「働き方」だけでなく「働く環境」にも大きな変革をもたらした2020年。DeNAはコロナ禍以前よりリモートワーク制度をテスト導入していましたが、感染拡大をきっかけに本格導入へと大きく舵を切りました。同時にオフィスの固定席を廃止してグループアドレス制とし、使用するフロアを制限。DeNAの勤務形態は、今後もリモートワークと出社を織り交ぜ、状況に応じて選択できる働き方になります。
オフィスのあり方や存在価値、快適な執務環境、そしてDeNAらしさ――。議論を重ねに重ねた結果、これらの施策に行き着いたと総務グループの中澤 洋輔(なかざわ・ようすけ)は言います。
より使いやすい快適なオフィスづくりとリモートワーク環境の整備について、起案から実行までのプロセスを追いながら「働く環境」のアップデートに尽力する総務グループの活動を紹介します。
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リモートワーク導入で見えたオフィスのあり方、変わる存在価値
――まず、コロナ以前はどのようなオフィス環境を目指していたのでしょうか。
実は、総務では数年前からリモートワーク制度とグループアドレスの導入を検討していました。リモートワークが増えれば固定席の必要性は低くなるのではと考え、固定席を廃止して座席数を絞り、広がったスペースには出社時に社員が集まって何かが創出できるようなクリエイティブな場所をつくろう、と始まりました。
――固定席があることよりも廃止することで得られるメリットの方が大きいと考えていたのですね。
前提として、総務では「快適なオフィス環境って座席ありきじゃないよね」という考えがありました。
また、DeNAでは毎年4月に大規模な組織変更を行うのですが、チームの人員数の変動で席が足りなくなる、なんてことがよくあります。隣の部署との調整が必要になったり、部署自体がフロア内に収まりきらなくてフロアの移動を強いることになったりで、総務はもとより社員にも座席調整の手間を取らせてしまっていました。グループアドレスを導入し、自由度の高いスペースをわたしてその中で回していくようにすれば、座席調整の必要がなくなって効率もアップするのではと。
――オフィスのあり方そのものを大きく変える施策ですね。
施策を導入するにあたって、なぜ出社するのか、オフィスって何のためにあるんだろう、ということを総務内でディスカッションを重ねました。意図的にコミュニケーションを取れること、すれ違いざまに発生する何気ない会話や偶発的な出会いがあること、部署の垣根を越えるようなネットワーク形成ができること、などがオフィスの存在意義なのではないかと思います。
あと、そもそもDeNAの雰囲気を味わえる場はオフィスですが、座席ありきではない。席数は減らしつつも、アイデアを創出できるような環境づくりは実現できるという結論に至ったんです。
――導入を発表した際の、社員の方々の反応はどうでしたか?
それが、特にグループアドレスへの反応がよくなかったんです。自分専用の作業環境は維持したい、部署として固まっていないと業務に支障が出そう、連携の深い部署とは隣接していたいなど、たくさんの意見が寄せられました。それで、まずはリモートワークをテスト導入してみようと開始したのですが、グループアドレスの導入時期は見定まっていませんでした。
そんな中でコロナの感染拡大があり、両施策とも本格導入へと一気に加速したという感じです。割とすぐに理解が得られたのはコロナの後押しも大きかったと思います。あと、いざ導入するとみんな環境に慣れるのが早かったですね(笑)。
――リモート環境やグループアドレスに慣れてくると、それまで抱いていたオフィスへの価値観も変化しますよね。
導入後に社員がどんな課題感を持っているか、さまざまな事業部の方に現状のヒアリングをしたんです。総務としては全社的にコミュニケーションを取る機会がなくなった点が課題かなと考えていたけれど、事業部側は自分たちのチームをうまく回すためにどうしていったらいいだろうっていうところに着目していて。出社していた時には取れていたコミュニケーションが以前のように取れなくなっているところに課題感を持っていることがわかりました。
そんな背景もあり、まずはチーム内のコミュニケーション課題を解消するための施策をトライアルとして進めています。部署やチームが活性化するための「場」、全社的に集まることができる「場」、それぞれに工夫を凝らしていくことが、今後オフィスの存在価値につながると感じています。
