DeNAの社内イベントとして、今年6月に開催された新規事業アイデアコンペ『デラコン』。応募総数126案の中から最優秀賞を獲得したのは、20新卒研修チーム発案の「最大3分限定ビジネス通話サービス」(※)でした。
新型コロナウイルスの影響で入社式も新卒研修もすべてオンライン、現在もほぼリモートワークで、取材当日がオフラインでの初顔合わせだったという彼ら。そんな彼らがオンラインでどんなやりとりを通じてこのアイデアに行き着いたのか――。
発案からデラコン応募に至るまでのストーリーを、チームメンバーとメンターを務めた角 壯志(すみ まさし)に振り返ってもらいました。
※……「最大3分限定のビジネス通話サービス」は、コロナ禍のリモートワーク推進で顕在化した「今すぐ、あの人と、口頭で解決したい」のソリューションアイデア。「テキストだとやりとりが長くなるし、Zoomするほどでもないし、いきなり電話をかけるのも失礼だし……」という煩わしさに応える、新しい音声コミュニケーションサービスです。
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チームで感じた共通の課題。雑談から生まれた事業案のタネ
角 壯志(以下、角):きっかけは、2週間の新卒研修後に集まったオンライン飲み会での会話でした。近況報告も兼ねて、仕事のことや身の回りのことについて話していたとき、メンバーの1人である橋本さんの「Zoomをつなぐほどでもない、簡単な質問ができるツールがあったらいいですよね。会社に出社していたら隣にいる先輩にちょっといいですか?って口頭で訊くような。オンラインだと逐一テキスト化しなければならないから、手元の作業がなかなかはかどらなくてストレスを感じています」という発言が、そもそもの始まりでした。
宋 拓樹(以下、宋):橋本さんの発言が事業アイデアのタネになりましたよね。『デラコン』は、DeNA社員であれば在籍年数や所属部署など関係なく、誰もが応募可能。個人や他の新卒同期とのエントリーは既に考えていたのですが、その場にいたみんなもこの発言に強く同意して。「みんながこれだけ共感するのって、これはやっぱりリモートワークの課題だよね」と盛り上がりました。
橋本 瑛奈(以下、橋本):リモートで文面上のコミュニケーションが多くなると、仕事で関わるメンバーに「誤解なく伝えたい」という気持ちが日に日に強くなっていきました。でも、文章や語彙等、伝え方を考えすぎて文章が長くなったり、文章化するのに時間がかかってしまったり、コミュニケーションに労力がかかっていることに課題を感じていました。
仕事まわりのちょっとした疑問や質問に対しても「こんなこと聞いていいんだろうか?」と不安に思うこともあったりして、それをなんとか解決できないか……、解消できるツールはないものか……、そんな思いがこのプロダクトの根本思想だったんです。
石見 優丞(以下、石見):「“ちょっといいですか?”で3分あれば十分な質問が、非対面だとすぐに解決することができない」。リモートで配属された今年の新卒ならではの気持ちがどんどんその場で発散されて、そこへ角さんの「せっかくだから、リモートワークや未来の働き方をテーマに一案出してみよう」の声かけで新卒研修11班としてデラコンにエントリーすることに決まりましたよね。
葛城 龍志郎(以下、葛城):新卒研修が終わって、みんながそれぞれの配属先で新しい時間がスタートして。ちょうどそのタイミングでデラコン募集開始の告知があった。僕もエントリーしたい気持ちはあったけれど、上手く考えがまとまらなくて……。そんな中での角さんからの妙案、「研修で意見をぶつけ合ったメンバーとなら上手く案を形にできるんじゃないか」と思いました。それに、やると決めたら率先して前のめりに取り組みたい。エントリーするまでの2ヶ月間を通して、チームで動く楽しさを味わえましたね。
研修を経たからこそできた深掘りの議論。「発散→収束→拡張」を繰り返してアイデアを尖らせた
角:最初はいろんな視点をとにかく出していこうと、課題を洗い出す作業からスタートしました。コロナ禍で「出社して働く」っていう前提が崩れたことで、どんな問題が発生しているのかを深く探ることから着手したよね。チームで起案することになって、自然とチーム内での役割分担ができていたように思うけれど、橋本さんはどうだった?
