的に協力させていただくことになりました。

ーープログラミング教育が先にあったわけではないんですね。

田中:「必修になったからプログラミング教育をしてほしい」という依頼というより、むしろ「なかなか出会うことがない職業の方と子どもたちが出会う機会をつくりたい」という意図がすごく感じられて、これはおもしろい取り組みだなと感じました。

ーーそこは意外でした。ちなみにワークショップではどんなことを行ったのですか?

田中:ITの力を活かすと今後の生活がどう変わるか、自分たちの職業がどういうことを新しく生み出しているのかという話をしました。その座学っぽい未来の話の間に、『プログラミングゼミ』を使ったプログラミング自体の体験と、ロボットを使った IoT の体験を挟んだようなメニューです。

ーー子どもたちの反応は?

田中:長時間にも関わらず、本当に真剣に聞いてくれました。大人でもフルリモートで2、3時間というワークショップは苦痛かと思うんですが、参加された小学校4年生から中学2年生までのお子さんたち総勢21名、教室の後方に常時通信ができる端末を置き、「わからなくなった時は、すぐ質問に来てください」としていたんですが、何かあると質問にすぐ来てくれたりとか。多良木町の子どもたちが積極的に学んでいこうとする姿勢、あるいは何かを持って帰ろうという姿勢にすごく感動したのを覚えています。

ーーそれはうれしいですね。

田中:あともうひとつDeNAとしての収穫と言えるのが、このコロナ禍で担当者が現地に行けないという異常な状況で、たとえば大量の機材、 iPad や必要な資料をどう渡すか、実際の講義はどのように行うかなど、心配なことはたくさんありました。そこを宅配やリモートでの通話をフルに活かして講義設計を考え、結果2日間、皆さんにすごく楽しんでいただけたことは僕としても自信になりましたね。

ーー実際、参加者の感想はいかがでしたか?

栃原氏:子どもたちの感想を一部紹介しますね。

「講師の人の話を聞いて、つくるという自信を持った」「課題を見つけたりすることで未来をつくることができるとわかりました」とか、「自分の想像力をこれから身につけたい」という意見もありました。

また、「“つくる自信”という言葉を聞いて、“つくる自信”はたくさんの挑戦をして伸ばしていくのがいいと分かりました」「特別難しいことは必要なく、大切なのは想像力だということがわかり、もっと自分の力を信じて大切にしようと思いました」など、すごく前向きな言葉が聞けたのが特徴的でした。

子どもたちのキラキラした目が物語ること

栃原氏:このようなITに関するワークショップやセミナーは多良木町ではなかなか実施されないので、保護者の方からの満足度も高く、この活動に対しての理解と必要性について強く共感していただいたと思っています。

ーーそれはうれしい反応ですね。

田中:講師側からも教室のうしろで見守る保護者の方が画面越しに見えていて、実はちょっと緊張する場面もあったんですが、今のお話を聞いて安心しました。

今回のこのワークショップで大切にしていたのが、「授業にもなるし、これからはみんながプログラミングをやらなきゃいけないんだよ」みたいな話をしたかったわけではなく、「スマートフォンを使ったりゲームを遊んだり音楽を聴いたりすることって、実は全部裏側にテクノロジーがあって、その技術も日々進化している。その進化は、決して東京の研究所などだけで生まれているわけではなくて、皆さん一人ひとりが将来こうしたいと思うこととか、こうなったらいいなと思うことから生まれるんだ」ということなんです。

栃原氏:都会ならプログラミングを教える塾もあると思うんですが、多良木町では民間でもプログラミングを教えるサービスは存在しません。そういう意味でも、保護者から「財団のこの試みはすごくうれしい」というお話をいただきました。

田中:IT企業との接点がなく、それをつくり出すこと自体が栃原さんのお仕事として周りから評価され、保護者からも歓迎されていると聞いて、協力させていただいて本当によかったなと思います。

もうひとつ、この声は全国にあると思いました。IT企業、あるいはITで働いている人が両親や親戚、知人にいるという地域自体が、全国的に見ると少ないんだろうなと改めて感じまして。私自身も小・中学校の頃に、その時代において先進的だと言われてる働き方を知る人とじっくり話す機会があったかと言われると、確かにありませんでした。

ーーなるほど、これが冒頭の田中さんの言葉「後ほど説明します」につながるんですね。

田中:はい(笑)。個人的には新卒3年目ぐらいの若いメンバーにこの多良木町のワークショップに参加してもらって、自分たちの話を目をキラキラさせて聞いてくれる子どもたちと対話して欲しいです。この経験は、会社の中においても、キャリアを形成していく中でもすごく勉強になることだし、自分に自信を持つきっかけになるんじゃないかと。この2日間を体験した僕が一番強く感じたことがこれだったりします。

調印式の直後に教員研修を実施

ーー先日締結された、「IT人材育成事業に関する協定」について教えていただけますか?

