「DeNAのモノづくりをデータによって支え、価値(デライト)を創出する」。自らの部署の役割をそう定義するのは、2019年6月、システム本部内に新設された「分析推進部」の部長に就任した半田 豊和(はんだ とよかず)。
新たな事業領域への挑戦が加速しているDeNAでは、異なる事業ドメイン/事業フェーズを支えるデータ分析組織が求められています。
新設の分析推進部が、DeNAのモノづくりにどのような価値をもたらそうとしているのか。
CTOのnekokakこと小林 篤(こばやし あつし)が、半田の思いを掘り下げます。
分析推進部は何を「推進する」のか?
小林 篤(以下、nekokak):今回の「モノづくり対談」は、新設の分析推進部がこれからのDeNAにどのような価値をもたらしていくのかを話していきたいと思います。
半田さんは、2010年にDeNAに入社してから「分析」を軸に、いろいろな仕事に携わってきましたよね。
半田 豊和(以下、半田):はい。エンジニアとしては分析基盤、データパイプラインの構築、BIツールの開発を、アナリストとしては主にゲーム事業とオートモーティブ事業でデータ分析や機械学習プロジェクトの企画推進を行ってきました。
nekokak:これまでいろいろな角度からデータを分析してきた半田さんは、データ活用の重要性をよく知っている。現状の組織課題についてはどう思いますか?
半田:そうですね、まずはDeNA分析組織の変遷の振り返りからお話しさせてください。
私が入社した当初は、オンプレHadoop基盤を中心にエンジニアとアナリストが一体となった組織でした。専門性を集約した組織立ち上げの時期ですね。やがてゲーム事業の急成長とともにアナリストはゲーム事業部へ。スピード感をもった事業状況の把握・分析と意思決定、そしてドメイン知識の分析を融合したノウハウを蓄積するためには、事業の現場にアナリストが近づいていくのは必然でした。
その後、爆発的に増加するデータを扱う分析環境を支える分析基盤メンバーと、事業の現場でデータ分析を行うメンバーに分かれ、組織として役割分担がなされました。
そして現在は新たな競争力を築くべく、専門領域の研究開発を担うリサーチャー、さまざまな引き出しと高度な解決力をもったkaggler、機械学習システムの開発を担うMLエンジニアが集ったAI開発部門が立ち上がりました。
nekokak:分析関連人材の集約組織立ち上げ、分析基盤と利用者の役割分担と成熟、AI領域においての集約立ち上げ、という流れの中で、半田さんはそれぞれの立場を体験してきたわけですね。その変遷を経て、現在はどのような課題意識を持っていますか?
半田:今はそれぞれの組織が役割に特化しています。「事業のスケールを支えるデータプラットフォーム」「事業ドメインへ深く入り込んだ分析の実践」「高度なAI開発力・データサイエンスのスキル」というふうに。これらの専門性をもっと効果的に結びつけていきたいと思っています。
nekokak:これまでDeNAはゲーム事業に多くの分析リソースを割き、そのノウハウを成熟させてきました。一方で、エンターテインメント、オートモーティブ、ヘルスケア、スポーツなど、事業領域を拡大させていく中で、各領域においてもデータ活用のレベルを上げていかなければなりません。
私が分析推進部に期待しているのは、「組織的」に全社のデータの利活用を進めること。事業部が抱える課題の発見から事業価値の創造に至るプロセスまで、円滑につなぐ役割を果たしてもらいたいと考えています。
スペシャリティをつなぐ「ハブ」の役割で事業部を支援する
nekokak:事業ドメインだけでなく、事業フェーズによってもデータ分析に対するニーズ、取り組む内容も変わってきますよね。
半田:その通りですね。以下に例を挙げてみます。
【事業フェーズ毎のデータ分析の役割】
1)新規事業構想検討段階
参入しようとしている事業領域の市場調査、競合調査、解くべき課題の発見のため、アンケートやインタビューといったユーザーリサーチ的アプローチや、各種オープンデータなど、さまざまなデータをかき集めて、事業の骨格を検討する材料を作成する。
2)立ち上げ段階
ビジネスモデルが固まり、プロダクトのコアバリューが定まると、開発がスタート。分析観点では、ビジネスとプロダクトの両面からモニタリングしていくKPIを定め、それを計測できる仕組みを準備、ログを設計して実装したり、データを蓄積する仕組みを構築したり、ダッシュボードを作ったりする。
