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悪魔のもつ“二面性”を、デザインに落とし込む。『メギド72』は、新しいヴィジュアルを生むために何をしてきたか?

2018.03.15

「このゲーム、デザインの世界観が丁寧に作り込まれていて素敵だな」

ゲームで遊ぶ人は、こういった体験を一度はしたことがあるはず。システムや戦略性と同じくらいに、デザインはゲームの良し悪しを決定づける重要な要素です。

デザインコンセプトに統一感を持たせ、質の高いものにするには、プロジェクトを俯瞰して全体を設計できるメンバーが必要です。DeNAのゲーム開発の現場ではヴィジュアルオーナー(※1)というポジションの社員がその役割を担い、ゲームの美しい世界観を作るため“フルスイング”しています。

同グループの高木正文は『メギド72(※2)』のヴィジュアルオーナーであり、キャラクターデザインも担っているメンバー。彼が大事にしている流儀とはいったい何なのでしょうか?

※1…ヴィジュアルオーナーについて詳しく知りたい方はこちらもご覧ください 。
※2…フォトンドリヴン世界救済RPG。72柱の悪魔を育成して世界を救う、本格戦略バトルゲーム。

ヴィジュアルに関する全責任を持つ、ヴィジュアルオーナー

――ヴィジュアルオーナーとはどんな仕事なんですか?

高木:私が所属するJapanリージョンゲーム事業部 デザイン部 第五グループは、ゲームで使用されるイラスト制作やデザインのディレクション業務に携わっています。私たちはもともとディレクション業務を担当する人をアートディレクターとしていたんですが、この役割を廃止し、ヴィジュアルオーナーという役割に統一しました。

――アートディレクターとヴィジュアルオーナーとの違いは?

高木:一般的に、アートディレクターはデザインやイラストのディレクション・監修をする人、というイメージだと思います。ヴィジュアルオーナーはもっと業務内容が幅広くて、ゲームに映るヴィジュアルすべてにおいての責任を持ちます。UIや3Dデザイン、2Dデザイン、コンセプト設計、制作フローなど、多種多様なものを管理するんです。

ゲーム・エンターテインメント事業本部 Japanリージョンゲーム事業部デザイン部第五グループ 高木 正文
デザイン専門学校を卒業後、大手ゲーム開発会社、映像制作会社などを経て、2014年6月にDeNAに入社。現在も最前線でイラストを描く一方、アートディレクターとして数々の作品のディレクションを行う。現在は『メギド72』を担当中。Twitter @mar_takagi

――それだけやることが多いと、1人が担うのは大変ではありませんか?

高木:確かに1人が何でもやるのは大変なので、ヴィジュアルオーナーは何かの作業を誰かにお願いしていい権限が与えられています。「イラストのクオリティチェックは○○さんにお願いし、コンセプト設計は自分がやる」といったように分業できるんです。

要するに、どんな作業分担にしてもいいので、最終的にゲームのすべてのデザインを良いものにするのが、ヴィジュアルオーナーの役割になります。

スケジュールがタイトならば、それを前提に開発手段を選ぶ

――メギド72のプロジェクトを進めるうえで、大切にしたことは?

高木:僕がプロジェクトに入った段階では、大まかなストーリーや世界観はありました。悪魔をモチーフにすることや、72種類いること。天使側と悪魔側で何かをすることくらいは決まっていましたね。でも、その悪魔をどんな設定で、どんなヴィジュアルで出すかなどは全く決まっていませんでした。

▲プロジェクト初期に描いたテストラフ。

――開発をスムーズに進めるため、意識したことは?

高木:アジャイル的な開発スタイルを取り入れました。72体の全キャラクターの設定を事前に決めてから制作に入るのではなく、1体ずつ設定とデザインを作っていく形にしたんです。スクラップ&ビルドするような感じですね。

――その開発手法を用いたのはどうしてですか?

高木:僕はプロジェクトの途中から参画したのですが、その時期にはスケジュールがなかなかタイトになっていました。その状態で設定をイチから決めて、その後に作ってというフローだと、予定していたリリーススケジュールに間に合わない可能性があったんです。

まずは着手していって、成果物に対するフィードバックを得ながら徐々に改善していく形の方がいいと考えました。

キャラデザで大切にしたのは、ギャップ

――キャラクターデザインで大事にしたことは?

高木:メギド72に登場するメギド(悪魔)たちは、人型と悪魔型の2つの形態を持っています。その設定をデザインに落とし込もうと思った際に「二面性」が大事だと考えました。ギャップがあること、と言ってもいいかもしれません。

どういうことかというと、「見た目はいたって普通なのに、実は不気味なことを考えている人」ってたまにいるじゃないですか。話してみると、だんだんとその怖さがわかってくるような人。そういう人が悪魔っぽいと僕は思ったんです。

だからデザインコンセプトとして「人型はすごく可愛いのに悪魔型はめちゃくちゃ凶悪」というように、なるべく差をつけることを大切にしました。

――その落差が特に表れているキャラクターは?

▲左から、ブエル、ベレト、サレオス。

高木:例えば、ブエルというキャラクター。人型は幼い女の子なんですけど、悪魔型はすごく気味の悪い姿になります。あとはベレトというキャラクターが奴隷なんですが、変身後は大きなカエルになるとか。

悪魔型の方が格好良くなる例としては、坊主頭のサレオス。私たちが意図したコンセプトが、プレイヤーの方々に伝わると嬉しいなと思いながらデザインしていましたね。

――他に、デザインにおいて大切にしたことは?

