CULTURE
18.01.12
スモールスタートのアプリ開発を成功させた理由。MTG写真共有アプリ「Shatto」が大切にした3つのノウハウ

企業がビジネスの競争力を高めるには、スピーディーなサービス開発が欠かせません。とはいえ、大きな投資をして失敗すれば、事業が傾く恐れもあります。そんなリスクを回避するために、スモールスタートでサービスを開発したいと考える事業責任者やマネージャーも多いことでしょう。
今回登場するIT戦略部の中村祐太(なかむらゆうた)は最小限の社内リソースでMTG写真共有アプリ「Shatto」の開発に“フルスイング”し、成功させたエンジニアです。現在、「Shatto」は社内向けアプリですが、今後は社外への展開も予定しています。中村はいかにしてサービス開発を成功に導いたのか。その秘密に迫ります!
目次
PCとは縁の薄かった美容師から、エンジニアへ転身
――中村さんは、もともと美容師だったそうですが、どういった経緯でエンジニアに?
中村:私が美容師だった頃、「いつか独立して自分の店を経営したい」と思っていました。そのためには、カットやシャンプーだけでなく、顧客管理や経営についても学ぶ必要があると思って、パソコンスクールに通っていたんです。そこで、Word・Excel・PowerPointなどのスキルを有することを証明するマイクロソフトオフィススペシャリストの資格を取りました。
最初は経営スキルを身につける目的で学び始めたパソコンですが、次第にのめり込んでいって。「せっかくだから、Webデザインも学んでしまおう」と思い、Webデザインの講座を受講して。気づけば、Web制作会社に転職していました。
経営企画本部 企画統括部 IT戦略部 システム開発グループ 中村祐太
美容師としてキャリアをスタートした後、パソコンスクールにてITスキルを学び、キャリア転向。Webサイト制作会社でWebデザイナー、クリエイティブディレクターとして従事。2011年からDeNAにて、全社アカウント管理基幹システムや、人事・会計領域のコーポレート部門向け業務効率化システムの設計・開発、保守業務を担当。
――その後、プログラミングスキルを身につけたんですか?
中村:はい。最初はWebデザイナーとしてキャリアをスタートしたので、プログラミングとはほぼ無縁でした。ただ、次第にシステム周りも含めて対応しないといけない案件が増えてきて。システムの知識が全くなかったので、外部ベンダーさんとのやりとりで苦労したんです。そこで独学でプログラミングの勉強を始めたのですが、限界を感じて。「ITが強い会社でプログラミングをちゃんと学びたい」と思うようになりました。
そんなとき、外部パートナーとしてDeNAに常駐して仕事をする機会があって。その後、仕事ぶりを認めてもらい、正式にDeNAにジョインしたんです。
――中村さんが在籍しているIT戦略部って、どんな業務を担っているんですか?
中村:IT戦略部では「ITで事業/経営にデライトをもたらす」ということをミッションに掲げていて、そのために次の3つを柱としています。
1:ITサービスの安定を維持し、安心できるビジネス環境を提供する
2:ビジネスニーズに柔軟・迅速に対応し、ユーザーを効果的に支援する
3:環境変化を理解し、知見に基づく改善提案を行い、変革する
具体的な業務内容としては、国内外のOAサポートやグループウェアの運営、全社横断的なITサービスの企画・設計・開発・管理、人工知能やロボットを用いた業務プロセス自動化などを担っています。
――中村さんの担当業務は?
中村:システムの設計・開発・保守を担当しています。入社当時からとくに深く関わっているのは、グループ会社全域で使用する各種業務システムのアカウント管理システム。これは、内定者が入社したら業務システムのアカウントを発行したり、退職者のアカウントを最終出社日の翌日に停止したりするためのアプリケーションです。
今回ご紹介する「Shatto」は、それらの業務の“スキマ時間”で開発を進めていました。だいたい業務全体の20%くらいを割いていたので、Googleの「20%ルール」のようなイメージですね。
「Shatto」を開発したのは、MTG後の「面倒くさい」を無くしたかったから
――「Shatto」のサービスコンセプトはどのようにして思いついたんですか?
中村:私たちの部署は、ミーティングでホワイトボードに書いた内容をスマホで撮影して、みんなにメールでシェアすることが多かったんです。それがすごく非効率だと思って。そこで、「Googleカレンダーと連動した社内向けの写真共有アプリを作ろう」と考えたことがきっかけです。
最初の頃は、チーム内で使えればいいと考えており全社的に使うことは想定していなかったので、デザインや機能もそれほどつくり込んでいませんでした。でも当時、社内でセキュリティ対策を強化する動きがあったので、「もしかすると『Shatto』が役に立つんじゃないか」と思い、改良したんです。スマホで撮影した写真がGoogleドライブに直接アップロードされるようにし、端末内部に残らないようにしました。改良後の「Shatto」は、セキュリティ対策の一環として全社的に使われるようになっていったんです。
【開発ノウハウ①】流行しているアプリは、積極的に参考にする
――アプリ開発において、工夫したことはありますか?
