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「面白い」も定義する“ロジカルモンスター井口”の葛藤。「すべき」と「したい」の狭間で

2019.08.08

就活を始めるにあたり、OB・OG訪問する人も多いでしょう。その会社で先輩は「こと」に向かえているか。見るべきポイントについて、DeNA代表取締役会長南場智子は話します。

「深く考え、悩ませてくれる会社が人を成長させます。先輩はみな後輩の前で弱音を吐きたくない。だから、威勢良く元気に武勇伝を語るでしょう。でもその背景に、どれほどの苦労や葛藤があったのか、そして今も『こと』に向かってどれほど深く悩んでいるのか。五感を使って見極めてください」

「キャリアの本質」第5回は、順調にキャリアアップを続ける、ゲーム・エンターテインメント事業本部ゲーム事業部 副事業部長 井口 徹也(いぐち てつや)に声をかけ、キャリアについてインタビュー。

理屈っぽさと素直さを武器に、任された仕事にとことん向き合い、着実なレベルアップをとげてきた井口。その裏にある葛藤、自身のキャリアについて聞きました。


チームとしてのクオリティとは何かを学んだ

井口徹也

南場:井口は、ゲームサービス事業部の事業部長をやって、今はその上のゲーム事業部の副事業部長をやっている切れ者です。DeNAに入ったきっかけを教えてください。

井口:サマーインターンに参加してビジネスの面白さに気づいたのが最初のきっかけです。その後、他社のインターンも4つほど参加したんですがグループワークでは全部優勝。アウトプットはとても褒められました。ただ、それをDeNAの人に見せたら「○○の観点が抜けている」と指摘されまくるんです。

で、その後も他のインターンに行って褒められたものを見せにいくと、いつも新しい視点でボコボコにされる(笑)。その刺激がたまらなくて入社を決めました。

南場:入社して最初はブラウザゲームでしたね。トップタイトルだったよね。

井口:当時、一番売上の大きいタイトルでした。毎月アップデートを繰り返すので、プレイヤーの方々が楽しんでくれる企画を出すのが僕の役目。

先輩は教えてくれるというより「任せたからちゃんとやりきれよ」と言う感じでした。なんとかプレイヤーが楽しんでくれるだろう企画をつくるのですが「これはクオリティに達していない」と突っ返されるわけです。新人であることは言い訳にならないと叩き込まれました。

南場:お客さまから見たら、新人もベテランも関係ないからね。

井口:まさにその通りです。「チームとしてのアウトプットクオリティになるんだから、お前が何者だろうが最高のものを出せ」と言われて「そうだな。そういう観点ならやるしかないな」となったわけです。

南場:素直。

井口:アドバイスを求めても「こっちがいい」という先輩もいれば、真反対の意見の先輩もいる。そのまま聞けば相反する意見を素直に聞きつつも、どこの意見を採用するかジャッジする。うちに入ったら、どんなこともまず、「自分ごと化する」くせを身につけなくてはいけないんじゃないかな。

南場:それは重要ですね。アドバイスを全部理解したうえで決める時は決めなければいけないということだよね。

井口:そういうことをふまえて、この時の体験から、プレイヤーに届けるべきクオリティラインを学びましたし、今も最も大切にしている観点です。

南場:それで2年目でいきなりプロデューサーになった。タイトルのトップでしょ。

井口:そのタイトルは1個障害が起きたら、社員2人分の年収が吹っ飛ぶくらいの損益が出る規模感。2年目の僕に、収益もチームビルディングも含めた全責任を負えというんで、思い切ったジャッジをする会社だなと思いました。

当然僕がやりますよ!というテンションで引き受け、社外に行ってプロデュースとは何かといろいろ話を聞いたり、他のプロデューサーと話したり、結局、四苦八苦しながら前に進んでいきました。

南場:与えられた場で最良を求める、そうすると目線が高くなって次の立場をまかされるようになる。そういうことを井口は繰り返して、その後シニアプロデューサーを経て、マネージャーになったんですね。

「僕にとっての転換期」初めてゲームを離れてマネジメントに従事

井口徹也

井口:初めてゲームではない仕事に携わりました。約1ヶ月という短い期間で、新卒を含め異動してくる人たちの研修プログラムをつくったんです。これが、僕にとっての転換期でした。

南場:どういうこと?

井口:僕は定義するのが結構好きなんで、マインド、スキル、モチベーションを含め、1ヶ月で「育つ」とはどういう状態になることか定義し、1日ごとに研修目的をつくりました。それを確認しながら進めたところ、僕の定義する「育つ」の軌道には乗ったかな。

南場:なんで転換期だったの?

井口:ゲームでのアプローチが通用することを学んだんです。プレイヤーにどのように楽しんでいただきたいかを、細かく定義して開発する手法を自分なりに編み出していたのですが、それが普遍的に他の仕事でも使えることを実感して自信になりました。

南場:めちゃくちゃ理屈っぽいね(笑)。インターンを一緒にやったこと思い出すよ。「面白い」1つにしても、どういうことが「面白い」なんだ?とめっちゃ細かく分解して定義していたね。

井口:あの時の目的は、「『面白い』の改善」でした。だからチームメンバーが入れ替わっても、プレイヤーに変わらない「面白さ」を届けるにはどうしたらいいか。チーム内で言語化する必要があったんですよ。それが現場でやっていたことなので、インターンプログラムでもそのクオリティを実現したかったんです。

南場:なるほど。ただ、全般的に非常に理屈っぽいとは思うよ(笑)。

井口:それは否定できないです(笑)。

チームメンバーが走りきれるゴールを見せたら結果はついてくる

井口徹也

南場:その後、アプリタイトルを担当したんですね?