高木:スマホゲームでは女性キャラクターのデザインをセクシーな路線にするのが流行しています。その方がプレイヤーの反応が良いですから。でも僕たちは、『メギド72』を特定の方々だけしか楽しめない作品にはしたくなかった。だから、その路線を取りませんでした。

可能な限り幅広い世代の人に楽しんでいただきたくて、セクシー要素をなるべく薄くしたんです。もう1つの理由として、悪魔のデザインをプレイヤーに1番感じ取ってもらいたかったからというのもあります。ただ、悪魔をモチーフにはしても怖すぎないデザインを心がけました。

リリース後でも、トレンドに合わせてキャラデザを見直し

――他に心がけていることは?

高木:イラストのタッチはリリース時期に合わせて調整するのと、リリース後もトレンドに合わせて変えることがありますね。

――リリース時期に合わせて、というと?

高木:例えば、リリースタイミングが1年後だとすれば、その時期に流行しているであろうテイストに合わせてイラストのタッチを変えるんです。だから、もし何かの理由でリリースが伸びたならば、リスケ後の時期にどんなタッチが流行しているかを見越して再度デザインの見直しをかけることもあります。

主人公のデザインを例に挙げると、左側は数年前のデザインです。当時はこれを完成形として進めていましたが、数年経ってくるとどうしても古く見えてきます。だからマイナーチェンジをくり返していて、最新版は右側のデザインになっています。

――確かにこうして比較すると、だいぶ印象が違いますね。

シバというキャラクターも同じで、数年前の完成形が左側。右側が最新版で、今っぽい感じの頭身や塗りに変更しています。

――そう考えると、ヴィジュアルオーナーには時代の流れを読む力も必要なんですね。

高木:そうですね。どれくらいイメージできるかは人それぞれですが、現在リリースされている作品より目新しさが無いとお客さまからは評価して頂けません。少なからずその能力は必要になってくると思います。

▲『メギド72』では、2018年1月31日に新キャラクターとしてテルミナスのメギドが登場した。これらをデザインするにあたり「既存の72体と差別化できること」を何より大事にしたと高木さんは語る。その1つであるユフィール(上図)では、既存のメギドであえて避けてきた「特定の職業を連想させる服装のデザイン(女医)」を取り入れ、差別化を図ったという。

業務の一部ではなく、全体を俯瞰する

――ゲームのデザインを統括するうえで、必要なスキルはどのようなものですか?

高木:僕が意識しているのは、ゲームタイトルの全体を俯瞰することです。要するに、キャラクターデザインのこと“だけ”を気にするのではダメで、さまざまな観点を持ちながら仕事をすることが重要だと思います。作品そのものへの没入感を持つことが大事というか。

――全体を俯瞰するスキルを身につけるために、おすすめの方法はありますか?

高木:デザイナー以外のさまざまな職能のメンバーとMTGをしていると見えてくるものもあると思います。僕の場合は、デザイン関係の話でないことでも「いま話している内容をデザインに落とし込むならどうするか」などを考えながら参加しています。

メギド72が、作品に関わるみんなの代表作になってほしい

――ヴィジュアルオーナーとして、メギド72を今後どのように育てていきたいですか?

高木:僕たちは、お客さまから「デザインや世界観がすごく良い面白いゲーム」と言っていただけるような新規IP(既存の知的財産権に抵触しない新規のオリジナルゲームのこと)をずっと作りたいと思っています。『メギド72』がそんなタイトルになるように育てていきたいです。

それを実現するにはただゲームを作るだけではいけません。売れたり多くの人に認知されたりすることで、やっとIPとしての評価が確立します。ヴィジュアルオーナーとして、デザイン周りからそのサポートができたら嬉しいです。

例えば、単にキャラクターを増やすだけではなく、キャラクターの設定集を作るなどして、お客さまが作品に接するタッチポイントを生み出していけたらいい。『メギド72』の世界観に奥行きを作れたらいいなと思っています。

――高木さんがそれほど“フルスイング”できるヴィジュアルオーナーの魅力って、何なのでしょうか?

高木:DeNAの場合、ヴィジュアルオーナーになると、やろうと思えば何でもできるんですよ。その作品のデザインに関することを。

例えば、Google Playなどのストアに置いてある画像も、ゲームのアイコンも、ロゴも、もちろんイラストも。「自分がこの世界観を作っている。世界を回している感」みたいなものが味わえるというか(笑)。それは、この仕事の大きな魅力だと思います。

僕はもともとアーティスト気質というか、自分が考えた世界観がみんなに広まって、それで多くの人が楽しんでくれることが楽しいタイプなんです。そういう意味ではヴィジュアルオーナーの業務が自分のやりたかったこととすごくマッチしている。だから、“フルスイング”できている気がします。

願わくば、この作品に携わってくれたすべての方々にも、そう思ってもらえると嬉しいです。『メギド72』がみんなにとっての代表作になればすごくハッピーじゃないですか。そうなればいいなと思って、日々頑張っています。

まとめ

高木さんが『メギド72』のヴィジュアルオーナーとして大切にしていること

①オリジナルIPを生み出すためのデザイン

②プロジェクトの状況やゲーム性にマッチした製作スタイル

③キャラクターのギャップから生まれる楽しさ

④トレンドに合わせてキャラデザを見直す

※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。

執筆:中薗昴 編集:下島夏蓮 撮影:小堀将生

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