働き方、生き方、人と人との距離のとり方……。新型コロナウィルスの感染拡大が、世の中を一変させました。それに伴い、DeNAも、そのスタイルをしなやかに変えています。
社員はほぼすべてフルリモート体制に。リアルイベントは中止となり、予定していたサービス・イベントのいくつかは先送りになっています。「しかし、私たちは変化の中でも“変わらぬDelight”を提供し続けている自負がある」とCOO室・新型コロナウィルス対策本部メンバーの野上大介は言い切ります。
なぜ、それができるのか?withコロナ時代の、DeNAの新しい働き方を紹介します。
渋谷本社への出社人数は、2%以下
――いまはほぼ全社員がリモートワークですか?
はい。4月7日の緊急事態宣言の翌日以降、渋谷本社の出社比率は2%弱、初台オフィスや新潟にあるカスタマーサポートセンターは1割程度(※1)に抑えられています。
※1……2020年5月15日のインタビュー実施時点の数字
――野上さんがいる、新型コロナウィルス対策本部の役割とは?
新型コロナウィルスの感染リスクや生活の不安から従業員と事業を守るとともに、感染拡大防止に協力するのがこれまで担ってきた大きなミッションです。加えて、今後はDeNAが培ってきたノウハウや知見を広く社会に還元して貢献することも、もう一つの大きなミッションとしていきたいと考えています。
対策本部長は弊社CMO(チーフ・メディカル・オフィサー)の三宅邦明。本社のHR(人事・総務)、経営管理部門、社内ITサポート部門などコーポレートを中心に、さらにリモート時に影響度合いが高まりそうなCS部門などの事業部もアサインされています。合計30名ほどのメンバーで、コアメンバーは10名程度、毎日30分から1時間ほどのミーティングを設置時からZoomで実施しています。
――三宅さんと言えば、元厚生労働省の医系技官で、感染症を担当する部署で新型インフルエンザの行動計画策定などの対策にも携わった方。三宅さんが本部にいるのは心強いですね。
そうですね。弊社ヘルスケア事業を統括する役割として2019年からジョインされていたのは幸運でした。
感染症そのものの知見に加え、判断に迷ったときに、政府がどう判断するかの判断基準がわかる三宅に相談できますからね。もっとも、彼がすべてトップダウンで指示を出しているわけではありませんし、現場レベルで判断して行動していることも多いです。
それぞれの現場で的確な判断と動きをしていることが、いまのDeNAの新型コロナウィルスとの向き合い方でもあります。
※新型コロナウィルス対策に関連するDeNAの取り組み(Chief Medical Officer 三宅 邦明からのメッセージ)はこちら
――コロナショック以前からあったBCP(事業継続計画)対策がうまくいったということでしょうか?
いいえ、BCPは当然用意していましたが、主に地震・風水害などを想定して策定されていたので、正直そこまで効力を発揮していないと感じます。
むしろ、この状況の中で、リモートワークをはじめとした新しい働き方にスピーディーに順応し、いまも多くの事業を回して多くのみなさんにDelightを届けられている理由は、普段から環境の変化にあわせて業務を改善し続けてきた結果。日常のなかで、私たちDeNAが培ってきた「基礎体力」みたいなものが活きていることを実感しているし、その自負もあります。
それぞれの事業部の自律的な取り組みを後押しし、対策を遂行
――あらためて、コロナ対策本部が立ち上がった経緯を教えてください。
対策本部が発足したのは2月17日です。私はコンプライアンス・リスク管理本部のメンバーでしたので、その業務の一環として対策本部のメンバーになりました。
当時(2月前半)、国内は「武漢に向けたチャーター機が出た」「ダイヤモンド・プリンセス号が大変だ」という頃。まだ社内外含めて全体の危機感は高くはなかったと思います。
ただ、とある部署では、国内でのかなり初期の感染が関係者の関係者くらいの距離で起こった、という相談があったため、コンプライアンス・リスク管理本部などでも状況は注視しており、早い段階で緊張感をもって対策を練るべき、という判断に至ったのです。