橋本:もともとこの案は私自身の仕事中の悩みを原体験として生まれたもの。だから、常に「ユーザーとして」どんなサービスであってほしいかを考え、意見することを心がけました。議論の追い風になったのは、メンバーに対する信頼と安心感。研修中から本気で議論してきた仲間だからこそ、今回の取り組みに全力でコミットできたと思います。
石見:メンバーの構成もとてもバランスがとれていたと思います。橋本さんと葛城さんはアイデアを創出するのに長けていて、宋さんは視野広く全体を見渡してリードしてくれるファシリテーターという感じ。自分はチーム唯一のエンジニアだったこともあって、出てきたアイデアについてどういう形のサービスにできるか、どうやってサービスのクオリティを上げていくか、というエンジニアの視点で反応することを意識していました。
葛城:僕はプランナー職なのでアイデアを出しつつも、チーム全体の足並みがそろうよう心がけました。時には聞きに徹して問題点の指摘をしたり、各々の主張や食い違いなどを整理するように意識したり。何より「人の発言を頭ごなしに否定しない」という意識を全員で共有できていたのは大きかった。お互いを認め合っているメンバーだからこそ、相手の意見を理解する前から否定することはなくて、わからないことはきちんと訊けるし言い合える、気持ちよく議論に向かうことができるチームでした。
宋:自分は各メンバーの個性や強みを把握した上で、その強みを活かしながらゴールへと導いていくバランサー役が得意だと認識していました。それぞれの意見を引き出しつつ、最終的にビジネスアイデアとして形にすることを念頭に置いて、まとめ役として毎回参加していましたね。
橋本:“雑談ベース"で始まったから肩肘張らずに自由な発想で意見を交わすことができたと思うし、会話の交差から生まれるひらめきもあって。論理的思考に感情がプラスされ、みんなで夢中になって話したからこそ生まれたアイデアだと思います。
角:通常業務が終わった後にオンラインで集まって、雑談ベースで会話をしながら、ユーザーをイメージしつつ橋本さんの体験を深掘りして、どんなサービスがいいかを練り上げていきました。その過程で、互いへのリスペクトや信頼関係を土台に刺激を与え合い、学び合えるチームなんだなと再認識しました。そして、一次提出後のフィードバックを受けてからのあの数日間は、チームとしてさらに成長した濃い時間だったと思います。
コアバリューを絞り込み、一次提出からの方向転換
角:リモートワークにはどんな課題があるかを深掘りしていった結果、オフィス空間という“場”が果たす役割は大きい、という結論に達したよね。だから、当初は仮想オフィスをオンライン空間につくり、そこにアバターを置いて気軽に挨拶したり、雑談やちょっとした相談などもできる、偶発的なコミュニケーションが生まれるようなUIを想定し、企画を提出しました。すぐにデラコン運営からフィードバックがあり、そこからチームの底力を発揮したと思っています。
宋:「一番フォーカスすべき課題とコアバリューは何?」をもう一度考えてみようとSlackでチームに呼びかけたのが金曜の夜。それからZoomをつないで話し合いをし、一気に方向転換して翌火曜日に再提出をしましたよね。
石見:フィードバックで指摘されたことを受け、それぞれの視点で感じている課題をいま一度議論して。結果「気軽に相談ができることが一番重要だよね」「だったらバーチャル空間はいらないのでは?」という引き算の発想になって、アイデアの質が高まっていったように思います。
角:橋本さんの「テキストコミュニケーションが面倒」という最初の意見に立ち返ると、それをダイレクトに解決するのは音声、会話なんですよね。でも今の時代、特にWeb業界では、電話は相手の時間を奪うことになるからビジネスマナーとして使わないという空気が強い。そこで、どうすれば電話特有の心理的ハードルを下げ、気軽に通話できるようになるか?というポイントにフォーカスしてプランを練り直していったよね。
宋:エントリーの締め切りまであと2日というタイミングにもかかわらず、散々積み上げてきたものをまっさらにして、そこから別の案をつくりに行けたのは、全員の熱量があったからこそ。突貫で仕上げてなんとか最終提出に間に合わせました。金曜夜のインプットがなかったらこうはならなかった。当初の企画のままでは最優秀賞は取れなかったと思います。
葛城:このメンバーでデラコンに取り組めて本当に良かったし、何より楽しかった。DeNAへの入社を希望したのは「やりたいことを、やりたい時に、やりたい熱量で」できる会社だと思ったから。それをデラコンで感じることができたし、オンラインの寂しさを感じていた僕にとっては何よりモチベーション維持につながりました。この会社を選んだ自分の選択は正しかったなと思いました。
橋本:私はもともと自分1人でプロダクトをつくることには全く興味がなかったので、純粋に大好きなメンバーと何かを一緒にやることを楽しんでいました。なので、結果発表当日も受賞するなんて全然思っていなくて(笑)。現在のメンターから「すごいことになってるぞ!」って受賞の連絡をもらってオンライン会場に入ったらみんなに祝福されて嬉しかったですね。
