スポーツ、エンターテインメント、そしてゲームを手がける企業として、DeNAは2019年3月より本格的にeスポーツ事業への取り組みをスタートしました。
このプロジェクトを指揮するのは、杉山 晃一(すぎやま こういち/右)と齋藤 亮介(さいとう りょうすけ/左)。
杉山はグローバルの格闘対戦ゲームのプロデューサーとして、齋藤は1億人がプレーするグローバルタイトルの日本ディレクターとして、日本のeスポーツを黎明期から盛り上げてきた2人が新たな挑戦を始めます。
「自分の情熱をゲームに注いだ結果、人生のプラスになるようなことが起きればいい」「ゲームをやってピザが食える世界に」など、熱い言葉が飛び出した2人の対談をお届けします!
日本にeスポーツのムーブメントが来た!
――「eスポーツ」という言葉が聞かれるようになりましたが、日本の現状を教えてください。
齋藤:日本は約5年のタイムラグがあると言われています。そこを、今急速にキャッチアップしていこうというところ。ようやく2018年2月に日本eスポーツ連合(以下、JeSU)が設立されました。連合ができたことにより、メディアが安心してeスポーツを語れるようになったことは大きいですよね?
杉山:そうですね。
「オフィシャルな場でゲームをスポーツとして語っていい」という、後ろ盾になります。他にも、我々だけでは難しい日本特有の法整備などを担ってくれています。昨年のアジア競技大会への選手派遣、今秋の茨城国体での選手権開催など、スポーツ系のカルチャーに対してeスポーツを普及させる動きがようやく見えてきたかな。
ーーその流れの中で、2人がDeNAのeスポーツ事業に参画された理由を教えてください。
杉山:DeNAはゲームはもちろん、プロ野球、長距離陸上、プロバスケットボールなどスポーツ分野においても力をいれている。それはeスポーツに必要な大きな要素です。そこがかけ合わさったら大きなインパクトが生まれるんじゃないかと思ったんです。
齋藤:前職では日本有数のeスポーツリーグを運営していましたが、単体のタイトルだけでは運営は難しい。
日本でeスポーツを成功させるには複数のタイトルを持ち、スタッフやプラットフォームを共通化する運営会社が必要です。DeNAならプラットフォームもたくさんあり、自社のタイトルに限ることもない市場の可能性を感じました。
杉山:齋藤さんが前職を辞めたという話を聞いて、僕が誘いました。
齋藤:杉山さんとは、大会や講演会などでよく一緒になっていて顔見知りではあったんです。ある時たまたまeスポーツについて深く話をする機会があって、改めてこれが自分が情熱を傾けられる事業だと思ったんです。
杉山:私がマネージャー業務と社外との調整や事業方針などを決めるプロデュース業務を担当し、齋藤さんにはストラテジーリードに立ってもらいつつ、前職の経験を活かしてmobaタイトルのプロデューサーを。
コンサル畑出身で戦略に強く、英語が堪能なので、事業がスケールするために海外のステークスホルダーやプレイヤーを引きこむ際の折衝をお願いしています。
齋藤:杉山さんはゲームを実際に0→1でつくることができて、エモーショナルな部分をどう表現するかとか、感動を届けることに長けている。
私はありものを料理することはできるけど、0→1でつくることはできないので、実際にどう大会運営をするかというところを担っていきます。
杉山:ちょうどないものを補完している関係ですね。
齋藤:補えていたらいいんですけど(笑)。
eスポーツを日常のエンターテインメントコンテンツに
――eスポーツのムーブメントの中でDeNAの立ち位置をどのように考えていますか?
