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タクシー免許取得もなんのその。肝っ玉セールスウーマンの「コトを成す」術

2019.08.01

「就活とは一生身を置く組織を選ぶことではなく、仕事ができる人材にいち早く成長する場所を選ぶことです。人が育つ環境に不可欠なのは『目標』と『工夫』。目標に向けて自分なりに工夫し、ここまでと線引きせずにできることをすべてやり尽くす。周囲の協力を引き出す試行錯誤もそのひとつです。」と、DeNA代表取締役会長南場智子は語ります。

そんな彼女が、現場で活躍している社員に声をかけ、キャリアについてインタビューする「キャリアの本質」。

第4回は、オートモーティブ事業本部スマートタクシー事業開発部渉外企画推進グループ 平松 瞳(ひらまつ ひとみ)。必要とあらば、代理店に入り込み、二種免許までも取得し現場に向き合う。11年在籍で11部署を経験する引く手あまたな彼女の「どんな状況でも何とかする」力に迫りました。


乗務員さんと同じ目線に立たなきゃ始まらない。二種免許取得へ

平松 瞳(ひらまつ ひとみ)
▲オートモーティブ事業本部スマートタクシー事業開発部渉外企画推進グループ 平松 瞳(ひらまつ ひとみ)

南場:平松とは付き合いが長い。もう11年目ですね。どこから話そうか。今は、オートモーティブ事業で、タクシー配車のアプリ『MOV』の営業の責任者。立ち上げ時(※)から担当してたと思うけど、どんな感じだったか教えてください。
※……旧『タクベル』。

平松:配車アプリって、お客さまに使ってもらうのはもちろんのこと、乗務員さんがいないと始まらないわけです。乗務員さんが操作する画面を使いやすくつくるには、乗務員さんの声をきちんと聞かないとサービスがつくれない。

なので、乗務員さんにヒアリングをしたくて、午後に電話をしてもつながらない。訪問しても誰もいない。そこで知ったのが、タクシーの乗務員は、朝の5時には動き出すということでした。話を聞けるのが朝しかないなら、まず朝出向こうと。

南場:5時に?

平松:行きました。が、今度は行くと、乗務員さんからは「何にもわからないITの会社が来るな。配車アプリなんてつくれるわけがない」と門前払い。

それには返す言葉がなくて。走れば売り上げになる営業時間に、知識や理解もない新参者がいきなり来て「時間をください」なんて失礼だったと思いました。どのような仕事で、どのようなニーズがあるか知りたかったし、少しでも乗務員さんと共通の言葉で話せるように二種免許を取りました

南場:免許を取って、何か変化はありましたか?

平松:乗務員さんが、タクシーの運転をしながらすべきことって、お客さまを乗せるだけではないんです。安全な道、早く着けるルートに気を配ったり、時には理不尽な状況でお客さんをなだめたり、そのバランス感など「乗務員さんはやっぱりすごい」と。

そんな状況下でアプリを使ってもらうには、操作性が安全であることが何より大事だということがわかりました。

乗務員さんからは「免許まで取ったのか」と喜んでもらえて、受け入れてもらえました。いつかタクシー運転手になるしかないですね(笑)。

南場:対話ができるようになると、生の声が聞ける。それが『MOV』の快進撃につながったのかな。

平松:最初のうちは、最終決定者である各タクシー会社の社長さんに向けて、アプリ導入について説明会をしていたんです。好評ではあるものの決定には至りませんでした。

でも、対話をしていくうちに、実は乗務員さんが入れたいと思うかどうかが導入決定のポイントだとわかったんです。

南場:なるほど。

平松:そこから、乗務員さんへの説明に徹底的に時間を使いました。もともと『MOV』は、乗務員さんの声をもとに、安全性や利便性などを考えてつくり込んだサービスです。

それをていねいに説明していくうちに現場から「『MOV』を入れてくれ」と言う声が高まり、社長さんへ上がって一気に車両数が伸びました! 例えば神奈川県では2台に1台は『MOV』が導入されているし、首都圏京阪神でもシェアを伸ばしています。

『MOV』を使ってくださることで、お客さまを探すために走らせる時間が大幅に減り、事故率の低下につながっているというお話も聞きます。サービスを提供する側として、悲しいことがなくなり喜びが増えることが非常にうれしいですね。

南場:平松は瞬時にのめり込んでいく力と、現場を重んじる姿勢が入社直後から一貫している。

新卒から現場至上主義の姿勢を崩さず、成果へとつなげる

平松 瞳(ひらまつ ひとみ)

平松:入社直後といえば、広告営業していた頃ですね。

広告営業は、代理店を通じてクライアントから自分の担当する媒体に広告を出してもらうために働きかけるのが仕事です。そのために、代理店に電話アポをするんですが「時間がない」と取り合ってもらえませんでした。

なので、時間がないならずっと隣にいようと代理店の社内に常駐したんです

南場:勝手に出向状態。出向って会社と会社で取り決めることだから「何やってんのよ平松」みたいな感じだった。

平松:そうしたら、代理店が社員カードまでくださったんです。そばにいると「出稿金額が提案に合わない」とか「次は女性をターゲットにしたい」といった話が入ってくるようになって、そこでニーズにあった提案をして販売数を拡大させました。

