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100名超のクリエイターをマネジメントする秘訣。DeNAデザイン戦略部 部長が明かすチーム作りの流儀

2018.01.11

「メンバーに高いモチベーションを持って働いてもらうには?」

この問いの答えを出すために、企業のマネージャーはさまざまな方法を用い、チームを管理・統括しています。DeNAのクリエイティブを担うシステム&デザイン本部 デザイン戦略部を統括する部長の上田 龍門(うえだ りゅうもん)も、そのひとり。100名超のデザイナーやエンジニアを束ね、彼らのモチベーションやスキルを高めるさまざまな施策を講じています。その結果、同部署のクリエイターは仕事に“フルスイング”でき、個々人の強みを発揮できているのです。

彼が考える組織づくりのポイントとは? その言葉には、ともに働くメンバーへの尊敬と愛がこもっていました。

「目的から逆算して手段を考えられるか」に、事業マインドの有無が表れる

――まずは、DeNA内でのデザイン戦略部の役割から教えてください。

上田:DeNAのなかでゲーム以外の領域のデザインをまるまる担う事業部です。4つのグループで構成されていて、第1グループがプラットフォーム、第2、第3グループがサービス、第4が会社全体のプロモーションを担当しています。メンバーが横断的に各事業部にアサインされているようなスタイルです。

システム&デザイン本部 デザイン戦略部 部長 上田龍門
2012年 DeNA中途入社。飲食店で料理人として働きながら独学でWeb制作を学び、スキルを身につけた後、制作会社やスタートアップでデザイナー・フロントエンドエンジニアとしてのキャリアを積む。DeNAに入社後は、新規事業のPRサイト制作全般を担当する。DeNAの成長と共にゲームやサービス開発など幅広く携わり、当時のデザイン戦略室の室長に就任。現在は組織の構築、採用、ブランディング、広報等、組織の育成に従事する。

――部内には、どのようなメンバーが在籍しているんですか?

上田:あくまでも事業会社なので、事業部が持つミッションを自分のスキルによって達成していきたい、というメンバーが多いように思います。それに、みんな向上心もありますね。

――目的から手段を逆算したうえで手段を考える、という感じでしょうか?

上田:そうですね。だから、良い意味で使う言語やツールにこだわりがないメンバーが多いかもしれません。事業の目的や顧客価値ありきで「これを達成するならば、この言語・ツールを使おう」という考えの人が多いですね。

デザインに関しても同じで、「〇〇のデザインだけやりたい」とか「自分は△△みたいなテイストが好き」という個人のマインドありきの人ではなく、「お客さまが求めているものを作るべきだ」という考えの人が活躍できている気がします。採用時も、そのマインドを持っているかはチェックしています。

――採用面接でどういった質問をすることで、そのマインドの有無を見分けていますか?

上田:「一番テンションが上がるとき」と「一番テンション下がるとき」はよく聞いていますね。

――それはなぜ?

上田:求職者のファースト・プライオリティーが何なのかを知りたいからですね。もちろん、お客さまへの提供価値や自己成長、その他など、クリエイターごとに大切にしていることは違いますし、どの答えが正しいと言うわけではありません。でも、その方が重きを置いていることと、これまでの実績を考慮した上で、「DeNAで活躍できるイメージが湧くかどうか」はすごく大事にしています。

――事業マインドの高いデザイナーが関わることで上手くいった事例はありますか?

上田:例えば、ロボネコヤマト。もともと、事業部から下りてきたデザイン要望はけっこう漠然としたものだったんです。でも、デザイナーが自発的に要件を吸い上げて「このサービスならば、こういう意図でこんなデザインにしましょう」と積極的に意見を出してくれて。すごく良いサイクルでデザイン制作が回っていきました。

▲ロボネコヤマトはヤマトホールディングス株式会社の登録商標です。

――具体的には、デザインにおいてどんなコンセプトを貫いたんですか?

上田:一般の方からは、まだまだ「自動運転って危険なもの」というイメージがあります。スッキリとしたスタイリッシュなデザインにすると、不安につながりかねません。だから、可愛らしさや親しみやすさのあるデザインにして、その不安を解消しようと考えたんです。

「自発的に意見が生まれる環境」を目指し、マネジメントする

――組織のスキルやモチベーションを上げていくため、どういったマネジメントをしているか教えてもらえますか?

上田:いろんなことをやっているんですが、順に解説していくと。

①制作以外の業務を極力排除。メンバーがクリエイティブな作業により多くの時間を費やせるようにする

上田:まず、デザイン戦略部の専属アシスタントを配置しています。アシスタントには、デザイナーやエンジニアが入社するタイミングで必要になるPCの環境構築や、デザインに必要となる素材の申請作業、マネージャーとメンバーの1on1ミーティングのセッティング、前年度に必要になった予算の可視化など、モノづくり以外のあらゆる業務を代行してくれています。

今、クリエイターの数は100名超なのに対し、アシスタントは4名で業務を回してくれている。本当に頭が上がらないです。アシスタントのメンバーがいるからこそ、日々快適に仕事ができていると言っても過言ではありません。

▲クリエイターとアシスタントとのやりとり。

――クリエイターの人数が数百名規模になるチームでは、アシスタントを配置することは有益だと思いますか?