――なるほど。幅広な業務を手掛けるからこそ、リスクも幅広にあった。その結果、早く対策に動けた面もあるわけですね。
そういう意味では、横浜DeNAベイスターズなどのスポーツ事業を手掛けていることも早い対応の後押しになりました。
当時は、オープン戦を「無観客でやる」という決定がNPB(日本野球機構)から出る頃で、球団やスタジアムのスタッフは、日々刻々と変わる状況に対応を求められ、しかも今年は横浜スタジアムの増築・改修が竣工する年でもあり、さまざまな企画が動いていた最中に迅速な判断が求められる状況が続いていました。
また本社とは働き方そのものが違いますから、そんなときに対策本部からあれこれ指示を出すと混乱を招いてしまうかなと。そこで本部から細かい指示を出すことはしないようにしました。
それでも開幕延期が決まった3月中旬以降は、選手たちの動画配信をスタートさせたり、SNSを通じて家で過ごすためのアイデアを提案するなど、独自に多彩な取り組みを行ってくれました。
※横浜DeNAベイスターズの取り組みについて詳しくはこちら
――DeNAでは「球の表面積」という言葉で、一人ひとりがDeNAを代表する意識で働くことを促しているなど、自律的なのがDeNAの特徴ですよね。コロナ対策でも、そんなDeNAらしさが現れたと?
そう思います。それぞれのチームで、さまざまな方面に“感度”が高いメンバーがいます。
2月の対策本部発足後、すべての事業部に何回か「どこまでリモート化できるか」「そのために何が必要か」などとアンケートをとりました。
「明日にでも全員リモートに移行できる」と即答する部署があるかと思えば、「膝突き合わせたミーティングでアイデアを創発しているので、難しい」と困惑する部署もあった。さらには「大型のディスプレイとペンタブを持ち帰られれば……」と物理的な困難に直面している部署もあったり。状況はバラバラ、本当にいざという時にリモート体制に入れるか不安もありました。
でも、それぞれの事業部にちゃんとアンテナを立てて自律的に対策をするメンバーがいて、周囲を巻き込みながら準備を進めてくれました。全社共通の対策は対策本部でも後押ししながら、最終的には東京都の自粛要請の翌日、3月26日に全社にリモートワークを強く推奨する方針を伝えると、皆スムーズにフルリモートへ移行。それは見事でした。
コロナショックに活きた3つの「基礎体力」
――トップダウンで動くのではなく、何がクリティカルかそれぞれの持ち場で判断して動ける自走力があったからできたと。
まさに先に言った「基礎体力」につながる話だと思うんです。大きくいうと、その基礎体力は3つあって、まずは「丁寧な仕事ぶり・業務改善」なんです。
たとえばゲームにせよ、その他のアプリにせよ、DeNAのサービスは「落ちない」という評価をいただいています。それを裏で支える優秀なインフラ部隊がいて、彼らにおいてはネットワークのトラフィック監視と、調整によるパフォーマンスの維持は基本動作です。
そんなエンジニア部隊がいるから、リモートワークによるVPN負荷増大にも早く気づいて対処することができ、極端に遅くなるようなことは皆無でした。
このような視点はエンジニア以外にもあり、こまめに業務改善をできることが効果的だったと思います。実際、業務の変化が激しい部署ほど、リモートワーク体制に入る準備を早く完了させていましたし。
――ソーシャルゲームなどを支える強いインフラとエンジニアの力が、今回のような有事を下支えしたわけですね。2つめは?
「働きやすい体制づくり」を進めてきたことです。多様な社員が持てるポテンシャルを最大限発揮できるように、HRが中心になって働きやすい環境づくりに力を入れてきました。
たとえば、AIのエンジニア部隊は、以前からリモートワークを推奨してきました。それぞれのワークスタイルに併せて力を発揮し、成果を出していってほしいと。これらの部署の実績を踏まえてリモートワークが事前から全社展開されていました。結果として、極めてスムーズにリモートへ移行できた一因かもしれないです。
他にも、いくつもきめ細やかな対応がなされましたが、普段から社内の声を聞きつつ日常的に業務改善を繰り返していることが、今回活きたのだと本当に実感しています。
――最後の3つめは?
