DeNAの「人」と「働き方」の " 今 "を届ける。

数万件のレビューは、全て目を通す。『Anyca』を駆動させる馬場光の仕事術|プロダクトマネージャー特集 #1

2018.03.26

サービス開発では「優先的に実装すべき機能」と「そうでない機能」を選別しなければいけない局面がよくあります。人や時間、お金など、開発に必要なリソースは有限。それらの制約とうまく戦いながら、お客さまにとって付加価値の高い機能を増やすことが、サービスを成功させるには必要です。

その役目を担うポジションとして、プロダクトマネージャーが配置されるケースが増えています。本特集では「どんな機能を作るべきか」を考えてディレクションする同職のノウハウに焦点を当てます。

第1回は、個人間で車をシェアするカーシェアリングサービス『Anyca』の事業責任者 兼 プロダクトオーナー(※)の馬場光(ばば ひかる)。「お客さまが書いてくださったレビューを全て読んでいる」というほど『Anyca』を愛している彼は、何を大切にして開発に“フルスイング”しているのでしょうか?

※…『Anyca』開発チーム内では、プロダクトマネージャーのことをプロダクトオーナーと呼んでいます。以下、本文では同職をプロダクトオーナーと表記します。

本質的に重要な機能“だけ”にエネルギーを注ぐ

 ――もともと、『Anyca』のサービスコンセプトを提案したのは馬場さんだそうですね。新規事業のアイデアとして「車」を選んだのはなぜ?

馬場:僕は入社2年目に車を購入したんですが、維持費が高いことがずっと悩みで、なんとかしたいなと考えていました。また、当時はシェアリングエコノミーという考え方が徐々に浸透してきたタイミングで、同期と半年ぐらい前から「個人間カーシェアなんて面白そうだね」と話していたんです。

その同期が新規事業を作る部署にいたこともあり、そのまま『Anyca』を作ることになりました。事業案として『Anyca』を提案し、プロジェクトがスタートしたんです。

オートモーティブ事業本部カーシェアリンググループ 馬場光
2012年、DeNAに新卒入社。モバイルゲームの開発運用チームからキャリアをスタートし、ロワイヤル系ゲームのリードエンジニアやプロジェクトマネージャーを経験。3年目からは『Anyca』のシステム責任者として開発/運用を行う。2017年9月よりAnyca事業責任者。四角い車とゴルフが好き。

 ――企画が通った後、取締役の川崎修平さんとともに開発をスタートしたとか。川崎さんはモバゲーの生みの親であるエンジニアですが、彼から学んだ「プロダクトマネージャーに必要な要素」はありますか?

馬場:良いサービスを作るうえでの大前提として「考えきること、やりきること」を学びました。

川崎さんは「サービスを良くするために1週間開発する」と決めたら、それ以外のことにはわき目もふらずに集中します。あまりに集中するので息をすることを忘れてしまうらしく、コードを書きながら息切れしていることもありました。アウトプットの品質は本当に高くて、コードやアプリの画面を見て感動しましたね。

あとプロダクトオーナーに必要な要素として彼から学んだのは「注力する機能・しない機能を明確に分けること」です。サービスにとって重要な機能には100%注力するけれど、それ以外の機能はそれほど力をかけずに作るというか。川崎さんはその見極めが本当に得意でした。一緒に仕事をして、勉強になりましたね。

サービス開発に携わる人はどうしても「全ての機能に全力を注ごう」と考えてしまいがちなんですけど、割けるリソースには限界があります。だから、大切な機能をブラッシュアップする時間を作るには、それ以外の機能の優先順位を下げることも必要なんです。

実装の答えは、エンジニア自身が知っている

――チーム内で、馬場さんはどのような役割を担っていますか?

馬場:「何をするか」「実装の優先度」は僕が、「どう作るか」はリードエンジニアの畑中陽介さんが考える、2名のプロダクトオーナー制を採用しています。さらに言えば「プロダクトの最終アウトプットをどうするか」は、実装を担当する各エンジニアに任せています。

――最終アウトプットのイメージに、細かく口出しはしないのですか?

