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『BIT VALLEY 2019』運営の主担当が語る、日本がモノづくりの拠点となるために必要なこと

2019.11.01

2019年9月13日から14日にかけて開催された『BIT VALLEY 2019』。インターネット関連会社4社で共同開催した本イベントは、「モノづくりは、新たな領域へ テクノロジーとクリエイティビティが交差する世界」というテーマのもと、さまざまな領域の名だたるクリエイターによるトークセッション、企業の協賛ブースやワークショップ、学生を中心に行われたランチセッションなどを展開し、大きなインパクトを残しました。

『BIT VALLEY 2019』運営の主担当として奔走したのは、エンジニア出身の技術広報・森岡 志門(もりおか しもん)。森岡によると、運営の裏側には、4社共通の課題意識があったといいます。それはいったいどんなものだったのでしょうか。

また、文系出身ながらエンジニアとして新卒でDeNAに入社し、14年のキャリアを持つ森岡に、キャリアを積むうえで大切なこと、DeNAで結果を出していくために必要なマインドについても聞きました。

「交差」と「体験」を重視した『BIT VALLEY 2019』

ーー『BIT VALLEY 2019』のテーマは「モノづくりは、新たな領域へ~テクノロジーとクリエイティビティが交差する世界~」でした。何かが変わりつつある状況だからこそのテーマだと思うのですが、具体的に、何がどう変わっていると考えているのでしょうか?

森岡 志門(もりおか しもん)
▲株式会社ディー・エヌ・エー システム本部 CTO室 森岡 志門(もりおか しもん)
2005年にエンジニアとして新卒入社。サーバサイドエンジニアとして、Eコマース、新規事業、ソーシャルゲーム、メディアなどの複数の事業を渡り歩き、サービス運用や立ち上げを経験。エンジニア人事としてエンジニア研修や配属なども担当。2018年から技術企画グループ(現CTO室)で技術広報の業務に携わっている。現在は、ライフイベントをサポートする制度・福利厚生のひとつ「積立休暇制度」でこれまで積み立てた休暇を活用し半育休中。

まず、「昨今のモノづくりはエンジニアだけでは成り立たなくなっている」という背景があります。スマートフォンで表現できることはより広範になり、アートや音楽など、いろいろな領域の人たちが関わりあってモノづくりをするようになりました。

こうした状況をふまえると、技術だけに特化したテーマでは、もはやモノづくりの話はできないと思うんです。ですから、これまでの『BIT VALLEY』からテーマを変え、扱う領域を広げて、モノづくりの本質に迫っていくことを目指しました。

BIT VALLEY 2019

ーー「テクノロジーとクリエイティビティの交差」とは、具体的に何を意味していますか?

エンジニア、デザイナー、その他クリエイティビティに関わっているすべての方々が、自分の領域をはみ出して別の領域のセッションを聞き、ワークショップに参加することで自分の領域以外の知見に触れて新しい発見をする、それを通して世界が広がっていくことを意図しましたね。

ーー『POPEYE』編集長の松原 亨さん、『WIRED』日本版編集長の松島 倫明さん、音楽プロデューサー/ベーシストの亀田 誠治さんなど、かなり幅広い領域からの参加者が名を連ねています。まるで音楽フェスのようですね。

フェスは意識したところです(笑)。本当は、代々木公園にテントをたくさん立ててカンファレンスができたら面白いなと思っていたんです。テックカンファレンスというと、「知っている人は参加するイベント」というイメージですが、もう少し幅広く、多くの若い人たちが気軽に興味を持って参加できるものになったら……という想いがありました。

亀田誠治さん
▲音楽プロデューサー/ベーシストの亀田誠治氏による「音楽シーンの現在、そして未来ーいま、J-POPに求められるイノベーションとはー」

ーー単にゲストの話を聞くイベントではなく、体験を大事にしている印象を受けます。

まさにそうですね。せっかく来場してもらうので「体験」はすごく重視しました。昨年の『BIT VALLEY』と違うポイントのひとつは、ワークショップをたくさん用意したこと。また、登壇者と来場者が双方向にコミュニケーションを取れる場も用意しました。