「多様性を尊重し、活かし合う」オフィスを目指して
――グループアドレスの導入についてもう少し詳しくお伺いします。先ほど導入アナウンスに対しての反応がよくなかったとおっしゃっていましたが……。
はい。それで、最初に全部署の事業部長や部長へのヒアリングを実施しました。たとえば座席は現状の2〜3割の席数でいいか、減らした時にどこに支障をきたす可能性があるか、代わりにどんなスペースがあれば回していけるのか、などの意見や提案を2〜3週間かけて確認しました。
単に座席を減らしたいわけではなく、減らすことで社員の方々にとって有効なスペースをつくり出すということが目的であること、そして総務が今後もしっかりとサポートしていく、ということも意識的に伝えるようにしました。
――その後、制度設計へとなるわけですね。
ええ。DeNAの出社率は、最も少ないときで約2%になるなど使用されないスペースが増えたため、光熱費や清掃費等のオフィス維持管理費を削減し社員へ還元する動きも兼ねて、2フロアを閉鎖することにし、その上でどういうレイアウトができるのかを考えました。感染予防のため、座席を隣同士や向かい合う席に座らないように配置し、それに合わせてフロア内のレイアウトを変更したりパーテーションを設置したりなど、感染予防観点で安心して出社できる空間設計にはかなり時間をかけました。
――フリーアドレスではなくグループアドレスを選択した理由はあるのでしょうか。
座席の効率利用を考えると、フリーアドレスが理想形です。ただ、今までは固定席の形態をとっていたので、同じ事業・部門の仲間とのつながりをつくるためには、まずチームとしてまとまって座れる場所が必要だろうと考えました。それで、グループ内で利用できるグループアドレスからスタートしたんです。
効率のよさを優先するならばフリーアドレスだとは思いますが、部署内でフロアが分かれてコミュニケーションを取りづらくなってしまっては意味がないし、スペースの問題等、クリアしなければいけない面もまだまだあります。
――コロナ禍で実行スケジュールを組むのは大変だったのではないですか?
進めていく上でスケジュールはかなり変動しました。当初は2020年4月の大規模組織変更のタイミングで導入する予定でしたが、感染拡大で一旦6月に延期し、その後、社会の状況に鑑みながら最終的に11月の導入になりました。
そこはやはりコロナの影響が大きく、対面で話せばすぐに済むようなことをリモートでチャットやテレビ会議システムを通じてやりとりしなければならなかったし、座席やフリースペースにおけるコロナ対策への課題も増えて、予想以上に時間がかかりました。固定席に保管してあった荷物整理をしてもらうのにもそれなりに時間を要しました。密を避けての出社になるため、全員が終えるまで2ヶ月ぐらいはかかりましたね。
――グループアドレス導入後に見えてきた課題はありますか?
「部署ごとに使用エリアが決まっていて図面上ではわかる。けれど、実際にオフィスに来てみると視認性に問題があり、ぱっと見て自分がどこに行けばよいのかわからなかった」という声がまずありました。また、どこに誰がいるのかがわかりづらい、などのコミュニケーションを取る上での問題。この二つについてはアナログでできること、デジタルでできることをそれぞれ試行錯誤しながらトライし続けています。
あとは部署を超えて誰でも使用できるフリーエリアを設けましたが、うまく活用されているのかどうかはこれから検証するところです。施策途中ということもありますが、クリアしなければいけない面が多々あるのが現状です。
――現在目指しているオフィス像はどういったものでしょうか。
キーワードとして重要なのは“柔軟性”です。つまり、「個々の状況や場面、目的に応じてリモートと出社の良い部分を活用して柔軟に働ける」ということ。DeNAは、多様な事業を展開していますが、そこに集まる人材もじつに多彩。会社のミッションに向かって邁進する、というのは共通項としてありますが、最適な働き方や作業環境は人によって変わりますよね。
「多様性を尊重し、活かし合う」ことは、人材力が最大の強みであるDeNAがチームでDelightを届けていく上で非常に重要であり、だからこそ人や組織の多様性を発揮できるオフィスにしていきたいと考えています。
自宅の執務環境改善へ。オフィスチェアを譲渡
――「リモート+出社」の働き方で、リモートワークがメインの方も多いと思いますが、社員の自宅環境整備のために取り組んだことはありますか?
