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『逆転オセロニア』は対戦ゲームなのになぜ温かい? けいじぇいPが大切にするコミュニティづくり

2018.03.09

ゲームタイトルの運営において、欠かせない存在なのがお客さまのコミュニティ。それを盛り上げるために実施されるものの1つに、リアルイベントがあります。しかしこの施策は、準備に手間がかかるわりに効果が測定しづらく、どこまで注力すべきか判断が難しいです。

そんななか、運営初期の頃からリアルイベントを大切にし、成果につなげてきたのが『逆転オセロニア』(※)。同作はリリース初期から参加者がたった1名でも地道にリアルイベントを開催し、お客さまのコミュニティを大切にしてきました。

2018年3月現在、1,900万インストール突破となった同作ですが、リリースから約1年近く経過してから大きく成長したという経緯があります。CM放映など大型プロモーションを期に成長期に入りますが、そのときTwitter投稿などを通じて作品を盛り上げてくれたのが、他でもないオセロニアン(オセロニアを楽しんでくださる方々)だったのです。

プロデューサーである香城卓(以下、けいじぇいP)は、自らリアルイベントなどを企画・開催・登壇し、コミュニティを育むことに“フルスイング”しているメンバー。「2,000人規模のイベント1回よりも、200人規模のイベント10回の方が価値がある」と語る彼は、どんなことを大切にして運営を続けているのでしょうか?

※…オセロとトレーディングカードゲームの要素を組み合わせた対戦ゲームアプリ。

イベントは、“魅せる場”ではなく“交流の場”

――『逆転オセロニア』は、初期の頃からお客さまとのコミュニティをとても大切にしてきたそうですね。

けいじぇいP:『逆転オセロニア』のイベントは「お客さま同士が楽しみながら交流できる機会を作ること」を重視しています。

例えば、ゲームタイトルによっては有名なタレントや声優の方に出演していただき、その方をメインで見せるショー形式のイベントを開催しているものもあります。もちろんその形式にも大きなメリットはあるんですが、僕たちはまったく別のアプローチを重要視してきました。

イベントを開催する以上、出演者・演出・コンテンツなどクオリティは最大限高めます。けれど、あくまでお客さま同士の交流がメインであって、出演者がメインではないと考えています。

ゲーム・エンターテインメント事業本部 Japanリージョンゲーム事業部  逆転オセロニア プロデューサー 香城卓
ソーシャルゲームディベロッパーを経て、2011年2月に中途入社。Mobageプラットフォームでのソーシャルゲーム運用・開発を経て、2014年より『逆転オセロニア』を企画・開発。現在はプロデューサーとして同タイトルの事業運用に従事。

――なぜ、『逆転オセロニア』ではその手法を用いようと思ったのでしょうか?

けいじぇいP:オンライン上だけの集客施策のみを実施すると、良くも悪くも利用者数の伸びが過去実績から予想できる範囲内に収まると思ったからです。僕たちは『逆転オセロニア』を絶対にヒット作にしたかったですし、多くの方々に楽しんでもらいたかった。

一線を越えるには、これまでやってこなかったようなアプローチが必要になると考えました。そこでお客さま同士のつながりによるコミュニティ形成をお手伝いし、ゲームを楽しんでくれる人のつながりを通じて、ゲームが広がっていく方法がいいのではないかと思ったんです。

海外では『League of Legends』というタイトルがある種の先駆者として、コミュニティの交流を深める場を作ることでファン同士のつながりを生み、その熱量を通じてゲームが広がっていくということを実践してきました。

その手法を、日本でもきっと応用できるはずだと考えたのが、リアルイベントをたくさん実施するようになったきっかけでした。

「2,000人規模のイベントを1回」より「200人規模のイベントを10回」

――これまでさまざまなイベントを開催してきたかと思いますが、コミュニティを盛り上げるために大切にしたことはありますか?

けいじぇいP:お客さまが会場にどんな人がいるか把握でき、十分なコミュニケーションが取れるだけの規模に収めることを心がけています。出演する立場だと、お客さまとお話したり、一緒に写真を撮ったりなどが無理なくできる規模というか。

例えば、毎月第一土曜日に全国指定のネットカフェ店舗にて「ネカフェで対戦キャンペーン」というイベントを開催しています。これは全国各地のオセロニアンの方々がその地域にある店舗で対戦し、全国11店舗の中で勝ち星が多かった方がリアルタイムのトーナメント形式で戦っていくもの。店舗のコミュニティに新規のお客さまの方が入っていきやすい規模ということで、1会場あたりのスペースは30人くらいにしています。