本編のあとに40分間のAsk the Speaker(※1)を用意したんですが、Fireside Chat(※2)のように、車座になって登壇者を囲んで気軽に質問できるようにしたんです。それもひとつの「交差」だと思っています。

※1……来場者の質問を受ける時間
※2……暖炉を囲んで和やかに談笑するような、ラフな会話の場

BIT VALLEY 2019

日本が技術拠点となり、世界のモノづくりを引っ張れるように

佐藤オオキさんと松原亨さん
▲nendo代表/デザイナー 佐藤オオキ氏と『POPEYE』編集長 松原亨氏のトークセッションでは「アイデアの20年」が語られた

ーー森岡さんの『BIT VALLEY 2019』における役割は具体的にどんなものでしたか?

実行委員長であるnekokak(※3)の補佐のようなかたちで、序盤はスポンサーさんや協力者を増やす活動をしたり、後半は登壇コンテンツの構成を見たりクリエイティブの方向性をデザイナーさんと相談したり、幅広く要所要所で関わらせていただきました。

※3……CTO 小林 篤のハンドルネーム。社内でも親しみを込めてnekokak(ネコカク)と呼ばれている。

ーーそれはつまり……全部、ですよね?

そんな偉そうなことを言うつもりはありませんが、すべての領域にポイントでは関わりました。実行委員会を設けて本格的に会議を始めたのは今年に入ってからですが、動き始めたのは昨年の秋でしたので、足掛け一年弱の長いプロジェクトでしたね。

BIT VALLEY 2019

ーーその長いプロジェクトで印象的だったことをいくつかあげるとしたら、どんなものがありますか?

時系列でお話すると、序盤は、ゲストスピーカーの方々に登壇の相談をしてまわったのですが、そのなかで、『BIT VALLEY 2019』のテーマと同じ課題意識を持っている方がたくさんいたことに驚きました。

ーー具体的には?

たとえば、今は「答え」がわかりづらい時代ですよね。何が正しい基準なのか頼るべき軸がない。それでも世界中でつくられているプロダクトのなかで競争をしのいでいかなければならない。そのためには、自分なりの軸や意味を自分でつくっていく力が必要だと思うんです。現在、教育現場でも次代を担う人材育成を目指してさまざまな試みが始まっていますが、そうした課題を解決したい、という想いに共感していただくことが多々ありました。

また、それとは逆に、厳しい意見もいくつかいただいたんです。好意的な意見と厳しい意見、両方のフィードバックをいただいたことで自分たちのコンセプトがより洗練されていった実感があります。

ーー中盤から終盤にかけてはどうでしたか?

『BIT VALLEY 2019』は、サイバーエージェント、GMOインターネット、ミクシィ、DeNAという4社の共同開催だったのですが、会社という枠を越えて協力し合えたことはとても印象的でした。それがなければ絶対に成功しなかっただろうと思います。もちろん「共催」ではありますが、普段の仕事ではなかなかこうはいかないと思います。

BIT VALLEY 2019

ーー共同開催とはいえ、4社は言ってみればライバル会社ですよね。そうした企業と一緒に仕事を進めていくのは、なかなか難しいことではないですか? 互いの利益がバッティングしたり、「そこはウチがやった方がいいのに」という意見が出たり……といった問題が出てくることを想像してしまうのですが……。

そうですよね、外から見たら少し不思議かもしれませんね。まず言えるのは、今回共催した4社は、バックグラウンドが似ているんです。4社とも創業して約20年間インターネットに関わる事業を続けていて、渋谷に何らかの関わりを持っている。こうした共通点は、共催にあたって大きな力になったかもしれません。

ーー確かに、4社ともに「渋谷のインターネット関連会社」というイメージが強くあります。

一方で海外に目を向けてみると、この20年の間にGAFAと呼ばれる企業たちが大きく成長してきました。こうした企業に対し、日本のインターネット関連企業がどれだけ世界的にインパクトのある会社になったかというと、世界的なプレゼンスは獲得できていません。日本が技術拠点となり、世界のモノづくりを引っ張れるエリアになれるようにと考えていくと、このテーマは公共性を帯びていきますよね。

