商品企画はファンの''熱狂''のお手伝い。年間1000SKU以上の新製品を生む、横浜DeNAベイスターズグッズ制作の舞台裏
横浜DeNAベイスターズが進出し、全国の野球ファンを感動の渦に包んだ2017年日本シリーズ。その屋台骨を支えたのは選手だけではありません。ファンの心を動かし、一体感を醸成したものがあります。「グッズ」です。
今回の主人公である株式会社横浜DeNAベイスターズの山中 勝美(やまなか かつみ)は、「グッズの企画」という役割を担い、球団とファンの熱狂を支える仕事に“フルスイング”しました。膨大な数のグッズを生み出すその仕事術には、商品企画の極意が詰まっています。
「自分のアイデアを商品として具現化したい」
「多くの人に愛されるサービスを企画したい」
そう考えて日々の仕事に励んでいる方にこそ、知ってほしいストーリーです。
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転職候補は、横浜DeNAベイスターズ“一択”だった
——山中さんは、なぜ横浜DeNAベイスターズのグッズ制作に携わるようになったんですか?
山中:順を追って話すと、前職ではアパレルメーカーで婦人服の商品企画をしていたんです。とてもやりがいのある仕事だったんですが、自分の心が大きく動く出来事がありました。2016年に開催されたリオデジャネイロオリンピックです。
観ていたときに、熱量のすごさに感動して、「自分もプロスポーツビジネスに関わりたい」と思ったんです。そこで、「これまでのキャリアを生かしながら、スポーツに携われる会社に転職しよう」と考えました。
横浜DeNAベイスターズ
事業本部 MD部 MD企画グループ グループリーダー 山中勝美
アパレルメーカーにて6年間レディースブランドのMDとして商品企画に従事。2017年に横浜DeNAベイスターズ入社後、事業本部MD部にて商品企画を担当。2017年11月から現職。
——「スポーツ×服飾」の仕事は世の中に数多くありますが、なぜ横浜DeNAベイスターズを選んだんですか?
山中:いくつか理由があって、まずは野球が日本国内では圧倒的に人気があること。もちろん僕自身も、野球は大好きです。それから横浜DeNAベイスターズは当時人気急上昇中で、メディアでもよく取り上げられていたこと。
「これだけ勢いのある球団ならば、その中で働いている人たちもきっと魅力的なんだろうな」と思いました。だから、転職候補は横浜DeNAベイスターズ一択だったんです。それで、面接を受けて、今この場所で働いています。
——一緒に働いているメンバーは、どんなタイプの人が多いですか?
山中:「とにかく熱量の高い人がたくさんいるな」と思いました。横浜DeNAベイスターズのファンの人もいれば、あらゆるスポーツが好きな人もいる。純粋に商品企画が楽しくて仕方ないという人もいる。そんなアツいメンバーに、いつも刺激をもらっています。
——普段は、どういった種類のグッズを制作しているんですか?
山中:野球チームのグッズ制作って「何を作らなければいけない」という制約がないので、とにかく多種多様なものを作っていますよ。食べものやドリンク、応援グッズ、アパレルからライフスタイル系のグッズまで、なんでも具現化できるので、すごく面白いです。婦人服の企画をやっていた頃と比べると、企画するグッズのバリエーションはかなり増えましたね。
——それだけバリエーションがあると、制作するグッズの数も膨大なのでは?
山中:そうですね。例えば、2017年クライマックスシリーズ、日本シリーズの際には、新商品が10アイテムくらい生まれました。さらに、バレンタインやクリスマスといったイベントごとにも新しいものを出しているので、トータルだと年間で1000SKU(※)以上のグッズが生まれています。
※SKU…stock keeping unit。単品で在庫管理する単位のこと。本稿ではSKUを「色、柄、サイズによる管理」として定義し、使用しています。
▲クライマックスシリーズチャンピオン記念グッズ。
▲日本シリーズ進出記念グッズ。
日本シリーズでは、企画から販売までを1週間で完遂した
——1000SKU以上とはすごい数ですね。具体的にどういった工程を経て企画から販売までが行われるんですか?
山中:通常は、以下のようなフローでプロジェクトが進んでいきます。
「1. ニーズやシーンに合わせたグッズを企画」が私の主な仕事で、マーケットニーズや対戦カード、グッズの想定使用シーン、お客さまのペルソナ、選手の言った名言など、さまざまな切り口をベースに企画を考えています。
——例えば、2017年のクライマックスシリーズの際には、どんな形で商品企画を進めていったんですか?
山中:まずはクライマックスシリーズ進出前に、どういった商品をどれくらい作るか、売り上げ目標はどうするか等を、企画メンバーみんなでブレストしました。
その後、進出が決まったらすぐにグッズを販売できるように、クライマックスシリーズ突入の可能性が高まってきたタイミングから、量産可能なTシャツやキャップは事前にサンプル制作を開始していましたね。
ただ、さすがにクライマックスシリーズ進出が決まった当日に店頭にグッズを並べるスケジュールは無理がありました。その代わり、「横浜DeNAベイスターズ オフィシャルwebショップ(https://ec.baystars.co.jp/)」を通じてweb上で当日から販売することにしたんです。
私たちの仕事って、「お客さまの熱量が高いうちにグッズを出すこと」が大事なんですよ。通常、アパレル業界なんかだと商品の企画から販売まで半年から1年くらいのサイクルなんですけど、そのときは1週間でそのサイクルを回しました。
——すごいスピード感。「熱量が高いうちに商品化すること」って、スポーツのグッズ制作において重要だと思いますか?