栃原氏:2月に行われたプログラミングのワークショップをきっかけにして、今後もIT人材の育成を多良木町とDeNAさんとの間で継続的に相互連携をしていきたいということで、8月5日に「IT人材育成事業に関する協定」の締結に至りました。

オンラインで行われた調印式の後に、DeNAさんから講師を2名お招きして、町内の小・中学校の教職員に、プログラミング教育の教員向け研修を実施しました。小学校では2020年度からプログラミング教育が必修となり、GIGAスクール構想(※)の一環で、全児童にタブレットが一台ずつ配布されています。これを教育事業に活かしていくために、まずは教員向けの研修を実施したというわけです。

※……全国の児童・生徒1人に1台のコンピューターと高速ネットワークを整備する文部科学省の取り組み。

ーー調印式のすぐ当日に教員研修をするというのは、すごいスピード感ですね。

栃原氏:最初は先生たちも慣れないプログラミングということで緊張されたり、分からないところが多々あったんですが、苦戦しつつも自然と先生同士のコミュニケーションが生まれ、また講師の方の説明を聞きながら自分も触っていくうちに、最終的には「楽しかった」「おもしろかった」という声が漏れていたのが印象的でした。

ーー先生が苦戦する場面もあったんですね。

栃原氏:そうですね。研修後のアンケートにもあったんですが、どうしても最初は苦手意識があったようで、「どう触ればどう動くかがわからない」とか、「そもそもプログラミングって何?」という人もいました。でも実際に自分でプログラミングをやってみると「自分が考えたように動くおもしろさを感じた」そうで、短期間のうちに大きな変化が起きたみたいです。

田中:それはよかった!

実はこちら側の懸念として、「先生方がそもそも多忙である」ということがありました。日々教育現場でいろんな取り組みをされていて、さらにそこに“プログラミング”という異物が入ってくるっていう印象をお持ちなのかと。

さらにそれを公教育の中で進めるとなると、いろんなルールや保護者からの心配にも対応しなきゃいけないですよね。僕らからすると「まずお子さんたちに端末を好きなように触ってもらおう!」という発想が自然に出てきたりしますが、おそらく先生方の頭の中には、「子どもたちが安全に使えるだろうか」だったりとか、「教育の元々の狙いから外れていないだろうか」とか、心配なところもあったんじゃないかなと思うんです。

ーー確かに。気をつかうポイントが全然違ったりしそうです。

田中:もう一ついいなと思ったことですが、ひとりの先生にお話をすると、今担当されている児童生徒さんだけでなく、将来の生徒さんもにどんどん伝わっていくような効果があると。

まずは志を育てる

ーー多良木町の皆さんから、今後DeNAに期待すること、もしくはこういったこともできたらいいな、というところがあれば教えてください。

栃原氏:今年度はモデル校ということで、ひとつの小学校に対してこのプログラミングの教育を実施していきますが、来年度以降は中学校も含め、多良木町のすべての小・中学校でこの展開ができたらいいなと思っています。

田中:それはいいですね。小学校と中学校で内容をどう変えていくのかなど、プログラミング教育必修化とGIGAスクール構想もふまえつつ、今後対話を重ねていきたいと感じます。

と言いつつ、一方で強く思うことがあります。

実はこの新しい領域、プログラミングや IoT、AIなどについて子どもたちと話していると、「小学校4年生から中学校3年生まで、そんなに差がないんじゃないかな」「年齢関係なくいろんなことができてるな」と感じていて、小さなお子さんでもマインクラフトで遊んでいる子もいますし、あるいは日々新しく自分でゲームを探して遊んでいる子もいます。

プログラミング的素養だったりとか、IT企業への興味関心、あるいは就業への意欲がふつふつと育っているなというのはワークショップでも感じているので、今後の公教育でのプログラミング教育や情報の授業とはまたちょっと切り口を変えて、「この多良木町に眠っている、これからスタートする才能と出会えるかもしれない」というところも、実はゲームやアニメをつくっている人間としてすごく楽しみにしています。

ーー才能を発掘する楽しみですね。

栃原氏:私としても、多良木町からどんどんチャレンジする人材が育って欲しいなと思っています。どうしても今の子どもたち、1回は地元を離れてしまうんですよね。多良木町を出たとしても、そこに志があり、自分が培ったスキルや想いを、いずれ地元に戻って発揮しようと思ってくれる環境を我々は提供していきたいなと考えています。

田中:いいですね。まず志を最初に育てる。そしてもし地元を離れたとしても、多良木町で学んだことをいつか返しに行こうと思ってもらう。

この IT デジタルの時代においては、十分あり得るのかなと思います。まさに我々が「テレワークだったら地元に帰りたいな」と、エンジニアやビジネスの人間でも出てきているように、自然な流れになっていくような気がします。

ーー多良木町としてはどんな将来を期待されていますか?

栃原氏:たらぎまちづくり推進機構としては、この関係を太く長く継続できるよう努力していきたいと思っています。その中で地域の活性化に繋がるような取り組みを一緒に創造し、この多良木町というフィールドで、いろんなイノベーションが起きることを期待しています。

※……この記事は、2021年8月11日に行われたBIT VALLEY 2021での講演「多良木町のIT人材育成チャレンジ」を編集し、作成いたしました。

※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。
※本インタビュー・撮影は、政府公表のガイドラインに基づいた新型コロナウイルス感染予防対策ガイドラインに沿って実施しています。

写真提供:多良木町 編集:フルスイング編集部

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