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モノづくり体制を強化するために明文化。DeNAのエンジニアカルチャー「DEQ」とは

2021.07.15

ゲーム、ライブストリーミング、ヘルスケア、オートモーティブ、スポーツなど、DeNAの多岐にわたる事業の「モノづくり」の中核、エンジニアリングを統括するのが、CTO(チーフ・テクノロジー・オフィサー)のnekokakこと小林 篤(こばやし あつし)。

2019年4月のCTO就任以降、エンジニアのパフォーマンスが上がる仕組みづくりや技術投資の拡充などを進める中、2020年8月にDeNAのエンジニアとして大切にしたい価値観を「DeNA Engineer Quality(DEQ)」としてまとめました。

DeNAのエンジニアカルチャーを明文化したというこのDEQ。なぜ明文化する必要があったのか、DEQを活用することでどんな文化を醸成しようとしているのか――。策定からもうすぐ1年を迎える今、小林にDEQへの思いや狙いを聞きました。

DeNAのエンジニア共通の価値観「DEQ」とは

――まずはDEQ(デキュー)の概要について教えてください。

小林 篤
▲ 株式会社ディー・エヌ・エー 常務執行役員 CTO 兼 システム本部長 小林 篤(こばやし あつし)@nekokak
法学部法律学科からエンジニアへ転身し、2011年にDeNAに入社。Mobageおよび協業プラットフォームの大規模システム開発、オートモーティブ事業本部の開発責任者を歴任。2018年より執行役員としてDeNAのエンジニアリングの統括を務め、2019年より常務執行役員 CTOとしてより経営レベルでの意思決定に関わることと、技術・モノづくりの強化を担う。

DEQとは、部門やサービスに関わらずDeNAのエンジニアとして大切にしていきたい価値観を明文化したものです。

「Craftsmanship」「Intrepid and Insightful」「Expand your horizons」の3つから成り、現場のエンジニア個々人にも意識して体現して欲しいと共に、会社としてもこの価値観を理解し、共感し、エンジニアが働きやすく、成果が発揮しやすい環境を整えていくのがセットだと思っています。

――それぞれ詳しく教えていただけますか。

まず「Craftsmanship」について。これは、DeNAがつくるプロダクトと生み出す価値に対して熱意と誇りを持ち、妥協することなくこだわり続けよう、本質的な価値を届けるために、対立を恐れずお互いの専門性に敬意を払って各々の専門性を最大限に発揮しよう、というものです。

個々で仕事をするだけでなく、チームで開発する際に、エンジニア以外の社員とも連携することがあります。相手の専門性をきちんと理解し、敬意をもち、個々の専門性を最大限に活かしていくことで、チームとしての成果を最大限発揮させてほしい。そんな思いを込めています。

――DeNAのエンジニアが持つべき「モノづくり魂」像といったところでしょうか。次に「Intrepid and Insightful」については?

前例や固定観念に囚われず、問題の本質を捉え、柔軟さや大胆さを持って取り組むことで、さらなるインパクトを生み出そう。それによって、チームのパフォーマンスの向上やプロダクトの成功に繋げよう、という考えです。

本質的な課題解決をしていこうという考えがベースではあるのですが、視点を変えたり、普段とは異なるアプローチで課題に取り組むと、意外なやり方が解決策になることがあります。たとえば、施策をやめるとか、既存のソリューションを活用するとか。経験のある手段・手法にこだわらず、視点の広さや大胆な発想をもっていって欲しいと思っています。

――では3つめの「Expand your horizons」についてお聞かせください。直訳すると「視野を広げる」という意味ですが……。

日々変化する世の中に対し、探究心と向上心を持ち能力に磨きをかけよう、次々と出る新しい技術もどんどんキャッチアップして自己研鑽しよう、という姿勢や気構えを示しています。