馬場:僕はエンジニア出身なんですが、その経験から「どう実装すれば良いプロダクトになるかは、エンジニア自身が一番よく知っている」と思っているんです。

エンジニアは、コーディングの段階でその機能を何回も触ります。そのうえで出した結論は、他のメンバーが頭の中やドキュメントの上で考えたものよりも、絶対に良いものになるはずです。だからこそ、100%信頼してお願いできています。

データ分析から全てが始まる

――機能の優先順位はどういった基準で判断していますか?

馬場:今はサービス拡大を目指すフェーズなので「機能がお客さまにどれくらいのインパクトを与えられるか」を基準にしています。どの機能がどれくらいの規模のお客さまに影響があり、行動がどう変わるかを重視するという感じです。

――インパクトの大きさは、定性面と定量面のどちらで見ているんですか?

馬場:定量面ですね。チームのみんなでこだわって開発し、使いやすいアプリをリリースしている前提なので、定性面としては最大限良いものになるように普段から意識しています。そのうえで、定量的なデータを見て改善するんです。

僕たちは『Anyca』のお客さまの行動ログを取得しているんですが、その情報を元に「こういうアクションをしているのは、こういうニーズを持っているからだよね」と分析し、実装すべき機能を決めています。

――プロダクトオーナーを務める人はデータ分析のスキルもあった方がいいのですね。

馬場:そう思います。施策の成功率を高めるうえでも重要ですし、データがあった方が実施後のふり返りもしやすいです。

――データ分析の結果を元に、機能を追加した例などはありますか?

馬場:オーナー発行クーポンという機能を作りました。これは、オーナーが車をシェアをした後「そのドライバーにまた乗ってほしい」と思ったら、お礼として次回使えるクーポンを送るというものです。

――どのようなデータを元に、その機能を実装することを決めましたか?

 馬場:データを分析してみると「特定の車を何回も使ってくれている人」のサービス利用頻度がとても高かったんです。だから、リピートしてくれる割合を増やすために何をしたらいいだろうと考えて、その機能を実装することにしました。

お客さまに相談して、肌感を取り戻す

――定量面だけではなく、定性的な情報を参考にすることもありますか?

馬場:『Anyca』ではシェア後に車のオーナーとドライバーがお互いにレビューを書くんですけど、僕はそのレビューも全て目を通しています。数万件くらいあるんですけど。

――『Anyca』では「車の撮影会」や「乗りまくりイベント」などリアルイベントを積極的に開催していますよね。そうした場で聞いた意見を、機能に反映させるケースは?

馬場:お客さまの生の声を聞かずに開発を続けていると、自分が想定していた仮説とお客さまの行動結果が乖離してくるケースがあります。それはマズくて。自分の感覚がそうなってしまいそうなときは、なるべくイベントに参加します。お客さまに直接「こういう機能を作ろうと思っているんですけど、どう思いますか?」と相談するんです。

『Anyca』を長く利用してくださっている方は、運営スタッフ以上にサービスのことをよく理解しているケースも多い。その方々の持っている感覚を知りたくて、フランクに話しかけています。

もちろん、お客さまが「この車に出会えて良かった」と嬉しそうにしていたり、『Anyca』 をきっかけに友だちになった方々が一緒に盛り上がっているのを見たいからイベントに行く、という面も大きいですけどね。

勇気を持って“引き算”する

――今後、半年〜1年先のスパンでやっていきたいことはありますか?