各部署の「裁量を大きくしてきたこと」だと思います。
先にあげた働きやすい体制づくりとセットの話ですが、働きやすい環境は現場によって大きく違います。それぞれの持ち場に沿った働きやすさを形にするためには、現場で良し悪しを判断していく必要がある。そのため、本部長レベルの裁量がDeNAは大きく、そのフットワークの良さはコーポレート側でも持てています。
たとえば、Slackの子育て情報のチャンネルでは、休園や休校となった子どものフォローに追われていてリモートワークがきつい状況になっている、それも市区町村によって事情が違う、という話がありました。通常のコーポレート部門だと、細かいルールを定めて杓子定規に対応してしまいがちな状況です。でも、HRの本部長が、「子の看護休暇」制度の裁量をうまく活かして、有給の休暇を取れるようにするなど、日常の動きの中で新たな施策を設けることもできています。
――なるほど。火事場の馬鹿力ではなく、日々、積み上げてきた筋力があったからこそ、今回のような危機にもその筋力で乗り越えられている、という感じですね。
そのとおりです。ただ、積み上げてきた筋力で対応しているからこそ、の怖さもあるとも思っています。
――怖さとは?
たとえば先にあげていただいた「球の表面積」ですが、これらを含む社員の行動指針であるDQ(DeNA Quality)、このような社風として根付いている行動指針は、今回のようにバラバラで家で働くようになったとき、あるいは事業部の裁量で動かざるを得ないときは判断の拠り所にはなります。
ただ、その拠り所となるものを全て制度や形にできているかというと、そうでもなく、多くは「空気」のように自然に根付いているため、今のような物理的なオフィス、そして同じ空気をまとった人と離れたときに、いわば「空気が薄くなる」ように効力が薄まってしまうのではないかという不安はありますね。
――コロナ禍が長引いて、今の状況が長くなればなおさら、ということですか?
そうですね。私の見立てでは、1年か2年は今に近い状態が続くと考えています。そう考えると、対策本部のみならず、会社組織全体のマネジメントの仕組みそのものもアップデートせざるをえなくなると感じています。
――一方で、社内的な取り組みだけではなく、社外向けにコロナ禍へのアプローチやサービス提供も進んでいます。
はい。DeNAは先端的なIT企業の顔をしながら、伝統企業的な面もあって「やみくもに新しいことに手を出す」社風ではないんですね。今回のワークスタイルの変化も、どこよりも早く変わったかというとそうとはいえない。躊躇もありました。ただ、動くとなったら素早く、確実に変わり、成果を出していきます。
今、社会でも、変化への躊躇や、変化自体の難しさに直面している人たちも多いと思います。私たちは、その経験を活かして、絵空事にならない、地に足のついた社会貢献施策をリリースしていこうと考えています。ゲーミフィケーションのスキル、AIの知見、スポーツ事業のノウハウ、強いインフラ……。社会の変化に、長期間伴走する形で、着実に価値のあるDelightをお届けしたい。
できれば、民間だけではなく行政にもよい貢献がしたいですね。本部長の三宅は、古巣である厚労省をもっとDeNAのアセットで支えられるのではないかと考えています。こちらも、派手ではなくても、しっかり成果を出す変化を生み出していきたいです。
――言い方は難しいですが、コロナを契機に、働き方も社会も含めて、むしろ世の中がよくなる手助けをする。そんな気概を感じます。
そうしたいと願っています。状況はどうなるか見えないことも多い。けれど、50年後、100年後に「DeNAは2020年のあのときも、ちゃんと遠い先を見て、ずいぶん社会を良くすることに貢献していたね」と振り返られるような、そんな会社であり続けたいですね。
※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。
執筆:箱田 高樹 編集:川越 ゆき 撮影:小堀 将生
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