DeNAは2019年に創業20周年を迎え、誰もが自発的にプロジェクトを起こせる取り組み『De20(ディートゥエンティ)』を立ち上げました。
そのなかでは、ベンチャーキャピタル「Delight Ventures」や社員同士のDelightや感謝をポイントとしてプレゼントする「Delight Point」などのプロジェクトが結実。この取り組みを継続的なものとし、自己変革がたえず起こる基盤を強固にすべく、新De20とでも言うべき「Delight Board(デライトボード)」を2020年1月に発足させました。
では、Delight Boardとして始動するにあたり、具体的に何が変わるのでしょうか? 事務局のメンバーである西村 真陽(にしむら まさや)と小川 篤史(おがわ あつし)の2人に、この取り組みの意義や目的などを聞きました。
「これはDeNAのDNAを体現する取り組み」
ーー「Delight Board」は「De20」をアップデートさせたものということですが、そもそも「De20」にはどんなプロジェクトがあったのでしょうか。
西村 真陽(以下、西村):De20には合計24のプロジェクトが集まりました。各プロジェクトは経営会議を経て制度化され、現在もさまざまなプロジェクトが進行中です。
これらの取り組みを一時的なものではなく、今後も継続していきたい。De20に込められた想いを継承し、継続するために必要な仕組みを整えアップデートしたものがDelight Boardです。
小川 篤史(以下、小川):自らの能動性と思考の独立性によって道を切り開くことは、創業以来20年間脈々と受け継がれているDeNAのDNAだと思います。しかし、会社の規模や従事している仕事の難易度など、この20年で状況は変わってきました。
ーー会社が大きくなったことでDeNAのDNAが体現しづらくなったということですか?
小川:マインドは薄れていないけれど、規模が大きくなることでいろいろなことがシステム化し、全体像が見えにくくなったと思います。「目線をあげて会社の全体像を把握してください」と言うことは簡単ですが、そのように動ける制度の整合性を取らなければいけない。そのための宣言・スタンスを示すものがDelight Boardだと思っています。
具体的には、Googleフォームに「やりたいこと」や「変えるべきだと思うこと」など、施策案を匿名でボードに記入してもらい、それを全社で見られるようにしました。非常にシンプルなことですが、誰もが意見を言える場を一つに集約したんです。
また掲載された施策の採択は全社員で投票を行い、上位が正式にプロジェクト化。事務局がサポートしながら施策案をブラッシュアップし、必要に応じて経営会議で決議をとりながら実際に変革を起こしていきたいと考えています。
ーーDelight Board以前と以後では、具体的に何がどう変わるのでしょうか。
西村:目指す姿は変わりませんが、プロジェクトの位置づけを「継続する」という視点でDelight Boardでは議論し、全社での認識やプロジェクトの扱いをアップデートしました。時間外の手弁当でやるのではなく、本業として会社としてもそこに工数を割く。COO室に部署をつくり、評価対象のクロスジョブ(社内副業)としました。
小川:Delight Boardは、本業と同等のメインストリームだということをしっかり示したいと思っています。De20は20周年のお祭り的なコンテンツの1つであって、「一緒に踊りたい人は踊ろうよ」という立ち位置だったと思うんです。でも、実はここにこそDeNAらしさがある。このDeNAらしい魂の部分は変わらないです。
ーーということは、De20の段階では、言ってみればボランティアだったということですよね。お2人はなぜ、積極的に関わろうとしたのですか。
小川:実は当時、私は秋葉原のDeNA Games Tokyoに出向していて、プロジェクトには参加していませんでした。取り組みの存在自体は知っていましたが、どれくらいの規模の人たちがどれくらいの熱量でやっているのか、あまり見えていなかった。ネガティブな印象があったわけではないけれど、いまひとつ引っかからなかったんです。
でもその後、2019年の6月に私と西村を含めたDe20の次を考える事務局メンバー7名が集められ、この制度をどうしていくか検討していくなかで、全社的にどんな力学を生んでいるかが見えてきました。「これはDeNAのDNAを体現する取り組みだ」と実感しましたね。
西村:そう。「引っかからない」ということも1つの課題でした。DeNAでは現在エンターテインメントと社会課題解決の2つの領域で多岐に渡る事業を展開していますが、事業部と事業部のあいだに接点がないことも多く、人と人とをつなぐ機会がなかなか創出できていません。
DeNAのスタッフはすでに3,000人を超えているので一定仕方ない部分もありますが、個人的には大企業っぽくて嫌だなと思っていて……。こうしたことを横断できるプロジェクトにしていきたいと考え、今回はしっかり「引っかける」ための仕組みを強化しているところです。
ーーなるほど。しかしそうであっても、プロジェクトを推進していくのは大変なことだと思います。「そんなことやってないで本業やってくれよ」という声も上がってきそうですが……。
小川:あくまで事業の成功、Delightを届けることが目的ななかで、COO室付きで本業化という形でやることについては議論を重ねました。というのも、制度化されなくても本来はできるべきことだし、この会社はそうあってほしいという願いがあるからです。ただ、やはり制度的な整合性を取るべきだろうというのが結論でした。これがDelight Boardの本質です。
事業部を越えて、社員のタテとヨコをしっかりつなぐ
ーーこの取り組みを行うとして、意見がまったく出てこなかった、という結果もありえますか?