3)成長段階
集客、プロダクト改善、オペレーション改善など、事業とプロダクトへの深い理解とグロースへの強い意思をもって、プロダクトを成長軌道に乗せるために大小さまざまなPDCAを回す。
4)成熟段階~再成長/再成熟
さらに売上を伸ばすため、あるいは効率化して利益を伸ばすために、機械学習への取り組みを実施。それまでにどんなデータを蓄積しておくか、そして筋の良い改善点を発見し、それを解くことができる広く深いデータサイエンススキルの引き出しが重要。新たな成長軌道に乗った状態を創出するための取り組みを継続する。
実際には各段階は繋がっているので、取り組みは平行します。また、これからは事業構想段階から機械学習を想定して戦略的なデータの獲得、蓄積することの重要性が高まっていくでしょうね。
nekokak:事業側に対して分析側から問題を定義するのはDeNAならではのカルチャー。事業フェーズごとに分析アプローチが異なるのであれば、必要となるスキルも変わってきますよね。どのような体制で支援を行っていくイメージですか?
半田:分析推進部には各フェーズに強みのあるアナリストと、分析基盤を担ってきたエンジニアがいます。事業部の状況を見て、必要な支援、アサインを案件ごとに考えていきます。
しかし、自分たちだけであらゆる課題を解決できるとも思ってはいません。AI本部所属のデータサイエンティストやデザイン本部のUXリサーチャーなど、課題解決や目標達成に必要となるケーパビリティ(能力)を巻き込んで、事業部に解決策を提供するような動きもしていきます。
データを切り口に、事業課題解決のためにさまざまなスペシャリストをつなぐ「ハブ」のような役割を果たしたい。そして事業部をまたいだノウハウを蓄積し、それを転移することもしていきたいですね。
nekokak:社内のスペシャリティを統合して事業部を支援する……。
半田:それですね!
ネット×リアルの加速が「分析」を面白くする
nekokak:社内外を見渡してもアナリティクス人材は希少ですが、分析推進部にはどのような人材が向いていると思いますか?
半田:データサイエンティスト協会がまとめているスキルセットの図があるのですが、この考え方は参考にしています。アナリティクスグループはこのビジネス力に、エンジニアリンググループはデータエンジニアリング力に軸足を置くイメージです。データサイエンス部分はAI本部が強い人材を集めていますね。各組織が連携して事業部に貢献していく、そのディレクションをしていくのが「推進」のイメージです。
特にアナリストは、事業に入り込んで課題定義を行っていくので分析スキルはもとよりソフトスキルが重要です。データサイエンスとエンジニアリングを自身がハブになって仲立ちしながら、事業部の観点に立って、より価値のある結果に導いていってほしい。課題の内容によっては、UXリサーチャーやマーケティング担当が連携の相手になります。
nekokak:DeNAの新規事業は、ネットとリアルを融合したサービスが増えてきています。データ分析に携わる人たちにとってもすごく刺激的な環境だと思うのですが、半田さんはどう見ますか?
半田:面白いですね。ユーザーの行動データ、カメラや各種センサーからのデータ、各種オープンデータ、DeNAが挑戦する事業領域にあわせてさまざまなデータを扱う可能性が広がっていきます。どのようなデータを集めるか、そのための仕組みをどう作るか、集めたデータから何を生み出すか。
事業を通じて、モノづくりを通じて、世の中に新しい価値を提供したいと考える人がDeNAにはたくさんいます。分析推進部は、データによって彼らの思いを実現するための手立てになりたい。
nekokak:こうした環境に面白みを感じてくださるアナリストやデータエンジニアが、分析推進部の存在を知り、ここで働きたいと志望してくれたらうれしいですね。
半田:ええ。この刺激的な環境で、自身のポテンシャルを引き出したいという意欲旺盛な方と一緒に事業を盛り立てていきたいです。
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執筆:武田 敏則 編集:川越 ゆき 撮影:小堀 将生