上田:はい。特にデザイナーやエンジニアって「モノづくりに集中したい」という人が多いので、彼らがクリエイティブな仕事に集中できる環境は、きちんと作ってあげるべきだと思いますね。

――この記事を読んで、「自社にもアシスタントを配置しよう」と考える読者の方もいるかもしれません。そんな方に向けて、「特にこの業務を代行してあげると、クリエイターの満足度アップにつながる」というおすすめはありますか?

上田:クリエイターに限らずかもしれませんが、申請まわりは結構ややこしいし面倒な作業だったりするので、アシスタントに代行していただけるのは非常にありがたいです。また、新たなツールを導入するときなどにセキュリティ面も考慮する必要があるのですが、その際にも法務など社内の各部署と連携しながら導入作業を推進していただけるのは、本当に助かっていますね。

②インプットの種類を増やす機会を設け、多様性ある発想力を生み出す

上田:半年くらい前から勉強会も開催していて、普段はなかなか接することのないクリエイターさんを呼んで話を聞く機会を設けています。これまでにはフォトグラファーやコピーライターに来ていただきました。

――デザイナー向けの勉強会だから、著名デザイナーを呼ぶのかと思いました。そうではないんですね。

上田:デザイナーに求められるスキルって、単にUIを作る、UXを考えるとかだけではなく、多様性のある発想力がすごく大事だと思っているんです。そのためには、自分たちの業務とは違った領域のクリエイターと交流する機会が必要だと考えていて。だから、あえて別分野の方々を呼んでいます。

――勉強会を開催したことにより、変化はありましたか?

上田:コピーライターの回の後に、社内に「コピーライター部」ができました(笑)。「ちょっと安直だな(笑)」とは思ったんですが、各メンバーが自分なりに目標を立て、スキルを伸ばそうとする姿勢は素晴らしいです。実施後のアンケートでもポジティブな意見が多かったですし、こうしたインプットの機会は良いチーム作りのうえで重要だと思っています。

 

読者の中には「自社での開催は難しい」という方も多いかもしれません。その場合は、自分たちのメイン業務とは関係のない社外の勉強会に行くことを推奨する、というだけでもクリエイター達の発想のバリエーションは増えるのではないでしょうか。

③クリエイターに特化した広報・ブランディングを行う

――デザイン戦略部には、専属の広報もいるとか。

上田:ああ、AYUPY(後藤あゆみ)ですね。彼女はもう2年以上も頑張ってくれています。

▲後藤あゆみ

 

――専属広報を置くことには、どのようなメリットがありますか?

 

上田:クリエイターが会社を調べる際には、サービスの調子や売上などよりも「興味を惹かれる技術や手法が使われているか。自分のスキルを向上させられる環境かどうか」を気にします。

そのため、外部に情報発信する際に、全社的な広報・ブランディングとひとまとめにしてしまうと、彼らが欲しい情報の割合が少なくなってしまう。結果的に見てもらえなくなってしまうんです。

だからこそ、クリエイターに特化した切り口で、彼らにとって魅力的な情報をピックアップして出していくことが重要になります。その意味で、専属広報を置くことには価値があるんです。それが難しい場合は、会社紹介ページとは別にクリエイター向けのページやポートフォリオサイトを作るだけでも、クリエイターからの反応は変わってくると思います。

 

④クリエイターが情報発信できる場を設ける

――AYUPYさんは、具体的にどんな役割を担っているんですか?

上田:デザイン戦略部のメンバーを、積極的に外部に出してくれています。メディアへのブッキングだとか、イベントへの出演だとか。

あとは、デザイン戦略部が主催しているイベントの企画・運営などもやってくれていますね。UI CrunchというUIデザイナー向けのイベント(株式会社グッドパッチとの共催)や、フロントエンドでカンパイというフロントエンドエンジニア向けのイベント、最近ではdotFesという株式会社クスールとの共同運営のイベントなどにも、がっつり彼女が関わっています。

――クリエイターが情報発信する機会を設けることが重要なのですね。

上田:多くのクリエイターは、自分の作品や技術、考え方を「発信したい」と思っています。イベントなどは、その場を設けるための施策です。専属広報がいることにより、社内のクリエイターは多くの発表の場を持てています。

また、いつもの業務とは異なるアウトプットをすることで、普段とは違った人や視点からのフィードバックを受けられるため、発表者の成長につながるというメリットもあります。