西村:ゼロということはないですね。なぜなら私が起こそうと考えているプロジェクトがあるので(笑)。
ーーどんなものでしょう?
西村:留学制度をつくりたいんです。といっても海外の大学にMBAを取得しにいくといったものではなく、他の企業への短期留学です。イメージは明治時代の岩倉使節団。
DeNAでキャリアを積む魅力は、ジェネラルに事業やサービスをつくる環境や、それに伴って身につく総合的なビジネス能力だと思います。しかし、その一方で専門的な能力は身につけにくいという側面もあると感じています。
キャリアを積んでいくなかで、誰しも「新たな知見を得たい、挑戦したい」と考えるのは自然な流れです。そんなときこの留学制度があれば、社内にない専門領域の知見を外部の会社に出向・留学して得ることができます。これを実現させることが今の私の大きなモチベーションです。
ーーそういったアイデアを汲み上げるのが、Delight Boardのミッションだと?
西村:意見を言いやすい会社ではあるけれど、言うだけでは何も変わりません。みんな日々の業務があるなかでどうやって会社を変えていくのか。その手助けをこの制度でやりたいんです。また、なかには言いたい気持ちはあるけれど言えない、という人も少なからずいるはずです。そこの手助けにもなりたいですね。
ーー「言いやすくなる」ではなく「言ったことを実現させる」ためにDelight Boardがあるんですね。
小川:DeNAの行動指針「DeNA Quality(DQ)」にある「発言責任」というのは本来「発言したからにはやりましょう」ということではないんですが、「言うからにはコミットすべきだ」というマインドのメンバーが多いことも事実です。また、事業部を越えたヨコの繋がりだけでなく、タテの繋がりもあると思っていて……。
ーーどういうことでしょう?
小川:私がこの取り組みを始めたタイミングとヒューマンリソース本部に異動してきたタイミングは同じ時期だったのですが、新卒採用の仕事を担当するようになって、会長の南場や各事業部の本部長、執行役員と一緒に仕事をする機会が増え、良い意味で「この人たちも悩みながら意思決定していっているんだな」ということに気付いたんです。
私はそれまで、経営陣は正解を知っていると思っていました。悩んでいるのは現場だけで上層部は道筋を知っているのだと。考えてみれば当然ですよね。会社というものは、みんなで一緒に背負わなければいけない。すごく反省しました。同時に「この会社は僕らが背負えるんだ」とも気付きました。Delight Boardによってそうしたタテの繋がりも生まれてほしいと思っています。
「可変なものは、変えましょう」
ーーDelight Boardの最終的なゴールはどんなものになるのでしょうか。
小川:いちばん先にあるゴールは、世の中にあるデライトの総量や幅が増えることです。Delight Boardを通して実現したプロジェクトはもちろん、そこでできた繋がりはこれまで会社としてできなかった余白を切り開いていくと思っています。
その余白は、DeNAの中にいる人たちが幸せであるだけでなく、DeNAの外にもこぼれ出て、世の中にデライトを届けていくことに繋がっていく。そうでなければただの自己満足の取り組みになってしまいます。
西村:あと、個人的なゴールといいますか、私には夢があって……。世の中から愚痴をなくしたいんです。
ーー愚痴をなくす?