こうしたメッセージをひとつの会社だけでなく複数の会社で発信することの意義は大きいと思うんです。その点に共感してくれる方が各社にいらして。だからこそ、競合になるはずの会社と連携できたのだと思います。

BIT VALLEY 2019

文系からエンジニア、そして技術広報に

ーーここからは、森岡さんのキャリアパスについて聞かせてください。森岡さんは文系出身ですよね。文系からエンジニアになる人は、当時結構いたのでしょうか?

就職活動をしていた時は、SIerが文系理系に関わらず募集をしていました。ベンチャー企業でインターンを経験して、ウェブサイトのデザインを担当していたこともあり、パソコンを使って何かをすることが苦ではなかったことも大きいかもしれません。ただ、文系でエンジニアを目指す人がマジョリティだったかと言えばそうではなく、やや珍しかった気はします。

ーーそういう時代にあって、なぜエンジニアになろうと思ったのでしょうか。

やはりベンチャー企業でのインターン経験が大きく影響していると思います。その会社はシステムを外注していたので、外注先に出向いてSEさんと一緒にバグ潰しをすることがありました。ひとつ直すとまた別のところでバグが出て、それを直すとまた別のところでバグが出て……ということに対応していく中で、システムの品質を保つこと、ひいてはソフトウェアをつくることの難しさをすごく感じました。

その時に「これからインターネットはすごく重要な産業になるはずなのに、こんな状況でいいのか?」と思ったんです。自分に何かできないか、と課題意識を持ったんですね。それがはじまりでした。

ーーそのなかで、就職先としてDeNAを選んだのはなぜでしょう?

最初はSIerで働くことを考えていたんですが、SIerだと受託開発が多くなるんじゃないかと思ったんです。きっといずれ自分で何かをつくりたくなる。だったら最初から自分たちでモノづくりをしている会社を選んだ方が良い、なおかつ内製している会社ならさらに良いと考えたんです。

DeNAは、創業当時に外注したシステムが出来上がっていなくて大失敗した経験があり、だからこそ内製化に強くこだわっていました。他の企業と比べても内製化にかける想いがとりわけ大きいように感じて、開発することの重要性を知っている会社に見えたんです。

この会社でエンジニアをすれば何か身になるんじゃないか、そう感じて、南場さんに「文系だし実績もないけど、エンジニアになりたいんです」と伝えました。

ーー新卒入社後、EC→新規事業→ソーシャルゲーム→HR→メディア事業→技術広報と、さまざまな部署を渡り歩いていますよね。

1年目は本当に何もできませんでしたね。もちろんコードも全然書けませんでした。でも、アクセスログを集計したり分析したりしていると、ログの一行一行の裏に誰かの人生があるということに気づいていくんです。そこに思いを馳せることが面白かった。

自分のやっていることが、まわりまわって誰かの人生に繋がっている。それがインターネットのサービスやプロダクトにかかわっていることの醍醐味だと思っています。

「環境を変えたからといって全然違う仕事ができるかというと、そうとも限らないんじゃないか」

ーー部署を変わっても、その想いは変わりませんでしたか?

本質は変わらないですね。時期的には、HRに異動した8年目頃からDeNAの組織体系に課題を見出すことが多くなりました。スマートフォンが普及して、関わる人も増え、次第に個人のスタンドプレーでは良いモノがつくれなくなってきた。それ以前のガラケー時代は、誰かひとりスタープレイヤーがいれば良いサービスをつくることができた。

でもそうではなくなった時、いかにチームで良いモノをつくるか、というテーマがより重要になってきたと思います。良いチームや良い組織をつくるためにはどうすべきなのか、チームや組織を取り巻く環境とはいったい何なのか、ということを考えるのが楽しくなってきたんです。

