うちのチームには、メンバーが充分いるし、誰が休んでも大丈夫。
常にそんな状態がつくれていれば理想ですが、なかなかそうはいきません。メンバーの誰が欠けても困る。全員が活躍してこそ、成果を出せるという状態のチームも多いのではないでしょうか。
大人世代が趣味や仲間を探すためのコミュニティサイト「趣味人倶楽部(しゅみーとくらぶ)」を運営するヘルスケア事業本部趣味人倶楽部グループも、そんな「ワンマンワンタスク」で全員が“フルスイング”しているチーム(※)のひとつです。
そのチームを取りまとめ、“支援型”のリーダーシップを発揮しているのが、今回の主人公である中村結(なかむら ゆい)。彼女の、モノづくり人材を活かすマネジメントの仕組みに迫ります!
※…ヘルスケア事業本部趣味人倶楽部グループは大きく「営業・事業サイド」と「運用・制作サイド」に分かれており、中村は後者のチームリーダー・ディレクターを担当。チームの内訳は、デザイナー、エンジニア(バック/フロント兼務)、コーダー(兼務)、アシスタントディレクター兼ライターが各1名ずつ。
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「デザイナーやエンジニアにとってのメリット」にフォーカスを当てる
――デザイナーやエンジニアにやる気になってもらうために、中村さんはどういう点を工夫されていますか?
中村:デザイナーやエンジニアが必ずしもやらなくていいことはさせない、というのを大事にしています。例えば、法務調整や総務への申請、社内調整、決まった手順で実施する定常業務などはなるべく私が巻き取るようにしているんです。
他には、事業部としての目標を、デザイナーやエンジニアが毎日見る数字にブレイクダウンしています。趣味人倶楽部でいえば、ご利用者数や新規会員の登録数などです。
ヘルスケア事業本部 趣味人倶楽部グループ ディレクター 中村結
大学院でメディア社会学を学んだ後、通販系ベンチャー企業でのライター修行を経て人材系企業に入社。マーケティング部署でWEB施策を中心に目標管理~制作ディレクションを担当し、CM制作やSEOマーケティングにも関わる。同社で営業を経験した後、アパレル通販会社に転職。マーケター兼ディレクターとして自社広告に関する業務を幅広く経験。その後、ITベンチャーに転職し、結婚・出産を経て、さらにチャレンジできる環境を求めてDeNAに入社。
――なぜ、数字にブレイクダウンするのですか?
中村:マネジメントを成功させるうえで、メンバーが日々どんな数字を追いかけるかを決めるのは、非常に重要だと思っているからです。
私は前職で営業をしていた時代があります。同社では必ずグループとして追う数字を一人ひとりの個人目標に落としこんで、「1か月でどれくらい売り上げを立てる必要があるか」を可視化していました。その結果、各々が具体的にどんな行動を起こすべきなのかが明確になっていたんです。
言うなれば、目指すべき目標に対して、目印となるコーンを置いていくような作業。それをすることは、メンバーに自発的に動いてもらうために、マネージャーが担うべき重要な役割だと思っています。
あとは、メンバーの行動を促す際に「〇〇をやってください」ではなく、「〇〇は評価のポイントになりますよ」という伝え方をすること。要するに、本人のメリットになることを提示してあげるわけです。
――具体的にはどんな伝え方をしましたか?
中村:例えば、チームのエンジニアに対して「あなたは技術レベルが非常に高いし、私たちはその仕事にすごく満足しています。さらにプロジェクトを自分で引っ張っていく実績が作れたら、より上のグレードに成長していけると思います」といった声かけをしています。
その声かけを実施するには、本人の意思(Will)をマネージャーがきちんと把握することが重要です。そのために、各メンバーと定期的に1on1を実施しています。仕事以外の話もざっくばらんにしてもらうなかで、彼・彼女らの意見を汲み取っています。
すべてのメンバーがツールやスクラムを活用
――タスク管理やスケジュール管理では、どういった工夫をしていますか?
中村:エンジニアやデザイナーが使うツールは、自分を含めグループのメンバー全員で活用しています。特に重宝しているのはJIRA(※1)やAbstract(※2)、Sketch(※3)などです。
※1…アジャイルおよびソフトウェア開発プロジェクトの管理ツール。プロジェクトの計画や進捗・タスク管理などを本ツール上で実施できる。
※2…デザインデータのバージョン管理ができるプラットフォーム。
※3…UIデザインに特化したデザインツール。
▲JIRAタスクを管理する一覧画面。
――デザイナーやエンジニア以外のメンバーが、それらのツールを使うのは珍しいですね。
中村:さらに言えば、非エンジニア・デザイナーがスクラム開発の形式を導入しているのもうちのグループの特徴です。スタイルとしては1週間単位のスプリントになっていて、週の頭にタスクの優先度を決めたうえでメンバーにタスクを割り振り、週末に振り返るという形をとっています。
――タスクの優先度を決める際には、マネージャーがある程度トップダウンで? それともメンバーが決めていますか?
中村:メンバーがある程度決めてくれていますね。タスクの優先度を決める基準としては3つあります。1つ目は、日々追っているKPIの改善になる度合いが高いこと。2つ目は本人がやりたいタスクであること。3つ目はKPIとも、本人のやりたいこととも関係がないけれど、改善したらお客さまが喜んでくださること。これらの軸に沿って判断してもらっています。
――その運用が成り立つのは、メンバー内で評価軸の共通認識があるからこそかと思います。どのようにして意思統一をしているのでしょうか?