また、「オセロニアンの宴」という福岡・大阪・仙台・名古屋・札幌・広島・東京などの都市で開催しているイベントも最大200人くらいの規模になるように心がけています。200人から最大300人ぐらいまでが、満足度を得てもらえると同時に、お客さまと十分なコミュニケーションが取れる限界だと感じています。

▲「オセロニアンの宴」の様子。

それ以上の人数になってしまうと、どうしても疎外感を覚えるお客さまが生まれてしまい、イベントの価値が下がってしまいます。それは、『逆転オセロニア』のコミュニティが目指しているところではありません。

だから、大都市で数千人を動員するイベントは年に1、2回にして、むしろ200人規模のイベントを全国各地でたくさんやることを重視しています。都心のイベントに来てもらうのは、交通面などのハードルもありますしね。小規模なイベントを我々が出向く形で開催しているのは、そういった理由からなんです。

お客さまが情報発信できる“きっかけ”を作る

――それ以外に、お客さまの満足度を高めるための工夫はありますか?

けいじぇいP:「お客さまが情報発信できるきっかけを作る」ということを大事にしています。

お客さまのコミュニティを作るといっても、その情報発信の主体となるのは僕たち運営者ではありません。あくまで、お客さま自身が自発的に情報発信をしてくださって、自然に交流が生まれるからこそ、コミュニティが醸成されていくのだと考えています。あくまで僕たちは、そのきっかけを提供するだけなんです。

――過去のイベントで盛りこんだ、お客さま同士のコミュニケーションのきっかけになるような催しはどんなものがありますか?

けいじぇいP:例えば、先日開催された「オセロニアンの祭典」(当日のダイジェストはこちら)では、オセロニアンセレクションというコーナーの中で、投票で人気の高かったオセロニアの二次創作の絵や動画などを表彰する催しを実施しました。

表彰することそれ自体にも意味があるんですけど、大事なのは表彰された方がお持ちのアカウントを通じて、SNSなどでお客さま同士の交流が生まれることなんです。

▲オセロニアンセレクションでの表彰の様子。

――イベントはあくまできっかけなんですね。

けいじぇいP:今ではお客さまが自主的に開いてくれる大会に何百人もの参加者が集まるくらい、人数も熱量も高くなってきました。

今後は、まだ見ぬオセロニアンの方々をつなげる橋渡しができたら嬉しいです。だから今年は、これまで開催した以外の地域でも、どんどんイベントを実施したいと思います。

対戦ゲームだけど、安心できる

――『逆転オセロニア』は、イベントやコミュニティの雰囲気がとてもアットホームだそうですね。

けいじぇいP:『逆転オセロニア』は、サービスとして大切にしているコンセプトが「安心」なんです。勝っても負けても相手への「ありがとう」を大事にするというか。そこはけっこう、このゲームが持つ大きな価値だと思うんですよね。

普通、対戦型ゲームってどうしても競争が発生しますし、イベントなどがピリピリした雰囲気になってしまうケースもあります。でも、『逆転オセロニア』では自分たちが負けてもみなさん楽しんでくれていますし、親子連れとか女性同士で来てくれたりする方も多いです。

対戦ゲームなのに「安心」ってちょっと不思議ですけど、そういう空気感が生まれたのは本当に良かったなと思っています。

――その空気感が生まれたのは、どうしてなんですかね?

けいじぇいP:『逆転オセロニア』の運営メンバーは、みんなが「安心を大事にしたい」と思って運営に携わっています。そのメンバーが、顔の見えないテキストだけのコミュニケーションだけでなく、リアルイベントの場やSNSなどで、直接お客さまに触れる機会をたくさん設けてきたことが、実は大きな意味を持っている気がしますね。

運営とお客さまの距離の近さは日本屈指だと思います。運営の配信にお客さまがコメントをくれるのと同じように、お客さまの配信を見に行って我々がコメントをつけたりもするくらいです。

公式Twitterの運用を担当していた「リリア」というキャラクターがいるんですが(現在は「いちこ」に交代している)、僕は「リリア」が「安心」というコンセプトを一番体現していたと思うんです。彼女は『逆転オセロニア』の最初期の頃から、お客さまと一番近い場所で交流を深めてきました。

Twitterでいただくコメントに1つひとつ丁寧に返信をしていたんですが、そのわりに誤字が多くてドジで、それをお客さまにツッコまれたり。情報出しの際にもすごく下手くそな絵で「次はこういうキャラが出ます」と紹介していて、オセロニアンの間で名物になっていました(笑)。

▲公式Twitterの初代キャラクター「リリア」

▲「リリア」が描いたキャラクター紹介の絵。いい味が出すぎている彼女のイラストは、オセロニアンから大人気だったという。

彼女の人間性がオセロニアンの空気というかコミュニティのベースを作ったような気がしていて。その空気を僕たちが今も大事に守っているという気がしています。温かいコミュニティを生むきっかけを作ってくれたという意味で、彼女は本当に大きな貢献をしてくれたメンバーの1人です。

発信者の人柄は、嘘をつけない

――イベントやコミュニティを温かい雰囲気にするための情報発信のコツはありますか?