ーー次第に関心が移り変わっていき、その時々の関心にマッチする仕事が常にあったから10年以上続けてこられたということですね。

そうかもしれません。さらに言えば、環境を変えたからといって全然違う仕事ができるかというと、そうとも限らないんじゃないかとも思っていて……。『BIT VALLEY』に参加している会社などを見ていると、もちろん異なる部分もあるけれど、共通する部分がすごく多いと感じるんです。やはり仕事の本質はどこに行っても変わらないのではないか、そう思います。

森岡 志門

ーーそれは本質的で重要な考え方ですね。

DeNAでは「新しいことをやりたい」と言いやすいんですよね。公平であることに対するこだわりの強さはすごく気持ちが良いです。だからもう少しここで何かを仕掛けてやろうと思える。トップ層も、フラットであることを徹底しています。

ーー「誰が言ったか」よりも「何を言ったか」を重要視するDeNAの行動指針、DQ(DeNA Quality)のひとつ「発言責任」につながるお話ですね。

こういう言い方が正確かわからないけれど、DeNAは、すごく面白い課題を取り扱っていると思います。創業して20年経ち、日本を代表する会社と言われつつも、次のステージに突き抜けるためにさらに足腰の強い組織をつくろうとしている。当然、多くの課題があります。

国内でそれなりにプレゼンスのある会社が世の中のためにできることは、もっとたくさんあると思うんです。素晴らしいサービスをつくることはもちろん大切だけど、それらをつくる過程で起きた課題解決や挑戦を共有したり伝えたりすることも同じくらい重要だと感じています。

DeNAで結果を出しているのはどんな人?どんな人が向いている?

ーーでは最後の質問ですが、DeNAで結果を出しているのはどんな人ですか?あるいは、DeNAに向いている人とはどんな人でしょう。

個人的には、2つあると感じています。ひとつは、やや抽象的ですが、二元論を超えられる人。利益率を上げると顧客満足度が下がる、あるいはその逆という構造はよくありますが、それを超えていくための努力をできる人のことです。

たとえば、Mobageをつくった川崎 修平(※4)や、一緒にソーシャルゲームをつくっていた佐々木 悠(※5)など、DeNAで突き抜けた結果を出してきた人たちは、相反しやすいものをうまく両立させていくことのできる人。

※4……元取締役、現DeNAフェロー
※5……執行役員 ゲーム・エンターテインメント事業本部ゲーム事業部長

大切なのは、世の中の人々が素敵なサービスを使えたり豊かな暮らしを体験できたりすること。あちらを立てればこちらが立たない、といった状況が当たり前になってしまっていては、そうしたことは実現できないですよね。だからその二元論を超えていくという気概が必要だと思います。

ーーもうひとつは何でしょう?

素直さや誠実さがある人です。これまでにやったことのない課題に挑戦するとき、仲間に求めることはやっぱり信頼できるかどうか。素直さや誠実さといった人としての魅力は、信頼の要素になると思います。

あともうひとつだけ付け加えるとしたら、DeNAには諦めの悪い人が多いかもしれません。しかもその諦めの悪さが全然無様ではない。有利な時に勝ち続けることよりも、不利な状況にいる時にひっくり返すことに仕事の醍醐味を感じている人が多い気がします。

ーー諦めが悪くなるのは、より大きな成功体験を得たことがあるからですか?

というよりも、見据えているゴールの場所によるのだと思います。初めてインターネットに触れた時の、これまで世の中になかったものに対するワクワク感こそが、我々がインターネット産業に関わってきた理由でした。それを自分たちでつくりたいという想いがある。

そうしたことを実現したいのならば、「ある程度頑張ればいいや」という考え方はなくなるはずです。目標の高さや低さという相対的な基準ではなく、もっと絶対的なところに射程を定めて、ブレずに目標に向かっていける人。そんな人がDeNAには向いているのではないかなと思います。

森岡 志門
※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。

執筆:山田 宗太朗 編集:川越 ゆき
撮影:前田 純、BIT VALLEY 2019 実行委員会

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