角:受賞はもちろん最高の結果でしたが、相手が何を思って何を感じたのかを敏感に察知する橋本さんにしかできない発言があったり、周囲が驚く独創的な発想を持つ葛城さんにしか出せないアイデアが何度も局面を変えたり、宋さんの世の中に存在しない価値をつくりたいという純粋な思いや議論を楽しむ姿勢だったり、石見さんのどんな状況でも好奇心と探究心を忘れず進む「面白がり」な姿勢だったり。議論を重ねていく過程で、そういうバラバラの個性が発揮されるのを見るのが何よりも楽しかったです。
また、僕はメンターという立場でしたが、研修時からデラコンに至るまで、みんなの上に立って引っ張り上げるという意識はまったくなく、伴走者として寄り添うことを意識してきました。4人と一緒に最後まで楽しみながら走りきれてとても充実感がありました。
DeNAを選んだ理由と成し遂げたいこと
「事業を通じて日本中の人々に便益を届ける」
宋 拓樹
DeNAの事業は大きく分けるとエンタメの提供と社会課題解決の2軸ですが、僕は社会課題の解決や貢献する事業に携わることを希望して入社しました。「事業を通じて日本中の人々に便益を届ける」ことが自分が働く目的です。5年以内に事業を率いられる存在になり、まだ世の中にないデライトを生み出す、というのが今の目標です。
僕が会社を選ぶ軸は「人」です。デラコンでは有志が集まってエントリーするグループが多い中、新卒研修班という特殊なチームにも関わらず1人も気持ちを切らさずに最後までやり抜けたし、今回の経験を通して自分のDeNAに入社するという選択が正しかったと確信できました。新卒研修後のあの時期にみんなでそれができたのは、今後の社会人生活を送る上での財産になりました。
「尊敬する人の右腕になる」
橋本 瑛奈
私は大学3年時に参加したDeNAのサマーインターンでメンターをしてくださった先輩の右腕になるために入社しました。その先輩は、物事への理解、深掘り、言語化、常に本質に向かう姿勢、どれも圧倒的で、心から尊敬しています。当面はその先輩のいるチームに呼ばれる人材になり、右腕として活躍することを目標にしています。将来は右腕として働きながら、そのチームで何かを成し遂げられたらいいなと思っています。
この企画はオンライン飲み会をしながら、雑談ベースでの発言を重ねてつくり上げました。研修でいろんな議論を交わした仲間だったからお互いの特性を理解して進めることができたし、「人の発言を否定しない」という姿勢を守りながら議論できた仲間だからこそ、プロダクトをつくったことのない私でも構えることなく参加できました。それがデラコンのアイデアを固めて行く上でプラスになったと思います。
「事業推進に貢献できる技術者に」
石見 優丞
学生時代に3回、新規事業の立ち上げに関わりました。その中で「技術の限界がサービスの限界になる」「技術とビジネスの両方の視点を持たないと面白い事業はつくれない」と感じました。なので最終目標は、確かな技術力を持ち、技術とビジネスの両方の視点を持った事業推進に貢献できる技術者になることです。そのためにまず、1〜2年で技術者として誇れる領域をひとつ持つことが当面の目標です。
この企画はリモートワークの環境下で全員が当事者だからこそ生まれたのだと思います。チーム全員で「より良いもの」に向かって議論を重ねて、確信を得るまで磨き上げることができた今回の経験を大切にしたいです。今後も多くの挑戦をして、全てを面白がり学んでいきたいです。
「新規事業立ち上げに携わりたい」
葛城 龍志郎
デラコンでの経験を経て、いずれは今回の発案のようなサービス開発にも携わりたいと考えるようになりました。今後は新規事業のスタートアップメンバーとして、新しい体験を提供し続ける立場でありたい。今は一歩引いた視点から舵を取れるような人物を目指しています。
僕は他の3人と違って、DeNAでのインターン経験も、他の会社での就業経験もない。入社後もほぼリモートワークで、先輩社員を参考にしたり職場の空気を肌で感じたり、といった経験を得られず不安を感じることもあります。でも、だからこそデラコンのこの企画について深く考察することができました。この感覚は今後も大切にしていきたいし、今経験していることや想いが活かせる時がいつか来る、と考えています。
最後に新卒研修11班のメンターを務めた角に、彼らの一番の長所を聞いてみると「お互いにリスペクトがあるからこそ、相手の意図や思いがわからなければ、『それってどういうこと?』とちゃんと言い合える。丁寧に対話をして相手の考えを理解した上で、必要あれば遠慮せず違う意見もきちんと示す。それがきちんとできる班でした」との答えが返ってきました。そして自身を振り返り、こんな言葉も。
「それぞれが真剣に成果に向かった結果、大事にしたいことが違う人同士がぶつかり合うことはよくありますよね。研修中にも発生しましたが、必ず全員が意見を吐き出せる振り返りの場をつくるようにしました。そこで、発端となった発言をした人の意図や、それを受けて他のメンバーはどのように感じていたかを共有し合い、対話を丁寧に繰り返しました。その結果、健全な衝突を経て、互いへのリスペクトや信頼関係がものすごく強固になったと思います。2週間という決して長くはない期間でしたが、オンラインでもここまでできたことは自信になりましたし、新卒のみんなにはこの成功体験を全社に波及してほしいと願っています」
※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。
執筆:片岡 靖代 編集:川越 ゆき 撮影:内田 麻美
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