南場:半期に1度ある全社会で、会社全体の準MVPを取ったのはそのときだよね。MVPも新卒だった。会社全体で新卒が活躍していてすごいと思いました。平松も泣いていて、平松でも嬉し泣きするのかと思ったら、“準”がついた悔し涙だった。

平松:はい。同期で1番になりたいとかいうことではなく、売上を上げるために一緒にがんばってくれた現場のメンバーに顔向けできないと思って。あの時は本当に悔しかったです。

南場:その後担当した、『Mobage』のゲーム開発パートナー営業でも相手先に入り浸っていたよね。

平松:はい。ゲームづくりは私も手探りだったので、先方の会社に入り浸って一緒に試行錯誤しました。お客さまが喜んでくれるゲームができるとアクセスが増える。そうすると、ゲーム開発会社のシステムがダウンしてゲームが遊べなくなることが多々あったんです。

すぐにゲームを再開させて欲しくて、飲みに出ていたその会社の社長を追いかけ回しました(笑)。歌舞伎町や六本木、色々な夜の街に足を運びましたね。

南場:追いかけ回したんだ。

平松:だって、せっかく遊んでくださっているのに、ダウンした1回でプレイヤーさんは冷めちゃうじゃないですか。安定して遊べる環境をプレイヤーに届けるのはすごく大切。これが結果として売上にもつながった秘訣なのかなと思います。

南場:平松はどこにでも入り込みますね。ベイスターズを取得した時の入り込みもすさまじかった。

違う環境下でも受け入れられる極意は相手の目線になってみること

平松 瞳(ひらまつ ひとみ)

平松:新聞で、「DeNAが球団取得か」といった一面スクープが出た日に「平松行くぞ」と言われてベイスターズに行きました。私が完全に黒子のようにチームの契約書や選手、監督の契約書を持ち運び……。

南場:マスコミも春田さん(※)を張ってるから、彼が動き回ると目立つ。だから、平松が記者たちの目をくぐって動いていたんですね。
※……春田 真(はるた まこと)。横浜DeNAベイスターズ初代オーナー。

平松:当時の中畑清監督とも、なごやかに会話をしながらユニフォームをつくり始め、ショップをつくってというように進めていきました。

南場:私たちが入る前の社員の人たちとは、どういう風にコミュニケーション取ったの?彼らは野球一筋、私たちはIT畑で、ほとんど同じ言語がなかったんじゃない?

平松:1番初めは、目を合わせてくれなくて、無理やり目を合わせてました(笑)。まだ手書きが主役な社内と、無言でタイピングする私たち。これでは「あいつら、違う生き物だ」と思われても仕方ないので、まずパソコン閉じました。あと、横文字禁止に

南場:「インプット」とかだめ?

平松:だめです。「アジェンダ」もだめ。それくらい環境が違ったんです。

でも、野球のことや球団運営、選手のメンタルケアなど、本当に素晴らしくて尊敬できる部分が気になってどんどん聞いていました。そのうち、パソコンのことを聞かれたり、なぜか毎日鳩サブレーをくださるようになったりして。嬉しくて全部食べちゃって。そんな感じで関係性ができていきました。

南場:太りそうだね。

平松:5kg太りました(笑)。『MOV』でもそうですが、新参者がいきなり「教えてください」なんて、何もお返しするものがないのに、おこがましいなって。最初は"片思い”なので、自分から動いてアプローチしないと何も始まらないなと

ライフイベントと仕事の両立も、持ち前のガッツで明るく乗り切る

南場智子

南場:それから、平松は2回出産して子供がいるじゃないですか。ライフイベントと仕事の両立はどうなのか、そのへんの話も聞かせてください。

平松:私が出産した頃は、まだ病児保育制度がなくて、復帰したあとのことが少し不安でした。でも、その後すぐ制度ができたんです。

ニーズや時代に合わせて制度をどんどん変えていく会社なので、働きやすいです。男性メンバーも育休をガンガン取っているのもうちらしいなって思います。

南場:育休入るね、みんな。そういえば、昔、子育てどうかなって気になって平松の家に行ったね。

平松:保育園に子どもたちのお迎え行きましたよね。荷物が大量にあって子ども2人と手をつなぐ余裕がない中、南場さんが子どもたちの手をとって「それ、危ないよ」とかフォローしてくれて、私よりお母さんみたいでした。

南場:お迎えは大変。数多いる中から自分の子供を見つけて、すごいたくさんの小さい棚から我が子の棚を探し、次の日に必要なパンツとかを突っ込んでいく。

子どもが2人いれば、それぞれ入れ込むものがたくさんあるし。それを「大変だー」とか言いながら、すごいスピードでこなしていて「仕事できるな」と思った。

平松:初めて「仕事できる」って言われました(笑)。


泥臭く現場に入り込んで、相手を尊敬することで信頼関係を築き、社内外問わず仲間を増やしていく。天賦の人間力を駆使して工夫を重ね、なんだかんだ目標を達成してきた、まさに頼れるリーダー。大変であろう状況の中でも、明るくいられるのはなぜかと聞いてみると……。

「みんなが喜んでいる方がいいじゃないですか」と、これまた満面の笑みで答えてくれました。一見シンプルだけど、まっすぐなその答えに、彼女の本質を垣間見た気がします。

※この記事はイベント「キャリアの本質」を再構成したものです。
※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。

編集:菊池 有希子 撮影:小堀 将生

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