DeNAは「技術の会社」と言われて久しいですが、そうあり続けられる根底には、エンジニアの好奇心や向上心、探究心があります。業界の流れやそこで扱う技術が日々スピーディに進化していく中で、一人ひとりが技術を磨くだけでなく、その学びを成功も失敗も関係なく周囲に共有する。そういうエンジニアがDeNAには数多くいます。「いいね、やってみよう」「もっとこうしたらどうだろう」と、チームとして挑戦を支援していくことが大切です。

失敗を許容する文化を醸成する、挑戦の芽を決して摘むことなく積極的に歓迎し支援していく。結果、視野が広がることに繋がると考えています。

DEQがつくられた背景

――そもそもなぜDEQをつくることになったのでしょうか。

小林 篤

じつは、最初から共通の価値観を明文化しようと考えていたわけではないんです。中途採用を各事業部で推進していく中で、DeNAのエンジニアブランディングの観点から、どうすればDeNAの本質的な価値が伝わるのかを検討していた時のことでした。

「らしさ・魅力」を社内エンジニアにヒアリングしていたのですが、これまでDeNAが培ってきた強みを確認すると同時に、その強みが活かしきれていない状況が見え始め、まずは社外よりも社内に対してのメッセージが必要なのではないかと思い始めたのがきっかけです。

――ヒアリングの中で内在していた問題が輪郭を持って浮かび上がった、と。

はい。2019年にCTOに就任し、エンジニアやクリエイターがパフォーマンスを最大限に発揮できる環境を用意しよう、また事業で直面する課題を取りこぼさずに解決しようと一心に努めてきました。その一方で、中長期的に組織をどうしていくか、という議論がしっかりできていないのではと感じてもいました。

この件をきっかけにさらに現場でのヒアリングを重ね、まだ顕在化していない問題や事業軸とは別のエンジニア個人の成長、組織や評価に関する課題なども洗い出していきました。

――具体的にどんな声があがったのでしょう?

たとえば、「最適な開発体制が構築できていない」「全社的に知見と人材が有効活用できていない」「チームが大規模化していてマネジメントが難しい」「開発環境やツール・学習環境の整備が不足している」など、その内容はさまざまでした。

その過程で、そもそも「DeNAのエンジニア文化はどうあるべきか」「どのようなエンジニアをDeNAは求めているのか」という点について、十分に伝わっていない、伝えられていないことに気付きました。

――そこで「DeNAのエンジニアとして大切にしたい価値」を言語化しようと始まったのがDEQプロジェクトなのですね。

小林 篤

そうです。結果、DeNAエンジニアの特徴や強み、残したい文化などを言語化することができました。

課題の解決や組織の強みを伸ばす時って「あれもこれも」となりがちなのですが、目指すべき方向性や軸をしっかり持っておくと、組織としての判断基準が明確になります。それがDEQの狙いでもあります。DEQの考えが施策や取り組みに反映されていくことで「DeNAらしさ」もより強化されていくと考えています。

エンジニアによるエンジニアのための行動指針

――DEQ策定の過程について。先ほど、エンジニアへのヒアリングから明文化の必要性を感じたとおっしゃっていましたが、どのようなプロセスを経て言語化されたのでしょうか。

あがってきた課題を一つひとつ対応していく施策はもちろん行いますが、前述の通り、まず施策の軸となる考え方が必要である、という思いに至りました。軸がないと施策も場当たり的になってしまいますし、組織の中で意識や行動が統一できません。

また、DeNAは事業内容の幅が広く、事業部ごとにカルチャーや考え方に差異が生まれやすい、という事情もあります。価値観を明文化することで「DeNAのエンジニアのあるべき姿」を明示するだけでなく、経営やマネジメントや他職種のメンバーとの意思疎通や課題解決にも取り組みやすくなるだろうと考えました。

――明文化することを決定した後は?