中村:1週間のうち一定の時間を「理想のUX、カスタマージャーニーマップは何か?」などについて議論し合うことに費やしています。そうすることで、各メンバーの中に評価基準が浸透して、自走できる状態になっていくからです。
――共通の価値観を持つからこそ、メンバーが自走できる仕組みが作れるんですね。
中村:そうですね。それに、うちのグループにはすごく優秀な人材が集まっているので、指示されるよりも自走したほうが、メンバーの能力がより活きると思うんです。それを実現するための仕組みを作ることで、メンバーもマネージャーも幸せになれるだろうと考えています。
自分がやるべきこと、やらない方がいいことを明確にする
――意思決定の作業以外にも、メンバーには積極的にタスクを譲渡しているのですか?
中村:そうですね。自分が抱えている業務で、確実に時間を費やすことが分かっているものは、タスクを細分化してメンバーに割り振ります。そうやって要素分解していくと、実は自分じゃないとできないことって、それほど多くないんですよ。
例えば、資料を作るときに「①資料の大枠を決める」「②根拠となるデータを集める」「③データを図表にする」「④資料にまとめる」というステップがあるとするならば、②と③の作業は他のメンバーにお願いする。そっちのほうが、トータルで見ると圧倒的に早く終わるんです。
その際に大事なのは、メンバーの得意分野をきちんと把握したうえで、タスクを割り振るということです。そうすることで、ただの無茶ぶりにならないようにしています。
――中村さんは昔から、メンバーに積極的に役割を譲渡していくタイプだったのですか?
中村:いえ、昔は違いました。「自分にしかできないことを増やさないと評価されないのではないか」と思っていた時代もあります。価値観が大きく変わったのは、子どもが生まれてからですね。子どもがいると、やりたいやりたくないに関わらず(笑)やらなければならないことが劇的に増えます。限られた時間の中で優先度を常に考えなければ追いつかない状況になるんです。
今、私は8時半から17時までを勤務時間にしていて、17時には何があっても必ず帰るようにしています。そのためには、可能な限り、「自分がやった方がいいこと」と「自分が(できるけれど)やらない方がいいこと」の区分けを明確に、そして厳密にする必要が出てくるわけです。
メンバーになるべく自走してもらっているのは、メンバーのためでもありますし、私がいる・いないに関わらずチームのパフォーマンスが良い状態を作るためでもあります。このあたりの感覚は、子どもがいるワーキングパパ・ママには共感していただけるのではないでしょうか。
メンバーが生き生き働ける環境が、お客さまのDelightを創る
――仕事をしていて、楽しい瞬間ってどんなときですか?
中村:各メンバーが能動的に動いて仕事をしてくれる瞬間が嬉しいです。例えば、趣味人倶楽部の定常運用であるメルマガ配信を、私が忘れていてもきちんと定時に配信してくれるとか。KPIを私より深耕した提案がデザイナーやエンジニアから上がってきたりとか。そういうのを見ると感動します。
あとは、デザイナーやエンジニアの提案が、どんどん形になっていくのを見るのがすごく楽しいですね。
私はWebのスピード感とか、制作者の考えがダイレクトにプロダクトに表れる感じがすごく好きです。だから、メンバーがどんどんアイデアや成果物を出してくれて、それがお客さまに対して早いスパンで届き反応が明確に分かるのは、IT企業で働く醍醐味だなとよく思います。
――それを実現するためには、チームをマネジメントして、メンバーがやりがいを持って仕事に取り組める環境を作り出すことが重要ですね。最後に聞きたいのですが、中村さんが趣味人倶楽部グループのマネジメントに“フルスイング”できる原動力とは何でしょうか?
中村:やっぱりサービスや数字が少しずつ好転していくことです。趣味人倶楽部の場合、利用者の方にお会いする機会もあるので、そこでサービスについて感謝のコメントをいただいたりすると、数字の裏づけが取れた気がして嬉しいです。
――チームを良くしていくことも、最終的には数字に結びつけていくためなんですね。
中村:そうですね。タスクの割り振りや仕組みを最適化することによってチームの状態も良くなり、それに伴ってサービスも向上して、最終的には成果に結びつくのだと思っています。
なぜチームを良くするかといったらやっぱりプロダクトを良くしたいからです。プロダクトが良くなった結果、会員さまやクライアント企業さまが喜んでくれるからこそ、売上やPVなどが向上していきます。だからこそ、それを達成するためにベストな手段は何かを考えているだけなんです。
――DeNAっぽく言えば、Delight(喜び)を実現するために仕事をしているんですね。
中村:それを実現するうえで、メンバーの基本姿勢が「お客さま目線」であることもすごく力になっています。
「これって会員の誰が使うの?」「そのメッセージだとクライアント企業には良くても会員にはわかりにくくないですか?」という会話がよく交わされていて、「そうそう!」と思うこともあれば、ハッとさせられることもあります。そんなふうにメンバーが楽しんで数字に向かえる環境を作っていきたいです。
結局、モノづくりに携わる人がいないとサービスって動かないじゃないですか。だから、彼・彼女らにいかに気分よくやってもらうかを考えることが大事。それが一番いい結果につながると、私は思っています。
まとめ
中村さんが支援型リーダーシップのために大切にしていること
①法務調整や総務への申請、社内調整、決まった手順で実施する定常業務などを巻き取る
②事業部としての目標を、デザイナーやエンジニアが毎日見る数字にブレイクダウンする
③メンバーの行動を促す際に、本人のメリットになることを提示する
④すべてのメンバーがツールやスクラムを活用する
⑤1週間のうち一定の時間をメンバー同士の議論に使い、意思統一する
⑥自分がやるべきこと、やらない方がいいことを明確にする
※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。
執筆:中薗昴 編集:榮田佳織 撮影:小堀将生