まずリモートワーク制度導入後の2020年の6月と12月、働き方に関するアンケートを実施しました。選択制の設問の他、フリーコメントを書く欄を設けたのですが、そこで数多く上がってきたのが「自宅の執務環境を整える支援をしてほしい」という要望でした。そこで、まず考えたのは余っているオフィスチェアを社員へ譲渡できないかということです。
――執務環境が業務に与える影響が大きいのはとてもよくわかりますが、オフィスチェアを譲渡すると一言で言っても、会社の資産を譲渡するのは法的な面から考えてもかなり難しいように思います。
そうですね。グループアドレス化によってオフィスの座席を大幅に圧縮し、そこで余ったオフィス什器を有効活用できないか。中でも椅子に対してのニーズは多かったので、オフィスチェアの社員譲渡を実現したいと考えたのがきっかけでした。ただおっしゃる通り税務上法務上の問題があり、ハードルはかなり高かったですね。
――でも、なんとかクリアできたと。
執務環境を快適にするのって、気持ちよく仕事するためにはとても重要です。なんとか叶えられないかと、どうすれば実現できるか、どうすれば法的なことをクリアできるか、メンバー全員で随分と頭をひねりました。起案から実行までは2ヶ月くらいでしたが、とある業者さんに相談し、要件を満たしながら実現できるサービスを設けていただけたのも大きかったです。
他にも社内家具の納入でお付き合いのあるメーカーさんに協力を仰ぎ、自宅の作業環境を整えるためのオフィス家具の割引施策も実施したりましたね。
――そこまで献身的に取り組める原動力はどこにあるのでしょうか。
そもそもアンケートを取るということは、その結果に対して社員は何かしら期待しますよね。そこにどう応えるか、応えられないならアンケートをとっても意味がない、という考えが根本にあります。もちろんすべての要望に応える訳ではないですが、目的や効果をきちんと検討した上で、最大限の策を練ります。それがDeNAの総務の特徴というか強みじゃないかと。
今回のオフィスチェア譲渡が実現できれば社員の方々が喜んでくれることはわかっていたし、事実、反響もたくさんいただきました。施策に対して社員の反応が見えるのにもやりがいを感じています。
相互理解を深める。総務のチームビルディング
――DeNAにおける総務のミッションをお聞かせください。
ずばり、「“Happiness Workplace”を提供すること」です。一人ひとりの社員を笑顔にすることができるようメンバー全員で推進する、という思いでこのミッションを掲げています。それを実現することが総務の役割です。
――コロナ前後で業務への取り組み方も変化したのではないでしょうか。
そうですね。総務の仕事は大きく分けると二つあって、一つは社内サービス系のもの、たとえば問い合わせ窓口のようなものですね。もう一つはファシリティ系、施設や設備に関わることです。
以前は両者を区別して、さらにアサインされた個々人が縦割りで業務を担っていたのですが、その担当者がいないと物事が進まない、他のメンバーがヘルプやサポートをするにも何をすれば良いのかわからない、ということがリモート環境下で顕著になってきました。
それで2020年からは「バディ制」を敷き、必ず複数人で業務を遂行するように変更しました。これによってメインで担当していた領域以外の業務も見えるようになりましたし、新しい業務へのアサインも容易になりました。
総務は他の事業部と違って会社全体にコミットする部署のため、部内コミュニケーションなどで意思統一を図ることがとても重要です。リモート下で、以前よりさらに積極的にコミュニケーションを取るようになりました。雑談を増やしたり、持ち回りで性格診断ツールを利用してメンバーの特性を共有し合ったり、過去の経験や価値観を相互インタビューしてみたり(笑)。意識的に相互理解を深めるようなことやっています。
定例の業務相談ミーティングも週1から週2に増やしました。チーム全員が同じ情報を持ち、「こと」に当たる。これを徹底できていることが、スピード感を持って施策を進めることができる要因の一つだと思っています。
――状況は大きく変わったけれど、チームで事を進めることが新たな気づきやアイデアの創出につながっているのですね。それらを踏まえ、中澤さんが今後取り組んでいきたいことは何ですか。
コミュニケーションという観点で見ると、出社することで得られるメリットは確実にあるのですが、事業部の方々からのヒアリングから、直接顔を合わせなくてもできるコミュニケーションの施策もまだまだあると感じています。事業部の方々の視点の鋭さに感心しますし、そこをうまく施策に落とし込んでいこうと取り組みを進めています。
一方、部門内にフォーカスしがちな部分もあって。それはそれで重要なことですが、部門をまたいだ横のつながりを増やすことで、今後DeNAの強さや発展につながっていくだろうと。事業部では気づかない視点や事業部全体では実施しにくいポイントみたいなところが見えてきたので、今後はそこに注力して取り組んでいきたいと思っています。
※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。
※本インタビュー・撮影は、政府公表のガイドラインに基づいた新型コロナウイルス感染予防対策ガイドラインに沿って実施しています。
執筆:片岡 靖代 編集:川越 ゆき 撮影:小堀 将生
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