馬場:開発チームは明確に決めている目標が1つあります。機能の引き算をすることです。

『Anyca』がリリースされてからずっとPDCAを回して機能を追加し続けてきました。でもネガティブな面を言うと、足し算“しか”できていないんです。アプリに色んな機能がどんどん増えていて、初めて見た人にとってわかりにくい状態になっていると思います。

実際、この間テレビで『Anyca』が紹介されて新規のお客さまがたくさん入ってきてくれたんですが、行動ログを解析してみると、どう使えばいいか迷っているような挙動をしていました。だから、今後は機能の取捨選択をして、すっきりさせていきたいです。

動いているコードを消すのって、エンジニアからするとコードを追加するのと同じくらい大変です。それに、事業を伸ばさなければいけないフェーズで機能を減らすのは、すごく勇気がいります。

でも、短期的な成長ではなく長期的な成長を実現するために、やらなくてはいけないと考えている部分ですね。

必要なマインドは、好奇心・課題意識・素直な頑固さ

――プロダクトオーナーに必要なマインドって何だと思いますか?

馬場:好奇心だと思います。「この人はなんでこんな行動をしたんだろう」「なんでこの数値がこう動いたんだろう」と考えられること。色々な事象に興味を持てるということ。もちろんサービスやお客さまを見るという意味でもそうですし、サービスって社会の中で動いているので外的な要素を知ることも重要だと思います。

サービス改善のデータ分析をするとしても、自発的にやる調査って面白いんですけど、誰かにやらされている調査ってつまらないんです。だから、それを面白い作業に変えるには自分なりに課題意識を持って考えることが重要になります。

それから、素直だけど頑固なこと。サービスに実装する機能を決めるうえで、外部からの意見を取り入れることは当然必要です。だから、他の人たちの声を上手に聞けないのは良くありません。

でも、外的要因で自分の考えがぶれてしまうのも、それはそれでダメで。サービスの機能追加って「人気が出ると思って実装したのに外れた」というケースの方が多いので、そういう状態が続くと他のサービスが実装している機能などが気になっちゃうんですよ。だから、きちんと信念を持って、自分が選んだ方針を貫くことも重要です。

両方の面が必要ですね。軌道修正できる素直さと、やると決めたら突き進む頑固さと。

『Anyca』を最初に使ったときの感動を、お客さまに伝えたい

 ――馬場さんが『Anyca』の改善に“フルスイング”できるのって、どうしてなんでしょうか?

馬場:僕、そもそも『Anyca』のファーストユーザーだったんです。自分の車を『Anyca』に出して、初めてドライバーがついてくれた感動をまだ覚えています。その後、その人がリピーターになってくれて、最終的に僕の車を買ってくれたんです。すごく感動しました。

――他でもない馬場さん自身が『Anyca』を通して温かい体験をしたのですね。

馬場:そうですね。自分自身が利用者として体験した『Anyca』の良さをお客さまにも届けたいという想いがあります。それに、ビジネスモデルとしても絶対に成立すると考えている。その両方を信じられているから、この仕事にのめりこめているのかもしれないですね。

もちろんまだまだ道半ばですし、『Anyca』に足りていない部分もたくさんあるんですけど、より良いサービスにしていきたい気持ちは強く持っています。

――最終的に『Anyca』をどれくらいの規模まで育てたいですか?

馬場:『Anyca』の自動車登録台数って2018年3月現在で4,000台くらいなんですけど、今後まだまだ伸ばしていきたいです。日本にある自家用車の台数は約6,000万台と言われていて、その1%を『Anyca』に登録してもらえたとすれば60万台近くもあります。そうなれば、日本のどこに住んでいても便利に使える状態になり得ると思っていて。

目指しているのは「家の徒歩5分圏内に『Anyca』で色々な車が登録されている」という世界。珍しい車とか高級車だけではなく、気軽に乗れる軽自動車などさまざまなラインナップがあって、ドライバーがニーズに合わせて車を選べるようにしたい。それが実現できるように、今後も『Anyca』を育てていきたいです。

まとめ

プロダクトマネージャーに必要なスキルとマインド

①注力する機能・しない機能を明確に分ける

②「プロダクトの最終アウトプットをどうするか」は、実装を担当する各エンジニアを信頼してお願いする

③どんな機能を持たせるかは、データ分析をベースに考える

④お客さまに相談して、肌感を取り戻す

⑤勇気を持って“引き算”する

※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。

執筆:中薗昴 編集:下島夏蓮 撮影:鈴木香那枝

open menu