杉山:幅広い世代にeスポーツの楽しさを伝えること、またeスポーツのイメージをクリーンにしていくことがミッションだと感じています。
まさにその第一歩として、日本野球機構との取り組みが実現しました。これは、ゲームからスポーツまで事業が多岐に渡るDeNAだからこそ成し遂げられたことだと思っています。
齋藤:eスポーツというのは、配信を見るのが当たり前の今、キラーコンテンツだと思うんですよね。昔、ゲームセンターで上手い人の後ろでワクワクしながら見ていたり、家族みんなでワイワイプロ野球を見ていたりした時のような、熱狂が生まれると思うんです。
杉山:リアルスポーツと同じで、共感につながればファンができていきます。今のゲームは、リアルイベントの運営だったりファンが喜ぶような施策だったり、コミュニティとの対話は避けて通れません。eスポーツはまさにその直球ど真ん中。コミュニティがあってこそ成立する市場です。
齋藤:ゆえに、総合力が求められるんです。配信プラットフォーム『SHOWROOM』『Pococha』やプロ野球球団を持つDeNAグループは、ゲームの枠を超えた運営ができるんじゃないでしょうか。eスポーツの課題であるビジネス化は、DeNAが貢献できるところだと思っています。
杉山:できたばかりの日本でeスポーツ事業は端的にいうとそんなに大きくはないのですが、その中でビジネススキームを作っていきたいですね。
齋藤:ええ、そうですね。eスポーツ自体がエンターテインメントコンテンツであることは変わりません。そこを提供できるからこそ、リターンというかビジネスに資する要素が出てくる。
eスポーツを「する人」「見る人」「支える人」の中で「支える」部分は、JeSUを含めて多くの方々が補おうとしてくれていて、その他の「する人」「見る人」を充実させることが重要なのかと思います。
杉山:まだまだ固まっていませんが、ひとつ目指したいのは、ゲームを扱う企業として広く生活者に対して安心・安全なコンテンツを提供することです。
eスポーツに興味を持つ企業やお客様に対して、導入に適したコンテンツを提供できる存在になれたらと。そのために、リーグ運営、選手やストリーマーとの対話をしていきたいですね。
齋藤:南場(※1)の言葉ですが、DeNAを創業したときにいろいろコンセプトはあったが、お客さまにフォーカスして求めているものを提供して喜んでもらうことで今日の事業ができたと。
プレイヤーを見ながら、エンターテインメントとしての最大値が生まれたときに、どのような形でビジネス化できるかを見極めたいです。
※1……DeNA代表取締役会長 南場智子
eスポーツはさまざまな壁をこえていく
ーーお2人が今までにeスポーツに関わってきた中で印象に残っていることはありますか?
その中で、複雑な家庭事情があり、「自立したい」とプロゲーマーを目指す道を選んで頑張っている子がいました。大会に出場すれば、実際にファンの子からの声援を耳にすることができる。
杉山:「する人」と「支える人」ですね。
齋藤:そう。結果的にプロになれても、なれなくても、その声援を”生”で受け取るだけでも人生にとって意味があるものになるんじゃないかな、と思い印象に残っています。
杉山:eスポーツには垣根がありません。お子さんから高齢者、車椅子で大会に参加するプレイヤーもいらっしゃいます。ハンディキャップ向けのギアを開発する企業があったり、アメリカでは様々なゲーマーを応援するアンバサダープログラムもあったりします。
齋藤:リアルスポーツは早い段階から才能を見出して時間とお金をかけて育成しなければなりませんが、eスポーツはパソコンやスマートフォンを含めたゲーム機があれば家で練習できます。スタート時期や家庭環境に左右されないスポーツシーンになるのではないでしょうか。
杉山:齋藤さんが先ほど言っていた、老若男女じゃないですけど、私はお爺ちゃんになってもゲームやりたいなと思うんですよ(笑)。いつまでも娯楽として盛り上げていきたいという気持ちが根底にあります。
齋藤:そんな熱い思いを抱いたメンバーが今DeNAに集まって、eスポーツを盛り上げる一翼となるべく奮闘しているんです。
杉山:そう。ゲームセンターや小さなゲーム大会からスタートして、コミュニティが大きくなり、配信されて企業が付いてくる。そうやってコミュニティを作る中心で活躍している多種多様なメンバーが集まって、今まさに盛り上げようとしています。
「ゲームをやってピザが食える」世界に
杉山:前職のときからメンバーには「ゲームをやってピザが食える世界をつくりたい」と言っているんですよ。
ゲームをやっている子どもが世の中に対して発信するものが世界で感動を生んで、その子に何かが返ってきたり、ふさぎがちな子がゲームを通じて外の世界へ出られるようになったりしたらいいなと。最終的にはゲームやエンタメで生活できる人が増える世の中になればと思います。
齋藤:あらゆる人に人生の充実感や感動を与えたいというのが、私のeスポーツの原点です。ゲーム業界に転職した理由でもありますが、貧富の格差を解消することはできなくても、多くの人たちの人生を充実させることが何かないかを考えたとき、それはゲームやeスポーツでした。
杉山:自分の情熱をゲームに注いだ結果、プラスになることがあるようになればすごくいいいですね。
齋藤:ゲームでコミュニティをつくり、そこに人生を充実させるものがあってこそeスポーツが発展すると思います。
杉山:いいこと言いますね(笑)。ゲームは生きるために必要不可欠ではないかもしれないけれど、趣味や娯楽があるから人間の寿命は延びていると思うんですよね。
豊かさの定義をときどき考えるんですけど、消費が活発だった時代はモノに囲まれていることが豊かさだったけれど、今はゲームがディスクからオンラインへと変化していったように、形あるものから無形になっていく。
ゲームは有形でも無形でも関係なく楽しめるから、この先の豊かさを支えるもののひとつになれるんじゃないかな。心が豊かになれる時代をつくる礎となる仕事になれば嬉しいです。
※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。
執筆:さとう ともこ 編集:小池 遥 撮影:杉本 晴
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