けいじぇいP:僕は、イベントやゲームの運営は携わっている人の人柄が色濃く出ると思っているので、醸し出す雰囲気を意識的にコントロールすることは難しいと思います。だから極論、もしもプロデューサーが交代して他の人になったら、全く違った雰囲気のコミュニティになってもいいですし、それが自然なことだとも考えます。

――情報発信者の個性がもろに出てしまうのは、なぜでしょうか?

けいじぇいP:SNSや動画配信などが普及したことで、誰かが発信した情報がダイレクトに伝わる時代になったからだと思います。個人がアカウント化してきたというか。より「誰がどのように情報を発信したのか」が可視化され、それ自体に意味や解釈が生まれる時代になってきたことに起因している気がするんです。

だから、運営者が自分たちを良く見せようとすること、嘘をつくことはできなくなっています。今、SNSや動画配信などで人気のある方々って、みんなキャラを作っていないと思いますよ。

例えば、僕はYouTuberのHIKAKINさんとよくお会いしているんですけど、本当に動画のままの人です。腰も低いし、真面目だし(笑)。演者としての部分はありつつ人柄は全く一緒です。

だから、コミュニティ運営において情報発信者になろうと思ったら、その人の人間性も含めて出していく以外にはない気がしますね。

オセロニアンの存在が、原動力

――『逆転オセロニア』の運営に携わってきて、嬉しいのはどんな瞬間ですか?

けいじぇいP:やっぱり、オセロニアンの方々から反応をいただけることですね。実は、先日開催した「オセロニアンの祭典」ですごく嬉しかったことがあって。

みなさんから寄せ書きをいただいたんですよ。北海道から九州まで全国各地にいらっしゃるオセロニアンが「2周年おめでとう」という内容のメッセージを地域別にページにまとめて一冊の本にしてくれて。これ、イベント会場で書かれたわけではなくて、主催の方が事前に調整して各地から集めてくださったんです。本当に感動しましたね。

▲全国各地から届いた寄せ書き。別のイベントでも手渡し手書きのイラストが届くこともあるという。

――熱量がすごいですね。

けいじぇいP:実はこれに近いのが、Twitter公式アカウント運営者の「リリア」が後任の「いちこ」に交代したときです。

オセロニアン有志から、DeNAカスタマーサポート部宛に提案があって、「リリア」が最後の生配信に登場するときに、感謝のメッセージ集を渡そうという話になりました。そこで、2週間くらいかけて全国のオセロニアンからメッセージカードを募ってくれて。最終的に150人くらいから手書きのカードが集まったんですよね。

それを最後の生配信で渡したら、「リリア」が号泣していて。こういったことって、運営者側とお客さまの距離が近くないとできないことですし、良いコミュニティが育ったからこそ実現できたことだとも思います。この仕事のやりがいって、そういうところにあるような気がしますね。

――けいじぇいさんが仕事に“フルスイング”できるのはなぜですか?

けいじぇいP:コミュニティの中に人のつながりが生まれることが嬉しいからです。「逆転オセロニアを通じて友だちができました」とか「大変なときでもオセロニアンから励ましてもらえました」といった声を聞くと、めちゃくちゃ嬉しいですし、色々な人たちの人生に何か影響を与えられたのかな、という気持ちになります。

『逆転オセロニア』はオリジナルタイトルとしては結構な利用者数になってきたと思いますし、遊んでくださっている方々にとってオセロニアのコミュニティがどれほど大切な意味を持つのかもたくさん目にしてきました。

イベントは土日に開催されることが多いので、運営に携わっていると休みが少なくて大変なんですけど(笑)、でもそれ以上に、僕がこのゲームタイトルに携わっている限りは、すべてのエネルギーを注ぎたい。『逆転オセロニア』の半分は、お客さまが作ってくれているんです。それが僕にとってのモチベーションの源泉になっています。

まとめ

けいじぇいPが温かいコミュニティを育むために大切にしていること

①イベントを“魅せる場”ではなく“交流の場”と捉える

②「2,000人規模のイベントを1回」より「200人規模のイベントを10回」

③お客さまが情報発信できる“きっかけ”を作る

④メンバー全員が「安心を大事にしたい」と考えて運営に携わる

⑤イベントやゲームの運営は携わっている人の人柄が色濃く出る。醸し出す雰囲気を意識的にコントロールしない

※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。

執筆:中薗昴 編集:榮田佳織 撮影:小堀将生

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