山中:思いますね。グッズって「球団とファンとのコミュニケーションツール」だと考えています。だからこそ、試合の流れや時事性に合ったグッズを販売することで、「このタイミングでこのグッズを出したか。球団側も試合やチームの流れをわかってるな」というファンの共感に繋がる。それが上手くいけば、球団とファンとの一体感がより一層強くなります。
――グッズによる一体感の醸成が上手くいった事例はありますか?
山中:例えば、2017年は“SHOW THE BLUE.”というスローガンのもと、「青のタオルを皆で掲げ、横浜DeNAベイスターズを応援しましょう」というスタイルを推進しました。それに伴い、選手名が書かれている数十種類のタオルを企画して商品化したんです。
そうすると、そのスタイルが浸透して、球場を埋めたファンの方々が一斉に青いタオルを掲げてくださるようになりました。何種類もタオルを持って、打席に立っている選手ごとに使い分けてくださるファンの方も増えて。ハマスタの応援席が一面青に染まった光景を目の当たりにしたときは感動しましたね。「鳥肌が立つとはこのことか」と。グッズ制作に携わっていて良かったと、心から思いました。
グッズ制作に「データ分析」と「SNS拡散戦略」を組み込む
――グッズ制作において、“DeNAらしさ”が出ている部分ってありますか?
山中:「データ分析」をすごく大事にするところですかね。そこはまさにDeNAのDNAだと思っています。「どんな年齢層の方が、どういったグッズを購入しているか」「どの時期に、どんなグッズの売れ行きがいいか」といった情報をすべて分析して、その結果を元にしたグッズを開発を目指しています。
――であれば、かなり綿密にファンのペルソナ設計も実施していますか?
山中:そうですね。私の場合は、各種データを元にして、「このグッズを購入する方は、どんな方と一緒に来場されて、普段はどういった生活をしているのか。どんな趣味嗜好を持っているのか」といった部分まで想像しています。
――他に、仕事において意識していることはありますか?
山中:たくさんありますが、例えば「拡散性」ですかね。近年、InstagramなどのSNSで綺麗な写真をアップしている方が増えていることを受けて、2017年は球場近くにフォトスポットを積極的に設置しました。その結果、写真を撮ってくれる方がすごく増えてくれて。
――球団を好きになってもらうため。そしてグッズを購入してもらうために、常に知恵を絞っているんですね。
企画力を高めるために、他業種にもアンテナを張る
——膨大な種類のグッズを作るには、高い企画力が必要になるかと思います。どうやって、そのスキルを鍛えていますか?
山中:インプットの量と種類を増やすために、なるべく異業種で企画に携わっている方とも積極的にコミュニケーションを取るようにしていますね。ライフスタイルブランドや飲食、アパレル、車など、多種多様な業種の方と。そうして意見交換をしながら、現在のトレンドや来季の流れ、企画の切り口などをインプットしています。
――異業種から得たアイデアを、横浜DeNAベイスターズのグッズに取り入れたケースってありますか?
山中:例えば、包装紙のデザインを定期的に変えるようにしたことですね。横浜DeNAベイスターズって、年間10数試合も観に来られるような熱心なファンの方がたくさんいらっしゃるので、グッズ売り場に前回来たときと何かが変わっていないと飽きてしまうんです。
包装紙を定期的に変えていけば、コレクション性が出て「また買いたい」と思っていただけますし、「1回目に来たときはこのデザインだったけど、2回目はこうなった。次回はどうなるだろう?」と、ファンの方々同士の会話のネタにもなります。
▲横浜DeNAベイスターズの提唱する横浜スポーツタウン構想のパイロットプログラムとして、新たな取り組みを発信する拠点「THE BAYS(http://www.baystars.co.jp/thebays/)」。1階のショップ「+B(プラスビー)」には、魅力的なグッズがズラリと並ぶ。
それから、企画力を高めるには「何にでも興味を持つこと」が大切だと思います。興味のアンテナを張りながら街や商業施設などを歩いていると「あ、これって、こういうアイデアとかコンセプトで作られたんだろうな」と、制作者の思考プロセスが見えてくることがあるんです。そうすれば、それが商品企画のアイデアとしてストックされていきます。
――実は、日常生活の中に企画のネタは転がっているんですね。
私たちの仕事は、熱狂のお手伝い
——山中さんが、この仕事に“フルスイング”できるのって、どうしてなんですか?
山中:何よりも、ファンの方からエネルギーをもらえるからですね。チームを応援するときとか、観戦の思い出作りをするとき、グッズって無くてはならない存在です。そして、グッズを通じてファンの方が楽しい気持ちになってくれたり、感動してくれたり、ファン同士の交流が生まれたりすることが、制作者としては何より嬉しいんですよ。だから、私たちの仕事って「熱狂のお手伝い」だと思っています。
――「熱狂のお手伝い」ってすごくいい言葉ですね。2017年の日本シリーズの際には、特にそれを感じたんじゃないですか?
山中:そうですね。すごく印象深かったのが、日本シリーズがTV放送されているときに、駅からハマスタまでの道を歩いていると、近所の居酒屋や飲食店などでお客さんがみんなユニフォームを着てTVを観ていたんですよ。もう、その光景がとにかく圧巻で。
――街全体が横浜DeNAベイスターズに染まり、自分たちが企画・制作したユニフォームをみんなが着てくれている……。泣けますね。
山中:私には夢があって、それは将来的に「横浜DeNAベイスターズのファンって格好良いよね」と、誰もが言ってくれるようになることなんです。野球ファンから見ても、野球に興味のない人から見ても、クールな存在にしたい。
そのために、グッズのデザインやコンセプトをもっと洗練させていって、みんなが「すごく素敵だな」「自分も買ってみたいな」と思ってくれるようなものを提供したい。いつもそう思いながら、仕事をしています。
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撮影:鈴木香那枝