井口:収益面でもチームビルドでもあんまりうまくいっていないタイトルがあり、最初はチームビルディングから入ったんですが、タイトル全体を任せてもらうようになりました。

考えていた施策を詰め込んだら、サービス収益はきれいなV字曲線を描いて持ち直したんです。毎日というか毎時間、タイトルの指標を表すKPIをチェックして楽しかったです。

南場:井口らしいですね。ところで、悪かったチームの状態はどうしましたか?

井口:当時は、ゲームとして高いクオリティをつくりつつも、あれもこれも全部やっていて、チーム全体として方向感を見失っていました。

そこで初めにやったのは取捨選択。こだわるクオリティ、捨てる部分に優先順位をつけて方針を決めました。そして成果を分析し、軌道修正をしていく、要はPDCA。

南場:それが睡眠不足で青い顔をしていたメンバーたちを救う訳ね。

井口:ゴールがわかれば、ガッと向かっていける、そもそもそういう人が集まっているため、ゴールを明確にしたことでプレイヤーの満足度がさらに上がり、結果として売上アップも実現できました。

井口:アプリの運営で調子に乗っていた時にアサインされたんで、この時も当然僕がやります!と意気込んで引き受けました。が、そこからが大変でした。DGTは、DeNAとは別に独自に採用して組織を築いており、会社として根幹となる文化もつくり上げていかなくてはなりません。

当時の会社は150人くらい。若かったこともあり「おまえ誰だ?」という空気が流れていた気がします。その中で、会社をどうしていきたいか、いつもの理屈っぽい説明で繰り返しても、想いが伝わらない感じがしました。

南場:容易に想像できるなあ。

井口:それで全員と話す場を設け、会社にかける想いや何がしたいか、休日の過ごし方まで聞いて、エクセルにまとめたんです。ちなみに顔写真つきエクセル。メンバーに話しかけに行くときは、それを見て予習して話しかける。そういう細かいことをやっていきました。

南場:システマティックだね……。

井口:それを続けていたら 3ヵ月くらいかけて、少しずつ存在を認めてもらっていったという感じです。それ以降、会社の方針を伝えたときのみんなの雰囲気は、自分の理想に近くなっていきました。

「ロジカルに正しい」だけど自分のやりたいことなのか?自問自答に苦しむ日々

南場智子

南場:その後、ゲーム事業部の事業部長になるじゃない。その頃の井口は、顔が土色というか、自信を失っていた気がします。

井口:おっしゃる通り。まず、DGTの社長として戦略を考えると、やっぱりDeNA本体のゲーム事業の戦略に左右されることもあるんですね。そこで全体の戦略に関する提案をまとめていたところ、事業部長のオファーがあったんです。

子会社含めて700人くらいの部署のトップになったので、部長たち、部下たちが増えて、どうやって率いていくのかもわからなかったし、1つひとつの言葉の重みも感じるようになりました。

南場:ゲームはクリエイティブで面白いものをつくること。だけど一定のコスト意識の中でそれを成し遂げなくてはいけない。当時はそのあたりのバランスに苦戦していたよね。

そこを、当時井口の直属の上司、守安社長と組んでしっかり整えていくプロジェクトでしたね。だんだん井口の顔色が悪くなっていった覚えがあります。

井口:クリエイティブ部隊も、コスト感は理解しているものの、より良くできる可能性があるとやりたくなる。それをやってもらうと、コストが超過してしまう。自分は、責任者だったので、そこにストップをかけなきゃいけないことも多々ありました。

当然「なんでこんな方針にするんですか」「『面白い』って何なんですか」という突き上げもありました。自分もさっき話ししたようにユーザーにどんな面白さを提供するのかという、高いクオリティラインをずっと追求していたので、ストップをかけるのに葛藤を感じました。

南場:青ざめていたのはこの時なんだね。

井口:一緒にプロジェクトをしていた守安さんと徹底的に議論する中で、事業としてやるからには一定のコストの枠の中で面白さを実現しなくてはいけないということに気づきました。

南場:最初から守安とは対等に議論できた?

井口:最初は全然。物事をロジカルに整理するのは僕の癖ですけど、守安さんはさらにロジカルで芯を食った指摘をするんです。なので、僕の思考のプロトコルにハマりすぎて、最初、守安さんの意見が全て正しく感じてしまい、自分の意見が何だったか見失ってしまっていました。

でもしばらくすると、自分の拠り所であるユーザー視点がムクムクと戻ってきて、そこから徹底的に対等に本質の議論ができたと思います。その結果、僕は一周回ってとことん納得することができました。この時の経験で初めて自分の中で「経営観」が培われた気がします。

南場:それは宝物だね。

井口:コストの制約の中で面白さを追求する、そして時に経営は正しいかどうかより、事業をどう推進していきたいかを決め切ることが重要。事業部のトップとして、目指してく方向性、世界観を、発信する場、発信する言葉も考えて示さなくてはいけない。それがわかった任期後半からは桃色のほっぺになりましたよ(笑)。

南場:それはよかった!


苦労しながらも順調に進んできた印象の彼が、ステップアップできた理由を聞いてみた。

「自分で物事を進めたいという気持ちがすごく強いので、選ばれたというより勝ち取ったという部分が大きい」という井口。

彼がステップアップする時。それは必ず、その時任された仕事に没入し、その環境、その事業にとって何が1番大事なのか、役割や立場を考えず、すべて自分ごと化して挑む姿がありました。

※この記事はイベント「キャリアの本質」を再構成したものです。
※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。

編集:菊池 有希子 撮影:小堀 将生

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