中村:「流行しているアプリのデザインを参考にすること」ですかね。開発メンバーは私を含めて3人で、定期的にミーティングを開催してアプリの名称やロゴ、全体のデザインや色などについて議論し、アイデアを形にしていきました。でも、ゼロからデザインを考えるって、実は相当難しい。だから、最初はとにかく世の中にある良質なアプリのデザインをたくさん見て、それを「Shatto」に取り入れたんです。
――例えば、どんな要素を取り入れましたか?
中村:最近流行している「マテリアルデザイン」を取り入れています。これは、デザインに奥行きや影、質量などの要素を導入し、利用者が「このボタンは押せるんだ」とか「この△△をスクロールすると□□になるんだ」と直感的に感じられるようにする、というものです。
「Shatto」も、アプリを立ち上げたタイミングでボタンが浮き出たり、画像を撮影した後に共有ボタンが出現したりと、“必要なタイミングで必要なボタンだけを出す”ことで、利用者が何をすべきか、すぐにわかるようになっています。
【開発ノウハウ②】開発の工程やノウハウは、必ずドキュメント化
――「Shatto」のようにスモールスタートでサービスを開発するときのコツってありますか?
中村:開発の工程やノウハウを全て資料化することだと思います。少人数だとスピード感を持って開発できるんですが、それだと業務が属人化してしまう。でも、Confluence(コンフルエンス)などの企業向けWikiに開発手順などを記しておけば、引き継ぎもスムーズになります。
ただ、手順やノウハウをドキュメント化するには時間がかかるので、工数のことを考えるとデメリットがあることも事実です。それでも、やりすぎなくらい資料化しておけば、あとで「これはいらなかったよね」というふり返りもできるので、決して無駄にはなりません。
【開発ノウハウ③】定例で対面のコミュニケーションを増やす
中村:他には、開発を円滑に進めるためにチームのコミュニケーションを増やすことも重要だと思います。IT戦略部では、「Shatto」に限らずプロジェクトごとに定例を開催し、進捗や悩みなどを共有しています。
――プロジェクトマネジメントを成功させるため、定例は効果的ですか?
中村:そう思います。定例ではプロジェクトにおける課題をメンバーから募るのですが、改善策を誰かの一存で決めることはありません。各メンバーが改善策を提案します。そして、出てきた意見は以下のようなマトリックスに当てはめ、何がデメリットで、何がメリットか、メンバー間で議論した上で採用しているんです。決まったことをみんなが納得した上でプロジェクトを進められるので、チームの一体感が生まれます。
▲プロジェクトにおいて何かを選定する際に作成するマトリックス。各施策のメリット・デメリットが、一目でわかるように工夫されている。
それに、定例はコミュニケーション活性化にも繋がります。対面で議論するようになってから、チームの雰囲気も良くなってきました。
チームで成果を出すには、誠実であれ
――どんな人が、IT戦略部で働くのには向いていると思いますか?
中村:「誠実な人」ですね。IT戦略部は業務の幅が広いので、黙々と作業できることも重要ですし、全体を俯瞰できる広い視野も大事なんですけど。何より大切なのはその要素だと思います。
――それはなぜ?
中村:個人ではなくチームで、団結力を持って仕事をしていくには、他のメンバーにきちんと向き合う姿勢。相手の話をしっかりと聞く姿勢が必要になってくると思うんです。それがベースにあるからこそ、同じ目線で課題に取り組み、一緒になって改善していける。だからこそ、誠実さがすごく重要だと考えています。
――中村さん自身は、IT戦略部で働くようになってから“チームで仕事をすること”を大切にするようになりましたか?
中村:そうですね。私はもともと外部パートナーとしてDeNAの仕事に関わっていたのですが、DeNAに入社し社員となってから意識が変わりました。チームワークの大切さに気づいたのは内部の人間になってからですね。以前の私は、「個人の成長」しか考えていませんでした。
自分が開発したものがどのように使われているか想像できなくて、「開発スキルが身についている」という成長の実感だけが仕事の喜びでした。でも最近は、システムの利用者とダイレクトに接する機会が増えてきて、人に価値を提供できることが楽しくなってきたんです。
――中村さんを“フルスイング”させる原動力は、「誰かの役に立てること」なんですね。
中村:そうですね。「Shatto」にしても、使ってくれた人から「これいいね」と言っていただけたときは嬉しかったですし、知らない人からSlackで、「『Shatto』すごく便利だね」とメッセージをもらうこともあって。そういうときに、「仕事してて良かったな」と感じます。それは、社員からの声がダイレクトに届くIT戦略部だからこそのやりがいかもしれません。
そして、成果を出して誰かに価値を提供するには、チームのみんなと協力し合う必要があります。だからこそ、誠実であること。メンバーの意見をきちんと聞き、チームとして一致団結することの大切さを実感しているんです。
まとめ
スモールスタートのアプリ開発を成功させる秘訣
①流行しているアプリは、積極的に参考にする
②開発の工程やノウハウは、必ずドキュメント化
③定例で対面のコミュニケーションを増やす
※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。
撮影:鈴木香那枝