小林 篤

CTO室が中心となり、各事業部のエンジニアにさらなるヒアリングを行いました。エンジニアリングで大切にしていること、DeNAらしさなどを聴き取り、まず素案をつくりました。次にエンジニアボード(※)で、素案を元にボードメンバーと具体化していきました。ワーディングができたタイミングでエンジニアの部長陣への意見照会を経て、最終的に「Craftsmanship」「Intrepid and Insightful」「Expand your horizons」の3つの言葉に集約しました。

※……各事業部から選出されたエンジニア代表。全社的なエンジニアリング課題やエンジニアに関わる組織課題を解消するための組織

――策定にあたって大切にされたこと、こだわった点があれば教えてください。

意識したのは、DEQは個人に対してだけ求めるものではないということです。もちろん、エンジニア個々人にも定めた価値観の体現を意識してほしいですが、会社としてもDEQの体現をサポートする組織でありたい。「DEQはエンジニアが働きやすく、成果が発揮しやすい環境を整えていくこととセットである」というのが基本的な考えです。

新たな繋がりの創出に向けて

小林 篤

――DEQの理解促進や浸透に向けて始めた施策などはありますか?

半年に一度、エンジニア向けにDEQサーベイを実施しています。DEQで示した内容が組織で実践されているか、サポートされているかを定点観測するための調査です。フリーコメント欄も設けており、全社的な課題などがあればCTO室でイシュー化して、解決するために動いています。

また、DEQをより体現しやすい組織にするため、登壇などの対外発表する際のフローを整えたり、資料購入のルールを見直すなど、要件を細かく整理し、環境整備も進めています。

――策定から約1年ですが、その浸透具合はいかがですか?

DEQという共通の価値観を軸に既存の制度をブラッシュアップしたり、これまで注力できなかった取り組みを実行できたりなど、組織として前進しているのを感じます。

各部門でもDEQ観点での組織開発や問題解決に努めていますので、個別具体的な事例や取り組みについても、今後積極的に発信していく予定です。

――全社的な取り組みと各部門ごとの動きがそれぞれあるのですね。

各部門によって組織を構成するエンジニアの体制や事業フェーズが違うので、DEQの軸は変わらずとも、その捉え方や考え方、注力するポイントは異なります。そこは各部門ごとに、エンジニアボードのメンバーが部門のマネージャー達と連携しながら、柔軟に浸透と実践を進めてくれています。

――DEQはエンジニア向けとのことですが、ビジネス職やデザイナー職といった他の職域の方にも広く伝えていくことで仕事の関わり方やコミュニケーションを重ねる際にお互いの理解が深まるような気がします。

小林 篤

まさに今動いていっているところです。DEQを知ってもらうことで、普段の業務やプロジェクトといったさまざまな場で、エンジニアが考えていることや行動を理解しやすくなると思っています。

そこから、お互いの専門性や個性を活かしたチームづくりに繋がったり、組織全体での理想な形を議論することに繋がったり、エンドユーザーへ新しい価値をどう届けられるかの発想にも繋がったりと、さまざまな繋がりが生まれることを期待しています。

――DEQがこれからどんな繋がりを生んでいくのか、時間を経てどんなエンジニアカルチャーが醸成されていくのか楽しみになりました。では最後に、メッセージをお願いします。

DeNAではゲーム、スポーツ、ヘルスケア、ライブストリーミングを始めとし、さまざまな事業ドメインでチャレンジをする機会があります。さらに今後も新しい事業ドメインを開拓していく予定です。今ある技術を活かすだけではなく、より専門性を高める必要もあったり、新しいドメインに立ち向かっていく為に新しい技術を身に着けていく必要もあります。

今回ご紹介したDEQは、こういったDeNAのチャレンジ、エンジニアのチャレンジを後押しするような価値観でもあると思います。カルチャー醸成の道半ばではありますが、エンジニアが大活躍できるように、そして引き続きデライトあふれるプロダクトを提供し続けるために、エンジニア組織一丸となって励んでいきたいと考えています。

小林 篤

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※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。
※本インタビュー・撮影は、政府公表のガイドラインに基づいた新型コロナウイルス感染予防対策ガイドラインに沿って実施しています。

執筆:片岡 靖代 編集:川越 ゆき 撮影:小堀 将生

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