小川:何かに真剣に向き合ったとき、弱音を吐くことはあると思うんですが、愚痴と弱音は違うと思うんですよ。
西村:そう。その2つの違いは可変かどうかだと思います。弱音は、自分の能力が足りない時や体力、気力が追いつかない時に出るもの。愚痴は、変えられるものを変えようとせずに文句だけを言うこと。だから可変なものは意志を持って変えていきましょう、それが私のメッセージです。
なぜDeNAで働くのか?
ーーあらためて、Delight Boardへの想いを聞かせていただけますか?
小川:私は、DeNAという会社、その中にいるスタッフ、共通している価値観が好きなんです。不器用で青臭いなと感じる部分もあって、彼らの「こうありたい」がちゃんと花開いていくストーリーって美しいなと思っていて……。さまざまな取り組みを通してこのプロジェクトを醸成していきたいです。
ーー西村さんはどうですか?
西村:会社に限らず、純粋に世の中が驚くことをしたいんです。その取り組みを「誰と」「どこでやるか」を考えたとき、真っ先にDelight Boardを思い浮かべて欲しい。それがDelight Boardに込めている想いのひとつでもありますね。
ーーなるほど。では、西村さんにとって、働くことの喜びを感じるのはどんなときですか?
西村:仲間とつくりあげたアイデアが予想を越える成果につながったときですね。ある種、私はその快感に取り憑かれているのか、学生時代からずっとそんなことをやっている気がします。
それに、「働いている」と思ったことがないんです。もちろん、数値目標を追うことやスケジュール通りに進行させることの難しさはあります。Delight Boardだって全社に影響を与える規模の大きな取り組みなので、はじめは事務局のメンバー7人の思惑が合わないこともありました。そういう辛さはありますが、体力やメンタルの辛さはまったくないですね。
小川:私も同じで、あまり「働いている」という感覚はないんです。これが正確な言い方かわかりませんが、「存在の証明」に近いのかも。
ーー存在の証明?
小川:私は、仲間と同じ船に乗って背中を預け合いながらワクワクする航海をして生きていきたいと思っていて。そういうところに所属している実感を得られることが幸せなんです。
そのためには、自分自身が仲間に背中を預けてもらえるように鍛錬しなければならない。そしてその船がDeNAなんです。
ーー自分にとってこれが幸せだ、と言い切れる人はそれほど多くないと思います。小川さんはどうやって自分にとっての幸せを見つけたのでしょう?
小川:新卒採用の担当になったことが強く関係していると思います。オファーを出すということは、人の人生を預かるということですよね。その人の人生にとってDeNAという選択が本当にベストかどうかというところまでコミットして、初めて握手ができる。
だから、選考途中の候補者の方とは、その人の人生にとっての幸せが何かを深掘りします。これをやると自分にも跳ね返ってくるんですよね。新卒採用を担当するようになってから自分の幸せについても深く考えるようになりました。
ーーでは最後に、「DeNAで働く」とは一言でいうとどんなことなのか教えてください。
西村:それは明確で「自走」ですね。自分で走ること。
DeNAでは、ゲームやスポーツ、ヘルスケア、モビリティまでさまざまな事業に携わることができます。社外で副業もできるし、社内の他部署で役割や業務を兼務できる社内副業制度(クロスジョブ制度)や、上長や人事を介さず異動先の事業部長と直接やりとりができる部署異動制度(シェイクハンズ制度)など、自分に合った働き方、成長を後押ししてくれる制度もあります。
発言しやすい空気もあって、やりたいことがある人にとっては最高の環境ではないでしょうか。自走、つまり新しいことを自分でやっていきたいという気質の人には合う会社だと思います。
小川:「やりたいこと」「変えるべきだと思うこと」があったら、どんどん発言して新たな潮流を巻き起こしていって欲しい。その受け皿として、私たちDelight Boardの事務局メンバーもしっかりサポートしていきます!
※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。
執筆:山田宗太朗 編集:川越 ゆき 撮影:小堀 将生
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