とはいえ、クリエイターの採用競争は激化していますから、マネージャーとしては「自社の優秀なメンバーを外部に出すと、他社から引き抜かれるかも」という不安があるかもしれません。ですが、情報発信の機会を作り出せない会社からは、むしろクリエイターは去ってしまうのではないでしょうか。

もしも「自社でイベントを開催するのは難しい」という場合は、うまく社外イベントを活用すればいい。もしくは、メンバー個人の制作活動や情報発信に対して寛容なスタンスを取ることが重要だと思います。

任せることで、メンバーの「やってみたい」に火を着ける

上田:これは私が主導したわけではないんですけど、ブログ執筆や部署のパンフレット作りは、メンバーがボトムアップで推進してくれました。メンバーから自発的にアイデアが上がってくる、良い雰囲気が形成できているのかな、と思いましたね。

▲デザイン戦略部のパンフレット。文字や写真のレイアウトのみならず、使用する紙の材質や印刷方法に至るまで、徹底的に細部にこだわり抜いて作られている。

――「メンバーから自発的にアイデアが生まれる」ってマネージャーとしては理想的な状態だと思うのですが、何が要因だと思いますか?

上田:基本的に、彼らが「やってみたい」と言ったことにはあまり反対しないようにしています。「1回やってみてダメなら直せばいい」という考えなので。例えば「こういうツールを使いたい」という声が多ければ、導入しています。

デザイン戦略部にとっての主役って僕ではなくて、アウトプットを出してくれるクリエイター。僕の役割は、彼らが働きやすい環境をつくることだと考えています。メンバーの意志をサポートする存在というか。

――メンバーのやる気に火を着けるために、コミュニケーションにおいて工夫していることはありますか?

上田:自分自身も完璧にできているわけではないんですけど、「あなたはこういう得意分野があるから、事業が目指している目標に対してこういう貢献の仕方があるよ」という道筋を示すことはすごく大事かな、と考えています。メンバーによって強みは全く違うので、それを踏まえた上でコミュニケーションを取るように心がけていますね。

根底にあるのは、メンバーへの尊敬

――話を聞いていると、メンバーの個性や強みを伸ばすという意識の強さが伝わってきます。上田さんのマネージャーとしてのポリシーって何ですか?

上田:何でしょうね。でも、やっぱり“任せる”ってすごく重要ですね。クリエイターはみんな、その人なりの制作スタイルがあるし、信念があるし、得意分野がある。個性を生かしてアウトプットしてほしいですよね。絶対に、嫌々ながら仕事してほしくない。だから、みんなが楽しく働ける環境を、みんなと一緒に作っていきたいだけなんです。

――デザイン戦略部をより良いチームにしていくために、今後はどんなことを実施していきたいですか?

上田:メンバーのスキルを、どんどん社外にも出していきたいですね。DeNAって2017年10月から副業が解禁になったんですけど、みんなには積極的にやってほしくて。他企業の案件を経験したり、新しいメンバーと一緒に働いたりすることで、自分のスキルや考え方がさらに磨かれるはずです。それから、展示会やインスタレーションを開催しているメンバーも多いので、その支援をできたらいいな、とも思っていたりします。

――マネージャーとしてメンバーを輝かせることに“フルスイング”できる。その原動力って何でしょうか?

上田:デザイン戦略部のメンバーたちと仕事をするのが、すごく楽しいからだと思います。そこが一番大きなモチベーションですね。僕よりもずっと優秀な人がいっぱいいますし、彼らからすごく良い刺激を貰っています。メンバーが良質なアウトプットを出してくれているからこそ、組織が上手く回っているわけで。なんというか、ホント、頭が上がらないですね(笑)。

――そんなデザイン戦略部のメンバーと、今後はどんな未来を目指していきたいですか?

 

上田:DeNAという会社を俯瞰したとき、「DeNA=ビジネスが強い」「DeNA=エンジニアが強い」というイメージは比較的社外の方々から持っていただけていると思うんです。でも、「DeNA=デザインが強い」というイメージはまだまだ薄い。それを変えていきたいと思っています。

そのために、各メンバーのマインドやスキルを向上させていったり、外部へデザイン戦略部の取り組みを発信していったり。マネージャーとしてできることはたくさんあると思っていて。道のりは長いと思いますけど、みんなと一緒に、もっともっと強いデザインチームを作っていきたいですね。

まとめ

デザイン戦略部のクリエイターをフルスイングさせる仕組み

①制作以外の業務を極力排除。メンバーがクリエイティブな作業により多くの時間を費やせるようにする

②インプットの種類を増やす機会を設け、多様性ある発想力を生み出す

③クリエイターに特化した広報・ブランディングを行う

④クリエイターが情報発信できる場を設ける

※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。

撮影:小堀将生

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